32 それぞれの帰宅後
魔法学校の女子寮へと帰ってきたアナは、昨日のお礼を言うためにシオンの部屋へとやって来ていた。
「シオンさん、昨日はありがとうございました。おかげで寮長さんに怒られずに済みました」
「それくらいお安い御用ですわ。それよりもアナさん…」
「何ですか?」
「とてもうれしそうな顔をされてますけど、何かいいことでもあったんですの?」
寮へと帰ってきたアナの顔は、誰がどう見ても嬉しいことがあったとしか思えないぐらい、すごく幸福感にあふれていたのである。
そこでシオンは、絶対にレクスと何かあったに違いない…とものすごく期待していた。
そして…
「実はですね、レクスさんから素晴らしいものをいただいたんです」
「まあ、プレゼントですの」
「はい」
やっとレクスもアナのことに本気になってくれたんだと思い、シオンは心から二人のことを祝福した。
「それで、どんなものをいただいたんですの?」
「これです、白いゴーレムの像です!」
「……え?」
男から女へのプレゼントなのだから、きっとアクセサリーなどではないかとシオンは思っていたのだが、出てきたのは何の色気もない品であった。
「見てください、シオンさん! この白いゴーレムの像、とても造形が細かくて、さらに青や赤や黄色の部分もきっちり色分けがされているんですよ! しかも関節が自由に動かせて、色んなポーズをとらせることが出来ますし、光の剣も透明な部品で完全再現されてるんです!」
今日のアナは、シオンがこれまでに一度も見たことがないレベルでテンションが上がっている。
「よ…よかったですわね」
「はい。こんなにも貴重で素晴らしいものをくれるだなんて、レクスさんはとてもいい人です」
「そ…そうですわね」
男から女へのプレゼントにこんなものを選ぶのはどうかと思うが、これ以上にアナが喜びそうなプレゼントなど何も思いつかないので、プレゼントに白いゴーレムの像を選んだレクスの判断が正しいのかどうなのか全くわからなくなるシオンであった。
ちなみに、用途のよく分からない異界の品が何のためのものなのか検証することを趣味にしているレクスにとって、すでに組み立て終えたこの像はもう用済。
なのでものすごく物欲しそうな目で見ていたアナにあげただけで、このプレゼントに特に深い意味はない。
その日の夜、骨董屋店主の家にて。
骨董屋の店主は妻と孫娘と三人暮らしである。
そしてたった今、孫娘が本日の仕事を終えて帰ってきたようだ。
「ただいま、おじいちゃん、おばあちゃん」
「おう」
「おかえりなさい」
「おじいちゃん、今日はお店のほうどうだった? お客さんいっぱい来た?」
「年寄りが道楽でやっとる店だ。客なんてそんなに来やせん……が、今日は珍しく若い女の子が来たな」
「へぇ、どんな子なの?」
孫娘は、祖父の話すその珍しい客に少し興味があるようだ。
「お前よりもっと年下な感じの子でな、こんくらいのちっちゃいお嬢ちゃんだ。そんで白いゴーレムの像とやらに大はしゃぎしておった」
「白いゴーレムの…像?」
どうやら孫娘は、白いゴーレムという言葉に聞き覚えがあるようだ。
「その子、一人で来たの?」
「いや、時々うちに来る白い髪のあんちゃんが連れてきた。あのあんちゃん、他人になんぞ全く興味ねえって面してやがったのに、まさか彼女連れで来るとはな。今年一番の驚きだ」
「他人に興味なさそうな面の…白い髪の人?」
どうやら孫娘は、その白い髪の客に心当たりがある模様。
「常連さんにも、いい出会いがあってよかったわねえ」
「そうだな、ばあさん。ところでベル、お前のほうはどうなんだ?」
「ベルちゃんにも誰かいい人とかいたりしないの?」
「そろそろおれらにもひ孫の顔を…」
「おじいちゃん、おばあちゃん、私のことはいいの…。それよりも、もっとその二人のことについて詳しく教えて!」
「急にどうした?ベル」
「いいから教えて、おじいちゃん!」
「お…おう……」
この日ベルは、新たな情報源を獲得していた……ということをレクスはまだ知らない。




