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祖父母をたずねて家出兄弟二人旅  作者: 泉 きよらか
第5章 アグリ国王都ニュシャの光と闇

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番外編 地獄への道連れ 〜 ベルナール視点 〜

■ ご注意

このエピソードには、女性蔑視べっしや危険な薬品に関する表現が含まれています。これらを肯定・助長する意図は一切ございません。

あくまでフィクションとしての描写であり、読者の皆様のご理解をお願いいたします。

 莫大な財を築いた曽祖父と、その財を浪費した愚鈍な祖父。はっ、よくある話だ。

 父の代に至っては、我がモンフォール家は『斜陽の一族』と、人の口の端にのぼるほどだった。

 それは生粋の貴族として生まれ育った父の矜持(きょうじ)を、大きく傷つけたらしい。どんな手を使っても、かつての栄華を取り戻してみせると誓わせるほどに。


 そんな父が目をつけたのが、『呪術』と呼ばれる土着の儀式が根付く、所領内の小さな村だった。

 起死回生の一手を求めていた父は、人と神を近づけるという(いわ)れのその儀式に(すが)り……見事に賭けに勝ったのだ。


 干からびた小さなきのこを(いぶ)した煙と、口にした欠片から(もたら)されるあの恍惚感に、父は『天啓だ』と悟ったという。神はモンフォールを見捨てていなかった、と。

 そして、その時から、モンフォール家主導によるきのこ栽培が始まったのだ。



 当初は、呪術師をはじめとする村人たちの反対にあったらしい。

 だが、時には力や恐怖で捻じ伏せ、時には金や女で懐柔し、いまでは良く働く立派な木偶の坊と化している。


 その甲斐あって年々増していく生産量にあわせ、販路を見出したのは私たち兄弟だった。

 幼き頃より体を慣らした私たちだからこそ、あれを金の卵に変えるのは権力と信仰だと身をもって理解していた。


 兄は貴族家の後継として、弟である私は聖職者として、蜘蛛の巣を広げるかのように手を広げていく。

 人から人の手へと渡るなかで、あのきのこが魔の薬『(けぶ)るモルガナ』の原材料たりえるとわかってからは、闇商の人間がこぞって求めるようになっていった。


 しかし、順調に思われた計画は、気がつかぬうちに狂いはじめる。

 司祭として足場を固めた私は信者を増やし、果ては枢機卿かと呼び声が立つまでになった頃。

 我が忠実なる(しもべ)が、また一人哀れな女を教会に連れてきたのだ。


「うふふふっ。ベルナールさま〜。ローラ、お役に立ったでしょ? ご褒美をくださいな」

「下僕の分際で、気安く私に触れるな」

「やだ〜。そんな冷たいところもす・て・き」


 (かしま)しい女だが、忌々しいことに役に立つ。そうでなければ、特別に手元になぞ置かない。

 現にこやつの誘いにのった女が両の手以上、我が(しもべ)に下っていた。そのスキルも、いざというときの切り札になる。


「そうだ〜。サラの息子って〜、頭の出来がと〜っても良いんですって! まだ十三歳なのに商売の才能もあるんだ〜って、ローラ、サラに自慢されちゃった!」

「サラ……? ああ、お前が今日連れてきた女か」

「ベルナールさま、手近に使える男がいないって、言ってたでしょ? ちょ〜っとお子さまだけど、手下を育てるにはぴったりかなって!」

「ふむ……」


 きのこの香で女の心を暴き、増幅させた我がスキルで洗脳マインド・コントロールする。女には覿面(てきめん)に効くこのスキルも、なぜか男には全くと言って良いほど効かなかった。

