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37話

 ウッディアンの活性化と聞いて、震えだす職員もいる。マサルくんだけど。

 普段は弱い種ばかりで、木を植え森を広げようとする光景は可愛らしくもあるのだが、強力な亜種が次々と産まれた場合はとんでもないことになる。


 森内のモンスターを動かす必要などなく、馬鹿みたいな数の木人が迫るのだ。『森の進行』あるいは『森の行進』とも呼ばれる異常事態は、文明など容易く呑み込む。町のあった場所が、そのまま一晩で深い森になる。見た経験がある者にとっては、トラウマものだろう。


「あくまで最後の話は、現段階では可能性でしかないということを留めておいて下さい。次にアルマン、頼む」


「こちらからは、現在デクルの森からあるかもしれない、モンスターの襲撃についてです。単一種族で引き起こせ脅威に成り得る種族は、シミフト、ガチョーウ、チョトスの三種です。このうちガチョーウに関しては、まだまだデクルの方で数を適切に減らす事が出来ると窺っています」


 アルマンがマンタスの方を見ると、マンタスは頷く。


「また、シミフトは厄介ながらも城壁や町の破壊が可能なモンスターではなく、城壁での攻防で時間稼ぎが間に合います。東側を含めた冒険者が応援に駆け付ければ十分に対処可能だと思われます。最悪の場合でも、避難が間に合わないことはありません」


 シミフトは強靭な足を武器とするサルだ。森内で遭遇したり町内へ攻め込まれてしまうと厄介だが、町との間にある草原や城壁では大した脅威にならない。


「問題はチョトスです。デクルの長が代替わりしたことにより統率が難しく、大型個体を仕留めることが減っていると聞きます。さらに岩盤の問題、それによる環境の変化。これらが重なりもっとも襲撃の可能性が増えている上、現状の西側の防備では不十分だと思われます」


 結局はこのチョトスだ。城壁しかないのに、城壁との相性が悪い。


「意見ではないが発言しても良いだろうか?」


 マンタスが話を挟む。


「これは自己弁護のために言っているわけではないと、最初に念を押しておく。そもそも今回の代替わりだが、問題が二つあった。腹黒兎の度重なる職務放棄、そして食料不足だ。食料不足については腹黒兎の職務放棄による現場の混乱が主なものだと思われており、だからこそデクルの総意として代替わりの判断になった」


 マンタスは昨日俺が森に行き、話をして参加させた。デクルにとっても重要な会議になる。意見があるだろうし、有益な情報もあるかもしれないと思った。


「しかし、この食料不足はそもそも件の岩盤の浸食によるものだと思われる。大型チョトスの狩りは穴を利用したものが多く用いられ、落とし穴などにして使用する。この穴掘りなのだが、デクルは元々得意ではない。森に住む他のモンスターと、腹黒兎が穴を開けていた」


 パウラサは気軽にポンポン開けるもんな。手掘りする側からすると阿保らしいほど効率が良い。


「我々が穴を掘るわけではないので、穴が減り、罠として利用できなくなった理由を長であった腹黒兎に聞くと『面倒くさいんだもの』と言われた。これがそもそもの長を除名するに至った大きな理由だ」


 食料事情が切迫している際に、めんどい発言されたらそりゃ怒るよな。長として不適格なのは間違いない。


「しかし、ふたを開けてみると事情が違う。恐らく穴は掘らないのではなく掘れなかったのだ。あいつは長の座を降りるために、この状況を利用したに過ぎない。仮に吾輩や他のデクルが穴掘りに有用な魔法を獲得しても、状況は変わらない。デクルの長が変わったことを含め、デクルは何一つ関係がないと言わせてもらいたい。あえて言うならば、腹黒兎が地下に関する情報を遮断していたことこそが対応の遅れをもたらし、状況の悪化を招いたと考えている」


 思わず拍手をしたくなった。

 昨日少し言葉を交わした際も思ったけど、結構まともそうだ。後が無くてまともにならざるを得ないのかもしれない。デクルとしても本気で困っていて手を取り合うしかないのだろう。あとクソ兎がクソ。


 パウラサはこれを言われることが分かってるからこそ、この会議に参加しなかったのかもな。


「話の腰を折ってすまなかった。吾輩からは以上だ」


 礼儀もなっていそう。


「デクルの事情は理解しました。では改めて、岩盤の浸食のせいで勢いを増しているチョトスへの対策について話そうと思います。皆さんご存知の通り、チョトスは可食部位も多く、マルエスで広く一般に食されているモンスターでもあります。人間側で狩る量を増やすことが出来れば利益にもなりますし問題はありません」


 どこかの害獣とは違って、狩れば狩るだけ利益に繋がるのは嬉しいことだ。


「しかし問題の大型個体は、マルエスに所属する狩人の対象になっていません。大型になるほど皮膚が分厚くなり、ダメージを通せず、倒し切れないことが多いためです。危険を冒し、努力の結果倒したとしても、利益は中型個体二、三頭分と変わりません。効率が悪すぎます」


