書籍第1巻 発売記念SS① 野鳥の餌箱(とある冬の過ごし方)
\本日、12月14日は書籍第1巻の発売日です/
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また、第二巻も春頃に刊行を予定しております。これもひとえに読者さまの温かい応援のおかげです!
本当にありがとうございます!!
ぼくたちが住むソル王国にも、冬の足音が聞こえはじめた。
特に朝晩は手足がかじかむほど冷え込み、空模様もくすんで冴えない日々が続く。王都全体が、まるでモノクロに染まってしまったかのようだ。
「にっに、はぁ〜〜〜」
「息が真っ白だね、リュカ」
「まっちろ!」
着膨れしてまん丸のリュカが、何度も白い息を「はあ〜〜〜」と吐き出しては、きゃっきゃと笑う。もうすぐ三歳はそんな些細なことでも楽しめるほど、無邪気でかわいいものだ。
幸い、ソル王国は寒くはなるものの、乾燥がひどい地域のせいかあまり雪は降らない。
だから、ぼくはなるべく毎日リュカと一緒に、近所を散歩するようにしていた。
どうしても冬は部屋で過ごすことが多くなる。運動不足になりやすいし、気も塞ぎこみやすい。ほんの十五分〜二十分外を散歩するだけでも、だいぶ心持ちが違うのだ。
何より、遊びたい盛りのリュカの体力を少しでも削らないと、夜ぐっすり眠ってくれなくて困ることになる。
「リュカ、あの角までにいにとヨーイ、ドン! しよっか」
「あぃっ!」
「じゃあ、行くよ。……ヨーイ、ドン!」
ヨーイ、でフライングしたリュカを追って、すぐ後ろをぼくも走る。かけっこではなく、追いかけっこになっているけれど、リュカが楽しければ良いのだ。
(子どもは風の子、だっけ? 元気だなあ)
よちよちと一生懸命に走る、もとい歩くリュカは寒さもなんのその。ほっぺをりんごのように真っ赤にして、きゃあと甲高い声で叫ぶ。
リュカはゴールの角まで辿りつくと、短い親指をグッと立てて言った。
「りゅっ、いちっ! いちっ!」
「そうだね〜。リュカが一番だね」
得意気に「ぼく、一番」とアピールするところも、まだ人差し指を立てられない幼なさも、かわいすぎて困る。
と、その時。リュカが上を見上げて、何かを指差した。
「にっに!」
「ん?」
リュカの目線を追ってぼくも空を見上げると、ついーとド派手なオレンジの小鳥が空を横切った。モノクロの世界の中では、かなり目を惹く色合いだ。
小鳥はしばらく通り沿いの窓枠から窓枠へと飛び移り、やっととある窓辺に落ち着くと、綺麗な鳴き声で囀りながら何かを啄んだ。
(あれは、餌箱かな?)
「にっに、ありぇ〜?」
「リュカ、あれは小鳥さんだよ」
「こちょりしゃん!」
ぱあっと顔を輝かせて、リュカが小鳥を仰ぎ見る。あまりにも仰け反るので、後ろに倒れてしまいそうだ。そうなる前に、ぼくはリュカを抱き上げた。
ぐるっと周囲を見渡すと、窓辺に野鳥の餌箱を置いている部屋をぽつぽつと見つける。巣箱のようなもの、お皿を紐で吊り下げるタイプのものと、様々だ。
この王都では餌が少なくなる冬の間、あえて野鳥を餌付けする人が結構いる。一種、アニマルセラピーならぬバードセラピーといったところだろうか。冬の間、かわいい野鳥を愛でて、鬱々とする心を慰めるのだ。
(ぼくは野鳥を餌付けしたいと思ったことは一度もないけど……)
糞や羽などの後片付けが大変そうという感想しかないけれど、こんなにリュカが喜ぶならこの冬はうちでもお試しでやってみても良いかもしれない。
そう考えたぼくは、さっそく野鳥の餌箱を置いてみることにしたのだ。
♢
散歩から戻ったぼくは、リュカと子ども部屋で寛ぎながら腕を組んだ。
(とりあえず、餌箱って言っても、もう使わないお皿に水と餌を入れるだけで良いかな?)
