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その10


 んぁ? 珍しく、晴火先生が大きな声で話してる……、どうしたんだろ?


「ギルドマスターが、この街のゾンビ化した森を回復させる依頼を零にしたいのは話を通したいのはいいが、国が柘榴を預かりたいだと?! それだけはできないな、柘榴を育てるのは零が適任だ。それだけは譲れない」


 時計を見れば、朝8時。昨日は体力を使った後に、ギルドまで行ったから、寝過ごしてしまったみたいだ。

 それより、怒っている晴火先生を宥めないとね、それは僕にしかできない仕事だから。自分の部屋から出て、声のする部屋へ向かい、割って入る。


「柘榴を預かるなら、その話は引き受けないよ。あの子を拾ったのは、うちの子だよ。責任を持って育てる義務がある、それを奪うなら僕は季水とお父様に話を通す。その意味がわかるね?」


 有栖家を敵に回すって意味だよって遠回しに伝えれば、ギルドマスターはやれやれって顔をして、騎士の格好をした人は真っ青な顔をした。


「わかったら、騎士の方は帰ってくれる? 僕らは確かに貴族だけど、光帝の命令を聞く義務なんてないんだよね。僕らは先々代の光帝に懇願されて、貴族を続けてるだけだしさ、命令を聞かなくて良い独立した貴族、それが有栖家なの」


 思わず、威圧を使ってしまったよ。

 すると、威圧され慣れていないのか真っ青な顔をして逃げるように帰っていく。そんな騎士の背中を見送った後、


「それで、ギルドマスターは僕になんか用なの? ゾンビ化した回復してほしいみたいだけど、それって浄化使える冒険者に頼んだ方が早いんじゃないの?」


 何事もなかったようにギルドマスターの要件に話をそらせば、騎士の存在が最初からなかったかのように彼はこう話し出す。


「森のゾンビ化ってご存知ですか?」


 初めて知った。森もゾンビ化するの、怖いね。


「……知らないようですね。森のゾンビ化というのは、放置したご遺体の上に種が落ちることによって、ご遺体がその植物の栄養となり、ウッドゾンビが産まれることによって始まります。

一体の状態で討伐できていれば、森のゾンビ化がすることはありませんが、ウッドゾンビは植物と同じように繁殖します。日中は動きません、深夜から早朝にかけて活発化するので花粉を運ぶ昆虫が近づき他植物に少量花粉が落ちるだけで、その植物はウッドゾンビの分裂体になります。それを長い年月繰り返すことで森はゾンビ化していきます、それはウッドゾンビの本体が増えると森のゾンビ化は倍速に速まっていくのです。そして気づいた時には森自体がゾンビ化する、その状態になっているのが朝明の森。そこをゾンビ化を抑えてほしい、それが今回の依頼です。

貴方に依頼したのは、浄化スキルが使える者でもゾンビ化する抑えられなかったからです。お願いすることはできないでしょうか?」


 知らなかった、ゾンビにも色々な種類があるんだね。引き受けてもいいけど……、浄化ができる人にできなくて僕にはできるとは思えないけどなぁ。


「期待しないでよ、僕は浄化持ちじゃないよ」


「いえ、貴方は緑水の位の中でも飛び抜けて栽培の能力が高い、それは今までの浄化スキル持ちにはなかったことです。ウッドゾンビは植物のゾンビ、植物には植物の育て手に対処してもらおうと考えた訳です」


 やれやれ、これは引いてくれなさそうだね。


「わかった、引き受けるよ。そのかわり、失敗しても知らないからね」


「それは承知の上での依頼です、どうかお願い致します」


 ちょうど、授業一つしか受けないから暇だったし、時間はかかるけどゾンビ化を抑えるくらいならできるかな。そう考えながら、自分の身支度を整えれば待ってましたと言わんばかりに、コハク達が待っていて、僕は依頼に取り掛かるべく出かけようとする。