 敵が強大になったところで、利益に繋がるかどうかはまた別の話。チョトスの場合は単純に肉の量で増減するだけだ。昨日の冒険者がそうしていたように、中型個体を仕留めるのが一番良い。


「最も良い対応策は、上級冒険者を雇うことだと思います」


 これには俺が一番、苦々しい顔をせざるを得ない。あの護衛を引き止めていれば、何とかなったかもしれないのだ。

 護衛がいなくて危険になるのは結局俺自身なのだから、何かあっても自業自得だと思って気軽に考えていた。だが、町全体に影響を及ぼしてしまっている。パウラサのことを責める資格があるのかというところ。


「一応報告しますと、現在のところ上級冒険者の募集は掛けていますが、誰も掴まっておりません」


 マサルくんが報告する。

 

 まあ、そうだろうな。我が物顔で多くの場所を歩ける強さを持っていながら、こんな町に留まる理由がない。一時的な仕事を依頼することなら出来るけど、ずっと町にいてと言うのは無理な話だ。


「ルディに報告は?」

「既に行い、返信を貰いました。『ガンバ!』だそうです」


 俺の報告に、皆が額に手を当てる。うちの町の後ろ盾であるギルドは、こういう奴等だ。


 仮に反冒険者たちと戦争とかいう話だったなら、もうちょっと良好な反応を得られただろう。このギルドは、『面白そうかどうか』で全てを判断するギルドだからだ。環境が変わってモンスターの襲撃がヤバくなりました、なんて、あまりにもありふれている。彼らからしたら、つまらないとしか思われないだろう。

 せめて激強面白モンスターが発生してくれないと、出てこない。そんなん出たら報告する前に死ぬけど。


 別にこれはルディが悪いというわけではない。俺たちは多額の上納金のようなものを払っているわけでもないんだから、ルディが良くしてくれる理由はないのだ。

 何か言われると嫌だから上納金を受け取らないということでもあるが。


「この際だから聞いてしまうが、サンケタ。シマと協力し本気を出したら、何とかなったりしないか?」


 俺の強さに関しては、あまり触れられていない。アルマンは俺の出自みたいなものを知っていて、触れない方が良いと判断したらしい。とはいえ期待されても困る。所詮は雑用料理人だ。


「二、三体倒してくるぐらいなら出来ますけど、それだけです。そこら辺の中級冒険者と大差ありません。対人の方が得意ですし」


 シマと一緒に頑張ったところで、パウラサにも勝てないだろう。秘めているとんでもない強さなんてあるわけない。

 普通に町長として働いているのだから、修行のようなものだってほとんどしていないし。


 それでも一撃の強さに自信ニキなら大型チョトス対策に良かっただろうが、残念ながら逆の戦い方しかできない。


「仮に、伝手を使ったらどうなる?」

「チョロっと来てくれるだけなら可能性はゼロじゃありませんが、留まるなんてあり得ません」


 虎の威を借る狐みたいで、呼びたくもないけど。



「はい、じゃあ町長として話をまとめさせてもらいますね」


 アルマンの話は中途半端かもしれないが、これはほぼ結論が分かっているから引き継ぐ。


「頼れる上級冒険者はなく、状況は悪化する一方。現在できる対応策は、大型チョトスに報酬を増やし積極的に倒してもらうことと、防御を固めることのみ。ここまで良いでしょうか?」


 他の意見を出す者はいない。


「ですが恐らく、報酬を増やしてもあまり倒されることはないでしょう。冒険者ではなく町で狩人をしている以上、安定の方が大事だからです。今ここに狩人や衛兵の方がいませんのであえて蔑称を使うと、『脱落者』と呼ばれる方だからです」


 戦闘の可能性がある冒険者以外の職業は、危険を冒すことを辞めた者として、こうした蔑称を使うことがある。戦闘するのだから危険は伴うのだが、その危険度に天と地の差がある以上変わりはない。


「町のためだとしても、期待するのは間違っています。残るは防御を固めることのみ。しかし、アケミさんの報告通りに地面は固く、対策方法が限られます」


 結局はこの結論。


「昨日、偶然ですがチョトスの意外な跳躍力も目にしました。生半可な対応も役に立たないと思われます。我ながら適当な計算で根拠はありませんが、完璧に罠を仕掛け整備を続け、可能な範囲の警備体勢で日々を送った場合、即時対応の出来る範囲はチョトス百体強です」


 日々消費される肉としてのチョトスを考えれば、大した数ではない。だが、それが一斉に町に迫るとすれば話は大きく変わる。


 何よりも問題は『負け』と判断できるライン、ハードルが非常に低いこと。人口が減る一方なのだから、減った分は取り戻せない。多くの場合、この町で子供を産むのには抵抗がある。危険が多すぎる。


 早い話。


「諦めるべきだと思います」

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