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その14


 彼らが話をしていたことを聞かなかったことにした、そうすることが一番いいと思ったから。

 なんとなーく、聞いてしまったことに対する気まずさを隠しつつ、僕はキリがいいタイミングで何事もなかったかのように保健室に入る。


 今帰ってきたことを疑いもしていないのか、彼女は普通に、


「お手伝いしてくれる人見つかったんですね、よかったです。鑑定の件ですけど、早速今日行きますか? 明日はちょうど休みですし、ちょうどいいと思うんですけど……」


 頼んだ件について、予定を提案してくれた。

 僕は、季水のように学生時代から生徒会の仕事を受け持ったり、次期当主の引き継ぎとかがあったりしたわけじゃないから、別に忙しいわけじゃない。

 だから、頼んだ身としては彼女の予定に合わせるつもりていたから、提案してくれて助かった。


「……それで良いよ、ありがとう。そろそろ、授業始まるだろうし、授業終わったらまた保健室に来て」


 それだけ告げて、僕は柘榴に寄り添うハッサクに声をかける。


「ハッサクが作ってくれた石鹸、販売してもいいかな?」


 一応、今は柘榴の従魔だからね。

 するとハッサクは、了承の意を示す丸を作って、許可をくれた。

 まあ、内心は許可はくれるだろうと思っていたが、一安心だ。


「あとは何が必要なんだ?」


「あとはー、予算に合わせた金額の買い物行ってー、低品質の回復ゼリーを作ってー、ハンカチを縫って刺繍するくらいですね。品質上げに失敗したポーションはたくさんあるので、かなりの数は販売できそうです」


 大量生産は得意だし、何とかなりそうか。

 とりあえず、予算が来るまで立て替えて、準備を進めるかぁ。晴火先生とコハクの監視もあるし、無茶できないからねー。


「……無茶すんなよ」


 ほら、言った。わかってますよ。


「今回は僕の単独行動ではないですから、周りの人に迷惑かけないようにはしますよ」


「そうじゃない。……お前は明らかに異性を避けてきた、それは意識的じゃない。無意識的で、だ。それがどう言う意味でかわかるか?」


 ……晴火先生が言いたいことが理解できないんだけど、なんだろう?


「それは、お前が傷ついた要因が異性であると安易的だが判断しざるおえない。今回許したのはあの女子を選んだからだと言うことを忘れるな」


「? わかりました」


 確かに、僕は異性によるトラウマでこうなったと思う。

 思い出したのは表面的なトラウマで、根本的なトラウマの記憶を思い出そうとすると頭に激痛が走り、思い出せないからなんとも言えないけど。

 否定はできないので、素直に忠告に「うん」と頷くことしかできないのだ。


「……あの女子なら良い理由は、わからないままでいい。他の女子が近づいてきたらすぐに言え、把握しておく」


 う〜ん、どうしたんだろ。

 いつになく、晴火先生が言いたいことがわからない。わからなくていいとは言われたけど、とても気になる。

 お腹空きすぎて、過保護が加速してるのかな?


「お昼まだでしたよね? お腹空きすぎて悪い方に考えてすぎてません? 今すぐ用意しますね」


 心の内をそのまま話せば、「お前なぁ……」と呆れたような呟きが返ってきた。……でも、今わからなくていいって言ったのは先生の方ですよ?そうでしょ?


 それからは、柘榴にミルクをあげながらのんびりと遅めの昼食をとりながら、先生の忠告をのらりくらりとかわしつつ、会話を楽しんだのだった。


「なんで深夜なんですか?」


 授業が終わり、保健室にやってきた彼女が早々に発したのがその言葉だった。

 行く時間まで自由にしてくれてて構わないんだけど、真面目だなぁ。まあ、責任感があるのは良いことだし、あえてつっこむべきところじゃないよね?

 ……ん〜、話してなかったっけ? それよりも重大なことを話してないんじゃないか?


