002記憶に残らない白亜の空間
すうっと意識が覚醒していく。
そこは真っ白い空間だった。踏みしめた感覚は堅く、しかし靴音がコツコツと響くような材質ではない。見上げれば天井はなく白い空が視界の許す限り続いている。右を見ても左を見てもただ白く、終わりがなくどこまでも空間は続いていた。
おぉ、ここはまさかお約束の?
「よくいらっしゃいました勇者よ」
品のある優しい女性の声、振り返るとそこには女性が一人立っていた。
美しい金髪を腰の辺りまで伸ばしたゆるふわカール、そしてカーテンみたいな白い布を纏って如何にもソレっぽい姿だった。いやソレだとしたらカーテンなんて失礼か、幾重にも重ねた白い布地はそう、純白のドレスを思わせるほど美しかった。
「私は女神エンペリクス、この世界を見守る者です」
ニッコリ微笑む女神さま。見た目は20代前半の成人女性といったところか、豊かというよりはスレンダー寄りの美人だった。
「美しい・・・」
思わず声が漏れる、それに女神さまは笑みを返す。
「ふふ、ありがとう。では早速ですが貴方に神の祝福を授けましょう。貴方は一体何を望むのかしら?」
女神さまが不意に近づくと俺の両手を取り、くいっと自分の目線の高さに持ち上げてみせる。
ああ、何をされてるのか分からないがドキドキする。生前は女性の手に触れる機会なんて無かったもんな。というか俺、手がある。火の玉じゃないぞ、しかし猫耳美少女でもない。何故か生前の俺だ。
「欲しいのは伝説の武器?それとも破格の魔法の才能?それとも全ての女性を惹きつけるような完璧な容姿かしら?でも全部はダーメ。どれか一つだけ貴方に祝福を授けるわ」
甘く囁くように、AMSRかこれは、はわわ。
「い、いえ、どれもいりません。女神さまの祝福は俺には必要ないです」
ぞくぞくしながらも俺はそれをはっきりと断った。
「え?」
「ですので早く異世界へ送ってもらえると嬉しいのですが・・・」
やはりここは定番のチートくれる女神部屋だったか。もう猫耳美少女になることが確定してたからここには来ないと思っていたが、これも異世界転生の醍醐味か。うん、チートをもらわないにしても神という存在に会えるなんて普通は出来ない経験だからな、体験できて良かったぜ。
「ちょっと、何を言っているの貴方、このまま向こうへ行ったらすぐ死んでしまうわ。いい?これまでの世界と違って魔物がいるのよ。貴方たちはただでさえ弱いというのに私の祝福がなければゴブリンはおろかスライムにだって敵わないのよ?分かる?そんな甘い心構えじゃ魔王を倒すなんて夢のまた夢よ!」
呆れたように女神さまは憤慨する。
「いえ、あの。俺の異世界転生の条件知らないんですか?正直あのまま転生するのかと思ってたんですけど、それに俺は勇者になるつもりもないし魔王を倒す予定ももちろん無いのですが」
「はあっ?!」
それにキレた女神さま。ビクリとして俺は数歩後ずさる。
怖っ、これこれこういうの。俺が女性を苦手とする要素の一つだ。
さっきまでの態度がウソのように、イラついた態度を隠さない女神さまは何もない空間から資料を取り出す。
「・・・ああ、なるほど。これまで祝福は全部欲しいなんてバカは大勢いたけど、何も要らないなんていう奴はいなかったわ。転生か、どおりでおかしいと思った。一つだけ私をスルーするやつがいるから何事かと思ったわよ。まあいいわ、せっかくだからアンタにも祝福をくれてやろうじゃない。この幸運に感謝するのね」
「いえ、間に合ってますっ」
態度も性格も一変した女神さまにもう怖くて近づきたくもない。猫かぶってたんだこの人。
もう眼差しが痛い。めんどくさそうな睨むような、いや睨まれてるし。
「何なのアンタめんどくさいわねー、私がくれてやるって言ってるのに。女神の慈悲に逆らうわけ?言っておくけどここの支配権は私が握っているのよ、私の許しがない限りここからは一歩も外へは出れないわよ」
「マジか・・・」