 信徒や金を集う分には、女でも問題はない。だが、依然として女人禁制の教会内部に息のかかった配下を忍ばせるには、使い勝手が悪かった。


 それに、着々と力を付けつつあるモンフォールは、いずれは闇商にも食い込む心算(こころづもり)でいる。

 そうとなれば、いま必要なのは裏切る心配のない、己の頭で考える操り人形だ。子どもならば日常的にきのこを食わせ、体と心に言い聞かせれば、簡単に染められる。

 むしろ都合が良いと、私は舌舐めずりが止まらなかった。


「ふっ……。使い物にならなければ、壊せば良い話か」

「じゃあ……!」

「下僕なら当たり前の働きをしただけで、図に乗るな」

「きゃあ!」


 再度手を伸ばしてきた女の頬を張り、私はとぐろを巻くように思考する。狩りの醍醐味は、策と罠を張り巡らせるこの時間にこそあった。



 その少年の第一印象は、『利発』だった。こういう目に隠しきれない力がある人間は、放っておいても大成する。

 だが、母と幼い弟という明確な弱みを私に握られてしまったことが、運の尽きだった。

 このまま、ゆっくりじっくりと締め付ければ、自らその身を差し出してくるだろう。その時は、丸呑みにしてやればいい。


 ……そう鎌首をもたげているうちに、するりと獲物に逃げられてしまった。


「卑しい下民の分際で……!」


 女もその息子たちの行方も、(よう)として知れない。これは、有力者か権力者が手引きしている可能性がある。

 深追いはせず、引き際が肝要なことはわかっていた。


 しばらく、警戒とは裏腹に、平穏な日々が続く。

 手引きした者が何かを仕掛けてくる可能性を疑ったが、取り越し苦労だったか。そう警戒を緩めた矢先に、事件は起こった。

 ちょうど秋の収穫を終え、天日に干したきのこを砕く作業が行われていたその日、突如として村に騎士団が現れたのだ。


「ソル王国国王の名にかけて、モンフォール家並びにその協力者を一人残らず捕らえよ! 歯向かうものに情け容赦はいらん!」


 そう叫ぶ声が耳に届いた瞬間、私とローラは林の陰に咄嗟に身を隠して、息を潜めた。

 激しい剣戟(けんげき)の音がする。飛び交う怒号に、父と兄は見つかってしまったことを知った。


「ベルナールさま、隠形を」

「ああ」


 モンフォールはこの時期、質を確かめに極秘で村に集まることになっていた。まるで、それを知っていたかのように……いや、知っていたからこそか。

 ぎりりと噛み締めた唇から、錆びた鉄の味がする。


 密偵が潜り込んでいた。そうとしか考えられない。とすれば、近年密かに買っていたアグリ国からの流民を装った誰かだろう。

 命を縮める粉砕作業は、この地を守る数少ない村人とは縁もゆかりもない者に。そんな村長の言葉など、無視するべきだったのだ。


「蔵に火をつけろ!」

「いかん! そうはさせるか! 魔法隊、水を!」


 もしもの時は、保管蔵に火を放つ手筈になっていた。証拠の隠滅と、耐性のない敵を葬り去るために。

 火の手が上がった混乱に乗じて、私たちは道なき道を歩き林の奥へと向かう。ローラの隠形スキルで少しの間姿は隠せても、音や足跡までは消せない。ここで跡を追われるわけにはいかなかった。


 倒木・岩・川、それと知るものでなければ気づかない目印を辿り、小屋に辿り着く。この小屋には、いざというときの馬や物資を隠していた。

 すでに、あの村から私が逃げたことは、気づかれているはずだ。とすれば、どこに逃げる。国内は無理だろう。隣国か、いっそ海を渡るか。


「復讐、するカ?」

「「!」」

 第三の男の声に鼓動が跳ね、バッと後ろを振り向く。

 こんなに接近されるまで、気がつかなかったとは。いざとなればローラを盾にして反撃に転じようと、私は短剣を逆手に構えた。


「ワタシ、敵じゃないヨ」


 男は布を巻いて、顔を隠している。だが、その独特の発音から、周辺国の民ですらないことが(うかが)えた。


「貴様、何者だ」

「ただの、雇われヨ。主にいわれて、モンフォールに、会いに来ただけネ。一足ちがいで、なくなっちゃったケド」

「……復讐とは、どういうことだ」


 男はひょいっと肩をすくめて、あっけらかんと答えた。


「おにいサン、アグリ国の名士の孫に、ちょっかい出したネ。だから、モンフォール、なくなっちゃったヨ」

「なに? そんなこと……いや……待てよ。孫ということは、あの少年か……!」


 かっと頭に血がのぼる。腹の底からドロドロと迫り上がるような、哄笑(こうしょう)が漏れた。


「はっ……。く、くくく………」

「ベ、ベルナールさま……」


 ただ食われていれば良いだけの獲物が、牙を剥いたのか! この私に!

 そんなことで、私はモンフォールの栄華を、覇権を、栄光を失ったのか!


「どうするネ。主と手を組んで、復讐するカ?」

「……案内しろ」


 他者に(こうべ)を垂れ、(おもね)るなど虫唾が走る。せいぜい、下げた頭の陰で舌を出し、主とやらの金と権力を利用し尽くすまでだ。それよりも……。


 元より、私の地獄行きは決まっていたこと。だが、ただ一人で堕ちる気などさらさらない。

 業火に焼かれた門に、一人でも多くの道連れを引き摺り込んでやる。

■ 備考

・前回の更新から、一ヶ月も空いてしまって申し訳ありません。書籍化作業が想像以上に大変でした。(しかも、久しぶりの更新が別名「ルイ、超逃げて!」編で、すみません……)次はこんなに空かないように頑張ります。

・「烟るモルガナ」関連は、メキシコの先住民であるマサテコ族を参考にしつつ、アレンジしています。

・先日、葡萄の収穫に行って参りました。もしよろしければ、そのときの様子をnoteにまとめたので、お読みいただけると嬉しいです ▶︎ https://note.com/izumi_kiyoraka/n/naf4e499ff794?sub_rt=share_pw

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― 新着の感想 ―
もう嫌だこの人、サッサとザマァされときゃいいのに。 てかこれ、他国にまで情報漏れてるでしょ。 外交官最悪では?
[一言] 黙って死んでおけば良いのにな。 手を貸した連中も共倒れしてくれるのを願おう。
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