「……それより、僕はいつまで君のこと、彼女呼びすれば良いのかな? そっちの方が重要じゃない? 」


 まあ、彼女は僕の名前を知ってるけどね。


「ごめんなさい、話したつもりでいました。水河るり(みずかわるり)と言います」


 るりさん、ね。

 僕の周りの女性は戦闘狂だったり、個性派が多いからなんか新鮮。……まあ、僕はなぜか20歳まで恋愛禁止だから、青春とは距離があるんで、関係ないですけど。

 それに、推定葉月先生に片想いの彼女が、僕に恋愛感情を向けているとは思えないし。

 まあ、僕に恋した人はもれなく、ヤンデレ化するので、彼女は僕のことをそう言う目では見ていないのだと思うと安心する。


「るりさん、それはね、ゾンビ化した奴らが活動するのが深夜から早朝に変わる5時間だけだからだよ。活動時間以外で鑑定しても正確な結果が出るとは限らないから、活動時間に鑑定してもらいたかったの」


「そうだったんですか……」


「それに後天性スキルより、先天性スキルの方が精度が高いからね、深夜に活動させるなんて迷惑極まりないけど、付き合って貰えると助かるな」


 そう言って、僕は彼女の様子を伺ってみる。

 なんかよくわからないけど、顔が赤いのとどこか納得したような顔をしてる。顔が赤いのは多分、僕が一応貴族だから緊張しているからだとして、納得はしてくれたようで安心した。

 ほっと胸をなでおろした時、彼女は何か思いついたような顔をして、


「じゃあ! こんな早くに来る必要なかったんですね……」


 少し照れるように笑ってそう言った。

 うん、そうだね。でも、癒されたから許す。


「ふふっ、そうだね。夕ご飯作るから食べて、ゆっくり深夜を待とうか」


 そんな会話をしながら、僕はお客様をもてなすために、お茶を淹れる。すると、立場を気にしてかアワアワとしだす、るりさんは見ていてとても面白かった。


「……お客様、だからね」


 もてなすのに立場は関係ないでしょ?

 僕は丁寧にお茶を注ぎながら、一緒に出すお菓子を戸棚から漁る。そんなのんびりした空間とはそぐわぬ勢いで、保健室の戸が開いた。


「……ッ!! るりくん、どうしてここにいるの?! アイツは皆の従魔を奪った奴なのよ!! そんな奴に恩義を感じる必要なんてないわ、帰りましょう!!」


 それは、虐待されていた子を保護したわけで。奪う? なんてしてないよ。現に、問題がないテイマーの従魔は保護してないわけだし。

 理由がなきゃ、信頼関係の築けてるパートナーを引き裂いたりしないよね?


「僕は助けを求めてきた子だけを保護したつもりなんだけど? それに奪ってないよ、ちゃんとした手順で保護したし」


「結果的に奪ってるじゃない!!」


「なんでそうなるの? じゃあ、友達が何か間違えて正す時に暴力を振るうの? 振るわないでしょう?」


 暴力で、暴言で手に入れたものは支配でしかないし、信頼でもない。

 従魔は友人であり、家族でもあり、パートナーでもある。そんな存在を暴力で支配するなんておかしいでしょう?


「奪われて困るくらいなら、暴力なんて振るうなよ。君らに向けているあの子達の視線がどんなものか気づいてる? 恐怖だったよ。

怯えるほど傷ついている子を守らないって、なんのために権力があるの、って僕はそう思う。だから、保護した」


 るりさんとは、仲良くしたいなぁと思っていた温かな気持ちが冷めていく感じがした。

 別にるりさんが悪いわけでも、仲良くしたいなぁと思う気持ちがなくなったわけでもない。例えるならそう、トラウマを塗りつぶせるような空間が生まれそうな時に、その穏やかな空間を真っ黒に塗りつぶされたような感じ……。


「奪ったって思うなら思うが良いさ。でも、るりさんが僕に恩義を感じてる気持ちとかは抱く必要ないと言い張るのは違う。るりさんは、るりさんの気持ちがある、君には支配できないものだよ。

怪我と用がないなら帰ったら?」


 逃げるな……。るりさんはきっと違う。

 僕が知っている女たちのようにならない、そう信じたい。だって、晴火先生が大丈夫だって言った! 僕の感覚が信じられなくても、先生の感覚なら信じられる。


 うっ……、やばい。この感覚はまずい。

 死にたくなるくらい頭がいたいこの感覚、フラッシュバックする前の症状では……?


『……はgめeyしく○○もらった。kみが☆ieee……、×××だけのものに○○い。なんで×××の、×××ナイ、よ』


 なんだ、この雑音はッ……!