わざわざ買うほどではないし、ましてや日曜大工さながらに自作する気は毛頭ない。金槌で自分の指を打ちつけるのが目に見えている。
(そういえば、確か納戸に薪にする予定の木皿をしまっておいたはず……)
ぼくは納戸を探してみると、案の定、ボロボロに色褪せた平鉢状の木皿が何枚かあった。それを二枚ほど持って、子ども部屋に戻る。
「水生成」
「にっに、なぁ〜に?」
「小鳥さんにお水とごはんをどうぞ、するんだよ」
「どっじょ!」
「あははは。少し気が早いかな?」
皿の片方には水を、もう片方には餌を入れる。餌として収納からずいぶん前の残り物のパンを取り出すと、カチコチに乾いていた。仕方がないので、ナイフで削って小さく砕く。これだけでも思わぬ重労働だ。
(……穀物とか木の実にしておけば良かった)
それでもなんとか準備ができたので、ベッド脇にあるバルコニーの外に置いてみる。温かい部屋にぴゅうと寒い風が吹き込んで、鳥肌が立った。ぼくは急いで戸を閉める。
「こちょりしゃん、ごあんよー!」
リュカは餌箱の様子が気になるのか、椅子の上につま先立ちして、ずっと窓の外を眺めている。一生懸命、小さな踵をひょこひょこと上下させているのが、大変かわいい。
「そんなにずっと見てたら、小鳥さん、恥ずかしくて来てくれないかもしれないよ?」
「こちょりしゃん、くりゅの!」
ぼくが注意をしても、リュカは自信たっぷりに飽きることなく外を見続ける。
(野鳥って確か臆病な性格で、人目があると餌を食べないって聞いたことがあるような?)
徐々に餌付けをして人慣れしているのならまだしも、最初からこうもガン見状態では、野鳥は来てくれないかもしれない。
そんなぼくの予想を裏切って、十数分もすればバルコニーに置いた餌箱は満員御礼の盛況ぶりだった。
「えええ! なんでこんなに……?」
「こちょりしゃん、きちゃ〜!」
チュンチュン、ピーピー、チチチチ。色んな種類の鳥の声が響く。
ひらっと一羽が舞い降りてきたなと思ったら、もう一羽、また一羽と、あっという間にこんなに集まったのだ。
スズメ、コマドリくらいはかろうじてぼくも判別がつくけれど、それ以外は全くわからない。子どもの手のひらサイズの小鳥たちが、額を突き合わせながら水を飲んだり、パンくずをつついていた。手すりにも、順番待ちの小鳥が数羽、止まっている。
いくら戸で遮られているとはいえ、目と鼻の距離でぼくとリュカがじっと見ていても、気にするそぶりさえ見せない。警戒心がなさすぎる。
「ちゅんちゅん、ちゅちゅん」
リュカは嬉しさのあまり、両手をパタパタさせて小鳥になりきっているみたいだ。つんと突き出したお尻がかわいすぎて、ぼくは笑みを堪えきれない。
「こちょりしゃん、かあい〜ね〜」
正直なところ、ぼくとしては小鳥よりも、小鳥にうっとりしているリュカを見ている方が断然楽しい。おもちみたいなほっぺに手をあてて、瞳を輝かせているリュカに、餌箱を置いたのは正解だったなと思う。
「ほら、リュカ。小鳥さん、美味しそうにごはんを食べてるねえ。パンがもうなくなりそうだよ」
「こちょりしゃん。おいちっ、うれちっ」
「そうだね〜」
食べ終わった小鳥たちはつぶらな瞳でぼくたちをコテッと見るなり、自慢の美声を聴かせてくれる。餌のお礼のつもりなのだろうか。独唱だったり、時には合唱だったりと、まるで豊かな森の中にいる気分だ。
「ぴいぴい、ぴよぴよ」
リュカも一緒になって歌うものだから、鼻血が出そうなほどかわいい。舌足らずで、ちょっと音程が怪しいところもツボだ。もうぼくは一生兄ばかで構わない。
「ぉうちゃ、じょ〜じゅ! しゅっご〜い!」
小鳥たちの歌が止むと、大興奮のリュカは小さなお手々をぱちぱちと拍手をする。
ミニリサイタルを披露してくれた小鳥たちは首をヒョコッと動かすと、長居することなく飛び去っていった。
残されたのは、空っぽのお皿が二枚とぼくたち兄弟だけ。つい先程まで鳥の囀りであんなに賑やかだったのに、またしんとした静けさが戻ってきた。
「にっに、もっちょ、あしょぶっ!」
「小鳥さんとは、また明日遊ぼうね」
もっと小鳥さんに餌をあげたい! と上目遣いでおねだりするリュカを、ぼくは宥める。楽しみは、際限があるからこそ楽しいのだ。
――こうして野鳥……というより小鳥の餌付けは、ぼくたち兄弟がヴァレーへ出発するまでの間、ささやかな冬の楽しみとなったのだ。
■ 雑談
・今回の記念SSは、惜しくも第1巻特典SSでは選外となったネタを書かせていただきました。実はリュカのテイマーな素養はもっと早い段階で見え隠れしていた?というエピソードです。ルイもリュカも、1巻相当の年齢となっています。
・この時期なので本来はクリスマスとか年越しとかを書いた方が良いとは思うのですが、それは電子版特典SS「祝祭の夜の夢」で書いております。もし気になる方がいましたら、合わせてチェックしていただけると嬉しいです。
・第1巻刊行記念として、ちょこちょこ合間にSSを挟めたら挟みたいなと思います。リクエスト、大募集中です!
・書籍第1巻の感想は、↓の活動報告に記載いただけると助かります!WEB版からかなり加筆修正しているため、ネタバレと感想欄に散らばってしまうのを回避したく。ご協力いただけますと幸いです。
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