023 海でのお仕事(夕方の部)
「にゃ~、これも魔石にゃ~」
私はキラキラと光る石を水面から拾い上げた。陽光に翳すと綺麗な朱色をしている。これで11個目、魔石は結構な数が落ちている。色も形も様々で、キラキラした石があったな~と思えばそれは魔石なのだった。
「すごい大漁だにゃ、何で誰も拾わないんだにゃあ」
「使い道のないクズ石だからだよ」
興奮気味の私に対して冷め切った態度のフローベルさん。造船所に向かう道中、浅瀬にあった魔石を見つけた私は疲れていたことも忘れて夢中で魔石を拾い始めた。ちょっと歩けばキラッとして、またちょっと歩けばキラリと光ってここにいるよと教えてくれる。造船所に向かわなければならないのは重々承知なのだが異世界要素が私の心を掴んで離さないのだ。何だかんだ言ってフローベルさんも怒るわけでもなく私のやりたいようにさせてくれる。魔石を入れる袋もくれたし、こうやって私が休める時間を取ってくれてるのだろう、優しいなあ。
海の魔物が死んで、その魔力の一部が結晶化した物、それが私が拾ってる魔石だ。純粋な魔力の結晶体なのだが、フローベルさんがクズ石と呼ぶようにゲームでいうところのMPで考えるとその数値は0~1となる。魔石という名の綺麗な石というのが正解らしい。でも私にとってはお宝なんだよなあ!
「魔物の強さに比例して魔石の大きさも変わってくる。大きいってことは強い魔物から出た魔石ってことになる。その分、魔力も潤沢に含まれてるだろうね。分かりやすく言うと、そうさね、冒険者ギルド風にランクで言うならBランク以上にならないと市場価値が無いんだよ」
そういうモノならわたしも年甲斐もなくはしゃぐんだけどねえ。
フローベルさんは金銭的価値がないと嬉しくないらしい。商人的発想ですね~。ロマンですにゃ、魔法というものに対しての憧れですにゃ。あ、12個目だ!
「そうなんですかにゃ。そういうランクの高いものはどこで取れるんですかにゃ?」
「ん?欲が出てきたのかい?」
「そりゃ良いものの方がいいですにゃー」
「海の中だよ。そういうクズ石は軽いから波に運ばれて陸まで打ち寄せられてくる。良いものは重くて底に沈んでるのさ。でも間違っても潜ろうなんて考えないことだね。蒼珠のおかげで強い魔物が寄り付かなくなってるのはせいぜい200か300メートルまでだろうからね。それに海の中じゃ自由が利かないだろ、クズ石になる魔物にだって海の中じゃ勝てないだろうしね」
「にゃー?蒼珠って何ですかにゃ?」
「ああ、知らないのかい。海神アクアネスの守護宝珠のことさね」
「何それかっこいいにゃ!」
「どこがかっこいいんだか・・・。ほら、町の中心に光ってる玉が見えるだろ。あれが蒼珠だよ」
フローベルさんの指差しを目で追うと、遠くに細い柱が立っているのが見える。あそこが町の中心ってことなのか。その柱の先端が、先端が・・・、遠くてよく分からない。けどたぶん光ってる。太陽の光なのか発光してるのかは不明だが、キラッとしている、気がする。
「蒼珠ってのは町を守る結界を作り出す魔法の珠のことだね。人間の町には魔物が寄り付かないように必ず1つは守護宝珠がある。ここが港町だから海神アクアネスの御名を冠しちゃいるが、王都なら聖珠だし、火山地帯の町に行けば炎珠なんて呼ばれ方をしているね」
「便利ですにゃー」
なるほどなあ、私が知らないだけでしっかり異世界要素が町を守ってるのか。そういえば町の門番もゆるゆるだったし、町にくるまでにすれ違った冒険者もゆるんでた気がする。守られているからそこまで気を張らずにいいのかもしれない。
「便利っちゃあ便利なんだけどね。それを管理していくのが問題なのさ」
「にゃ?」
「蒼珠は定期的に魔力を籠めなきゃならなくてね。それができるのは一流の魔法使いだけだ、それすなわち魔法使いが町を守ってるということさね」
「何か問題があるのかにゃ?」
「大アリさ。って軽々しくこんなこと言えなかったね、ほら見な」
苦々しい顔のフローベルさんが顎をしゃくると極彩色のカラスみたいな鳥が飛んでいく。あ、初めて町に来た時に見た鳥だ。
「あれは魔法使いの使い魔さね。ああやって町に異常がないか監視しているのさ」
「にゃー。フローベルさんはその魔法使いが好きじゃないのかにゃ?」
フローベルさんの言い方だと魔法使いが悪者のような印象を受ける。少なくともフローベルさんは良い感情を抱いていない様子。
