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17話

 教授たちが町に来てから約一ヶ月。

 先触れが来たので町の外で待っていると、研究の作業員とこちらで使う増員の第一波が到着した。


「おー」


 本当に来た。こんなところまでご苦労なことだ。

 五十人ほどいるだろうか。


「話はどこまで通してあるのでしょうか」


 この一団を連れてきた代表者っぽい者に聞く。


「こちらで働いてもらうことになるとだけ。仕事の割り振りがどうなるか、こちらでは分かりませんでしたし」


 つまり過酷な肉体労働だと分かれば拒否する人員もいると。予想通りに使えなさそうな者が集まっていそうだ。

 にしても、仕事のために町を移動するだけのことはしてくれたわけだ。どういう心境なのだろう。それか、従わざるを得ないような状態?分からん。


「住処については?」

「特には。こちらの組織の者が確認し、問題はないと聞いてます」


 デクルがいる側とは違って風俗街は安全とね。


「分かりました。もうこちらで預かってしまっても?」

「こちらで使う者以外は良いかと」


 研究チームの方はもともと分かっていて来ているようで、装備も違うし顔つきも違うように思える。一行の護衛として付いて来た人物も、当然研究チームの方へ行く。


「では……みなさんようこそマルエスへ!今日のところはお疲れかと思いますので、住居まで案内しますのでそちらでお休み下さい。仕事については明日の午後説明いたしますので、その際はよろしくお願いします。では、こちらへどうぞ。住居についての資料をお配りします」


 ぞろぞろと付いて来る。気分はツアーガイドだ。案内先は、どこだろうね?




 次の日、予定通りの時刻、予定通りの場所に仕事の説明に来た。


「おい、どういうことだ!」 

「碌に休めてないわよ!」

「宿代を返せ!」


「では、仕事なのですが北の山脈へ遠征することとなります。本日は各種作業の確認や担当分けになります。軽い適性試験などもありますので、本番だと思って必要そうなお荷物を用意していただき。一時間後にまたここに集合してください。何やら不満がある方もいるみたいですが、強制は致しませんのでご安心ください」


「先に説明しろ!なんだこれは!」


「念のために申しておきますと、こちらの行いは全て予定していた通りになります。不備があるのなら、そちらの組織の方だと思いますので苦情はそちらへお願いします。では」


 さて、批難が煩い。とっとと避難しよう。




 一時間後、戻ってくるとそこには五人ほどがいた。全部で四十三名いたはずなのに、不思議だね。


 参加するかはともかく話くらいは聞きに来るのが普通だと思っていたのだが、そんなこともないようだ。


 俺を含めて六人。トンネル掘れるかな?


「俺たちの上司の場所知らねぇか?」

「残念ながら、住まいはこちらで用意したものを使っていないのならば分かりません」


 用意した移民用の住処は、好きに入居してもらうことになってる。研究チームの人が使っても良いし、使わなくても良い。そうでなくとも宿を使った者がいたそうだが。


 教授たちの住処も、聞いてないので知らない。常に向こうが役所へ来ることでやり取りをしていた。明らかにおかしな状況だが、こちらから伝えたいことなど別に無かったのでやってこれた。


「本当か?」

「虚偽感知の魔法などを使ってくださって結構ですよ。そうした魔法や道具の使用は失礼などにはならないので安心してください」

「そうかよ。じゃあな」


 これを聞くためにいたようで、三人が帰って行った。


「えーと、二人だけですか。聞きたいことは色々ありますが、とりあえず場所を変えましょうか」


 近くの会議に使えそうな建物へ入る。ほぼ廃墟だが、中は広く約五十人がギリギリ入るくらいの容量がある。


「改めましてこんにちは、と言う意味がなくなってしまいましたかね」

「……」

「早速本来の仕事についてお話しますと、エルフからの逃亡ルート確保のため北の山脈に穴を開ける、トンネルを作るというのが皆さんの仕事です」

「山脈にトンネル?この人数で?」

「最終的には三百名もの人数が集まる予定でしたので」

「じゃあ無理だな」

「後続の判断次第となりますが、かもしれませんね。一応教授たちはこの山脈で研究や実験を行うと言っておりましたので、仕事が本格的に始まった頃には皆さん一緒で安心していただけると思ったのですが」

