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その11


「無理難題を押し付けておいて、森調査に関わった人を集められないとは言わせないからね?」


 にっこりとそう告げれば、ギルドマスターは何故かしきりにハンカチで汗を拭いながら、いそいそと来客室から去って行った。

 その数分後、偶然一人ギルドの酒場で食事をしていたところを捕まえてきてくれたらしい。


「零さん、ですよね。今回は無理難題を押し付けられて大変でしたね」


 全く、その通りだよ。


「運が良かったですね。零さんがこの依頼を受ける前、最後に調査したのは僕なんですよ。だから、他の人より覚えていることも多くて、役に立てると思いますよ」


 頼もしい限りです、その言葉を信じましょう。


「僕が現場を張っていたのは、一ヶ月です。その間、日中必ずどの個体も動くことはありませんでした。やつらの活動時間は決まって深夜0時からの5時間です。その5時間の間にやること、それは仲間の増殖だと思います」


 ……5時間かぁ、短いな。しかし、その短い時間になぜ増殖をするのか、わからないことだらけだな。


「やつらには2種類存在して、本体と分裂体が存在します。本体は増殖を担い、分裂体は本体が増殖している間守る役目と増殖するための媒体を作る役目を担い、火が開けたと同時に陽の光に焼けて消えます」


「分裂体の方は回復ポーション、浄化とか使ったことはある?」


「いえ、俺は生体観察に徹していましたから弱点を探る実験はしていません。恐らくですが、分裂体の方は1日限りの命であるため、弱点を探るなら本体ではなく、分裂体と接触するのが良いかと思います」


 なるほどね。

 それから? と話を続けるように促せば、素直に冒険者は話を続ける。


「分裂体は動けますが、本体は動くことはできません。ですから、分裂体は必死に媒体である生き物を探し、本体に献上することで、本体は増殖を可能としていると思われます。だから、あの森には魔物が寄り付かないし、いない。よりつけば最後、増殖するための媒体にされてしまいますから」


 つまり、森のゾンビ化と評される現象は、増殖するための現象であるから、土自体は腐敗していないと言うことなのかな?


「森を残したい気持ちもわかりますけど、俺は取り返しのつかない事態になる前に燃やしてしまった方が良いと思いますけどね、極論になりますけど」


 まあ、その気持ちも分からなくもないけど、あの森がなくなると治るはずだった人が治らない事態が生まれてしまうのもまた事実。

 出来るなら、燃やさずに現存するのが国民のためになる。燃やすことは最終手段としたい、そう考えて行動してるからには最終手段をやると指示する覚悟もしている。


「気持ちはわかるけど、それを決断するのは時期早々だと思うよ。観察に徹した君にだから聞きたい、本体の場所を把握していたりする?」


「はい、次この調査を受ける人にこの地図を渡そうと思っていたところにギルドマスターから声がかかったのでちょうど良かったです」


 赤ペンでばつ印が書かれている地図を渡され、ありがとうとお礼を言い、地図代と情報量を上乗せして代金を渡す。


「貴重な情報ありがとう。これは依頼料と地図代として受け取って、僕の立場からすると無償の提供ほど後が怖い。だから、受け取ってもらえるかな」


 対価を支払っておかないと、後々借りを返して欲しいと厄介ごとに巻き込まれるのは面倒だからね。


「じゃあ、遠慮なく」


 彼は対価に何か言うことなく、すんなりと受け取ってくれた。……飄々としているが、学園の生徒よりは好感が持てる人物だったな。


「ギルドマスター、これまでの森調査の記録とかあったりしないの? 1人から直接話を聞けたから、記録があれば見れれば有難いんだけど。ないならそのまま森に行くだけだから」


「あ、あります」


 無駄に冷や汗をかくのか、頻繁にハンカチで拭いながら、奥の部屋へと消えて行った。

 ……怯えさせるくらい気が立っているんだろうか、僕は。確かに、学園に入ってから、従魔に対する扱いの酷さを見て、気が立っているような気がする……。八つ当たりはいけないな。

