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031 異世界迷子のルクスちゃん

「おらー」

「らー」

「にゃー」


フローベルさんの提案で台車は6人、後の1人は残って砂を集め続けるということになった。もちろん1人では運搬1回分の5袋を用意できないが納入先までの往復する時間があれば、全員で行って帰ってきてから砂を集めだすよりは時間の短縮になる。台車は定員6人なので無理に全員で行く必要もない、ちなみに3回運搬したら1人交代するということになった。

私は台車の前方に付き、すでに慣れた道を先導する。私を迷子と罵った奴らの鼻を明かしてやるのだ!

意気込んで始めた砂運びだがすぐに疲労がやってくる。

4往復目でとうとう私は力尽きた。それを見かねてソウロたちは帰りだけ空の台車に私を乗せて運んでくれることになった。


「いつもすまないにゃあ、およよよ」

「みんなではこんでかるいー」

「しんぱいないよー」


あったけぇなあ、でも荷物のように運ばれるのは結構大変だった。帰りは私が乗っていようとスピードを上げるし、しがみついてないといけなくておかしな所に力が入って腕やら足やらの筋肉が痛い。本来、人を乗せるのものではないので乗り心地は最低最悪なのだった。前世で、小学生低学年の頃に農家を営む祖父母の家に遊びに行った時に、軽トラの荷台に乗せられて畑まで移動したことがあったが時速40キロも出ていない徐行運転でも、やはり今のように踏ん張ってしがみ付いてないと振り落とされそうだったことを思い出す。楽しかったのも事実だが、精神が成熟している今では恐怖の方が勝っているだろうか。固定具無し、安全ベルト無しの手作りジェットコースター、怖い。

自分の足で帰るのとどちらが楽かと言えば自分の足なのだが、私の体力は非常に少ない上に回復速度もそれほど早くはなかった。これは精神をごりごり削られていくのだが、乗らないという選択肢は私にはないのでした。


「はあぁ…私は休ませてもらうにゃ、運び込みは頼んだんだにゃ」

「あいー」


ということで現場に砂を運び込んだら砂袋を荷台から降ろして資材置き場に積むのはソウロたちにおまかせ、私は隙あらば体力回復に勤しむのだ。サボりじゃないよ。

私は中までは入らず、路肩に置いてある木箱に座ると静かに瞼を閉じた。ふぅ、この時間は決して長くはない。気休めではあるが回復量を上げようと、視界からもたらされる情報もシャットアウトしてしまう。


「けもそっぱとぅー」

「れれいげー」

「…はっ」


奇妙な掛け声、いや獣人語に目を開けると私を置いて台車が飛び出して行った。

えええええっ、忘れられた!


「ちょ、待てよ!」


私は慌てて立ち上がると急いで追いかけた。酷っ、自分の足の方が楽とは思ったけど置いてかれるのは話が違うぞ。

台車は音を立ててコーナーを曲がっていく、壁に立て掛けるように放置してあった木枠を掠めながらどんどん私を置いて行く。それでも私はその距離を縮めていった。この辺りは曲がり角が多いので追いつけないことはない。


「急に何でにゃー。乗せるにゃー!」

「おぬ」

「みーふぁ」


私が声を張り上げると台車が急に進路を変えた。今まで通って来た道を外れて、違う道を走り出したのだった。


「どこ行くんだにゃー?!」


徹底的に私を乗せないつもりなのか、私を完全スルーして台車は走り去る。って去られてたまるか!