つまりチートを貰わないと先へは進めないということか。断ったのにどうにもチートを付与したい風な女神さま。仕事熱心なのはいいが話が通じないのは困りものだ。
チートなんて貰っても困るだけなんだけどな。せっかくの異世界なのに一から楽しまないでどうする、もったいないでしょうが。
「あの、俺は自分が本来持っているものだけで異世界生活を満喫しようと思っているので女神様からの祝福は辞退させて頂きます。俺みたいなのに大それた力があるなんていうのは、あー、そう、分不相応ってやつですから」
ここは俺が折れて役に立たなそうなチートを貰えば簡単に済む話なのだが、自分の性格を分かっている以上チートなんてものは始めから無い方がいい。
だってあったら絶対使いたくなる。
新しいゲームを買ったらやりたくなる。
新車を買ったら乗りたくなる。
新作スイーツが出たら行列に並んででも食べたくなる。
使わないで飾って眺めておくなんてことは出来ないのだ。
だからきっと日本に銃が導入されて銃社会になったら使いたくて仕方ない奴らでとんでもないことに、ってそれはまあいいか。とにかくチートダメゼッタイなのだ。
「くっだらないわねー」
それにわざとらしいため息を一つ。何?また心読まれた系?神様だしそれくらいできるか。
「言っておくけど記憶の引き継ぎや猫耳美少女になることだって立派にチート行為でしょうが!!!」
「ぐっ!!」
ぐうの音も出ないとは正にこのことだ。俺は明後日の方向を向いて押し黙った。てか祝福のこと自分でチートって言っちゃったよ、ありがたみが下がるなぁいらないけど。
「え?正論突かれたらダンマリ?ちょっと何とか言いなさいよ、こっち見ろよ」
「・・・・・・」
だが俺は背中を向けたまま男らしく無言を貫いた。それにあれは俺の転生特典、女神さま付与チートとは別物なのだ。
これから始まるのは俺の人生だ。だからそんな勝手なことされては困る!勇気がないので言わないが女神さまのほうが折れてくれるまでこうしているつもりだった、男らしく!
そしてどのくらいそうしていたか、俺は突然の寒気に思わずその場から飛んだ。
ぶんっ
それとスレスレのタイミングで俺のいた場所に何かが風を切って通り過ぎて行った。
「はあぁぁああっ?!何で今の避けれるわけっアンタ後ろに目でもついてんのか!」
振り向くと女神さまが投球を終えたフォームのような姿をしていた。そしてその右手はピンク色の光に包まれている。光の軌跡が俺の背中を狙って振り下ろされたのだと教えていた。
「ななな・・・」
「こうなったら実力行使よ。アンタの異世界人生チート色に染めてあげる」
ニヤリと、それは悪魔のような笑みだった。最早何されるか分かったもんじゃない。
じりじりと距離を詰めてくる女神から俺は一目散に逃げだした。
「やっやめろおおぉおおっ!!!」
「っしゃおらああああああっ!!!」
だが、それは一分も続かなかった。
「はひ、はひっ」
女神さまは圧倒的に体力が無かった。
全速力で逃げる俺に最後まで追いつくことはなく彼女は地面に伏したのだった。
「あの、大丈夫ですか?」
「なんでぇ・・ぐすっ・・なんでなのよぉ・・ひぐっ・・・なんで嫌がるのよぉ・・・」
心配して近づくと女神さまはぷるぷるしながら泣いていた。
「酷いぃ、あたしの純粋な好意をもて、弄んだぁ・・・あ~~・・・」
「そ、そんなつもりはなかったんですけど。えーあの、泣かなくてもぉ」
びゅんっ
不意を突いた一撃が俺の顎を掠める
「クッソーーー!!!心配してんならもっと近づけやああああああっ」
ウソ泣きだった。一応警戒していた俺はギリギリ手の届かないところまでしか近づかなかった、危ない
どうもあの光る手に当たらなければ大丈夫のようだし、光を飛ばすとかできないっぽいから一定距離離れていれば大丈夫そうだ。
いやフラグじゃなくて。
「あーシラけた。あーダルい」
その場に居直る自称女神。胡坐をかき肘を立てて顎を載せて遠くを見る自称女神って態度わるっ。
