ペルセウス座流星群の下で-25
「2人ともよかったね!」
「お祖母ちゃん、かっこいい人だったね。同じ祖母とは思えないくらいしっかりしてた」
「まさか親権放棄まで考えてるとは。豪胆な人だな」
「うん。うちらが知ってるお祖母ちゃんじゃないみたいだった」
「お祖母ちゃん、意外とはっきり言う人だったんだね」
「今まではご両親に遠慮してたのかもしれないな。さて、これで全員の問題が片付いたわけだが。このまま家出を続けるか? それとも一旦帰るか?」
全員の答えは決まっていた。
「続ける1択でしょ!」
「まだプラネタリウム見てなーい!」
「私もまだ花野さんから料理教わってないし。このまま帰ったら奏汰にドヤされそうだ」
「今日もみんなで寝よー!」
「じゃあ今日の夕飯は花野さんに頼んでみんなで作らない?」
「いいねー!」
「さんせーい!」
「作るのはもちろん……」
「「「「「カレー!」」」」」
玲奈が小声で、「あ、でも甘口でお願いします」と言った。家出大作戦は結果成功を収め、午後からは純粋な勉強合宿へと移行された。花野の特製タルタルソースがたっぷりかかったチキン南蛮定食を思う存分堪能し、宿題を進め、わからないところを教え合い、また花野の特製おやつを脳のエネルギーにして、また参考書に向き合う。集中力が切れたら各々で庭に出たりテラスに行ったり、玲奈と双子は鬼ごっこを始めたり、比較的自由に過ごした。あんなに勉強が嫌いだと言っていた玲奈も楽しそうに問題を解いていく。「心配事が無くなって脳みそが軽くなったみたい」と玲奈は喜んでいた。
区切りの良いところで勉強を終わらせ、全員でキッチンに行く。花野がすでに材料をカウンターに並べて待っていた。料理が得意な優紀を中心に役割分担してカレーを作っていく。途中姫乃が切っていた人参を落としたり、沙代がボテトサラダにマヨネーズを入れすぎてジャガイモを追加したり、甘口と辛口どっちにするかで玲奈と優紀で口論になって結局鍋を分けたり、随分と賑やかな調理実習となった。
今回は料理初心者も居るということでルゥを花野に用意してもらったが、優紀は花野からルゥを使わずに作れるカレースパイスの調合比率を教わり、必死にメモを取っていた。チリパウダーの量で各自辛味を調節できるとあって、「これなら妹たちと分けて作らなくても良さそうだ」と喜んだ。姫乃はいつもの花野特製カレーとは違うカレーの匂いを嗅いで、早く食べたくてうずうずしていた。友だちと作る普通のカレーを、姫乃はこれから初めて食べる。公立の学校では校外学習の時にみんなでカレーを作って食べるという話を聞いて、密かに憧れていたのだ。
こうして2つの鍋いっぱいのカレーと、ボウルに山盛りになったポテトサラダが完成した。お腹が空ききった5人は元気よく「いただきまーす!」と言って食事を始める。カレーもサラダも確かに花野が作る物とは違うが、姫乃はこの美味しさを一生忘れないと思った。まだ火が通りきっていない分厚い人参も、結局マヨネーズでとろとろになったポテトサラダも、優紀が大量にチリパウダーを入れたせいで辛すぎるカレーも、そのお陰で玲奈用に作ったカレーが大人気だったことも、姫乃は死ぬまで覚えていようと思った。死んで天国に行けたら、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに話そうと、口いっぱいにカレーを頬張りながら考えていた。
さすがに全部は食べきれず、残った分を小分けにして冷蔵庫に入れ、後片付けまでしっかりしてから入浴を済ませ、美代と沙代の部屋に全員で戻った時にはもう午後10時を過ぎていた。1日があっという間に過ぎていく。
「あー美味しかった! またみんなでご飯作ろ!」
「次は何を作ろうか」
「アクアが辛くできないやつがいいー!」
「アクア辛くし過ぎだよー」
「そうか? あれくらいじゃ全然普通なんだがなぁ」
「『アクアは特殊な訓練を積んでいます』」
「あはは。なにそれ。レオめっちゃ良い声」
それからまた女子トークに花を咲かせ、明日の午後はプラネタリウムを見ることになった。優紀が1番、「楽しみすぎて眠れない」と興奮していたが、全員が日付の変わる前に眠りに落ちた。誰も1度も起きることなく、朝までぐっすりと眠った。
朝、朝食に出されたのはなんと夕飯に作りすぎて余ってしまったカレーとポテトサラダのグラタンだった。ポテトサラダ、カレー、チーズの順にグラタン皿に入れられたその創作料理は、昨日の残りとは思えないほど美味しく変身させられている。辛さもちょうど良く、フルーツの盛り合わせも酸味と甘味がカレーグラタンにちょうど良い。花野の料理スキルの高さを改めて姫乃は感じた。
午前中は全員勉強に集中した。午後のプラネタリウムの存分に楽しむ為に黙々と参考書のページを進めていく。玲奈は時折頭を抱えていたが、その度に姫乃や優紀が丁寧に教える。玲奈が問題に正解すると美代と沙代が盛大に褒める。玲奈は随分と気を良くして宿題に集中できるようになった。美代と沙代は人を褒めたり気分を盛り上げさせたりするのが上手ということがわかった。また1つ、友人のことを知れて姫乃は嬉しかった。
お昼ご飯はまたもや花野による変身料理。ポテトサラダはほっくほくのコロッケになり、カレーは出汁の利いたカレーうどんになっていた。これで夕ご飯の残りはすべて使い切ったと花野が言う。優紀は感動して、花野に弟子入りしそうな勢いだった。どうも優紀は根っからの『オタク』気質らしい。
お腹もいっぱいになったところで、いよいよ5人はプラネタリウムの部屋にやって来た。優紀は念願だったDVDを見られるとあってずっとそわそわしきりだ。機械の操作を美代と沙代に任せて姫乃と玲奈と優紀は各々好きな場所にクッションや座椅子を置いて始まりを待つ。
まず窓にシャッターが下ろされ部屋が間接照明の明かりのみにされる。部屋の中央に置かれたプロジェクターから壁に向かって光が投影され、沙代が天井より少し低い位置に微調整していく。
「それでは、プラネタリウム筑比地館特別上映会を始めまーす」
「なにそれ。本格的ぃ!」
「本日上映致しますのは、月見里佳樹による映像作品、『月の船と星物語』でございまーす」
「ぃよし!!」
「アクア、本当に嬉しそうだね」
「やっと見られるんだ! 当然さ! エアリーありがとう!」
「ふふ。どういたしまして」
「それでは、しばし宇宙への旅をお楽しみくださーい」
「くださーい」
間接照明が落とされ、映像が再生される。美代と沙代も姫乃たちの近くに腰を下ろす。2時間半に渡って映し出された映像は、星好きの脳と心に深く刺さった。特に月見里の代表映像作品であり、このDVDのタイトルにもなっている『月の船と星物語』の映像美は圧巻で、聞き心地の良いナレーションが進行役を務める。見ている者がまず月へ行き、月が宇宙船となり、広大な宇宙の中の星々を巡りながら星座物語の世界へと入っていく。時に戦い、時に攫われ、時に歌い、時に恋をして、最後に地球へと宇宙船はやって来る。
『地球から見える星空は、私たちに物語を読み聞かせてくれているのです。さぁ耳をすませて。あなたのことを、いつでも星たちは待っています。』




