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030 剣がダメなら魔法でね

私がこの世界に転生してやりたかったことは魔王を倒すとか勇者とか英雄になるとかそこまで大袈裟なものではなく、冒険者とか生業にして聖剣とか魔剣とか手に入れてアニメやゲームの主人公のようなファンタジーライフを満喫することだった。当初の予定では冒険者になってそういうことをしていくつもりだったのだが、私の非力さが仇になってしまった。

スタートラインにすら立てず。今は衣食住の基盤を整えることを目標にしているが、そうだよ。剣がダメなら魔法があるじゃない。やっぱりファンタジーといったら剣士とか騎士とか剣を扱う職業を思い浮かべるし、なりたいのはそっちだったが魔法職も捨てがたいのは事実だ。魔法さえ使えれば冒険者にもなれるし、一気に道が開ける。

問題は使い方が分からない事だね、魔力って見えないし見たことないし感じないし。だから魔法も使えない。ファイアボール!とか唱えても何も起きないんです。

でもそれはきっと私が仕組みを理解してないから。

だって我、異世界転生者ぞ。チートは要らないって言いましたけど、もうそれだけで魔法使えるでしょ。

ここは剣と魔法のファンタジー世界、魔法使いに私はなる!


「ということで、弟子入りさせてくださいにゃー。マーザししょう~」

「おやおや、困ったねぇ。ワシが教えられることなんて大したことないよ、ふぇふぇふぇふぇ」


私は60度くらいの礼をして、マーザ師匠にお願いする。マーザ師匠は楽しそうに笑った。


「何が、ということでなんだい。魔石集めなら仕事が終わってからにしな。今日は忙しいんだからあんたも早く昼飯を食べておいで!」

「にゃー、フローベルさん。これは結構、私の将来に関わる大事な話なんですにゃー」

「まあまあ、ちょっとくらいならいいじゃないかい。まだお昼の休憩は始まったばかりだろう?孫ともしばらく会ってないし、少しだけワシに時間をおくれよ」


さすが師匠。ちょっとお願いするとフローベルさんがしぶしぶ了承した。


「分かりました。けど休憩の間だけですよ」

「十分じゃよ」

「やったにゃー」


フローベルさんはソウロたちの元へ、この場には私とマーザ師匠だけが残された。


「よろしくお願いしますにゃ、ししょう~」

「ああ、じゃあまずはワシがどんなものを作ってるのかを見せようかいのぅ」


言うと、マーザ師匠は懐をごそごそしだすとブローチを取り出した。それを私に見せてくれる。

長い髪をなびかせ、祈る仕草の女性を模った銀細工。青い宝石が涙を流しているように配置された綺麗な装飾品だった。魔女の作った装飾品、何かとてつもない効果がありそうだ。


「にゃあ、綺麗ですにゃー」

「なかなか良い出来じゃろう?店の方は倅に任せてワシは隠居したんじゃが、腕はまだまだ衰えておらぬでのぅ。ふぇふぇふぇ」

「凄いですにゃー。この宝石が魔石なんですかにゃ?」

「そうじゃ。まあ宝石なんて呼べるほど質の良い代物じゃあないが、さっきの石だとしたら、このひと際青の濃い部分だけを使うようにしているんじゃ」


師匠が先程拾った魔石を光に翳すと海のように深い青の部分を指す。私の親指くらい大きさしかない魔石だが、色濃い部分となるとそれこそ米粒1つ分くらいの大きさしか残らない。それ以外は削り出してしまうということだろうか、勿体無い。


「ちょいと付けてみるかい?」

「えっ、いいんですかにゃ」


手渡されるブローチを受け取る。ずしっとした重さが、ってあれ?何コレ、見た目に反してめちゃ軽いよコレ。銀細工だと思ってたけどこの手触りは金属ですらない。


「女神アクアネスをモデルにしている、と思うような美しさじゃがのぅ。これは若い時のワシじゃ。昔はブイブイ言わせたもんじゃ懐かしいのぅ。ん?何じゃ付けないのかい?ああ、付け方が分からないのかねぇ」


安物感に戸惑っていると師匠、い、いや師匠呼びは早計かもしれない。マーザさんが私の手からブローチを取ると私の胸元にブローチを刺した。ブローチの裏面には針が付いていて、裁縫でまち針を打つ要領で服に留めるようになっている。