 そもそも、森のゾンビ化の詳細がわからなすぎて、苛立っていると言うのもあるが。


「零さん、これが全てです」


 渡されたのは厚さ15センチの紐で閉じられた書類。その厚さを見て、ため息が出る。

 その厚さの資料に書かれたこと全てが違う情報であれば、解決策があるかもしれない。が、恐らくあの森の状態からして、情報は重なっているだろうことは簡単に予想がつく。


「ありがと、借りていっていい?」


「ええ、現在森調査の依頼は取り下げています。零さんしかこの件に関わっていないので、なくさなければ持って行って構いません」


 あっさり了承が出て、それで良いのかとも思ったけども言わないでおく。資料をアイテムボックスに入れて、さっさとギルドから森へと移動することにした。

 目的として、分裂体と本体があるうちの本体の位置を確認したいと思ったからだ。必ず、木とは違う特徴があるはず、地図にある本体以外にも存在しないかを探すのが当面の目標にしよう。

 同じことを繰り返す作業になりそうで、今から欝々とした気分だ。後、鑑定できる人を探さなきゃ、土が腐っていないことの証明をしないといけないし……、腐った匂いがしてないからといって腐ってないとは限らないから証明しなくちゃいけない。


「ふぅ〜、咲斗を呼ぶかぁ。ただな、今連絡の手段がないからなぁ。困った」


 独り言を思わず呟きながら、考えごとをしているうちに朝明の森に着く。まあ、どうすればいいかは資料から情報を得てからいいかな。

 さてと、現時点で分かっていることはどれだけあるんだろうかね? と、1ページ目を開く。


 森調査1日目

 森の異変を感じたので、依頼を受けながら、観察していこうと思う。

 きっかけは、ご遺体を発見したら弔うことがマナーだから弔おうとした時、どこからか種が飛んできて遺体にすぐに芽が出て急成長したところを偶然発見し、この森に異変が訪れていることに気づいたからだ。


 ()()()()()()()()()()()()、ね? 引っかかるなぁ……、まあとりあえず続きを読まないとね。なに、なに……?


 急成長したそれは、燃やせば悲鳴をあげた。まるで生きているかのように、それを見た他の冒険者が樹木を燃やしていると苦情を入れられた。


 森調査2日目。

 ギルドマスターから厳重注意を受けた。

 その時、目撃したことをギルドマスターに報告したが、信じてもらえなかった。遺体を栄養とする植物なんて存在しないの一点張りで、やはり独自で調査する他ないのかもしれない。

 幸い、私には浄化スキルがある。森に泊まり込んでも違和感はない。ゾンビが現れていないかの見回りと夜行性のモンスターの依頼を受けていれば、生計も成り立つ。

 その結果、午前0時から5時間くらいが奴らの活動時間だということがわかった。


 森調査3日目

 奴らはやっぱり、昨日と同じ時間帯、5時間くらいしか活動しなかった。

 新しく発見した奴らを燃やそうと試みたが、成長しきっているせいか、初めて見つけたやつのように燃やすことは出来なかった。燃やせるやつと燃やせないやつの違いがわからない。


 森調査4日目

 昨日と同様の時間帯の活動を確認できた。

 今日は、昨日とは違い、新しい奴らの発見を試みようと思う。

 芽が出たばかりの奴らは、周りに人がいないか確認した後に燃やす。なぜか、そうしなくてはとそう本能で感じたからだ。証拠隠滅のために、燃やしたことがわからないように浄化して炭を落としておくのを忘れない。

 燃やせない奴らは、地図にマークしておく。コイツらは不気味だ、不自然に枝を揺らすだけで私に何かしてくるわけじゃない。

 ……ご遺体だけでも、回収できないか明日試みてみようと思う。


 森調査5日目

 ご遺体だけでも回収してみようと穴を掘ってみた。が、姿を確認した瞬間、いきなり私に向けて枝を突き刺すような攻撃をしてきた。間一髪のところで避けられたが、避けた時には掘った穴がなくなっていた。

 だが、一瞬確認することができた。見えたご遺体は……、ゾンビ化していた。


 森調査6日目

 変化が起きた。悪い変化だ。

 守るかのように、小さな木の分身体が囲んでいるのだ。一退してしまった。まさか、危機を感じて対策をするくらいの知恵があるとは思わなかった。

 以降、奴らを本体、小さな木の分身体のことを分裂体と呼ぶことにしよう。


 森調査7日目

 分裂体には浄化スキルが効くが、本体には浄化スキルは人で言う軽いやけどくらいの負傷にならないことがわかった。それなら、本体の弱点はなんなんだろうか?


