その6
僕達は和葉さんに、瞬間移動で傭兵族の領地まで運んでもらった後、守衛さんの案内の元、孤児院まで歩いた。その間、今でもショックで歩くのが難しくなってしまった僕は晴火先生に支えてもらいながら、傭兵族にいた時、いつも孤児院まで行く道のりを重たい足取りで歩き、いつもよりその道のりが長く感じた。
晴火先生に支えてもらっていても心配しているのか、コハクにいつも以上に脚にくっつかれながら歩いていると孤児院の門で領主が待っていて、僕に最敬礼をした後、守衛さんと交代するかのように案内を変わった。役目が終わった守衛さんに頭を下げれば、彼はにっこりと笑って、最敬礼をして見送ってくれた。
それからは不思議と1人で歩くことができた、まるで子ども達が支えてくれているかのようで涙が溢れてきた。
僕はふらふらしながら、一部屋一部屋確認して行く。血が清められた後もかすかに残る血の跡に、僕は耐えきれなくなって、1番強く血の跡が残る場所でうずくまり、声を出して泣いた。
時間を気にせず泣いた、そんな僕を誰も咎めることなく、泣き止むまで静かに待ってくれているようだった。しばらくしても涙は収まらなくてずっと感情のまま、泣き続けていると複数の足音が聞こえてきて、その持ち主達は僕のことを包み込むように抱きしめた。
「零先生」
その声は恐怖で震えていた、それでも僕に何かを伝えようとする力強さがどこかあった。
「ありがと、他の貴族はお金を寄付することあってもこうやって来てくれて、悲しんでくれることはなかった。それだけで皆、喜んでいると思う、零先生のこと大好きだったから。
皆のお墓と新しい孤児院を建ててくれる話を聞いたよ、色々してくれて零先生には感謝しきれないよ。それなのにおこがましいかもしれないけど、もう一つだけお願いしても良い?」
「もちろんだよ、僕ができることなら何でもするよ。それがあの子達の為になるなら」
そう答えると僕を抱きしめる力が少し強まって、
「孤児院を花畑で囲んで欲しいんだ、あの子達が寂しくないように。あいつがいつかトラウマを克服して墓参りしたくなった時に、少しでも来て良かったって思えるように、それは緑水の位の方でも零先生だけだと思うから」
お願いの内容を話してくれた瞬間、僕にもあの子達の為に出来ることがあるんだ、とそう思えたその時、不思議と溢れて止まらなかった涙は止まって、力が入らなかった足腰に力が戻って来た。だから、抱きしめる彼らの手をトントンと触れ、離すように促す仕草をすれば察したかのように彼らは僕から離れていき、そんな彼らに僕は言う。
「あの子達が好きだった花の種を買っておいで」
そう一言ずつ話した後、僕はただただあの子達が喜びそうな花畑を作ることだけに集中することにした。
僕は従魔アイテムから、ハッサク達を呼び寄せ、墓守の森でやったような手順で土地を清めていけば、花の種が届けられたため、リリア達に手伝ってもらいながら種を巻く作業を終えさせた。そして、再度念のために清潔変化をかけた、まだ何か邪悪な気配が残っているような気がしたから。
「《成長》」
清潔変化をかけた後、この土地全体に成長スキルをかければ一瞬で花々が咲き誇って行く姿に、何度見てもこの瞬間は嫌なことを忘れられるなとそう考えていた僕は知らなかった。
木陰で隠れ、震えながらあの子がこの光景を見ていたことを。これがあの子の怯えるだけの人生を変えるだなんて知ったのは、あの子がどう選択して行きていくのか話してくれた時だということを今の僕は知らない。
そして、今の僕の行動が今後の人生に大きな影響を与えることも、今の僕は知らなかった。後々起きることなんて想像することもなく、晴火先生に話しかけられ、言われることに耳を傾ける。
「これが妖精軍師と言われるようになった由来か……。これじゃ、姫と崇められることもわからなくもないな……。容姿も良いし、何よりも花畑を作っている姿も綺麗、もしあのままあの時に自分の意志に気づいていなかったら、宗教の教祖でもなっていたんじゃないか?」
「まさかぁ、そんなことあるわけないじゃないですか〜」
言われたことに対してそう否定した。
が、自分でも後々首を傾げながら、そうなるわけないよね? と頭を悩ませたが、深く考えないことにした。
元保健医の方、ミツとメルに赤ちゃんを預けてきたので、彼女もまだ乳幼児がいるから早く帰宅させてあげたかったため、ゆっくりしていけと領主の申し出を断った。和葉さんの都合の良い時間に合わせて、学園へと戻ると、すっかりと仲良くなった彼女達の姿を見て僕はホッとした。
元々ミツとメルは人に育てられているから、人慣れはしている。しかし、人に育てられているとは言え、野生の勘はあるから、怯えられているとわかる。だから、優しい性格をしている彼らは距離を置いてしまわないか心配であったが、気にしすぎだったようで良かった。
「すみません、先生にも赤ちゃんがいるのに預かってもらってしまって」
赤ちゃんを抱っこするミツを囲んでいる彼らにそう声をかければ、聞くだけで安心するような優しい声で、
