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祖父母をたずねて家出兄弟二人旅  作者: 泉 きよらか
第5章 アグリ国王都ニュシャの光と闇

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書籍第1巻 発売記念SS② 芸術は爆発だ!リュカ画伯(ルイ十四歳、誕生月祝いの舞台裏)

\書籍第1巻、好評発売中です/

大変ありがたいことに、各電子書店さまのランキングにランクインすることができました。

これも、ひとえに読者さまの応援のおかげです(土下座)ありがとうございます。

 セージビルの宿に長逗留中のある日のこと。俺はニヤッと笑って、話を切り出した。


「さて、ルイ坊ちゃんの居ぬ間に、作戦会議といきやしょうか」

「うぃーっす」

「? あい!」


 差し向かいのベッドに座るチボーは飄々(ひょうひょう)と、俺の膝にちょこんと座るリュカ坊ちゃんは無邪気に返事をする。リュカ坊ちゃんにはすまないが、このために少しだけ早く教会にお迎えにあがって、帰ってきたばかりだ。


 何も知らないルイ坊ちゃんは、今頃、教会図書館で勉強に励んでいることだろう。ブノワには、その護衛を任せてある。秘密の計画を企むには、絶好の機会だ。


「題して、『ルイ坊ちゃんの誕生月を祝おう会』」

「……団長」

「なんだ、チボー。なんか文句でもあんのか」

「いえ! なんでもないっす!」


 俺がギロッと睨むと、チボーは慌てて口を閉じた。チボーは斥候としての腕は悪くないのに、お調子者で態度も口も軽いのが玉に瑕だ。


「にぃに、おたんどー?」

「へい。年に一度、生まれ月にうまいもんを食ったり、プレゼントを渡したりして、『おめでとう』を伝えるんでさあ」

「りゅー、おめっとう、しゅる!」

「おお。そりゃあ、なによりですぜ。ルイ坊ちゃんが喜びやす」


 俺は鳥の巣のようなリュカ坊ちゃんの頭を撫でた。リュカ坊ちゃんの髪は細く柔らかく、ついわしゃわしゃと掻き回したくなる。


「オレ、団長の指示通り、聞き込み頑張ったっす! 治安の良い場所に店を構える、うまい食堂の目星はいくつかつけてあるっすよ!」

「おう。プレゼントは?」

「へへっ。市場でとびきりの品を見つけたんで、そっちもばっちりっすよ!」


 チボーは得意気に鼻をこすって答えた。


 護衛任務は、護衛対象に付き従って各地を渡り歩くことがある。必ずしもその土地に詳しい訳ではないとなれば、情報収集は必須だ。俺がかつて傭兵だった頃は、情報を知っていると知らないとでは、命運を分けることさえあった。


 で、どう情報収集するのかといえば、市場や酒場で聞くのが一番手っとり早い。ほかにもまあ方法は色々とあるが……平和なこの国では必要のないものだろう。


 俺はヴァレーで生まれ育ったチボーを(しご)く……もとい経験を積ませるため、危険の少ないこの長期任務の間、あれこれとチボーに用を言いつけていた。その甲斐あって、この様子であればチボーにふつうの護衛任務なら任せられそうだと、内心頷く。


「ブノワのおっさんも、プレゼントを用意できたらしいっす。団長もっすよね?」

「ああ」

「ってことは、あとは……」

「う?」


 俺とチボーの視線が、リュカ坊ちゃんに集まる。リュカ坊ちゃんは大の大人二人に見つめられて、きょとんとした表情だ。


「リュカ坊ちゃんだけっすけど、三歳ってどうしたらいいんすかね?」

「そりゃあ、歌とか花とかだろ」

「団長って、三歳の子どもでも歌える歌、知ってるんすか? ちなみにオレは知らないっす!」

「……」

「花だって、まだ寒い時期っすから、市場でもほとんど見かけなかったっすよ?」

「ちっ……。どうすりゃいいんだっ」


 俺もチボーも、ついでにブノワも、寂しい独り身だ。正確に言えば、俺は「いまは」だが。

 まあ、だからと言って三歳児らしいプレゼントをすぐに思いつく訳もなく、チボーと二人揃って頭を抱えた。


 ここまで準備をしておいて、リュカ坊ちゃんは「なし」では意味がない。あの大人よりも大人びたルイ坊ちゃんが心底喜ぶのは、溺愛している(リュカ坊ちゃん)からのプレゼントだ。

 たとえどんなものであってもルイ坊ちゃんは喜ぶとわかっているが、どうせならあっと驚く顔が見てみたい。


「う〜ん。う〜ん。兄貴は昔、手伝いをプレゼント代わりにしてたっす。弟はたしか……木の板に炭で絵を描いて、母ちゃんにあげてたような……。そういえば、リュカ坊ちゃんも、たま〜にお絵描きしてるっすよね?」

「それだ!」


 俺はチボーのその一言に、すぐさま飛びついた。


 ♢


「にゅりにゅり〜♪ にゅりにゅり〜♪」


 宿の部屋に、少し調子外れなリュカ坊ちゃんの鼻歌が響く。ベッドにうつ伏せに寝転がり、リュカ坊ちゃんは愛用の道具でお描きをしていた。

 紙がヨレないように、下に板を敷いているが、その板にまで大きくはみ出して描いている。……あれは、本当にルイ坊ちゃんなのだろうか。俺には、糸が絡まりまくった毛糸玉にしか見えない。

 いや、先ほど描いていたのは単なる棒や火が爆ぜるような絵だったから、それに比べればまだマシか?