 森調査8日目

 調査が及んでいなかったところに新たな本体が生まれてしまっていた。1人で調査しているため、燃やせる段階で全て処理できない。着々と本体は数が増えていっている。


 森調査9日目

 分裂体が魔物の死体を本体の元へと運んでいる姿を目撃。死体であれば、触媒にすることが可能であることがわかった。これじゃあ、数が増えていく一方だ。

その時、生まれた本体は処理した。


 魔物すらゾンビ化させるための触媒にするなんて、それなら、昆虫しかいないのも納得できる。……それにしても、なぜ、昆虫はあの森で生きることが出来ているんだろうか?

 昆虫の死体だって、触媒にすることは可能だと思うんだけど。不思議だ。

 あれかな? 花が花粉を虫に運ばせるように、昆虫が存在が必要な意味があるのかな? んー、とりあえず続きを読まないとね。


 森調査10日目

 ついに処理が間に合わなくなってきた。

 ギルドマスターに掛け合っているが、そんな存在はいないと、相手にしてくれない。しょうがない、今は自分のできる限り、本体が成長しきる前に処理していくしか、本体を減らす方法がない。

 とりあえず、私の話を信じてくれそうな冒険者に、特徴を話して、本体が成長しきる前に処理してもらえるように頼んでみよう。


 森調査11日目

 何人か、協力者を得ることが出来た。


 森調査12日目〜

 少しでも、本体を増やさないためにひたすらに分裂体を浄化させていく。


 これから半年くらい、この冒険者は分裂体を浄化させることに集中した、と内容を残している。

 浄化しても追いつけないくらいに成長スピードは速く、この冒険者の結末は引き継いだ冒険者が綴った。……最初に身体に苔が生え、次には芽が出て、芽が伸びていく姿に気が狂った彼は自殺した、遺体すら残さずに。


 彼が行なっていたのは、分裂体の浄化。僕の前に調査していた冒険者が異変が起きていなそうだから、多分、原因はそこらへんが妥当だと思う。

 引き継いだ冒険者、話を聞いた冒険者の報告書をみたが、引き継いだ冒険者が書いてあることは発見者と大して変わらないし、話を聞いた冒険者の報告書に書いてあることは聞いた内容が文章にされていた。そのほかの冒険者の報告書はあまり詳しい書いていなかったから、流し読みした。


「やっぱり一度鑑定する必要があるなぁ。咲斗を夜中に連れてくるわけにもいかないし、晴火先生に知り合いに鑑定持ちがいないか頼んでみることにしよう。まずは図書館に行って似た魔物がいないか調べるかなぁ」


 身体から苔が生えてくるなんて体験したくないしね。……念には念を入れた行動をしないと、自分の命が危ないし、むやみやたらやっても解決策が見つかるとは思えないし……。

 今日は帰ろう、僕は急ぎ足で森を後にした。


「それで帰ってきた訳だ?」


 ミツにぬいぐるみを抱えるかのように抱きつかれながら、保護した従魔のケアのため、触れ合いのリハビリをしながら、晴火先生にそう言われた。


「帰らざるおえなかったんですよ、僕は鑑定持ちじゃないし。僕が知っている鑑定持ちは朱基さんと咲斗くらいで、朱基さんが離れたらあのギルドの運営は成り立ちませんし、咲斗は子どもですから夜中に連れ回すのは身体に良くありませんからね。晴火先生、鑑定持ちの知り合い、いませんか?」


「いるはいるんだが、癖が強いからな、あまりオススメはしない。……一応、教員だから言っておくが、鑑定持ちの同級生とこの機会に合流するのも手だと思うぞ」


 ん〜、気がすすまないなぁ。

 思わず顔をしかめた瞬間、収穫した果物をカゴに入れ、抱え込むように持ちながら、果物をむしゃむしゃ幸せそうに食べるメルが目に入り、その気持ちが吹っ飛び癒された。かわいい。


「葉月先生にも相談してみます」


 とりあえず今はそれしかないようなので、前向きに検討してみようと思う。



申し訳ありません。

体調が不安定で、更新を決まった日時で行うことが難しい状態です。もうしばらく、不定期の更新とさせていただきたいと思います。

安定して更新できる状態になりましたら、また後書きにてお知らせ致します。

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