表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/50

ペルセウス座流星群の下で⑳


「姉ちゃんに謝りたいって言うからこの場所を教えたのに! お前らの言い訳なんか聞いてねぇんだよ! あんたが母親になる? 笑わせんな気色悪い! お前らはいつも自分のことばっかでボクらのことなんて気にも留めてねぇだろ! ボクらの機嫌を取るのは自分たちが一緒になる為だけ。気持ち悪いんだよいい歳して子どもの前でいちゃつきやがって!」

「もうやめるんだ奏汰」


 いつの間にか杉本の後ろに来ていた優紀が叫ぶ奏汰を制止した。優紀と一緒に姫乃たちも居る。そこから玲奈がスッと前に出て、優紀の父親と汐見を押しのけ、奏汰の前に立った。


「あの時、痴漢に遭ってたのは優ちゃんの妹さんだったんだね。元気そうで良かった」

「あ! あの時助けてくれたのは貴女だったんですね! お礼を言えなくて、顔も覚えてなくて! 本当にごめんなさい! ありがとうございました!」

「いいんだよ。あいつ見ててめっちゃムカついたし。思い出しただけでも八つ裂きにしたくなる」

「え、じゃあ玲奈が跳び蹴りをかました痴漢って……」

「どうやら優ちゃんの妹さんを痴漢してた男だったみたい。まさかここで繋がるなんて」

「そうだったのか。本当にありがとう! 私の妹を助けてくれて。実はあれから助けてくれた人を探したんだが、見つからなくてな。まさかこんな身近に居たとは」

「玲奈かっこいいー!」

「さっすが健脚の玲奈ー!」


 盛り上がる子どもたちの間に、申し訳なさそうに優紀の父親と汐見が割って入ってきて、お礼を言おうと頭を下げた。しかし玲奈がそれを制止する。


「あんたたちにお礼言われる筋合い無いから。ていうか聞いてたけど、ホントに悪いと思ってるの?」


 玲奈にそう言われた2人は顔を真っ赤にした。


「私だって頑張ってるわよ! なのになんで」


 汐見が言い終わる前に優紀が汐見の頬を思いっきりビンタした。汐見が叩かれた頬を手で押さえて呆然とする。優紀の父親は優紀を怒鳴ろうとするが、杉本が即座に子どもたちと優紀の父親たちの間に体を滑り込ませた。父親が奥歯を噛みしめて黙る。


「あんた、よく優にそんなこと言えたな? 今まで自分を犠牲にして家族を支えてきたのは優だ! あんたじゃない! あんたは優の犠牲を横からかっさらって、いい女、いい母親ぶろうとしてるだけだ。そしてそれがわからない遙人さん、心底失望しましたよ。穂乃香が惚れた男は、もうどこにも居ないんですね」


 杉本が静かに、とても低い声で優紀の父親にそう言った。父親は『穂乃香』の名前が出た瞬間に顔を青くして、そして崩れるように膝を折って土下座をした。杉本の向こう側で体を震わせて小さくなる父親を見て、優紀はぎょっとした。玲奈は奏汰をしっかりと抱きしめ、姫乃と美代と沙代が2人を庇うように壁になる。重い沈黙の時間が流れ、優紀の父親が震える声で言葉を発した。泣いているようだった。


「本当に、仰る通りです。情けない。子どもたちのことを守ると、穂乃香と約束したのに。私は結局自分のことばかりになって。子どもたちに甘えてしまって。子どもが大変な時に相談もできないダメな父親になってしまってることにも気づかないで。今、奈央が叩かれて、私は咄嗟に奈央を庇おうとした。優紀の気持ちより、自分の恋人を優先しようとした。父親失格です。子どもらには私しか居ないのに……」