「だいたいさぁ、おいお前も座れや」
「はい」
とりあえず従おう。逃げれる距離を保って腰を下ろす。
「だいたいさぁ、お前らが異世界転生とか異世界召喚って言ってんのも、そもそもが私のおかげなんだからね」
「はあ」
「私らはさ、一柱につき一つ世界を任せられるのよ。それを何の干渉もしないで見守れっていうわけ」
「はあ」
「見守るだけなら楽だと思うじゃん。でもさ、世界が滅んじゃったらそれを見守ってたやつもアウトなの。ふざけんなって。そんなの運じゃん。干渉もできないのにどうしろっつーんだよ、なあ?」
「はい。ほんと理不尽ですね」
「だろ?マジ何考えてんのか分かんねーよあのジジイ。ほんと楽な世界任せられたやつが羨ましいわ、こちとら魔物だ魔王だと危険要素てんこ盛りよーはっはっはマジ笑える」
「ははは・・・」
「笑うんじゃねー!!!!!!ったくよー。あー、で。私天才だからさ、ひらめいたわけよ。世界に干渉できないのなら世界の外側で手を加えればいいんだってね」
「さ、さすがですね」
「当然よ。具体的にはねぇ、アンタみたいな魂を私のところへ必ず通すようにして、祝福を与えてから世界に送ってあげるの。世界の外側で行われる事だからねセーフなわけ。でも他の世界で魔王討伐経験のある勇者とか魔法を極めた賢者なんかを連れて来て祝福をあげるのはさすがにアウトと見なされて怒られるのよ。差し当たって私は一番グレーなところを攻めることにしたのよ。それが地球だったの。地球は極めてマナの薄い世界でね魔法も使えないし、魔物もいない平和な世界だからね。あ、そこから来たんだから知ってるか。幸い地球担当のミレレちゃんとはお友達でさ、まずは私の世界に行きたいー!ってなるように魔法だーとか勇者だーとか異世界だーって流行るように情報を流してもらったの」
「え?じゃあ」
「そう!アンタらが異世界異世界言ってるのが私のおかげって意味分かったでしょ。地球でのアニメ、漫画、ゲーム、引いては魔法への憧れ、妖精やドラゴン等のファンタジー要素の起源を作ったのが私なのよ!!!」
「な、何だってー!あれ?でもミレレ様ですか?情報流すって世界に干渉してません?」
「そうね、彼女はやりすぎたわ。おかげで地球はもうお終いよ・・・って冗談よ。そこはそれ、私と同じやり方よ。私の世界から前世の記憶を引き継いだ者に【使命】を与えて娯楽の一つとして世の中に浸透させていったのよ。このやり方は私たちの間ではもうメジャーなシステムとして出来上がってるんだから」
ふふん、と得意げな女神さまはさらに話を続けた。
「そうやって基盤を築き上げていったの。じゃないと私の世界に行きたがらないし、事前情報も無しに今までと違う世界に送ったってすぐ死ぬんだもの。はーもうそれはそれは辛酸を舐めるような辛い日々だったわ」
その後もアレがひどかったコレが辛かったと愚痴がしばらく続いた。
俺は相槌を打ちながら女神さまの苦労話をさんざん聞かされ続けた。
「・・・というわけで私は自分の世界が良くなるように奔走し続けたの。はあ、なんて良い女神なのかしら私」
「ご苦労様です」
随分と溜めこんでいたのか、話し終えると女神さまはまるで憑き物が落ちたかのように穏やかな表情をしていた。
「はー疲れたっ。じゃあそろそろアンタを送り出しますかね」
よいしょ、と言って立ち上がる女神さま。
「お願いします・・・ぐっ?!」
俺もそれに続いて立ち上がると突然ビキビキっと体が動かなくなった。
それをニタァと女神が見ている。
「はー、私自分が恐ろしいわ」
「な、何を・・・・・・」
「とても素晴らしいことを思いついたの」
とても素敵な笑顔でこう続けた。
「アンタは知り過ぎた。こっち側のことを知り過ぎたのよ」
「そんな、勝手にしゃべったくせに・・・」
「だから記憶を封印しなければいけないわ。ここであったことはぜーんぶ無かったことになる」
「ひいぃ」
