115. 救児院 3
書籍②巻、【4月19日(土)】に発売決定です。コミカライズ企画も進行しています。
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僕が収納から取り出したのは、ハーフカットのチーズ・葡萄・ゆで卵・ゆでじゃがいも・蒸し芋・ヤギ乳だ。
どれもそのまま食べられるうえ、お腹にたまる。しかも、美味しくて栄養もばっちり。ストックしておいて損はない食材ばかりだ。
(思っていた以上に、溜め込んでたんだな僕……)
育ち盛りのリュカに、いかにお腹いっぱい食べさせてあげるか。甘いおやつは心の栄養になるけれど、それだけではなくちゃんと体の栄養になるものも。
調理人たちがリュカを甘やかすから、僕の収納は見事に食事系のおやつに偏っていた。
「おいちちょ……」
「まんま!」
「じゅるり」
救児院の子どもたちが集まってくる。指を咥え、視線はテーブルの上のおやつに釘付けだ。
「もう少し待っててね。食べやすいように切るから」
赤ちゃんをおぶった僕とグルマンド、それにユヴィさんまで手伝ってくれて、食材を子どもの一口サイズに切っていく。
特に、ワイン用の葡萄は前世の生食用葡萄に比べると、粒が大きく皮も厚い。なので、種を取って六分の一程度に。小さな子ばかりだから、喉に詰まらないよう注意が必要だ。
さらに、ゆでじゃがいもと蒸し芋はフォークで粗くマッシュして、水で伸ばす。これは年少の子たち用だ。
「まあ、お二人ともなんてお上手なのかしら」
「むふふん。わたくし、調理人ですから!」
「僕も少し前まで、自炊していたので」
グルマンドは本職なだけあって、神がかった包丁さばきだ。でも、僕だってなかなか負けていない。
反対に、ユヴィさんは良く言えばゆっくり丁寧、悪く言えばおっかなびっくりで危なっかしかった。
傷一つない白魚のような手を切ってしまいそうで、僕は口を挟む。
「えっと、ユヴィさん。包丁はそんなにぎゅっと握らずに、親指と人差し指は包丁の付け根に添えるくらいで。左手はこんな風に指先を曲げて、猫の手に。……そうです!」
「……わたくしでも、綺麗にお野菜が切れましたわ!」
「はじめてにしては上出来ですよ」
ガーゼマスクの包帯で表情はわからないけれど、声色でユヴィさんが喜んでいるのがわかる。
先ほどまでの近寄り難い高貴な雰囲気とは打って変わり、小さな子どものような無邪気さに僕は笑みが溢れた。
そうして、食材を切り分けてお皿に盛ったら、お待ちかねのおやつの時間だ。
「おててをあわせて、いただきます!」
「「「いただきます(いたまっしゅ)」」」
リュカの元気な掛け声に合わせて、大人も子ども揃ってみんなで食べはじめる。
「わたくしまでいただいてしまって、本当によろしいのでしょうか?」
「むふふふ。食事もおやつも、みんなで食べると一層美味しいと決まっているのですっ」
「オレは遠慮なくいただくっす!」
ユヴィさんもはじめは遠慮がちだったけれど、ナイフとフォークで優雅に口へと運ぶ。
僕もひょいと手でチーズをつまみつつ、赤ちゃんに粉ミルクを飲ませた。
救児院で当たり前のように粉ミルクが使われているということは、きっとソル王国からアグリ国への販路が、太くなるか広がるかしたのだろう。
僕がリュカのために開発した粉ミルクが、国を越え時を超え、たくさんの赤ちゃんや親たちの助けになっている。そう思うと、なんだか面映い気分だ。
「んっく、んっく、んっく」
「良い飲みっぷりだね〜」
ちゅっちゅっと動く口や、小さな手足。懐かしい赤ちゃんのミルクの匂いに、僕は目をすがめる。
こんなにかわいい赤ちゃんや子どもたちが、救児院にいる。それがこの世界の現実だとしても、どうしようもなく切なかった。
(僕に何かできることはあるかな)
ふと顔を上げると、子どもたちも旺盛な食欲を見せている。手づかみで一生懸命食べて、みんなほっぺがリスみたいだ。
「おいっち!」
「あぐあぐあぐ」
「おにいたん、こりぇ、にゃ〜に?」
「ぶどうだよ。ゔぁれーのぶどう、すっごく、おいしいの!」
えっへんと我がことのように胸を張り、リュカが答える。
リュカはすっかり兄貴風を吹かせて、小さな子どもたちのお世話を焼いていた。
と言っても、リュカもまだ五歳だから、テーブルにこぼしたおやつのかけらをお皿に戻してあげるとか、お口を拭ってあげるくらいだ。
(っ……尊い……!)
たったそれだけでも、リュカの成長を感じられて、僕は鼻を抑える。こうやって、リュカは少しずつ僕の手を離れていくのだろう。
寂しいけれど、嬉しい。いや、でもやっぱり寂しい。
そうして、すっかり食べ終わり、片付けも終わったあと。
「あの、ユヴィさん、これ……」
「まあ……。ありがとうございます」
僕は日持ちする食材や、いくばくかのお金を布に包んでユヴィさんに手渡す。
その様子を見ていたリュカが、僕の裾を引っ張って言った。
「あのねー、にいに。おはだ、かいかいのおくすりも!」