 その様子を見ていた汐見も、父親の隣で土下座をした。弱々しい父親と違って、汐見はしっかりと背筋を伸ばし、折り目正しく頭を下げた。


「今まで、申し訳ありませんでした。みんなをここまで立派に育てたのは優紀さんだったのに、私も、遙人さんも、おいしいとこ取りみたいに自分たちの都合しか考えていなかったこと、今叩かれてようやく理解しました。自分たちのことで舞い上がって、本当の意味でみんなのことを考えていなかった自分が恥ずかしいです。遙人さんからの結婚の申し込みも正式にお断りします。でも、今までの償いはしっかりします。たぶん……私は優紀さんのことが羨ましかったんだと思います。でも、それは私の問題であって優紀さんや奏汰さんを苦しめていい理由にはなりません。本当にすみませんでした」

「姉ちゃん! 帰ってきてよ! 姉ちゃんの唐揚げが食べたい!」


 優紀は深呼吸をした。杉本は何も言わない。優紀が答えを出すのを待っているのだ。優紀はずっと気になっていたことを父親に聞いた。


「ねえ。さくらとるりは今どうしてるの?」


 それを聞いて汐見が勢いよく顔を上げた。


「それは安心して! 私の部下がちゃんと面倒見てるし、安全に過ごしてるはずだから!」

「部下? どういうことですか?」

「ごめんなさい、私のこと話してなかったわね……」

「あの、もしかして汐見さんって、汐見製菓の?」

「ええ。貴女のこともよく知ってるわ。筑比地さん。私は汐見製菓株式会社の代表、汐見奈央です」

「え、え、汐見製菓って、あのデパートとかで売ってる有名な? あたし、そこのカスタードまんじゅう大好きなんだけど」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると職人さんたちが喜ぶわ」

「お父さん? なんで話してくれなかったの?」

「いや、その、奈央に止められてて。奈央とは仕事で知り合って、それで……」


 相変わらず歯切れの悪い父親に優紀はため息をついた。どうやら汐見の方が肝が据わっているらしい。伊達に女社長をやっているわけではないということだ。それに汐見は、優紀の父親と別れるとは言わなかった。こういう強かさがあるから会社を大きくしていけるのだろう。根負けしたのは優紀だった。


「わかりました。別にあなたたちに別れろとか言うつもりも元から無いし、あなたたちの人生はあなたたちの勝手です。ただ、私や奏汰の苦しみをわかってほしかっただけなんです。それをわかって行動してくれるなら、私は文句ありません。妹たちの目の毒にさえならなければ」

「優、それでいいのか?」

「ありがとう伯父さん。大丈夫、もしここまでやってまたダメってことになったら、今度は伯父さんとこ避難させてよ」

「もちろんだ。その時は問答無用で親権をこちらに渡してもらう」

「だ、大丈夫! よくわかったから! 今度こそちゃんとわかったから!」

「私も、大人として軽率でした。このことはこれからきちんと対応いたします」

「……優がいいと言うなら俺はもう何も言うまい。どうする、優。このまま帰るか?」

「いや」


 優紀は星見会の面々の顔を見た。全員が力強く頷く。


「まだ私にはやらなきゃいけないことがあるから残るよ」

「そうか。奏汰ちゃんたちのことは俺に任せて。すみませんが、優やみんなをよろしくお願いします」


 杉本が花野に頭を下げ、優紀の父親と汐見を立たせた。奏汰も一緒に来るように言い、奏汰は渋々それに従う。しかし車に乗り込む直前で奏汰が杉本を振り払い、優紀の元へと駆けてきた。


「家の事は心配しないで、姉ちゃんはゆっくりしてきてね! いつもありがとう!」


 そう言いながら奏汰は優紀のことを抱きしめた。優紀は思わず涙ぐみ、奏汰を抱きしめ返す。


「あぁ、わかった。こっちこそいつもありがとう。家の事、頼んだぞ」


 こうして優紀の家族と杉本は帰っていった。優紀は2台の車が見えなくなってもずっと玄関から動かなかった。花野は、「夕ご飯の支度を始めますね」と言って居なくなり、5人だけになる。姫乃、玲奈、美代、沙代の4人は優紀になんと声を掛けたらいいのかわからず、ただ立ち尽くすだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