「……零、お前がやりたくない仕事なら、俺が全力で跳ね除けても良いんだぞ?」


 晴火先生は、過保護なことを言うから、僕は笑ってこう答える。


「そんなことないですよ、僕は植物は好きですから。この依頼が嫌なわけじゃありませんよ。

ゾンビには浄化持ちが良いと思ったから、渋っていただけです。ちょうど、しばらくは暇でしたからね、危ないことはしないので、あまり心配しないでください! じゃあ、依頼を受けている間は柘榴のことお願いしますね。行ってきます!」


 ウッドゾンビ、森のゾンビ化。僕の知っている限り、本では見たことのない現象だ。僕の持つゾンビ対策ではダメかわからないことは、実証するしかないからね〜。


「森のゾンビ化かぁ」


 ハッサクに変わって、従魔の統率をするのはククルが不思議そうに斜めに傾いていた。人間で言うと、首を傾げているつもりなのかな、可愛い。


「なんでもないよ、改めて初めて聞いた言葉だなって思っただけだから」


 ククル達、もふもふはハッサク達のように念話をすることはないけど、なんとなく言いたいことはわかってきた。さっきの答えで納得できたのか、ククルは大人しく、お気に入りの場所であろう僕の頭の上に乗った。

 僕の頭の上好きだね〜。

 それは置いといて、森のゾンビ化だ。この言葉を聞いたのは、さっきも言ったとおり初めてだ。

 それは恐らく、有栖家の土地が遺体が放置されるような状態になるのが無縁だと言うことと、森にいる動植物は有栖家の管理下にあるため、その知識とは無縁だからだろう。


 まずは現場を見ておかないとね、生憎と時間だけは余ってるからさ。

 えっと、朝明の森だっけ? お父様から学園に行く前に地図は渡されているから、場所に行くのは問題なかったんだけど……。


「ここ?」


 たどり着いた先は、樹海って言っていいほど、深く暗い森だった。


「これは、放置してたら事態が悪化しそうな森だね。さて、とりあえず歩いてマップ作りに励むとしますか」


「わん!」


 そう呟けば、コハクが体を大きくさせて、乗れと言ってきたから、苦笑する。……どうして僕の周りはこんなに過保護な性格の人(犬)が多いのかと。

 まあ、こうなったらコハクは頑としても乗るまで動かなそうだし、仕方ない。ありがたく、背中に乗せてもらうかと背中にまたぎ、探索のスキルを使い、マップを開く。


「とりあえず、まっすぐ進んでみようか」


 コハクにそう頼めば、ゆっくりと立ち上がり、進み始めた。

 僕に、ギルドマスターが森のゾンビ化からの回復を頼んできたのは、浄化持ちが太刀打ちできなかったからだけじゃないんだと思う。この森の生態系を保ったまま、回復することを期待して依頼してきたのは間違いない。

 だから、ゾンビを倒すために炎系統の武器を使うのはダメってところかな。


 ん〜、本来道があるべき場所が植物でほとんど埋まっちゃってるし、動物もあまりいない。家の敷地と比べると、この状態はおかしい。


「除草剤とかまくのもなぁ、多分それこそ森を壊しかねない威力のやつをまくってなったら、森が再起不能になりかねないし。そもそも、土地自体が無事かどうかも謎だよね。やっぱり回復ポーションをまくのが無難かな? とりあえずやってみる?」


 コハクは今にも後ろに飛べるように警戒してくれているので、僕は安心して回復ポーションを木に向かってかける。……と、時間をかけてまるで火傷のようにただれていく。


「木の表面しか壊れてない……、次は清潔変化を試してみるかぁ」


 コハクに背後に待機してもらいながら、地面に向かって清潔変化をかけてみる。が、前の時のように地面表面が清潔になった感じはない。


「コハク、地面を掘ってみてくれる?」


 わふっ、と一吠えした後、僕の代わりに小さな穴ができるくらいに掘ってくれた。取り出した土を手のひらに乗せ、においを嗅いでみるが、普通の土となんら変わりがしなかった。

 念のため、コハクにも嗅がせてみたが、普通の土と変わらないことが不思議なのか、首を傾げていた。


「普通の土だよね」


「わふっ」


 いやー、初めてのケースでどうしたらいいのかわからないや……。とりあえず街にある書店、図書館、学園にある図書館を一通り回って今日は切り上げよう。

 悔しいけど、今回ばかりは何していいかわからなかった。

 今回わかったことがあるとすれば、森自体がゾンビ化して生態系が破綻している状態だから、モンスターはいないから比較的安全であると言うこと。生息しているものを挙げるとするなら、昆虫系のモンスターであるということくらい。


