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006 ウォートレルの港町

門をくぐるとそこは異世界だった。


行き交う人々は見慣れぬ異国の衣装に身を包み、ガタイの良い男たちが歩く度に鎧をガチャガチャ鳴らす。剣を下げた冒険者風の男たち、旅の者、町の住人、薪を背負い本を読む者、はたまた大きな麻袋を抱えて小走りに過ぎていく商人風の男、怪しげな露天商、そして人の波を縫うように駆けまわるたくさんのポルェ族。ついでに見慣れぬ鳥なんかも飛んでいく。


「おお・・・ファンタジー回にゃあ」


いやもう、まんま。そこはアニメやゲームで見てきた世界そのものだった。

見上げる建物は石造りと木造の建築物が主流で、ここから見るとVの字に道が広がっている。道の両脇を露店が軒を連ね、さながら日本のお祭りの屋台を思わせる様相だった。町の入り口だけあって、様々な人々が入り混じり賑わいを見せている。呼び込みの威勢の良い掛け声と鼻をくすぐるおいしそうな匂いが行く者の足を屋台へと向かわせる。

雑多な足並みがいくつかの流れを作り出し、海から届く少し湿り気を帯びた風がその間を抜けるように人の熱気を肌に伝えてくる。

思わずVRやってないよね?とゴーグルをしていないことを確認してしまう。ファンタジー洋画の中に迷い込んでしまったかのようなリアルさ、もしくはどこぞのテーマパークにでも来ているような錯覚。だって皆日本語だし。


「おい嬢ちゃん、道の真ん中に突っ立ってんじゃねぞ!」

「ふぁっ」


怒鳴られるままに端の方へ移動する。と、門をくぐった後続の馬車が鼻息荒く町の奥へと進んでいく。

ヤバい、我を忘れて町の入り口で棒立ちしてた。

だってテンション上がるよ、これからやりたかったことができる予感にワクワクが止まらぬぜよ。

潮の香り漂う見知らぬ町、ここで私の異世界生活を始めよう。

今になってやっと異世界転生してきたんだという実感をほんのりと胸に感じることができた。


「ようこそ港町ウォートレルへ!」


異世界に感動しているとテンプレNPCのようなセリフを吐く子供が近づいてきた。


「お姉さん、この町は初めてだね。観光?それとも仕事を探しに?宿ならそこの海燕亭が値段も手頃でオススメだよ。ギルドに用事ならこっちの通りをまっすぐ行けばすぐだよ」


もしゃもしゃの金髪にじゃらじゃらと腰にアクセサリー?を大量につけた少年。身なりは少し汚れてはいるが浮浪者というわけでもなさそうだ。お姉さんなんて声を掛けてきたが、おそらく歳は私とそう変わらないだろう。