「向こうはやりたいことやって、オレたちはトンネル工事?多少の苦労は覚悟していたが、あんまりにも酷くないか?」

「と申されましても、こちらは最初からトンネル工事のための労働力が欲しいと言っていましたよ?」


 最初から捨て駒だったんだろうね。移動を断られたら困るから説明を省かれただけ。ここは姥捨山だな。


「第一、山脈なんてモンスターの巣窟だろう。どうやって安全を確保する?」

「避難ルートに使う場所ですし、元から比較的安全な場所で穴を開けるつもりです。脅威は意外と少ないつもりでしたよ。それに、教授たちはモンスターの脅威を防ぐ実験をしにやって来ていますからね。そのご助力を頂けたかと」


 教授の理論が合っていれば、安全を確保できるはずだ。


「実験で安全?失敗したら俺たちはどうなる」

「失敗という一言にどこまでのことを想定するかは分かりませんが、最悪はこの町ごと消えてなくなるかと」


 研究のために冒険者の活動を抑え始める。このせいで町がモンスターから襲撃される確率は上がり、教授たちの活動が成果を出さなければ町が危険にさらされる。最悪の場合は言った通りに町がなくなる。


「……」


 オレたちが危ないじゃないか!と文句を付けようにも、こっちも危ない。もちろん現地での危険と、町にいてモンスターの襲撃を察知することは全然違うのだが、一方的にリスクを負わされるわけではないということは理解できただろう。


「……で、どうするんだ?まさか二人でやれとは言わんだろう?」

「そうですね。後続が来るまでは待機ということになるでしょうか。ただ、そうなると当然賃金は発生しませんから、代わりの仕事を宛がう必要がありますね」


「待て。賃金が発生しない?」

「え?働かなければ給料がもらえるわけないじゃないですか」

「あのボロ部屋で?家具も気味が悪くて批難轟々だぞ」

「見た目は多少悪いかもしれませんが、ボロというほどではないですよ。最近の避難民が使用していたものになります。何もない方が困ると思いましたから、そのままにしてあるだけです。不要なら捨てて頂いて問題ありませんし、既にそうされている方もいますよね?」

「だとしても、買い替えるとなると金がかかる」

「他人の家具の趣味を助ける義理なんてありませんが。何の話をしてます?」


 ホテルじゃないぞ?


「……危険なトンネル工事を強要するつもりか?」

「トンネル工事をすると言って集まったのがあなたたちです。騙されたというのなら、あなたたちの上司が騙したのでしょう。責任転嫁は困ります」

「分かった。オレは失礼する」

「え?」


 本心から疑問の声が出た。去っていく背中を呆然と見つめる。


 何で仕事もらえるのに帰っちゃうの?


「……あ、あなたは大丈夫ですか?」

「まあ」


 ぼんやりとした男性が、何も分かって無さそうな顔で返事をする。


「何か疑問点などは?」

「べつに」

「そうですか。では、仕事なのですが。狩りに行く冒険者の運び屋としてのもので良いでしょうか?」

「分かりました」


 二つ返事なのか……。反冒険者とは?

 

「問題がないようなら、このまま一緒に情報屋の方へ登録しに行きましょうか。事情を伝えますので、通常の登録とは違いますし」

「助かります。分かりやすい仕事で助かります。ありがとうございます」


 おー、体も結構しっかりしてるのに、やけに素直。この手の人間知ってるぞ。肉体労働大好きさんだ。あんまり考えないけど体を動かすのが好きで、下手すれば本気で死ぬまで働き続けるかもしれない人種。趣味と仕事が同じだから歯止めが効かないんだ。


 良いように言いくるめられてここまで来たのだろう。良くも悪くもその言いなり人生から助けようじゃないか。

 言いなりの方が楽だと思うタイプだろうから、無理に助けようとすると逆効果なのが大変なんだよな。まあ、本当に俺の思ってるタイプなのかは分からんが。



 一人分だけの運び屋登録を済ませて、本日は終わり。みんながやる気に満ち溢れていたら近くの岩場で適性を見たり割り振りを考えたりと大変だったから、楽が出来て本当に良かった。


 残りの四十二人はどうなったのか?知らないねぇ。勝手に仕事から逃げた人間をサポートする必要なんて、何もないんだもの。


 もちろん、想定はしてるけど。


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