「はぁ、厄介ごとを持ち込まれたなぁ。とりあえずコハク、書店にいくから身体元に戻して」


 その言葉の通りに素直にコハクは体を元の大きさに戻して書店、図書館の順に回っていくが、情報すらない。一瞬、古書店に行くか? と頭によぎったけど、今は光帝の目の届くところにいる。行くにはあまりにリスクがありすぎる。


「……しょうがない、学園の図書館に行くかぁ」


 図書館に行くまでの道のりが、憂鬱すぎて保健室に戻りたい……と考えながら、学園に向けて歩き始めたのだった。


 案の定、自分の権利を上げたいがためにすり寄ってくる子もいれば、中には試験が同じだった子なのか恐れを抱いてみてくる子、そして説明会で従魔と契約解除となった子は嫉妬をするような顔でこちらを見てくる子もいた。

 はぁ……、確かに治療した後、契約主の元へ返そうとした時にパニックを起こした従魔に関しては、契約解除となって引き取って療養してるけども、それはほぼ自業自得なわけで、僕に嫉妬されてもこまるんだよね。また、居づらくなっちゃったなぁ。

 そんな僕の心を察したかのように、コハクがその声の主に向けて、唸り始めようとしたのを撫でることで止める。……悪口を言うだけで、害はない。前世の時と比べたら可愛いものだ。


 だから、悪意の視線を無視して、僕は早々と図書館に向かうが、疲れたわりにはがっかりする結果となった。


「森のゾンビ化の資料はない?!」


「ええ、森のゾンビ化が起こったのは1世紀前のことです。仕組みが理解できたのは冒険者が交代で張り込んだことにより判明したことですから、森のゾンビ化の情報をギルドマスターから得たとするならば、彼が与えた情報がわかっていることの全てです」


 その言葉に、頭が痛くなった。暇だからと受けた依頼は今までの依頼の中で最難関であると予想できず、引き受けてしまった数時間前の考えなしな自分を、まだまだ未熟だなと考え直すきっかけだと割り切るのに時間がかかったのだった。

 情報がないならば、図書館には用はない。これを一人で抱え込むのは頭痛の種だと判断した僕は、早々と保健室へと戻る。


「どうだった」


 抱っこ紐で柘榴を背負い、業務をこなす晴火先生は苦笑いしながら聞いてきた。きっと、僕の疲労しきった顔を見れば何となく理解できているから苦笑いしているんだろうね。

 そんなに僕って顔に出やすいかな。


「どうだったもないですよ?!

下調べしに行けば、他にも通れそうなところがあるのに関わらず、植物が成長しきって、それらしきものがあったみたいな状態で、森を一直線に突っ切ることしかできませんでしたよ!

わかったことは土自体は腐ってないこと、回復ポーションの効き目はあまり期待できないこと、清潔変化の効果も土自体に異常はないため、変化はなかったことくらいですよ」


 思い出しただけで頭が痛くなってくる。


「今持っている武器では対処出来なさそうか?」


「断言は出来ないですけど、出来ないと思います。ゾンビ化と言われてますけど、森自体は恐らくゾンビ化してないと思います。一部しか調べてないですけど、土自体には問題なかったですし、浄化が聞かなかったのもそれが理由なら納得できます」


 こめかみを押さえながら、そう答えれば、晴火先生はめんどくさそうにため息をついた。


「調査の記録はつけといた方がいい。それに、森のゾンビ化が一般的なゾンビ化と異なるなら、論文を書かされることは覚悟しておくことだな。あそこには貴重な植物があるから、火系統は使えんし、除草剤も使えないから時間かかりそうだな」


 その通り過ぎて、さらに頭痛の痛みが増す。


「わかってます。明日は、深夜に森調査をした冒険者に聞き込みをして、どんな状態で現れるのか情報を集めたいと思っています」


 まずは情報収集からして、物事の全体像を明確にすることから始めようか。






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