ペルセウス座流星群の下で-27
姫乃が見せた携帯の画面に、5人が流星雨を見上げている写真が表示されている。姫乃と玲奈は無意識に手を繋いでいたらしい。
「とても良い写真じゃないか」
「綺麗に撮れてるー!」
「これ後で送ってー!」
「あ、あたしもあたしも!」
「もちろん、グループに送っておくね」
「ホントに流星雨になったね。流れ星見たら願い事しようと思ってたけど、今星に願うようなこと思いつかないや」
「私も。むしろ叶っちゃった」
「え、どんな願い事?」
「友だちが欲しいって、毎年お願いしてたんだ。そしたら今年はいっぱい友だちができたよ。みんなありがとう」
「いやいや、お礼を言うのはこっちの方だ。エアリーのお陰で悩みから解放されたんだから」
「そーそー!」
「大感謝ー!」
「じゃあ今の気持ちを星に叫ぶっていうのは?」
「レオ、ロマンチストだなぁ」
「青春だー!」
「アオハルだー!」
「い、嫌なら別に……」
「嫌じゃないよ。せーので叫ぼうよ」
「いいぞ。用意はいいか?」
「もちろん!」
「いいよ!」
「「おっけー!」」
「せーの!」
「「「「「自由だー!!」」」」」
ちょうど5人が叫んだその時、大きな流れ星がオレンジ色の閃光を放ちながら落ちてきた。火球だ。5人は顔を見合わせ、同時に笑い出す。笑い声が夜空に響いた。火球はバンッと弾けて消える。それが合図だったかのように、徐々に流星の数は減っていった。合宿の終わりを告げる、最後の流星を見届けて、5人はまたひとつの部屋で一緒に眠った。
次の日、お昼前には玲奈、優紀、美代、沙代の4人は黒岩の運転で自宅へと帰っていった。玲奈は一旦家の様子を見たいのと制服や学用品を取りに行って、また姫乃の家に戻ってくることになった。念の為、力自慢のSPを1人呼び、同行させた。黒岩の車が家を出た後、姫乃はキッチンで作業していた花野に声を掛けた。
「花野さん、ちょっといいですか?」
「おや、お嬢様。みなさんもう行ってしまいましたの?」
「はい。この2週間、本当にありがとう」
「いえいえ。私もたくさん料理できて楽しかったですよ。寂しくなりますね」
「またすぐにレオは戻ってくるし、みんなもいつでも来れるから。それよりも頼んでおいた調べごとだけど……」
花野の顔がにこやかな表情から一気に険しいものになる。ということは、姫乃の予想の嫌な方が当たってしまったということか。
「お嬢様の予想通りでした。証拠も十分に揃っております。どうしますか?」
「やっぱりそうなんだ……。こうして見ちゃうとやっぱり……。忙しいのにありがとう。黒岩さんにもお礼をしなくちゃ」
「私たちはお嬢様の為に働けるなら喜んで働きますのよ。でも、今回の調査はあまりにも……いえ、すみません。私がどうこう言うことではありませんね」
「いいの。だって事実だもん。どうするかは父と直接話して決めます。でももう少し悩みたいかも」
「いいと思いますよ。時間はたっぷりあります。お嬢様のお心を大切にしてくださいませ」
「うん。いつもありがとう。これからもよろしくね」
花野は感極まって泣きながら姫乃を抱きしめた。花野にとって姫乃は自分の娘同然に見守ってきた。その姫乃がこの2週間で大きく成長したのを身近で見て、感動するなと言う方が無理な話だろう。
姫乃は花野が渡してくれた証拠の資料を持って自室へ戻った。この証拠を上手く使って父と交渉しなければならない。自分が思い描いている着地点にする為にはもっと情報を集める必要がある。知識も要る。姫乃は学校の勉強の傍らで交渉に必要な知識のインプットもしていくことにした。
「チャンスは次にパパが日本に帰ってくる時。その1回で決めないと」
