表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

ペルセウス座流星群の下で-24

 優紀が高校に入学した頃、また父親の帰りが遅くなる日が増えていった。前の時とは違って仕事帰りでも機嫌の良い日も増え、何かが変だなと思っていた矢先に、たまたま父親に恋人ができたことを知ってしまった。母を裏切られたような気持ちになった優紀は、日頃の育児と家事と勉強に疲れていたこともあり、どうしてもどこかに吐き出す場所が欲しかった。しかしSNSで全世界に公開する気にはなれず、苦肉の策に会員制の非公開グループを作ろうと思い至った。

 会員になる条件は、『天文台の限定ストラップを持っていること』、『同じ地域に住んでいること』、『女性であること』の3つに決めた。男女間のトラブルになるのは嫌だったし、小学生の時に手に入れた限定ストラップを未だに持っている人なら話が合うのではないかと踏んだのだ。同じ地域の人限定にしたのは、仲良くなれたら実際に会って話をしてみたいと思ったから。

 こうしてSNS上に会員制星見会を作ると、すぐに何人かが入会希望のメッセージを送って来た。しかしそのほとんどが出会い目的の輩で、優紀は少しでも怪しいと思ったら性別や住んでいる場所のわかる身分証の提示を求めた。これで大体は逆ギレして居なくなる。その中できちんと入会した人の中に玲奈と美代と沙代が居た。そして同じ高校に通うようになってから、現実でも星見会の仲間として一緒に過ごすようになった。


「じゃあ、今でもSNSで募集はしてるの?」

「今はしてない。というか人もあんまり集まらなかったし、今はもうほとんど動かしてないから、実質解散状態だ。受験を機に消そうとも思ってたくらい」

「そっか。今度から私も愚痴を聞くからね」

「ふふ。ありがとう。エアリーも、いつでも話を聞くぞ? お父さんと喧嘩する時は遠慮無く呼んでくれ。加勢するから」

「アクアが味方に居たら強すぎてパパ泣いちゃうかも」

「それは無いだろ。エアリーのお父さんもなかなか強かそうじゃないか。私の父親と違ってイケメンだし」

「えーアクア、あぁいうのが好みなの?」

「違う! 私は世間一般的な感想を言っただけで!」

「冗談だって。私のパパはほら、見た目に気を遣うのも仕事のうちだから」

「それもそうだな。……なぁ、私思ったんだけど」

「何を?」

「エアリーのお父さん、たぶんエアリーのことをずっと羨ましいと思ってたんじゃないか?」

「え、パパが? 私を?」

「あぁ。汐見さんに、『貴女が羨ましかったのかも』って言われて気づいたんだ。たぶんだけど、エアリーのお父さんは、お祖父さん、つまりエアリーのお父さんのお父さんにだな、甘えられずに大人になって、でもエアリーはたくさん可愛がられてて。だから、羨ましかったんじゃないかなって。上手く言えないな。すまない」

「ううん。言いたいことはわかったよ。そっか。たしかに。そうかもしれないだから私が反抗期って言った時笑ったのかな」

「そうかもな。意外と可愛い『パパ』なのかも」

「やめてよ」

「ふぁ~あ。そろそろ私も寝るかな。おやすみ」

「うん。おやすみ」


 姫乃はしばらくの間優紀に言われたことを頭の中で反芻させた。優紀の寝息が聞こえてきた頃、姫乃も穏やかに眠りについた。

 次の日のお昼前、双子の祖母は約束通り姫乃の家までやって来た。美代と沙代は祖母に飛びつき、祖母はそんな2人を優しく抱きしめて、「ホンマにすまんかったねぇ」と2人の背中を優しく撫でた。両親は来ていなかった。

 5人と祖母は食堂に行き、祖母から事のあらましを説明された。2人が家を出た後、すぐに祖母は母親と父親に連絡を入れた。しかし母親は父親を責め、父親は母親を責め、話し合いにならなかった。仕方なく祖母は父親を家に招き、直接話を聞くことにしたのだが、結局「お前の育て方が悪いせいでこっちの子が唆された」と両者譲らず、仕舞いにはそれぞれの子どものことを悪く言いだし、祖母の堪忍袋の緒が切れた。


「おばあちゃんついカッとなってねぇ。『あんたらに遺産はびた一文も払わんからな! 覚悟しとき!』って怒鳴っちゃった」

「お祖母ちゃんかっこいいー!」

「やっぱり2人ともそんな感じだったんだねー」


 遺産をやらないと言われた父親と母親は目の色を変えて態度を変え、祖母に擦り寄ろうとした。そしてより優秀な大学、もしくは良い会社に就職した方が祖母の家や遺産を総取りすると勝手に決めていたことを白状した。それがさらに祖母の逆鱗に触れ、祖母はすぐにマンスリーマンションを母親の名前で契約し、母親は最低限の荷物とお金だけ持ってそこに追い出され、父親も祖母が考えを変えないとわかるとあっさりと美代の親権を放棄することに同意した。その為、連絡するまでに時間がかかってしまったのだ。


「え、あの家そんなに価値あるの?」

「ふふふ。家は古いけど、土地代は結構いい値段するんやで。なにせ一等地やから」

「えー知らなかった」

「ねぇお祖母ちゃん。なんで関西弁なのー?」

「あぁこれね。実はお祖母ちゃん、関西出身なんよ」

「えー!」

「初耳ー!」

「お祖父ちゃんがこっちの人でね。お祖父ちゃんと駆け落ちしてこっちに来た時、関西弁だといろいろ言われるから必死に直したの」

「何それ、差別ー」

「お祖父ちゃんと駆け落ちの話も気になるー!」

「ふふふ。あのね、もし2人さえよければ、お祖母ちゃんと関西に行って暮さないかい?」

「「え?」」


 この誘いには双子だけでなく、話を聞いていた姫乃と玲奈と優紀も固まった。それを見て双子の祖母は慌てて補足を入れる。


「すぐにって話やないんよ。今回のことで、今の家を売って地元に帰ろかな思ってね。弟とはこっそり年賀状のやり取りはしとったから連絡入れたら、実家は今空き家になってて弟が管理してるって。弟と電話でしゃべっとったらちょっとずつ関西弁に戻ってしもたわ。体は覚えてるもんなんやねぇ」

「お祖母ちゃんの実家……」

「関西……」

「関西に行くのは高校を卒業してからでもいいし、今はお祖母ちゃんちに3人で暮らしたらどうやろって。もう大人の都合で子どもが離れ離れになるんも、それを見てるんもつらいから。もうお母さんもお父さんも家に居らんし、なんも気にせんと帰っておいで。むしろ今までホンマにすまなかったねぇ。あたしの育て方が悪かったせいで」

「お祖母ちゃんは悪くないよ!」

「そうだよ! うちら一緒に暮らせるなら文句無いもん! お祖母ちゃんありがとう!」


 こうして美代と沙代の問題にも区切りがついた。祖母は、「もうしばらく孫がお世話をお掛けしますけど、なんかあったらいつでも連絡寄越してください」と言って待たせていたタクシーに乗って帰って行った。花野がお昼ご飯を一緒にと誘ったが、祖母はこれから娘のところに行って養育費の支払いと親権放棄の説得に行くのだと言って断った。


「できの悪い娘をもう一度教育し直してきますわ」


 そう言って颯爽と帰って行った祖母の背中を、眩しそうに美代と沙代はしっかりと目に焼き付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