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ペルセウス座流星群の下で⑱

「ひゃー暑かった。こんな早く見つかると思ってなかったけど、見つかってよかったー。なんでわかったのー?」

「テーブルが昨日とは違う位置にあったからな。変だなと思ったんだ」

「やっぱりアクアは気づいちゃったかー。黒岩さん辺りに協力してもらえばよかったかなー」

「そしたらシーズ、熱中症で倒れちゃうよー! ほんとにめっちゃ探したー!」

「まるで忍者みたいだね。運動神経はレオといい勝負かも?」

「さすがのあたしも屋根の上は考えてなかったって」

「そういえば、レオはどこに隠れてたんだ? 私より先ってことは1番に見つかったんだろ?」

「いやーそれが……」

「レオは隠れ損なっちゃったみたいなの。洗濯室から出てくるところでばったり会っちゃった」

「ほえー。レオが最初に見つかるのは予想外ー」

「じゃあレオが罰ゲームねー!」

 

 悪い顔をして笑う双子が玲奈ににじり寄って行く。玲奈は2人に気圧されてじりじりと後退していき、とうとう脱兎の如く駆けだした。双子はもちろん玲奈を追いかける。今度は家の中で鬼ごっこが始まった。


「レオ待ってー! 悪いようにしないからー!」

「めっちゃ可愛くしてあげるからー!」

「なんのことかわからなすぎて無理ー! 可愛さなんてあたしにはいりませーん!」

「ほー。それは見てみたいな。私もレオを捕まえるのを手伝おうか」

「ちょ! アクアはダメ! 実は足早いの知ってるんだから!」

「え、そうなのアクア?」

「中学の時の話だよ。一応、短距離で全国3位だ」

「えぇぇぇぇぇぇ!?」


 またもや知った友人の意外な一面に、姫乃は素直に驚いた。アクアはしっかりと足首のストレッチをして、一気に踏み込んで加速した。全国3位の脚はしっかりと健在だった。熾烈さを増した鬼ごっこを呆然と見るだけの姫乃。時折玲奈の、「エアリー、助けて」という嘆きのような声が飛んでくるが、この3人を相手に、運動に自信の無い姫乃にできることは無い。そしてついに、玲奈は食堂で確保された。

 肩で息をしていても楽しそうな4人。姫乃はキッチンから麦茶を持ってきて、みんなに配った。わちゃわちゃと賑やかにしていたところにインターホンの鳴る音が響く。一気に場が静まり返った。

 花野がパタパタとスリッパを鳴らして玄関へ向かう。5人は食堂から顔を出してこっそりと様子を窺った。花野の部屋にあるモニターで最初の来客対応はできるので、花野はとてもスムーズに玄関を開ける。入ってきたのは杉本と男女の警官らしき2人。とうとう現実が向こうからやって来てしまった。何やら数回やり取りをした後、花野が真っ直ぐに食堂へ杉本と警官を案内してくる。5人は慌てて扉から離れ、並んで椅子に腰掛けた。なんとも気まずい空気が流れる中、大人たちが食堂へ入ってきた。


「お嬢様、先生方がお見えになりました」

「木崎!」


 杉本が一目散に玲奈へと駆け寄る。その勢いのまま深く深く頭を下げた。


「本当にすまなかった! なんにも気づいてやれないで! 担任失格だ!」

「いやいや! スギちゃん先生のせいじゃないし! 謝んないでよ!」

「いーや! 苦しむ子どもを守りたくて教師になったのに。本当に力不足ですまない!」

「先生。まずは木崎さんからお話を聞きたいのですが」

「あ、そうでした。すみません。つい」

「お気持ちはわかります。木崎さん、いろいろと聞きたいんだけど、別室に行ってもいいかな?」


 女性警官が、座っている玲奈よりも低い位置から玲奈に尋ねる。玲奈は小さく、「はい」と言うしかなかった。花野が「では、こちらへどうぞ」と女性警官と玲奈を別室へ案内すると、残った4人は男性警官と杉本と話をすることになった。一応事実確認をしたいと言う。要するに事情聴取ということだ。4人は玲奈から聞いたことを正直に話した。自分たちの家出計画のことについては家出とは言わず勉強合宿とだけ話すに留める。それについて杉本も何も言わなかった。姫乃は実際に玲奈の家に言って見た様子についても見たままを話した。ベテランそうな男性警官は終始黙って4人の話を聞いていた。時折メモを取りながら、軽く相槌を打ち、あまりやる気があるとは言えない様子を見せる。

