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ペルセウス座流星群の下で-21

 突然優紀が自分の両頬を強く叩いた。振り向いた優紀の頬は赤かったが、とても晴れ晴れとした顔をしている。誰も何も言えないでいると、「私は大丈夫だ」と力強く優紀が言った。その言葉に不安は感じられない。このまますべての問題が片付いたらいいのにと、全員が心のどこかで思っていた。しかし家出から7日目になっても、美代と沙代の親からは何も無い。

 その間に玲奈と優紀の家では動きがあった。玲奈の両親は警察から検察へ送致され、引き続き取り調べを受けている。近所に住んでいた親戚と連絡が取れて、弟と玲奈を引き取れるかどうかの話を児童相談所がしているところだと杉本から連絡があった。

 優紀の家では杉本も参加して家族会議が開かれていた。そこには汐見も参加していた。父親と汐見は改めて自分たちの不適切な言動を謝罪し、償っていくと頭を下げた。1番下のるりはまだよくわかっていなかったようだが、意外にも3番目のさくらはドライだった。「母親になろうと必死なの、見てて痛かったし。お姉ちゃんたちも不満があるくせに何も言わないの馬鹿みたいって思ってたし。あたしは別にどっちでもいいし」とさくらが言っていたと杉本から聞いた優紀は、「まったくもってその通りだ。さくらの方が大人だな」と電話越しに苦笑いをするしかなかった。

 玲奈と優紀、そして姫乃の問題は概ね前身したのに対して、美代と沙代の問題は何も進展が無かった。子どもが1週間も家出して何も無いというのは、さすがの双子も予想外のことだった。何かしらの連絡はあると期待していただけに、2人の意気消沈っぷりは凄まじい。目に見えてイライラとしているのがわかった。姫乃は黒岩や花野に何度も確認したが、2人の父親からも母親からも祖母からさえも何も無いと言われ、肩を落とすしかなかった。誰も、2人に掛ける言葉を見つけられないでいた。

 家出8日目の昼食中、とうとう沙代がキレた。美代は泣き出し、食事どころではなくなってしまった。食事を中断し、紺色の部屋に移動する。沙代がお皿を投げんばかりの勢いだったからだ。


「なんでうちのクズ共は何も連絡寄越さないの!? 頭おかしすぎるでしょ!」

「きっとうちらのことなんてほんとにどうでもいいんだ……」

「そんなことないって。シーズも落ち着きなよ」

「そうだよ。きっと何か事情が」

「うるさい! 愛してくれる大人が居るみんなにはわかんないよ! うちらのことを守ってくれる大人なんて居ない! みんなとは違う!」

「何それ! 自分たちは特別って言いたいの!?」

「レオも落ち着いて」

「そうだよ。うちらは特別! うちらはちょっとやれば大抵のことはできちゃうし。大人に甘えなくても2人で生きていけるし!」

「シーズ、やめようよ。もういいよぉ」

「ピースはうじうじし過ぎなんだよ! いつもうちの後ろに隠れてさ。大体、なんでピースはあんな良いマンションに住めてるのにうちだけボロい家なわけ!? おまけにヒステリーな母親と一緒。双子なのに不公平じゃん!」

「そんなこと言われても……」

「今のは言い過ぎだよ! ていうか私たちはまだ未成年だし、大人に甘えて何が悪いの?」

「はぁぁうざい! 全部やってもらえるお嬢様は高みの見物でいいですね? 今こうしてるのだってうちらに施しを与えてるつもりなんじゃないの?」

「エアリーがそういうんじゃないの知ってんじゃん! 自分たちだけが悲劇のヒロインってわけ!?」

「ふん。自分たちだけ解決して、どうせうちらのこと見下してんでしょ! どいつこいつも」

「それ以上は言うんじゃない!」


 優紀が怒鳴った。その姿や声は怒った時の杉本に似ているように姫乃と玲奈には感じられた。怒っているけれど愛のある、信頼できる大人たちの姿が優紀と重なる。優紀は1度深呼吸をすると、沙代を真っ直ぐと見つめた。


「それ以上言えばもう取り消せなくなるかもしれない。言葉は重い。私たちが2人の気持ちをわからない人間じゃないってのは、わかってるはずだ」

「はいはい。大人ぶってお説教ですかぁ」


 沙代が優紀から目を逸らす。優紀は構わず続ける。


「今は一旦頭を冷やそう。それぞれ今後のことも考えたいだろうし、今日はこのまま解散。夕食も各自の部屋で食べよう」


 優紀は有無を言わさぬという勢いで全員に退室を促した。沙代はさっさと部屋を出て行き、美代がその後を慌てて追う。玲奈も収まらない怒りを抱えたまま自分の部屋へと戻って行った。後に残ったのは姫乃と優紀。姫乃は優紀に弱音を零した。


「私がしたことは間違いだったのかな」

「そんなことはない。エアリーのお陰で私たちは前に進むことができた。シーズもピースも、今は混乱してるだけだ」

「うん……でも、施しを与えてるつもりじゃ……」

「大丈夫、みんなわかってる。さ、エアリーも自分の部屋で休むんだ」


 優紀に背中を押されて、姫乃も渋々と紺色の部屋を出た。優紀は全員の背中を見送ってから深いため息をつき、「伯父さんのようにはいかないなぁ」と頭を抱えた。少しの間そうしてから優紀も自室に戻った。

 姫乃は花野に事情を話して夕飯を各部屋に運んでくれるように頼むついでに、どうしたらよいのか助言を求めた。花野は、「とことん喧嘩できるのも良いお友だちの証です。一緒に甘い物でも食べて仲直りすればいいんですよ。変に自分を偽れば余計に溝は深まります。自然に、お嬢様らしく」とにっこり笑って姫乃の手を握った。花野からはいつも美味しそうな匂いがする。特に焼き菓子を作っている時の花野の匂いは甘くて優しくて、トゲトゲとした気持ちも勝手に丸くなっていく。姫乃は「あっ」と声を出し、今思いついたアイデアを花野に話した。花野は当然の如くそのアイデアを承諾する。夕飯の後、キッチンにやって来た姫乃を花野はいつもの笑顔で迎え入れた。

 あてがわれた自室に戻った美代と沙代はほとんど会話も無く、夕食もほとんど手をつけずに下げてもらっていた。美代はソファーの上で膝を抱えて爪を噛み、沙代はベッドの上で扉に背を向けて横になっている。


「シーズ……」

「うるさい。話し掛けないで」

「でも……」

「うじうじするのやめて。こうなるのは最初からわかってたじゃん」

「でも。みんなに当たるのはやっぱりダメだよ。謝ろうよ」

「は? なんでうちらが謝るの? みんなは解決ムードなのにうちらだけこんな惨めな思いしてさ。同情されて悔しくないの?」

「そりゃすごく悲しいけど……みんなは心配してくれただけで」

「ふん。忘れたの? 親が離婚した時、『心配してる、可哀想』って言ってこっちを見下して、内心自分はまだマシって思ってるクズばっかだったじゃん」

「そうだけど、みんなは違うと思う」

「どう違うの? みんな幸せそうに笑っちゃってさ」

「それはだって……そうだけど」

「ほら、みんなうちらのこと見下してるんだよ」

「でも」

「この話は終わり! うち寝るから。寝ないなら隣の部屋行って」

「うぅ……」


 美代が半泣きになって部屋を出て行こうと立ち上がると、誰かが扉をノックした。美代は慌てて扉を開ける。美代は目を閉じたまま、ベッドから耳だけを扉に向けた。

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