「偉大な方さ、でも問題もあるってことさね。さ!そろそろいいだろ、仕事に戻るよ!」
「あ、待ってくださいにゃ」
話を打ち切って歩き出すフローベルさん。そうだった、仕事しなきゃだった。
私も慌てて後をついて行く。
それにしても魔法使いなんてクセがあって当たり前のようなイメージもあるが、町を守ってる魔法使いってどんな人物なんだろう。
******
「少し肌寒くなってきたね」
フローベルさんがぶるっと体を震わせる。もう夕方だし気温が下がってきている。海からの風も冷たいものだった。
金属を叩く音とカタイものがぶつかる音、ざわざわとした大勢の人の気配に飛び交う怒声。
造船所は広く大きく、そして人が多い。
酒場で総勢70人で働いてるなんて聞いてたけどガタイの良い男たちが働いてる現場はある意味戦場だった。
「にゃー。入っていったら怒られそうにゃー」
私とフローベルさんは造船所の入り口で待機している。フローベルさんが近くにいた男に声を掛け、現場監督の一人を呼んでもらい端材を譲ってもらうように交渉した。そして何人かの男たちで、薪として使いやすいものを見繕って台車に積んでもらっている。台車は畳を半分くらいにした大きさで、運搬用の荒縄と両側に車輪がついている。
「どうだい。船作りは順調かい?」
「ああ、今は全体の6割ってとこだな。あと半年もしないうちに完成だぞ」
フローベルさんと現場監督が世間話をしている。
異世界の船はどんなものなのかというとパイレーツな映画で観た船のような木造船をイメージすると分かりやすい。中まで入っていけないのでここから見た感じだと映画のセットを作っているような印象だった。
「薪、積み終わりましたー!」
「ご苦労さん、それじゃ後はよろしくね」
「おう、用意しておくぜ」
端材を積んだ台車の先頭に私がつく。荒縄を持って、浜まで台車を引いていく。
あれ?かなり過酷なんじゃないでしょうかね?
私が引っ張るとゆっくりと台車が動き出す。ギリギリ運べる重さかもしれない。フローベルさんは横について歩いている。
「これを後3回だよ。落とさないように運びな」
「にゃー・・・」
行きは道草食ったけど塩作りの浜辺と造船所はそんなに離れていない。猫耳美少女にやらせる仕事じゃないけど、塩作りとどちらが大変かと言われれば皆でやる塩作りの方が楽かもしれない。
「これをあと3回ですかにゃ・・・。フローベルさんは本当に手伝ってくれたりしないんですかにゃ」
「手伝うのは簡単だよ。でもあたしは普段いないからね、アテにしちゃ駄目だよ」
「にゃー・・・」
これはポルェ族に与えられた仕事。町での雑用を一手に引き受けるポルェ族は体が資本で、力仕事が基本のようだ。これは私には向いてないなー。他のポルェ族と比べても体力なくてか弱いし、もっと楽に稼げる仕事はないものでしょうか。酒場の仕事は楽だったなあ。
「ヨシ、これは明日使う分だからね。そこの小屋に入れときな」
浜辺に戻ってくるとフローベルさんは近くの小屋の扉を開けた。物置ですね、中には端材がぎっしりと並べて置いてある。
「あるやんけにゃー!?私が運んでくる必要ありましたかにゃー」
「それは万が一のためのストックだよ。そうさね、もうすぐ暗くなるし積むのは他のやつにやらせるか・・・。ルクス、あんたはそこにある空の台車の方を引いて、また行ってきとくれ」
「あと3回もですかにゃ?」
「そうだよ。もう頼んであるんだからね、きっちり責任持ってやっとくれよ」
「にゃー・・・」
海に沈んでいく夕日を横目に少女は造船所までの道をひたすら進む。灯りもなく次第に暗さが増していく中、ただ一人ガラガラと台車を引いて行く。
異世界での生活というものは想像していたよりも地味で過酷なものだった。
そこにぽてぽてと近づく複数の気配があった。
「にゃ?」
「がんばえー」
「てつだうー」
そこには何とたくさんのポルェ族たちの姿があった。
台車を後ろから押す者、一緒に荒縄を引っ張る者。応援し、ともに歩む者。
「みんな・・・」
「しおおわったーてつだうー」
「いここー」
良かった。私、独りじゃない!
仲間想いのポルェ族がルクスの応援に駆けつけてくれた。正直誰が誰だか区別つかないし、そもそも知らないけど。
寒かった心も温かくなった気がして、元気が出てきた。仲間っていいね。
夕日に伸びた影さえも賑やかに、ルクスたちは造船所へ向かうのだった。