姫乃には、今の父なら自分の話を聞いてくれるという理由の無い自信があった。だからこそ油断しない。自信がある時ほど足元を固めるのは交渉においても経営においても1番大事なことだ。
玲奈が荷物を持って黒岩と帰ってきた。玲奈の家には事前に連絡しておいた杉本と一緒にあのベテランらしき警官が待っていたらしい。警官の話によると、父親は取調中にも何度も暴れた為拘留中だが、母親は大人しく取り調べを受け、自分のやったことも素直に認め、逃亡の可能性が低いと判断されて一旦は釈放となり家に居るということだった。杉本から玲奈が一時帰宅するという話を聞いて、万が一も考えて同行させてもらったと警官からは説明を受けた。家の中には確かに母親が居た。しかし玲奈が最後に見た母親の面影は無く、生気が抜けて髪も肌もボロボロになり、若々しかった母親は一気に年齢以上に老け込んでいた。玲奈を見ても、何も反応しなかった。
「だから何も言わないで家を出てきた。弟は伯母さんの家に居るらしいんだけど、問題ばっか起こしてまた施設に戻りそうなんだって。お母さんが散々甘やかしてたから、しょうがないのかもね。お祖母ちゃんは元気にしてるって。今は施設に移って、プロが見てくれてるみたい。あたしも夏休みが終わったら伯母さんちに行くことになったから、それまでよろしくね」
玲奈はそう言って寂しそうに笑った。姫乃はそんな玲奈をそっと抱きしめることしかできなかった。こうして長いようで短い夏休みが終わり、2学期が始まった。
2学期が始まって最初のお昼休み。星見会はいつもの旧校舎の教室に集合した。それぞれお弁当を出して、合宿が終わってからのことを話す。最初に話し出したのは優紀だ。
「あれからまた家族会議を何度かしたんだ。汐見さんも呼んで」
「そうなの? 奏汰ちゃん大丈夫だった?」
「あいつはあぁ見えてさっぱりしてるからな。必要なことなら文句は言わない。それで、今までの詫びにって汐見さんが全面的に受験のバックアップを申し出てくれたんだ。家事も妹たちの面倒も今はお手伝いさんが来てくれてる。もちろん汐見さんのお金でな」
「当たり前じゃん!」
「とーぜーん!」
「もっといったれー!」
「ははは。まぁお陰で時間にゆとりができたし、今は前ほど汐見さんとはギスギスしてないよ。おまけに私と奏汰の受験の面倒も見てくれるんだそうだ。奏汰は嫌がってたが、この際私は全面的に利用させてもらおうと思ってるよ。お陰で行きたい学部も決まったし」
「いいんじゃない? 使えるものは使わないとね」
「現役お嬢様が言うと説得力が違うなぁ」
「もう、やめてよレオったら」
「どふぉの大学受けるのー」
美代が口いっぱいにお弁当で持ってきたサンドイッチを頬張りながら優紀に質問をした。沙代は口に入れすぎて喋れなくなっている。
「うん。やっぱり天文学を勉強したくてな。今2校に絞ったところだ」
「天文学かー。なかなかレベル高そう」
「でもアクアならきっと余裕だよ!」
「だといいが。汐見さんにおんぶに抱っこは癪だから、なるべく特待生で入れるように今勉強を頑張ってるところだ。幸い成績もいいしな」
「そっかー。あたしも勉強頑張んないとー」
「レオは今どうしてるんだ? エアリーの家に居るのか?」
「ううん。今は伯母さんの家。弟は施設に戻っちゃったけど、あたしはすごく良くしてもらってるよ! 部活にも入ろうかなって思ってる!」
「なんの部活に入るの?」
「テニス部! ずっとやってみたかったんだー!」
「なんだ陸上部じゃないのか」
「レオ足早いのにー」
ようやっと少し喋れるようになった沙代が、もごもごしながら会話に参加する。双子のその姿がまるでリスのようで、3人は堪えきれずに噴き出した。
「もう! ちゃんと飲み込んでから喋って!」
「はーい」
「ふぁーい」
「で、2人は結局どうなったんだ?」




