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祖父母をたずねて家出兄弟二人旅  作者: 泉 きよらか
第5章 アグリ国王都ニュシャの光と闇

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年末年始 御礼SS

※ 三章「48. 葡萄の冬支度と年の終わり」、ヴァレーではじめての冬を迎えるルイとリュカのお話です。

 ヴァレーではじめて迎える冬。前世でいう年の瀬だ。

 生まれ故郷で乾燥地帯のソル王国とは違い、ヴァレーの冬はしんしんと雪が降り積もる。

 外出さえままならない冬の楽しみといえば、やっぱり温かくて美味しい食事……なのだけど、ここのところ僕はお腹が空いているのに食べたいと思えない現象に悩まされていた。


(はあ……。三食美味しいごはんをお腹いっぱい食べられるだけ、ものすごく恵まれていることはわかってるんだけど……)


 ほんの少しの夕食を無理やり詰め込んで、重たい胃を僕はこっそりと摩る。


「にぃに、だいどーぶ?」

「ククク?」

「はは……。大丈夫だよ」


 さすさすと、心配そうに僕のお腹を撫でてくれるリュカの頭を撫でる。温かい小さなお手々に、少しだけ胃が軽くなったような気がした。


 今世の主食はパン・パスタ・じゃがいも。あとは時々、そばのガレットやオートミールのポリッジが食卓に上るくらい。

 付け合わせはベーコンやソーセージが多く、味付けはバター・チーズ・生クリーム・ミルクを駆使した、いわゆる「重たい食事」なのだ。

 早い話、僕はそんな食生活の連続に食傷気味だった。


(ああ、白いごはんが食べたいなあ……)


 土鍋で炊いた銀シャリなんて、贅沢は言わない。ただただ、塩むすびが食べたい。梅干しでも良い。

 お出汁がふんわりと香る、卵おじやだったらもっと最高だ。


 今世に生まれて早十四年。

 食事事情には慣れたつもりだったけれど、やっぱり日本食が食べたくなる時がある。

 でも、僕が探した限り日本のお米は見つからなかった。ついでに、醤油も味噌も鰹節も昆布も梅もない。


(ないない尽くしだけど、せめて何か……。あっさりと出汁の効いた、日本食っぽいものが食べたい……!)


 そんな衝動に突き動かされた僕は、リュカと手を繋いで厨房へと向かった。


 ♢


「にぃに、おりょうり? りゅー、おてちゅだい、しゅるっ!」

「ありがとう、リュカ」

「むふふん! ルイさま、それで何を作られるのですか? むふっ」


 僕は久しぶりに愛用のエプロンを身につけ、袖をまくる。

 リュカもお気に入りの黒猫ワッペンエプロンを纏って、ふんすとお手伝いする気満々だ。調理長のグルマンドだって、明日の仕込みをほかの調理人に任せて興味津々である。


「……まだ決まってないんだよね」


 僕がそう言うと、グルマンドが目の端でコントのようにコテッとつまずいたけれど……見なかったことにする。


(う〜ん。何を作ろうかな)


 日本食で米料理以外となると真っ先に思い浮かぶのは、そばやうどんだ。特にそばは年の瀬ということもあって、食べられるなら食べたい。

 問題は、僕がそばの打ち方なんて知らないことだ。


(麺つゆもないし……いやでも年越しそばだと思ったら、白米からそばの口になってきた……)


 じゅるり、とあがってきた唾を飲み込む。

 手間をかけてそばを打たなくても、そば粉に水を混ぜるだけで何か作れないだろうかと思ったところで、僕は「それだ!」と手を打った。


 そうと決まれば、さっそく料理開始だ。


「グルマンド、ブイヨンってあるかな?」

「むふん。それなら、朝に鶏ガラで仕込んだのがありますっ。むふふふ」

「にぃに、りゅーはぁ〜?」


 グルマンドにはスープの準備をお願いして、僕は具材を切っていく。かぶ・にんじん・ポロネギ・玉ねぎ・かぼちゃといった根菜が中心だ。

 さらに、干したポルチーニ茸やモリーユ茸といったきのこもたっぷり入れて、旨みを足す。ぶつ切りの鶏肉からも良い出汁が出るはずだ。

 そして、リュカには簡単だけど、一番大切なお手伝いを任命する。


「では、リュカくん! 混ぜ混ぜできるかな〜?」

「あいっ、できりゅ!」


 右手を勢い良くあげて、良い子のお返事をしたリュカ。あまりにも可愛くて、僕は頬が緩んでしまう。


「ま〜じぇ、ま〜じぇ」


 グルマンドがそば粉に少しずつぬるま湯を加えて、リュカが一生懸命に混ぜる……というよりスプーンで練る。

 リュカは幼いながらにもお手伝いに真剣で、お口をツンと尖らせた。そんなところも、おもしろかわいい。

 しばらく練り続けると粉っぽさがなくなり、見た目は灰色の生クリームのような、スプーンで掬ってトロ〜と流れ落ちるくらいの柔らかさになった。


(生地ってこのくらいで、良いのかな?)