「あ、あのコレの材質は何なんでしょうかにゃあ、とても軽いような気がするんですにゃ」

「粘土を焼いたものじゃ」

「粘土!?」

「そうじゃ。特殊な薬液で銀のような輝きを出しておるんじゃ、綺麗じゃろ。やはりどれだけコストを抑えられるかが勝負じゃからの。高い材料費なんてかかってたら土産物屋なんてすぐに潰れてしまう、覚えておくんじゃぞ」

「みやげものや・・・、そうだ。私お昼ご飯食べてきてもいいですかにゃ?」

「いいぞい、いっておいで」


一旦ブローチを返すと、私はフローベルさんの元へ駆けて行った。

何か変だ。思ってたのと違う。本人には聞き辛いのでフローベルさんに確認してみよう。


「フローベルさんフローベルさん」


私は小声になって話しかける。


「何かあったのかい?」

「いや何かあったといいますか、あの人魔法使いですかにゃ?」

「はあ?」


怪訝そうな顔をするフローベルさん、この反応だけで私の勘違いだったと分かった。何かピンときたのか、フローベルさんは可笑しそうに口角を吊り上げた。


「あの人はパチモーノ土産店のマーザさんだよ。粘土細工で庶民向けの装飾品なんかを作ってるんだよ。見せてもらっただろ?まるで銀のような艶を出せるパチモーノ店の商品は結構人気があるのさ」

「土産物屋さんかにゃあ・・・」

「何を勘違いしたか知らないが師匠にいろいろ教えてもらうんだろう?午後からはマーザさんの手伝いをしてもいいよ」

「いえ、私働きますにゃ!」


おおん?煽られてるよ。マーザさんは魔法使いじゃなかった。確かに魔石を見つけるのはベテランだけど魔法使いではなくただの土産物屋のおばあちゃん。そっかそっか。なるほどね。

私はお昼ご飯を食べることにした。座るのにちょうど良い石に腰掛けて海を見ながら麦粥を食べる。

ソウロたちは既に食べ終えているので思い思いに過ごしている。マーザさんは下を向いて歩いている。埋もれている魔石を探しているのだろう。


「・・・・・・ふぅ」


食べ終わってしまった。ゆっくりよく噛んで食べたけど休み時間はあとどれくらいだろうか。正直、土産物屋には用事が無い。そもそもちょっと浅瀬とかを見てれば魔石なんてすぐ見つかるしマーザさんに教えてもらうことは何もなかった。私の勘違いでしたごめんなさい、と素直に言えないのです。何かカッコ悪いし恥ずかしくて、こういうところ日本人かな。いや、私の性格か。何にしろ戻りづらい。


「マーザさんお待たせしましたにゃあ」

「ふぇふぇ、おかえり」


とは言いつつも戻る私。お願いフローベルさん、早く仕事開始の合図を出して!


「じゃあ今度は材料になる魔石を探すコツを教えようかのぅ」

「お願いしますにゃ」


マーザさんはしばらく地面と睨めっこすると石ころに埋もれた魔石を掘り当てた。


「どうじゃ?」

「全然分かりませんにゃ」

「うむ、ワシも長年の積み重ねでできることであって理論立てて説明するのは難しかったわい。ふぇふぇふぇ、まあ地道に探せば見つかるわい」


なるほどね、魔石の僅かな魔力を感じ取ってたとかではないのか、本当にただのベテランおばあちゃんだったよ。こんなに魔女っぽい見た目なのになあ。

私は生ぬるい目でマーザおばあちゃんを見つめた。


「じゃあ代わりに装飾品として使える魔石の説明でもするかのぅ。ほれ、今拾った魔石は石の中に埋もれていたじゃろう?しかし魔石ならそこら辺の海の中から拾えるじゃろ。わざわざワシが石の中から魔石を拾うのは何故だか分かるかい?」