「だからどんなに祝福を与えようとアンタは覚えちゃいない、あっちで目覚めたアンタは自分が本来持っている才能としか思わないわ。いい?チートなんて無かった。リピートアフターミー?」
「い、いやだぁ」
執行の時間だ。ふん、と女神さまが気合いを入れると両手に光が纏いだす。そして動けない俺に女神さまが殴りかかる。
ばしっ
「痛てっ。え、何で殴るの?それで触ればいいだけなんじゃ・・・ぎゃっ」
『異世界語習得』
『状態異常無効』
殴られた部分が熱を帯びる。痛みによる熱もあるがべったりと体に張り付いた内側からの苦しみだった。
「R-15残酷な描写があります。自業自得よ、最初から素直に私の言う事を聞いていれば痛い思いをせずに済んだのに」
「カツアゲしてるヤンキーか!ぶっそこはやめてーっ」
『魔力無尽蔵』
「本来なら祝福は一人につき一つまで。じゃないとグレーじゃなくてアウトになっちゃうからね。でも無かったことになるならいいよね」
ばきっ
『金運の泉』
「いやダメでしょ。俺の記憶から無くなっても事実は残りますからっだからこんなことは・・・ぐぇっ」
『武術の達人』
うぅ、殴られる痛みはそれほどでもないが残るこの苦しさは何なんだ。
「ねぇ、今どんな気持ち?辛くない?苦しくない?チートが一人一つってのはアウトになる以外にも本人に多大な負荷がかかるからやっちゃいけないって決まりなの。廃人になられても困っちゃうけどまだ大丈夫なんじゃない?大丈夫なんでしょ?ほらほら」
がすっびしっ
『精霊の加護』
『未来予知』
「た、助けて・・・」
「気持ちいいです。もっと虐めて下さい女王様でしょ?」
お前女神やんけっ
どすっざりっ
『時間操作』
『勇者の素養』
あ、駄目だ。視界が暗くなってチカチカしてきた。たぶんこのまま死ぬ。
こんなん祝福でもチートでもない、もはや【呪い】だ。
このまま女神に呪い殺される。
「――何をしているのですかエンペリクス」
俺が全部を諦めかけた時、その人は現れた。
「メレイアお姉さまっ」
女神エンペリクスが慌てて姿勢を正す。
「一つの魂に時間をかけ過ぎていると思って来てみれば、これはどういう事なのですか」
メレイアお姉さまと呼ばれた女性、いや間違いなく他の女神だろう。服装はエンペリクスとデザインは多少異なるもののほぼ同じ、白い抜けるような肌にこっちはストレート金髪。体型はスレンダーの逆で豊満ナイスバディだった。
女神メレイアは俺を一瞥すると横に手を払った。
するとその方向に俺が引っ張られて、体の熱が消え去った。
「はあはあ・・・助かった」
「ちっ違うんですお姉さまっ。これはじゃれ合っていただけでルールを犯そうとか女神としてあるまじき行為を行っていたとかではないんですっ」
嘘つけっどの口が言ってんだ!
拘束も解けた俺は荒い息をしながらその場にへたり込んだ。
どうもあのメレイアとかいう女神のほうが偉そうなので、おまかせしてちょっと休憩だ。
「エンペリクス、貴女はそういうところがありますね。実は最初から見ていましたよ」
「え」
「最初から見ていましたよ」
その言葉にエンペリクスはその場に崩れ落ちる。まるで罪をつまびらかにされたサスペンスドラマの犯人だな。犯人はお前だ!ってやつ。ここからは犯人が動機を語る自供タイムか。
「だって、仕方なかったのよ。今まで数えきれないほどの勇者に祝福を与えてきたわ。でも誰一人として私の要望には応えてくれなかった!私の世界は良くならなかったの!だったらやるしかないじゃない・・・これまで以上に祝福を授けるしかないじゃないっ」
「・・・・・・」
「私が間違っているのですかお姉さま?!私がやったことは悪い事ですか?」
切実に訴えかけるエンペリクス。それを優しくメレイアが包み込む。
「悪くないわ。貴女は何も悪くない。ただ今回は少しやり過ぎただけよ」
え。
「お姉さまああっ」
そして抱き合う二人の女神。
何か思ってた展開と違う、怒ってくれるところでしょ。この二人って同類?神様の感覚だとこんな感じなの?
