022 海でのお仕事(午後の部)
「ルクス、戻りましたにゃー」
漁港に戻るとソウロたちが整列してフローベルさんが何か指示を出しているところだった。
「遅いよ!何モタモタしてるんだいっ」
「すみませんにゃっ」
慌てて列の端へ並ぶ。もう昼休みは終わってしまったのか。細かい時間設定も無かったし、これはセーフよりのセーフだと思うのですが。
「では早速仕事に向かうよ。ルクス、ちゃんと飯は食べれたのかい」
「バッチリですにゃ。レシピも貰ってきたので今度からこの通りに作ってもらえればご飯事情は解決ですにゃ」
「ほう、でかした。後でデニーロに渡しておくよ」
フローベルさん的には、毎日お金を出してご飯を食べずに済むのが良かったのだろう。レシピを渡すと上機嫌に懐へ仕舞い込んだ。
「さあ、午後の仕事は塩作りだよ。ルクス、みんなについて行きな」
「はいにゃ!」
ソウロたちの後に続いて行くと先程とは別の浜に出た。そこでは人族のおばちゃんたちが大きな鉄鍋を準備して待っていた。
「あれ?フローベルさんどうかしましたか?」
「ちょいとこの子に付いていてね。ミミだが他のポルェ族と一緒に働かせることになったのさ、よろしくしてやっておくれよ」
「へえ、可愛いねえ」
「ルクスといいますにゃ。皆さんよろしくお願いしますにゃ~」
「よろしくね~」
「しっかりと頑張るんだよ」
おばちゃんたちに挨拶する。40代くらいのおばちゃん4人がそれぞれ平たくて大きな鉄鍋を用意していて、鍋の周りには木桶がたくさん置いてある。鍋には火がかけてあり、鍋自体を熱しているようだ。
「いいかい?海水を熱して蒸発させると最後には塩が残る。塩作りの最初の工程だ。お前たちの仕事は鍋に海水を注ぎ続けることだ。日が暮れるまで続けることになるだろうが、絶やさず注ぎ続けるんだよ」
「わかりましたにゃ」
すると別の方向から新たなポルェ族が現れる。その数1、2、3・・・の13人。それらが私たちと合流して計20人(私を含めれば21人)のポルェ族が揃った。
「にゃあ。フローベルさんこっちのポルェ族は?」
「砂を運んでた連中さ。塩作りは人手がいるからね。分けてあった連中をいくつか呼び戻したのさ。さ、ルクスはここの鍋を担当しな。いいかい、1つの鍋に5人ずつ付いて常に海水を入れ続けるようにするんだよ」
「じゃあ始めますよ。ポルちゃんたち、海水を汲んできて」
「あいー」
「はいですにゃ」
砂なんかを運ぶって一体どんな仕事をしていたんにゃ?
貝獲り以外にもポルェ族が任せられている海での仕事はたくさんあるようだ。
まあとにかく今はみんなのマネをして塩作りに励むとしよう。
ポルェ族たちは木桶を持って次々に海へと向かっていく。ポルェ族用に作られているのかサイズが小さい。一度に1リットルぐらいしか入らなそうな木桶だった。
みんなは浜から少し離れた岩場の方へ歩いて行く。そこでしゃがみ込んで海水を汲んでいる。
むむ、何度も往復するのだから岩場まで行かずにすぐ側の砂浜で汲めばいいのでは?
