ペルセウス座流星群の下で-28
美代と沙代が同時に口の中に入れていたサンドイッチをごくりと飲み込む。そしてニカッと笑って、「今はお祖母ちゃんと暮らしてるー!」、「すっごく平和だよー!」と嬉しそうに話した。最初は母親から同情を誘うメッセージやヒステリックなメッセージが届いたり、玄関に居座られたりしたが、1週間も無視していたら突然パタリと止んだらしい。
「どうせ男でもできたんでしょー」
「そういう人だもんねー」
2人は他人事のように吐き捨てた。心底どうでもいいという様子だ。父親からは一切何も無い。祖母と3人で暮らしていて、高校を卒業したら一緒に関西に引っ越そうと話しているという。
「そっか。みんな離れ離れになっちゃうね」
「まだ先の話だ。まずはレオの勉強を見てやらないとなぁ?」
「その前にかくれんぼの罰ゲームしなくちゃー!」
「レオを可愛くしてあげるー!」
「忘れてくれててよかったのに!」
「2学期は文化祭があるだろ? そのミスコンに出ればいいんじゃないか? ピースとシーズがプロデュースして」
「「それいいー!!」」
「よくなーい!」
「いいね! 資金については私がなんとかしましょう!」
「エアリーまでやめてよー!」
ぐねんぐねんに体を揺らしながら半泣きの玲奈が全力拒否の姿勢を見せるも、「罰ゲームだから拒否権無しねー!」と双子にあしらわれてしまう。それから双子はとても楽しそうにあれを着せようこれを着せようとファッション談義に花を咲かせた。
「あんまり目立ちたくないのにぃ」
「レオはもう目立っちゃってるし、今更じゃないかな?」
「そうだぞ。潔く諦めろ。案外楽しいかもしれん」
「そんなぁ……」
こうして2学期は勉強に文化祭の準備にと大忙しになった。週末になると5人は商業施設に繰り出し、玲奈に似合いそうな服や化粧品を探しつつ、みんなで食べ歩きをしたりファミレスに入って食事をしたり、図書館や姫乃の家で勉強をしたりと、楽しい時間を過ごす。どの体験も姫乃にとっては初めてのことばかりだった。あっという間に11月の文化祭当日がやって来る。
文化祭前日、姫乃は父親にメッセージを入れた。文化祭の日を入れて3日間、父親は商談の為に日本に帰ってくると黒岩から聞いたのだ。夏休みに父親と電話をして以来、久しぶりにやり取りをする。
『明後日のどこかでお時間を頂けませんか? お話ししたいことがあります。』
以外にもすぐに返事が来た。
『商談で一時帰国するだけだ。忙しい』
この返事は予想通り。姫乃はシミュレーション通り文字を入力していく。
『30分だけで構いません。ビジネスの話です。それからママのこと。2人だけで話したいの』
姫乃がメッセージを送ってから10分後、返事が来た。
『わかった。午後2時頃そっちに行く』
父親からの返事はこれだけだった。しかし十分。帰国が数日間だけの時、母親は父親と一緒に行動しないことはわかっていた。2人が一緒に居るのを見るのは、年に1度の長期帰国の時だけだ。それだって親子らしい会話も無く、ましてや家族で出かけるなんてこともしない。姫乃は深くため息をついた。
とにかく予定通りに約束を取り付けた。今は明日の文化祭を楽しもう。姫乃のクラスはメイド・執事喫茶をやることになっていた。姫乃は壁に掛けられた見るからにメイドらしいその服を見て、恥ずかしさのあまり布団に潜った。そしてそのまま朝を迎えた。
文化祭は大賑わいとなった。生徒の家族だけでなく、招待状を持ってきた人なら誰でも入れるのが城聖高校文化祭の特徴だ。先生たちが日頃お世話になっているご近所にも招待状を配る為、毎年取材も来るほどの大きなイベントになっていた。
「きゃー! 玲奈かっこいいー!」
玲奈はクラスの女子たちの黄色い声援を独占していた。玲奈だけは女子たちの希望で執事の衣装を着ることになっていたのだ。男子たちが不満を垂れる。
「け! ゴリラは何着てもゴリラだろー!」
「そうだそうだー! 女子はメイド服着てろー!」
「佐々木うるさい! 次玲奈ちゃんのことゴリラって言ったらメイド服着せるから!」
「ちぇー」
玲奈がいつものようにキレる前に、熱狂する女子たちが佐々木を初めとする男子たちを鎮圧する。さすがの姫乃も笑うしかない。
「なんか恥ずかしい……」
「よく似合ってるよ玲奈。堂々としてなって!」
「ひめのんまで……ひめのんもメイド服似合ってるよ」
「そうかな……こういうの初めて着るから……」
その恥じらう姿を見て、一部の男子たちが姫乃を神格化したのは言うまでもない。
どのクラスも大盛況で1日が終わった。そして文化祭メインイベント、城聖高校ミスコンが始まった。取材陣もここを取材に来ていると言っても過言ではない。過去にはこのミスコンで優勝した子がそのままモデルデビューをしたという話もある。そんな大舞台にしっかりと双子によってエントリーされた玲奈は、服が汚れないようにマントを羽織り、双子に化粧を最終調整されながら控え室で待機していた。双子の目つきは最早プロのスタイリストだ。応援に来た姫乃と優紀も感心する。
「すごいね。玲奈、すっごく可愛いよ!」
「美代と沙代はこっち方面に才能を伸ばした方がいいんじゃないか?」
「まだまだ……」
「玲奈の可愛さはこんなもんじゃ……」
ぶつぶつと双子が呟く。
「うぅ……もう帰りたい。恥ずか死ねる」
「自身持って! じゃ、私たちは会場に戻るね!」
「応援してるぞ!」
ミスコンが幕を開ける。放送部と演劇部による軽快なMCと照明、音響の演出で学校の体育館とは思えないほどの熱狂に会場が包まれた。体育館の中央までランウェイまで用意してある。演劇部の大道具が毎年張り切って準備するんだそうだ。
「すごいね。こんなに本格的だなんて」
「私も1年の時にかなり驚いた。城聖の名物イベントだな」
「だね」
そうこうしているうちに玲奈の番がやって来る。
「エントリーナンバー18ぃ! 2年3組、木崎ぃぃぃ玲奈ぁぁぁぁ!!」
MCの巻き舌がマイクを通して唸る。名前を呼ばれた玲奈はマントを脱ぎ捨てランウェイを歩き始めた。
体の線がくっきりと出る白シャツとダークブラウンのチェック柄ベストのセットアップに、黒いレースと白いリボンがあしらわれたフリルタイ、黒のハイヒール、セットアップと同柄の黒いレース付きミニハットヘッドドレスという衣装の玲奈は、セクシーなソフトゴシックメイクのお陰で、玲奈は人形感と麗人感を同時に備えるまさに別人とも言える姿だった。他の出場者が可愛い服や露出の高い衣装で攻める中、玲奈は異質な存在として会場から今日1番の歓声をさらう。
姫乃と優紀の前に居た1年の女子たちが失神した。姫乃の後ろに居た佐々木の「嘘だろ……」という声が聞こえて姫乃が振り返ると、佐々木が顔を赤くして玲奈を見つめていた。姫乃が自分を見ていることにも気がつかないらしい。姫乃は小さく笑って玲奈に視線を戻した。玲奈は無事ランウェイを歩ききり、ステージの自分の位置へと立つ。姫乃の位置からでもわかる緊張っぷりだ。