「ふ、ふーん、そうかにゃ。よく私が町の外から来たよそ者だと分かったにゃ」


急にロックオンされてどぎまぎしてしまう。まあ、往来に立ち尽くして上を見上げていれば都会に来た田舎者感というか余所者感まるだしだったかもしれない。


「観察眼は情報屋の基本だからね、僕は情報屋のルイン。お姉さんは?」

「私はルクスにゃ。お察しの通りこの町には初めて来たにゃ」


情報屋か。

情報屋というのはアレだ。冒険に役立つ情報とか小技、クエストクリアのためのヒントとか魔物の情報を売って生計を立ててるゲームによくいるサポートマンだ。


「ルクス、ね。見たところルクスはポルェ族だね、ということは仕事を探しに来たってところかな?」


メモを取りながら話を続けるルイン。たぶん私の名前でも書いてるのだろう読めない。


「そうだにゃあ・・・そんなとこかもにゃ」


何しろ全裸スタートだったから無一文だ。

異世界転生してやりたいことはもちろんあるが、それにはいろんなものが足りてない。

実際にこの世界で生きていくわけだから衣食住を整えないとスタートラインにすら立てないことになる。

何にしてもまずはお金だろう。

日本でも異世界ファンタジーでも、お金がないと食べ物も買えないし、宿で寝ることもできない。

前世では友人のマコトに付き合っていろんなことを学んできた。

サバイバル知識もあるし、野宿もできるが今はとびっきりの美少女である(猫耳)。

これはそれなりの水準の生活拠点を用意しなければいけないだろう。

せっかくの異世界なんだから剣や魔法でファンタジーな、バトルありお宝ありありの大冒険で楽しく生きていきたいがそういうのは下準備が必要なのだ。

そういう面では、本当に親がいないことや赤ちゃんからの準備できた時間がないことが悔やまれる。


「まずは冒険者ギルドにでも行ってみるかにゃー」


異世界転生アニメやライトノベルでドがつくほど定番の冒険者ギルド。

手っ取り早くお金を稼ぐにはギルドで登録をして冒険者になるのが一番早い。

冒険者ギルドで依頼をこなせばすぐお金が手に入る。これはゲームの中で経験済みだ。

初めての町でいきなり働くとか私にはちょっと難易度高いし、給料が月給とかだとそれまで生活ができない。そもそも推定10歳の子供を雇うところがあるか怪しいところだ。

よく異世界では15歳が成人で大人だ。というのがあるが、この世界では成人は20歳で10歳はこどもだ。モブキャラのクロイツから聞いた話だ。といっても裕福でない家庭では子供は貴重な労働力で、こどもの内から働くのは当たり前らしい。でも日本的な感覚の私からすれば10歳というのは小学生、とてもじゃないが家のお手伝いが関の山だろう。

まあ私の精神年齢はとっくに大人ですけどね。


「そうなんだ。冒険者ギルドはこの道をまっすぐ行けばすぐ辿り着けるよ。ギルド内にポルェ族専用の窓口があるから、そこで仕事を探すといいよ」

「なるほどにゃあ。じゃあ、早速行ってみるにゃ。いろいろありがとにゃ」


ルインに手を振り歩き出す。

よーし、やったんでー!この世界のザコモンスターはスライムかな?ゴブリンかな?さくっとぶっ飛ばして屋台で串焼きの一本でも買おうじゃないか。


「ってちょっとちょっと!」

「にゃ?」


呼び止められたので振り返る、まだ何かあるのか?


「ほら、情報料!払ってくれなきゃ!」


ぐっと右手が突き出される。ぐーぱーぐーぱーと握る仕草を見せるルイン。


「え。こんなことでお金取るのかにゃ、善意じゃなかったのかにゃ」

「何言ってるんだよ当たり前だろ。僕は情報屋だって言ったろ?これで生活してるんだから。はい払った払った」


これ詐欺だよ。いたいけな美少女から金銭を巻き上げようなんてとんでもない子供だ。


「残念だったにゃ、見ての通りお金なんて持ってないにゃ」

「はあ?!」


見れば誰にでもわかるが荷物もないし、服に小銭を忍ばせるポケットもありはしない。サイズが少し小さめの服は体のラインを浮き立たせ、何か隠していようものなら盛り上がって目立つだろう。

一応は性別を意識してかルインは私の身体を弄ろうとはせず、おかしな膨らみがないかじっくりとチェックしていく。やだどさくさに紛れてどこ見てんの。


「・・・確かに、本当に手ぶらのようだね。じゃああれか、僕がポカやらかしたってことか」


納得いかないというような不機嫌な顔でルインがぼやく。


「そもそもお金を取っていいレベルの情報じゃないにゃ」

「それは僕が決めることだよ。はあ、しょうがないな僕がギルドまで案内するよ」

「はあ、それで今度は案内料でも取るのかにゃ?」


何だか知らないけどまだ私に絡んでくるらしい。お金がないと分かった時点で次のターゲットに的を絞ればいいのに。あきらめが悪いにゃー。


「いや、君をギルドに紹介して紹介料を取るんだよ」


がめつい!そんな情報屋がどこにいるんだ。


「ほら、行こうかポルェ・ミミのお嬢さん」


お金の算段がついた途端にご機嫌なルインは私の返事も聞かずに前を歩き出す。

まあいいけどね、案内されてないからね。目的地が同じで前を歩いてるだけだからね。

そうしてなし崩し的に私はルイン案内の元、冒険者ギルドへ足を運ぶことになった。

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