私は足元に波を受けながら木桶いっぱいに海水を汲んだ。
「ルクス、そっちの水は砂が混じりやすい。向こうの岩場から汲んできな」
「あ、はい」
わざわざ遠くに行く理由がちゃんとあったようだ。みんなに倣い岩場で海水を汲む。岩場の方は水深が深いようで、手首まで海に沈めて木桶を満たした。
「にゃ・・にゃにゃっ・・・にゃんにゃ」
汲んだのはいいものの、鍋まで距離があるので歩く度にせっかくたぷたぷにした海水がこぼれていく。
鍋にたどり着く頃には木桶の海水は半分にまで減っていた。意外と難しいよこれ。欲張らず最初から半分くらいにしとけばよかったのか。
「ルクス、どんくさいねぇ。他の連中を見習いな」
「え?」
こぼさないことに集中していて気が付かなかったが、他のポルェ族は海水をこぼすことなく運んでいる。まるで横にスライドするように動くではないか。足運びが忍びの者だよ。
「さすがですにゃ~」
素直に感心する。熟練者のみなさんですか、バランス感覚が良いのだろう獣人だからかな。だから私がどんくさいわけじゃないんだからね。
それにしても私とどこが違うんだろう。ぽてぽて歩いているように見えて体幹がしっかりしているのだろうか?これは負けてられないね。一人だけこぼしてるとか、これはもう早くも本気出しちゃうんだからね。
「よし、私も頑張るんだにゃー」
おばちゃんたちが大きな木のヘラで休まずにかき回し続ける。そこに一定のペースで海水が注がれていく。火力が強いのか鍋がシュワンシュワンいっている。近づくと熱気がすごい、おばちゃんたちは汗を掻きながら手を止めることなくひたすらにヘラを動かし続けている。常に海水を足すので温度が下がって沸騰はしないが、岩場から海水を運び入れる度に鍋の中が変化していく。最初はただの海水だったが、次第にとろみのようなものができ始めて、明らかに固形のものが見え始める。それはだんだんとうっすら茶色を帯び始めてきてザラザラしたものになってきた。
「ふ~~。はい、一旦海水は止めてねー!」
だいぶ定まってきたのだろう。おばちゃんが私たちにストップをかける。うぅ、疲れた。軽く30往復以上はしただろうか、途中で数えるのは疲れてやめた。最後の仕上げと言わんばかりに、ザックザックとかき混ぜていく。こんもりと山になった塩が私たちが働いた証です!
「よし、こんなもんかな。はい、完成でーす」
完全に水分を飛ばして出来上がったのは茶色の輝く砂のような塩だった。
海から塩を作ると白い塩ができる。岩塩などは多少の鉄分など他の成分が混じっていると赤かったり、ピンク色の塩になる。なのでこの塩は何かしらが混ざっているのだろう。
4つの鉄鍋で同時進行していた塩作りはほぼほぼ同じくらいに終わった。私もたくさん海水を汲んだので途中からはあまりこぼさずに運ぶことができるようになったよ。
おばちゃんたちが全ての塩を一つにまとめていく。塩の話なのに申し訳ないが、日本のスーパーで売っていた1キロの砂糖の袋5つ分くらいの量の塩ができたと思う。頑張ったなぁ。
「じゃあ2回目いきますよー」
「あいー」
「え?」
それを合図にみんなが海水を汲み始める。ええええ。当たり前のように動き出した流れに反して、私はフローベルさんに縋りつく。
「終わりじゃないのかにゃあ?」
「これっぽっちの量じゃ全然足りないよ。町で一日にどれだけの塩を使うと思ってるんだいまったく。日が暮れるまで続けると最初に言ったじゃないか」
「にゃ~」
「最低でも100キロは欲しいね」
「ひゃっ、もう疲れてヘトヘトにゃ~。せめて休憩とか欲しいですにゃあ」
「何だい、体力がないねえ。すぐ休みたがるなんて怠け者のポルェ族、今まで見たことがないよ!」
「あまりに過酷!」
なんてブラックなの!文句の一つも言わずに黙々と作業を続けるポルェ族たちは元気いっぱいで活き活きとしている。え、あの姿勢見習うべきなの?いや私はか弱い女の子ですよ?ポルェ族だからって一緒にされても困るんですけど。
「ならルクスには別の仕事をさせるかね。燃料に使っている木材だがね、これは造船所で出た端材を使っているのさ。これからあんたには造船所まで行って新たな薪を取って来てもらうことにするよ。今日の分は確保してあるんだけど、どのみち一通り仕事はやらせるつもりだから、かまやしないかねぇ」
「休む選択肢は無いんだにゃあ。でももう手首が限界だからそっちの仕事をやりますにゃあ」
「よし、ついてきな」
「はいにゃ」
私はフローベルさんにくっついて造船所へ向かうことにした。歩くのも疲れるがもうしょうがない。素直に今日の分があるなら休ませてくれてもいい気がするけど、明日も海での仕事だし、遅いか早いかの違いでしかないのかもね。そう自分に言い聞かせて歩きながら休むことにした。うん?