「リュカ坊ちゃん、上手っすよ! ある意味、巨匠っすね!」

「えへへ〜」


 チボーが適当にリュカ坊ちゃんを(おだ)てながら、頃合いを見てさっと新しい紙に取り替える。脇に完成? した絵が、すでに数枚ほど折り重なっていた。


「にぃに、けっけ、しゃらしゃら〜」


 そう言いながら、リュカ坊ちゃんはまた焦茶の絵具を、右に左にジグザグと走らせる。……さらさら?


「「……」」


 俺には芸術なんざまったくわからないが、リュカ坊ちゃんの感覚がどこかおかしいことはわかる。


「なあ、チボー。子どもっつうのは、こんなもんなのか?」

「オレに聞かれても困るっす……。でも、リュカ坊ちゃんはまだ三歳っすからね。子どもらしい子どもっすよ。たぶん」


 こそこそと俺とチボーが言っている間に、リュカ坊ちゃんは青の絵具を手に取って、ぐるぐると渦を描いた。


「めんめえ、あお〜。りゅーと、おしょりょい!」


 確かに、ルイ坊ちゃんとリュカ坊ちゃんは揃って青い瞳だ。ほかの色や顔立ちはあまり似ていないのに、瞳の色を見れば一発で兄弟だとわかる。


「ふんふん〜♪ にぃに、にこにこ〜」


 リュカ坊ちゃんは次に、赤い絵具で口を描きはじめた。

 弧は難しいのか、絵具を握る手がぷるぷるしている。途中、蝋で固めた絵具がポキっと音を立てて欠けたが、リュカ坊ちゃんは気にした様子もない。


「ふう〜。できちゃ〜!」


 リュカ坊ちゃんはふんすと自信たっぷりに、俺とチボーに向かって絵を差し出した。褒められることをまったく疑っていない素直な瞳が、眩しい。


「お、おおお。リュカ坊ちゃん、さすがでさあ! よっ、ヴァレーイチ!」

「いや〜、この色合い。まさにルイ坊ちゃんそっくりっす!」

「やっちゃあ〜!」


 リュカ坊ちゃんが、ふくふくの頬を真っ赤に染めて喜んだ。


「にぃに、まだ〜? どっじょー、しゅる!」


 もう今すぐ絵を渡す気満々のリュカ坊ちゃんが、ルイ坊ちゃんの不在に気づく。しまった! と俺とチボーは顔をしかめた。


「リュカ坊ちゃん、『どうぞ』はもう少し待ってくだせえ」

「え〜〜〜」


 リュカ坊ちゃんはぷうと頬を膨らませた。この顔は、最近にも見た。

 セージビルに着いた当初、リュカ坊ちゃんが「にぃに、いにゃい!」と大泣きしたことは、まだ記憶に新しい。あんなことは二度とごめんだ。

 俺は絵をさっと収納(ストレージ)に仕舞うと、不貞腐れるリュカ坊ちゃんの脇を持ち上げて、高く抱きあげる。これで誤魔化されてくれると良いが。


「ほ〜ら、リュカ坊ちゃん。上手に描けたご褒美でさあ。高い高い〜」

「きゃあ〜!」


 何度か上下すると、リュカ坊ちゃんはコロッと機嫌を直し、手足を大きく広げて喜びはじめる。その様子に、俺は目を細めた。

 戦いに明け暮れていた俺は、自分の息子にだってこんなことをしたのは、片手で数えるほどしかない。いま思えば、なぜもっとあの頃、息子に構ってやらなかったのかと後悔ばかりが募った。


「たのち〜。もっと〜〜〜!」


 リュカ坊ちゃんが生まれる前に、マルク様……二人の父親は亡くなったと聞いている。

 父親を知らないリュカ坊ちゃんを、不憫だと思う。ルイ坊ちゃんだって、その時まだ十歳の子どもだったのだ。そんな歳で、幼い弟を育てるのはさぞ大変だっただろう。だが、苦労を見せない姿は、いじらしくもある。


 だから、だろうか。


 父親代わりに……なんてご大層なものではない。けれど、いずれ主となるであろうこの兄弟のために、俺はできる限り心を砕いてやりたいと思うのだ。

■ 雑談

・現在、ピッコマで18話分(Amazonのサンプルより少し先まで)が試し読みできます。12/27(金)23:59までです!「書籍版、購入しようか迷っている」という方におすすめですよ。https://piccoma.com/web/product/175619?etype=episode

・今回のSSは、書籍版では蛇足になると削った箇所です。書籍版ではP.253、WEB版では「26.春の雪解け」の舞台裏です。三歳のリュカがプレゼントの準備を自発的にできようもないので、お膳立てをした人たちがいたよ、というエピソードです。

・書籍第1巻の感想は、↓の活動報告に記載いただけると助かります!WEB版からかなり加筆修正しているため、ネタバレと感想欄に散らばってしまうのを回避したく。ご協力いただけますと幸いです。

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3377147/

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