 ……痛い、苦しい!! 頭の中がぐるぐるして、思考が追いつかない気持ち悪さで、僕は胃液を床に吐いてしまった。


「……零さん!!」


 ……だれだっけ? ああ、思い出せない。


「琥珀、琥珀。助けて、お願い。あの時みたいに、×××だして」


 あれ? 僕は何から助けてもらっ……ッッ!!


「……琥珀、琥珀!!! 助けて、どこにいるの?

また、あいつに××××られちゃう!!」


 あいつってだれ?

 僕は何されたって言った?


「いやぁぁああ!!」


 そう叫んだ瞬間、ふわっとしたものが僕の顔を包んだ。つい、すぅ……と吸い込むと、日向のにおいが混乱した頭をほんの少し冷静にさせた。


「……コハク……」


 僕はコハクのふわふわしたお腹に顔を埋めた。それを見守った後、パニックになった僕を守るかのようにコハクは唸りを上げた。それにビビった「何よ!」と捨て台詞を吐き捨てて、保健室から遠のく足音だけが聞こえて、余計な力が入っていた肩の力が抜けた時。


「……零!!」


 慌てたような晴火先生の声が聞こえて、僕は安堵し、意識が遠のいていった。



「……わかったろ。

零の異性に対する恐怖心が強いのは、なんらかの強いトラウマが関係しているのは間違いない。

零と関わるなら、この状態を対応できるだけの、支えられるだけの覚悟が必要なんだよ。ただの憧れで近づいたなら、今ならクラスメイトくらいの距離感に戻れるぞ」


 晴火さえも触るな、と唸り続けるコハクの意思を尊重して、吐瀉物を片付け、消毒を優先する晴火。そんな彼は作業をしながら、呆然とするるりにそう語りかけた。

 すると、呆然としていたことが嘘だったかのように、真剣な眼差しを浮かべ、何度も横に首を振った。


「……僕は、零さんに助けられました。

親の意思に反する気持ちを抱きつつ、大切な従魔をムチを振るう日々から、解放してもらいました。そして、自分の性別に悩むことにも終止符を打ってくれました。僕は零さんが好きです、尊敬しています」


「零は受け入れてくれないかもしれない、その覚悟もしてそばにいるつもりか」


 その言葉に泣くのをこらえながら、るりは笑って見せた後、


「それでも、そばにいたい。

本当の気持ちを一生話せなかったとしても、僕は零さんただ1人を愛していきたい。

……でもそれが、零さんを苦しめるんですよね? それなら、一生僕からこの気持ちを告げることはしません、だからせめてそばにいることだけは許してもらえないですか? ……コハクさん」


 彼女はそう言った。

 そんな彼女をじっと、コハクは見つめた後、唸るのをやめて歯を見せて笑った。

 そして、また唸る。それはまるで、何かあれば遠慮なく零から引き離すと牽制するかのようで、るりは思わず背筋を伸ばした。


「……一応、保護者代わりなんですけど、頼む相手は俺なんじゃないんですかね??」


 拗ねたようにそう言う、晴火に。


「コハクさんに助けを求めていたので、許しを請うならコハクさんかな、と思ったのでつい……。コハクさんって何者なんですかね、ペットと言うより可愛い弟を懸命に守るお兄ちゃんって感じなのかなって個人的に思うんですけど」


 そう疑問を投げかけるるり。それに、晴火は、


「さあな、コハクは心も身も守るボディーガードみたいなもんじゃないかとは思うが……。それにしても、彼に対する周りの人間の絶対的信頼は高いぞ。そんな彼が許したんだ、覚悟を決めてそばにいることだな」


 ついでというかのように、「お前には唸らなかったってことは認めたと言うことだが、同時に監視されてるのも理解しておいた方が良い。コハクは俺と違って、完全なる零の安全を優先する。だから、危険を招く縁と判断されたら情もなくそばにいることを許さないだろうからな」とボソリと呟いた。


「……本当なら諦められたら、零さんにとって、発作を起こさず済むんでしょうね。でも、苦しい思いをしても、私は彼のことを好きでいたい。だから、いくら監視されても構いません。

私は、コハクさんにとっても、零さんにとっても危険因子なんでしょうね。私が苦しめる要因にならないか監視され続けるのも、一生気持ちを伝えられないかもしれない覚悟も出来ています」


 晴火の呟きに対して、彼女はきっぱりとそう宣言した。



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