「えっ、違いがあるんですかにゃ?」

「もちろんあるとも。さて、理由が分かるかの~」

「え、え~~と・・・」

「残念、時間切れじゃ」

「考える暇を与えてくれないにゃ!」

「正解は、魔力が残っている石じゃと装飾品に使えないからじゃ」


マーザおばあちゃんが懐から別の魔石を取り出す。大きさは同じくらいだが、こっちのは薄い緑色だ。


「これは海の中から拾い上げたばかりの魔石じゃ。見た目には分からんのじゃが緑色の方には魔力が含まれている。対してこちらの青い方には魔力は残っていないんじゃ」


そう言って私に2つの魔石を渡す。私は右に青、左に緑を持って光に翳して見たり、力いっぱい握ってみたりして違いを分かろうと試みる。うーん分からん。


「そもそも、魔石というのがどうやってできるのか知っているかのぅ?」

「確か、魔力の一部が結晶化したモノでしたかにゃ?」

「そうじゃ。生き物が死んだ時に体内の魔力が結晶化する、だから純粋な石とは違うんじゃな。このレベルの石はベルあたりに言わせるとクズ石の類いじゃが、それでも僅かばかり結晶化しきれていない魔力が石の内部に残っておる。その魔力が時間と共にゆっくりと抜けていくんじゃ、魔力が抜けきったモノがお前さんの右手にある青い石なんじゃよ」

「にゃー、知りませんでしたにゃー」

「そしてその残っている魔力が悪さをするんじゃな。加工しようとすると砕けて飛び散ったりして怪我をする職人もたくさんおったし、装飾品を身に着けたお客が魔力に当てられて具合を悪くしたりすることがあるんじゃよ。そんな危険な商品は売れんわな、そんなもの売ってたら信用に関わるからのぅ」

「ということは、この浜辺の石に埋もれている魔石は魔力が抜けきっていて安全だということなんですかにゃ」

「そうじゃよ。この石でも魔力が抜けきるにはひと月はかかるからのぅ、ここの石なら浜に打ち上げられて何年も経っているから大丈夫なんじゃ。一般人にとって魔石なんてものは基本的には危険な物じゃからの、綺麗だからといってむやみやたらに集めてはダメなんじゃよ。ほれ、水辺の石は良くないから持って帰るなと母親などに言われるじゃろ?あれはそういうことなんじゃ」

「ああ、知ってますにゃ!なるほど、そういうことだったんですにゃ」


確かに小さい時、川から石を持ち帰ったら縁起が悪いとか怒られたことがある。日本での出来事だったけどもしかしたら関連があったのかもしれない。なんてにゃ。


「ん~、じゃあコレも持ってない方がいいのもしれませんにゃあ」


危険だという話を聞いて、私は身に付けていた袋を外す。これはフローベルさんから貰った魔石を入れておく袋だ。隙あらば今日も拾おうと装備してきたのである。

袋を開くと、中には昨日夢中になって集めた魔石がそのまま入っていた。

私は加工とかしないが身に着けているだけで悪影響があるとか言われると心配になる。でもせっかく集めたのにぃ。


「ほぅ、よく集めたね。獣人の子がどれほど魔力に当てられるかは分からないが、気に病むようならワシが買い取ろうかのぅ」

「えっ、お金になるんですかにゃ!」


思わぬ提案にうなだれていた耳がピンと立つ。


「まあ、後々にしか使えないし、ワシは引退した身じゃから自由になる金額は多くないから大した額は出せんがのぅ」

「ちょっとマーザさん、ウチのを甘やかさないで下さいよ!」


いいところでジャマが入る。お金が絡んできたところでフローベルさんの登場である。


「ふぇふぇ、そう目くじらを立てんでもよろしい。ギオンの決め事はワシも承知しておるからのぅ。ベルの言う通りにするとも」

「ルクス、前にクズ石の価値はキロでいいとこ銅貨2枚と教えたね。もし、マーザさんに買い取って欲しかったら最低でも1キロは集めな」

「分かってますにゃ。もちろんですにゃあ」


商売のこととなるとフローベルさんは厳しい。1か月経たないと使えないのに1キロって、量の多さから見ても1回売ったら終わりじゃないですか?

お金儲けできると思ったが世の中とフローベルさんは甘くないらしい。


「それじゃそろそろ仕事を再開してもいいですかね」

「そうじゃの。ふぇふぇふぇ、そういうことじゃからよろしく頼むよ。頑張って働くんじゃぞ」

「はいですにゃ」


こうして午後からの仕事が始まった。

内容はともかくとして、こうやってちょっとずつ収入の当てが増えるのは良いことだろう。

魔石集めだってやめないんだからね。要は魔力の抜けきっているものを集めればいいんでしょ。

新たな目標を掲げて、私はソウロたちの待つ台車へと駆けて行った。




ご無沙汰してます。体調のほうは休んだ分良くなりました。

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