私の体力も残り少ない。だいぶ距離が開いてしまったが、まだ台車を押す後ろ姿は捉えていた。

どういうつもりか知らないがここは私の本気を見せよう。次は砂を詰める当番なので力を出し切ってもかまわない。

右に左にジグザグに。見失いかけたりしながらも、やたら曲がる台車との距離を縮めていく。入り組んだ狭い路地のおかげで台車の速度が落ちてきた。たぶん直線に入ったらもう追いつけなくなる。チャンスは今しかない。


「ここにゃっ!」


踏み込む足に力を籠める。地面を蹴り上げると、勢いよく台車にダイブした。

ぐえっ。私は鈍い音を立てながら台車に乗ることに成功した。突然の揺れと重さでバランスを崩した台車は私を乗せたことで停止することになった。


「あいけーじふのまろー」

「おねきゅー」

「いって~…もう!何で私を置いてくんだにゃー!」


身体を起こすとソウロに向かって文句を言った。

ソウロは困惑した様子で私を見て、ん?


「あれ?ソウロ…」


目の前には見たことのないポルェ族がいた。私は振り返って台車を押していた方のポルェ族を見る。


「ソウロ……」


ソウロがいない。ん?さっきまでいたよね。

私には正直、ポルェ族の見分けがまだついてない。唯一ソウロだけは何となく覚えたけど。ん?もしかしてここにいる全員知らない顔かもしれない。


「ぽいけあむすたーぬ」

「え…獣人語。何で」

「れじゃ?れじゃ?いむむかんと」

「すげれーぜぬ」

「ぽいけあ」

「ぽいけあなむ」

「みんなどうしちまったんだにゃ。人語で話すことを忘れたのかにゃ」


怖い。何なの?何かがおかしいよ。違和感が確かに存在しているけど正体が分からない。

世界線超えた?異世界で別次元に迷い込んだ?パラレル?パラレルなの?

私が困惑していると目の前のポルェ族の首元を彩るネームの色が緑色だということに気付いた。


「んん?!」


思わず身を乗り出して目の前のポルェ族の首元の毛を掻き分ける。緑!赤じゃなくて間違いなく緑色!

え?どゆこと?いつからこのポルェ族たちが仲間だと錯覚していた?

とりあえず立ちヒザで台車に乗ってるから目線の高さが悪い。落ち着いて、まず降りよう。地に足つけたい。

私はゆっくり台車から降りると深呼吸してみる。すー、はー、すーはー。


「つかぬことをお聞きしますが、あなたたちはオルケットさんとこの方たちですかにゃ?」

「みんだば」

「あい」

「オルケットかちか」


ポルェ族の所属を首に付けたチョーカーの色で分けている。緑色は確かオルケットさんの色だ。

何言ってるか分からないが、仕草と表情が肯定していると思う。


「そ、そうなんですにゃあ、へー。あ、お仕事の邪魔してごめんなさいにゃ。それじゃあ、私はこの辺で。あは、あははは…」


日本人の特技、笑ってごまかす。特技じゃないか、私は何事もなかったように手を振りながらすぐそこの曲がり角を曲がった。


おかしな乱入者が去って、ポルェ族たちは首を傾げながらも次の荷を運ぶために台車を引いて仕事を再開した。


「ふぅ、行ったかにゃ」


こっそりと様子を伺っていた私は、誰もいなくなったのを確認して胸をなで下ろした。いや、悪いことをしたと思う。反省してます。


「でもいつからなんにゃ?どうしてこんなことに?」


どうしてこうなった。私はソウロたちを待って休んでいただけなのに。いやもう分かってるけどね。

つまりはフローベルさん所属の私たち以外にも別のところからも砂を、もしくは別の何かを運び込んでいたと。ポルェ族の見分けがつかない私が勘違いしてここまで追いかけてきちゃいましたと。ふぅむ。


「というか、ここどこにゃ」


周りを見回す。見たことのない景色、初めての場所。どこかの裏路地っぽいのは分かるけど、同じような建物に同じような道路。木造の2階建てや3階建ての建物に阻まれて日が当たらず暗い。

どっちから来たっけ?無我夢中で追いかけてたから全く分からないんですけど。

私の身長が低いから見上げても何も目印になるようなものが見えない。方角とかも分からないしどこに行けばいいんですか?!


「これは……まいご!」


もしかしたら自分は迷子なんではないだろうか。そう認識すると、込み上げる不安から、じわりとパンツが濡れた気がした。


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