 何せはじめて作るので、加減がわからない。そこで、試しに別の鍋で茹でてみることにした。

 あまりにも歯応えが固すぎると、リュカが喉につかえかねない。柔らかすぎたら、そば粉を足せば良いのだ。

 ぐらぐらに茹った鍋に、スプーンでポトッと生地を落とす。しばらく煮て、ぷかぷかと浮いてきたら引き揚げた。


「あつっ! ん〜。そばの味が濃くて、柔らかさもちょうど良い感じ」

「もっちゃ、もっちゃ」

「むっふ〜! 不思議な食感ですが、香ばしい香りがたまらないですっ! むふふん」


 味見で一口ずつ食べてみると、想像以上に美味しい。スープで煮込むのが楽しみな味だ。

 リュカもはじめて食べる食感に、不思議そうな顔でもぐもぐしている。


 生地をすべて茹でて、じっくりコトコト野菜などを煮ていたスープに加え、塩で味を整える。あとは、少し煮込んだら完成だ!


(え〜と、そばのすいとん……じゃなくて、団子でもなくて……)


「……そばのニョッキスープ、完成〜!」

「かんしぇ〜!」

「むっふー! なんとも美味しそうですっ!」


――ぐうううぅぅぅ〜〜〜


 その時。白い湯気と美味しそうな匂いに、僕とリュカとグルマンドの腹の虫が鳴り響いた。


 ♢


 スープマグに具沢山のスープをたっぷり注ぎ、そばのニョッキもしっかりのせる。

 厨房の端っこに置かれたテーブルに三人揃って座り、手を合わせた。


「「「いただきます(いたっきま〜しゅっ)」」」


 夕食の後だけど、今夜は特別だ。

 僕はまずスープをズズッと啜る。じっくり味わって飲み込むと、思わず「はあ〜」とため息が漏れた。

 鶏ガラ・野菜・きのこから出た旨みスープはどこまでも滋味深く、僕の荒れた胃に優しく染み込んでいく。


 それに、そばのニョッキのおかげで少しとろみのついたスープは、とても体が温まった。

 具材の根菜は、よく煮込まれて崩れる寸前。舌で潰せるほど柔らかく甘く、そばのニョッキはむちむち・もちもちで食べ応えがある。

 麺のそばとは違うけれど、これはこれですごく美味しい。


「ああ〜。最高……!」

「むふ〜。寒い冬のお夜食に、なんてぴったりなスープでしょう。わたくし、感激いたしましたっ! むふんっ」

「ふう、ふう。ん〜〜〜。にぃに、おいちぃ〜!」


 リュカは送風(ウィンド)で適度に冷ましたスープをもりもりと頬張って、にっこり笑う。


「りゅー、にぃにのごあん、だいしゅきっ!」


 ヴァレーで暮らしはじめて、日々の料理はプロの調理人が作ってくれるようになった。そのおかげで、リュカは日々舌が肥えつつある。

 それでも、こうして僕の作ったごはんを美味しいと言ってくれる弟が、僕は愛おしい。


「また、作ってあげるからね」

「やっちゃ〜!」


 来年も、その次の年も。リュカが望む限りずっと。

 もう帰ることはできない、懐かしい日本の味を味わいながら、僕たちはゆく年に別れを告げ、くる年を迎えようとしていた。

年越しそば(亜種)を作って食べよう!というエピソードでした。


2024年は「祖父母をたずねて家出兄弟二人旅」を応援していただき、本当にありがとうございました!

おかげさまで、今年は第一巻を出版することができて、幸せいっぱいの一年でした。

そして、来年の春には第二巻が発売予定です!さらに良い一年になりそうな予感がひしひしとしています。もっと楽しんでもらえるように頑張りますので、ぜひ楽しみにしていてください!

2025年も、引き続き応援いただけますと嬉しいです。皆さまにとっても、2025年が良い年となりますように。

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