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18話

 最初に保証金としての避難費、そして移民、というか労働力だけ貰ってさようならをする。どうせ搾りかすみたいな人間しか回されないだろうことを利用する。これが基本方針だ。


 何の根拠もない綺麗な理想論に縋りついている人間たちだ。第二の人生でも口ばっかりで何もしていない、しょうもない人間なのだろう。辛そうな仕事を紹介すれば、きっと働かない。

 働かなければ、そのまま飢える。普通に働こうにも、デクルの蔓延る町では思うように動けない。


 そのまんま、風俗街で働いてくれること請け合いだ。


 もちろん町から逃げ出してもらっても構わない。何も変わらないし、モンスターが蔓延る世界で護衛もなしで一般人が生きて帰れるかは知らない。


 早い話が主に風俗街の人員補充だ。もとから能力に期待なんかしちゃいない。もちろん使えそうな人員なら回収する。


 こうした行為をすればもちろん治安は悪くなるだろうが、元から所詮は風俗街だし暴力に頼れるような強さもないし、町のこっち側には影響ない。

 人権がどうたらこうたらなんて優しいことはないのだから、その生命が尊重されるようなこともない。


 仮にトンネル工事をやってくれるなら、それはそれで助かる。碌に護衛を付ける気もないので、どうせ多くの給与は渡すことがないまま帰らぬ人となるだろう。少ない出費でトンネル工事の懸念点を確認できる。

 もちろん教授の試みが上手く行き安全が確保できて、トンネル工事が順調になっても構わない。


 契約が成立し、実際に人員が町に到着した時点で勝ちみたいなもの。


 反冒険者側としても、余計な人員の処分についてはどうでも良いと考えているだろう。肝心の当人たちを除いた状態でウィンウィンの関係になっているわけだ。目指す場所が明確ではない集団に人生を預けるからこんなことになる。


 さて、後は教授とその周辺がどうなるかだ。



 ◇



「ふざけるな!」


 なんか前にもあったなこんな展開。いっつもこんなものかもしれないけど、もっとまともな客人はこの町長室には来ないのかね。


 反冒険者の移民の一人ということだけど、何の用だか。


「こっちは工事のために呼んだのに、やってくれなくて困ってるんだけど」


 ふざけるなと言うのはこちら側の台詞。


「それはお前の仕事だろう!」

「……?」


 どういうことだってばよ。話が通じない。

 そういう人員だからこそ、この町に来させられたのだろうけど。


 例の数十人の方々は、研究チームの人をなんとか発見し話し合ったらしいが帰らせてはくれなかったらしい。でしょうね。

 研究を始めようとしてるのに構ってられないし、お金だって勿体無い。補助金を出すと言ってたはずだけど、こっちの給与を通しての話は掻き消えてしまったし、どうなったか分からない。


「まあともかく、こっちは知らないので。帰って」

「金を出さない限りは」「帰れ。業務妨害するなら殺す」

「そんな脅し――」


 サクッ


 こういう転生者は人権なんてものを持ってると勘違いしてるから、迷惑なんだよなぁ。


「はーあ」


 使った鉄串を抜き、汚れを拭き取る。


「脅しは通用しないんじゃないのにゃ?」

「俺に聞くなよ。これいる?」


 生ゴミ。


「使っていいのにゃ?」

「森の中ならもういいよ」

「森まで運ぶのめんどいにゃあ」

「俺だってめんどいから聞いてるのに」


 あーだるい。冒険者と違って絶対金にもならんし。


「吊るせば反省するんじゃにゃい?」

「仮にも働いてもらいたいわけだからなぁ」


 それをやれば殺されると思って逃げ出すのがオチだ。そして逃げ出したせいでモンスターにやられて本当に死ぬ。


「そもそもなんでこんにゃゴミが生きてるのにゃ?」


 シマにゴミと言われちゃうか。でもしょうがないよなー。


「お優しい人がいると、ぬる過ぎて転生者が前世の常識を持ち込むことがあるんだよ。多分だけど」

「異世界にゃのに?」

「にゃのに」


 何のために異世界転生してるんだろうね。俺よりよっぽど自発的に来ただろうに。




「そのようなことが……」


 教授たちがやって来たので、本題が始まる前に一応報告した。


「工事をしないのはこの際仕方ないのですが、仕事の邪魔をしてくると対処しないわけにもいきませんので」

「ですが殺すというのは……」


 は?


「あなたが寄越した人員の質が悪かったせいですが。では全員に十分な資金を渡して黙らせてくださいよ」


 この教授も同類だったか。平和ボケしていてムカつくな。研究以外は護衛の振りしたやつの言いなりで齟齬が生じているんだろうが、それならそれで自分の役割だけやってろよ。


「新たに仕事を宛がうなどは……」

「やる気のある人間にはそうしましたよ。残りはあなたが引き取っては?研究に連れて行けば良いじゃないですか」

「それは……」

「邪魔ですよね?私も邪魔です」

「……」

「はぁ、この話はやめましょう」

「そうですね……」

「本題はなんでしたっけ?」

「デクルの主の話をお願いしようかと」

「分かりました。向こうの確認もとってあります。では、明日の正午に所定の場所にお願いします」


 先日対話の席を設けられると伝え、その場所の確認などをお願いした。それらが終わったということだろう。


「サンケタさんは本当に来られないのですか?」

「ええ。何か共謀していると思われては困りますので、好きに話してください。その間はここで仕事をしていますので、見張りを付けて下さっても結構ですよ」

「別に何か共謀されるとは思っていないのですが……」

「それでも、こちらがそう思われたくないのです。ご理解ください」


 渋い顔をする教授。

 約一か月が経ち、デクルの性根は理解してきているのだろう。だが引けない。モンスターとの共存を掲げているのに、既に共生しているモンスター相手に対話もできないのなら話にならないからだ。