「さあ、そこの人間。今回は災難でしたね。私が責任を持って世界へと送り届けましょう」
「・・・ありがとうございます」
もう何でもいいや、早く異世界転生したい。
「では希望する祝福を言いなさい。さっきまでのは全て吹き飛ばしましたから」
「え、いや最初から見てたんなら・・・」
「ふふ、本当にお前は幸運ね。転生特典のチートに、異世界召喚の際に受け取れる勇者用チート。それにお姉さまからもチートが貰えるわ。さすがですお姉さま、女神から与えられる祝福は一人につき一つだけ。なら女神の方が複数いればいくつでも祝福を授けられる!これならルールを破らないグレー判定。本当に尊敬しますっ」
「可愛いエンペリクスのためですもの。流石に四つものチートがあれば魔王討伐もいけるでしょう。それに実際人間にかかる負荷は私たちからのチート二つ分。失うものも少なくて済むはずです。これが成功したら私の世界でも同じことをしようかしら、その時は頼めるかしらエンペリクス」
「もちろんですお姉さまっ!」
「ちょっとお二人とも、聞き捨てならないことを仰ってますよ。異世界召喚の際に受け取れる勇者用チートって何ですか?俺、異世界転生のはずですけど。それに何かチートの代償に何か失う的な」
「ああ、その通りよ。本来私が祝福を授けるのは【転生】じゃなくて【召喚】の方なの。いつもは転生者は素通りさせるんだけどアンタのこと私を素通りする異世界召喚者、つまり勇者だと思ってここに連れてきたの私の勘違いだったみたい、ごめんなさいね」
でもおかげで得したわね感謝しなさい。と悪びれる様子もないエンペリクス。
「もちろん力にはそれなりの代価が伴うものです。徐々に能力を鍛え、高めていくなら問題ないでしょうが、いきなりフルで初めからなかった物を脆弱な人間に与えれば壊れてしまうのは必然でしょう。でも安心なさい、運がよほど悪くない限りチート一つで何かが失われることはないですよ」
「そうね。それに失うって言っても何がどの程度失われるかはその時によって違うし」
いやいや、俺は女神チート二つ分なんでしょ?ヤバくない?転生特典もチートでしょ?4つじゃんヤバいよ!
「それで?貴方はどんな祝福を望むのですか?私たちも暇ではありませんからね。手早く終わらせますよエンペリクス」
「はいお姉さま。コイツ嫌がりますから何かもうランダムにしましょうか。どうせ渋って時間かかりますから」
「そう?私は構わないけど」
「急に雑になるなよ!嫌だぞ!チートも何か失うのもっ。このまま送ってもらえばそれでいいんだって」
「ね?」
「ですね。その方がガチャみたいで嬉しいでしょう」
「嬉しくねー!ぎっ・・・」
そして体の自由が奪われる。何だよこれ、一体どうしてこんなことに。
俺の異世界転生満喫ライフはどこにいっちまったんだ。
「これから始まるんじゃ~ん、ほいっと」
「武運を」
ぺた、ぺた
二人が俺に呪いを刻む。
「んじゃ、ばいばーい」
エンペリクスが指をパチンと鳴らすと俺がいた部分だけ床が消えた。
その下は何もない真っ暗な闇だった。
俺は吸い込まれるようにゆっくりと落ちていく。
「あ、記憶封印するの忘れてたっ」
「マズイですね」
そう言うとメレイアが右手をかざす、その上に巨大な槍が姿を現す、まるで神槍だ。
どすんっ
次の瞬間にはソレが俺の胸を貫いていた。
痛みはない、衝撃だけ。これで俺の記憶を封印したのか?
分からない、ただ俺は自分に起こった一方的すぎる出来事に呆然とするしかなかった。