 4人の事情聴取が終わると、男性警官は興味も無さそうにあっさり話を終わらせた。時間にしても20分も無かっただろう。あとはひたすら玲奈を待つだけの時間が重く流れ、空気が薄くなったようにすら感じられるようだった。玲奈が婦警と別室へ行ってから1時間も過ぎた頃、ようやく玲奈は戻ってきた。目を真っ赤にして、鼻を啜って吐く息は激しく震えている。盛大に泣いた証拠だった。


「遅かったな」

「すみません。しかし木崎さんの精神状態を考えれば無理もないかと」

「はいはい。時代が違いますもんねぇと」

「……木崎さんについても、弟さん同様施設で一時預かりになった方がいいと話をしたのですが……筑比地さんってどなたですか?」

「あ、私です」

「木崎さんは、貴女がこの家に居てもいいと言ってくれたと言ってるのだけど、本当?」

「はい! 今は勉強合宿中ですし、夏休みが終わってもうちから学校に通えば問題ありません」

「ご両親の許可は?」

「と、取ってます!」


 女性警官はじっと姫乃を見た。正確に言えば姫乃は玲奈がこの家に滞在することを許可していない。しかし「好きにしろ」と姫乃の父親は言ったのだから、嘘を言ってもいない。姫乃の心臓は強く緊張を訴えた。


「いいじゃねーか。お嬢様がこう言ってるんだし」


 男性警官は心底面白くなさそうに会話に割って入ってきた。『お嬢様』と言ったのは、半分嫌味だろう。


「しかし、法律に基づいた手続きと支援を」

「いいのいいの! そういうのは緊急性の高い子どもに適用されるわけ。今回この子はもう逃げ場所を確保してて、そこの住民も許可してる。問題の親はすでにこっちが確保してるし、中学生の弟も保護済み。しかもこの子はもう高校生でしょ? 身の回りのこともできるし、自宅待機ってことで進めていいでしょ。あとでこの子の親族に連絡すりゃあそれで十分だ」

「しかし!」

「これは上司命令ね。木崎さんへの連絡はこのまま杉本さんにして構いませんか?」

「構いません。その方が助かります」

「わかりました。では、私たちはこれで一旦帰ります。ほら、行くぞ」


 男性警官の一言で女性警官は押し黙り、従うしかなくなった。姫乃も玲奈も内心胸をホッと撫で下ろす。しかし女性警官は納得いかないのか、玲奈に「どうしてもつらくなったらいつでも相談してね」と声を掛けて、男性警官の後に続いて渋々と帰っていった。


「緊張したぁ」


 玲奈が椅子の上で溶けたアイスのように脱力する。他の4人もテーブルや椅子に思い思いに溶けて深呼吸した。さすがの杉本も息を大きく吐いて額の汗をハンカチで拭った。


「エアリーの家にってのは、もしかして朝言ってたやつか?」

「うん。私にできることをしたくて」

「男の警官がやる気無くてよかったよねー」

「女の人だけだったらレオは連れてかれちゃってたかもねー」

「あの人、悪い人じゃないんだろうけど、なんか……正義感の押しつけって感じがすごく嫌だった」

「あの人はあの人なりに仕事に一生懸命なんだよ。それより筑比地、本当にご両親の許可取ってるのか?」


 杉本が姫乃にいつもの調子で質問する。杉本には、正直に話した方がいいと姫乃は判断した。


「半分本当で、半分嘘です。黒岩さんに頼んで、父に話してもらっているところです。でも、好きにしろと言われているので、問題無いかと」

「お前なぁ」

「まぁまぁ、伯父さん落ち着いて。どうせ親族が引き取るってなればそっちに行くわけだから、それまで友だちの家に泊まってるってことにすればいいじゃん。警察の人もそんなようなこと言ってたし」

「うーん。まぁ優の言う通りだし、ここなら確かに安全ではあるが……。で、優はこれからどうするんだ?」

「私もこのまま」


 「このまましばらくこっちに居る」と答えようとした時、再び玄関のインターホンが鳴った。また警官が戻ってきたのかと全員が身構える。花野がまたパタパタと玄関に向かった。その様子をさっきと同じくまた食堂から首だけ出して見ている姫乃たち。開いた扉の向こうに立っていたのは優紀の父と汐見、そして奏汰が2人の後ろに居た。逆光のせいで3人の顔を食堂から窺い知ることはできなかったが、何やら緊迫した状態の会話をしているのは伝わってきた。

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