 話が終わり、教授が出て行く。護衛は最後にこちらの真意を見定めるように睨みつけ、教授の後を追った。




 仕事を終え家に帰り、飯を作ってお喋りしながら食べる。団らんの時間だ。


「腹黒兎って、どんななんですかね?」


 腹黒兎は話だけが独り歩きしているので、実際に見たことのある人は少なかったりする。


「シルエットが丸みを帯びた三角形に近くて、耳が長い白猫。首元がピンク色で、マフラー付けているように見える。全体的に毛が多いからデフォルメされた感じになってるかな」


 見た目はメルヘンな雰囲気でとてもかわいい。


「それは聞いたことありますけど……」

「近付くなよ」

「いっつもそれ言われるから、未だに見たことないんですけどね」


 危険だから原則接近禁止だ。それ以前に今は俺以外接触禁止なんだけどね。


「腹黒腹黒って言われてるから、そんなに?って思うじゃないですか」

「腹黒かどうかって話なら真っ黒だけど、普通にクソってくらいだよ。そういうのって上限あるしね」


 腹黒かどうかという尺度でどんなに悪くしようにも、全てを殺戮したり拷問大好きなモンスターよりはマシになるもの。人間と同じように最大限騙し、陥れ、利益を得ようとするだけだ。言葉のキャッチボールをする気がなければ騙すもなにもなく、防ぐことも容易だ。


 単に誰からも憎まれる詐欺師ならば、実力行使に出られるのがこの世界。変に法に守られることがないので、真のキチガイは処分されるだけ。


「そのわりに腹黒が強調されてません?」

「騙されても仕方なかったというアピールのためでしょ。それか、よっぽど可愛く思えてたから憎さ倍増みたいな」

「それは分かりますけど、それだけなんですかね……」

「あいつは他のデクルを動かせるから、劇場型というか、いかにもなんだよな。そういう部分かもしれない。何にせよ、最初から殺すぞって思ってればあんまり変わらん」


 ケガや病気、痩せ細ったデクルが出てきたところで、全部殺すつもりなら変わらない。


「でも一応、殺しちゃいけないわけですよね?」

「最初に距離を決めて、そこから少しでも近付いたら殺すぞと殺気を込めるのが会話のスタートだぞ」

「会話……?」

「問題は普通に強いってことだ。ボスだけあって、他のデクルとはわけが違う。幻術の類は使わないが、無かったものが有ったことになる。逆もあるがな。規模はわざとなのか限界があるのか、トラップの範囲内だ。走っている最中に足元が変わったりするから対応が難しい」

「最初から戦ってません?会話してます?」


「……真面目に話すと、会話を始めたらまずこちらの主張を宣言し是非を問う。是以外の言葉が出たら攻撃開始だ」

「真面目に話しても戦うんですね……」

「向こうが条件や対案を言うようなら、向こうも仕掛けてくるという合図だ」

「似た者同士?」


「ガチでしょうもな、話にならんわ。と思ったら何も言わずに帰る」

「思わなかったら?」

「そりゃ戦って負けた方が条件を呑む」


 具体的には罠を含めてまともな攻撃を食らったら俺の負け。その前に攻撃を入れれば俺の勝ち。


「戦闘民族みたいですね。戦績はどうなんですか?」

「全敗だけど」

「思ったより格好悪いですね……。それでこの町は平気なんですか?滅茶苦茶不利な条件呑まされてません?」

「大前提として、本当に不利な話なら無視して帰ってるから」


 戦いが始まるということは、ある程度互いに合意がなされているということでもある。


「結局向こうも悪戯を楽しく続けたいわけだから、俺たちがいなくなるのは困るんだよ。すでにこっちはかなり数を減らしちゃったわけだし。ちょっと過激な罠を数日見逃してとか、道具の供給頼まれるとか、その程度だよ」


 風俗街との間にあるデクルラインはそうして作られた。


「私が以前命の危険を感じた件も、サンケタさんから間接的に殺されかけた疑惑が出て来ましたけど。あれ、もしかして私ってマッチポンプで惚れました?」

「でも俺じゃなくアルマンやアケミさん自身が町長やってたら、もう殺されてると思うよ?」


 付け込めると思うと行けるところまで行く。

 それに、過激な罠で人殺しになるようなら処分はしっかりしている。他の職員の方がよっぽど甘い。


「それはそうかもですが……何か釈然としないというか……」

「全肯定するって言ったのはそっちだぞー」

「ぐ、私のトキメキを返せ!」


 素早くハシッと抱き着く。


「君は俺が守る!」

「あ、ちょっと嬉しい」


 よし、返した。

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