「良いのよ、零さんもきつかったでしょう。今日は旦那と義母に頼んできたから、今日は私達と晴火くんに任せてゆっくりして。成績が優秀な零さんは授業数が少ないみたいだけど、慣れないことをするのはとても疲れることだから、今日は大人に甘えて、明日に備えてゆっくり休むのが今日の零さんのお仕事よ。
明日に授業選択の説明会があるんでしょう? それに備えて気力を戻しておかないといけませんからね」
とても優しい気遣いをしてくれた。まるで、自分の子供に向けるような温かな眼差しで、眠気を誘ってくる……。なんだったっけな……、そう、アルファ波って言うんだっけ、こんな声のこと。もうなんでも良くなってきたところで僕の意識は途絶えた。
※※※※※
「貴女って人は立った状態でその声を使わないでくださいよ、相変わらず俺に対する扱いが酷いですね。確かに零に対してその声を使うように頼んだのは俺ですけど、まさか零が立った状態で使うなんて思ってもいなかったですよ。支えられたから良かったものの、頭を打ったらどうするんですか!」
零が眠っているのにもかかわらず、晴火は声を荒げて元保険医を叱ると、横にいたコハクが咎めるように「わん!!」と鳴き声に気をつけて吠えて、咄嗟にと言ったように、
「ごめんな、コハク」
と謝った後、ハッと我に返ったかのようにコハクに向けて、
「大丈夫なんだよ、この人の本気で出している声を向けられたらしばらくはどんな音を聞いても起きないからこれくらいの声じゃ起きないから心配しなくても平気だよ。じゃあ、零は保健室のベッドに一回横たわせるからコハク、あとは頼むな」
「わん!!」
そう会話を交わした後、支えていた零を姫様抱っこして、コハクを連れてこの部屋のベッドに横たわせれば、元保健医はそんな晴火のことをくすくすと笑いながら見守っていた。そんな彼女の様子に、晴火は少し恥ずかしいのか顔を赤らめながら、
「季水や葉月以外の人間に関心がなかった俺がこんなに1人の人間に対して世話を焼く姿はそんなに面白いですか」
そう悔しそうに晴火は言う。
一方、コハクはベッドの上に飛び上がった後、同じくらいの視線になった晴火を慰めるかのようにまるで猫かのように、自分の頰をすり寄せた。その動作をした後、主人を守るかのように寄り添う。そんなコハクの動作に不思議と彼の恥ずかしいと言う感情は消え失せていて、冷静になった彼を面白そうに元保健医は見つめて、
「そうね。昔のあなたからは想像できないくらいに角が丸くなったわ。そんな姿を見ていて、微笑ましい気持ちになっただけよ。
さすがは有栖家の血筋ってところって言いたいところだけど、彼の魂には難儀な性質があるようね。前世でも苦労したでしょうね、こんなに清らかで魅力的な魂をしてれば悪意を集めやすくなる。なんで、これくらいの魂を天使にしなかったのか神様は不思議なことをするわ」
彼女は口を開いた瞬間から、今までは面白そうにしていた表情を一変させてこう話した。そんな言葉に晴火は、
「さすが前世天使だったことだけありますね、なんで人間になったのか不思議なくらいに優秀だ。……このまま過ごして零は平気なんですか? 俺と出会う前、彼は姫として崇められていた。もし、選択を誤っていれば彼は宗教の教祖にされていたかもしれない。そう考えたら……」
そう言った後、言葉を詰まらせた。そんな晴火を見かねて、
「何回も話したでしょう? 人を愛してしまったの、あの人同じ時を生き、死にたいと考えてしまった。そうなった時、私は天使ではなくなってしまったの。ここまで力が残っているのは、この世界を改変しようとしていた天使のおかげなの。
わからないわ、私は神様じゃない。彼に与えられた選択肢までは見ることは出来ない。……けど、今はいい方向に行っている感じはするわ。それに、今の彼はかなり良い環境にいるから、どんな逆境に立たされても、傷つくことはあっても立ち上がれるわ。……その時は守るんじゃなくて、支えてあげて」
保健医はそうアドバイスした後、苦痛そうな顔をしつつ、続けてこういう。
「零さんの魂はかなり傷ついているわ。天使の時ならそう言う力があったから、治せたかもしれないけど、伴侶を不老不死にしないようにその力を返還させられたから、今治すことができないのが心苦しいわ。……もう天使じゃないから他の天使の存在を察知することが出来なくなったから、天界がどう動いているかもわからないし、これ以上彼が苦境が立たされてしまったら魂が壊れてしまうかもしれないのに、どうもできないだなんて……」
そんな彼女の肩に触れ、なだめるようにトントンした後、
「……貴女も体力を使ったばっかりなんですから、そこまで追い詰めてはだめですよ。零は大丈夫ですよ、前世ではどうだったかは天使や神様でない俺にはわかりませんけど、今回の人生には支えてくれる人がこの世界中にたくさんいます。零が傷ついた時、一緒に泣いてくれる人、悩んでくれる人、助けてくれる人ばかりです。ですから、力を使えないことを気負わないでください」
そう慰めれば、彼女は驚いたような顔をした後、まるで我が子の成長を喜ぶかのようにこう言う。
「慰められるようになったのね」
「そう言う貴女は相変わらずデリカシーがない人ですね、少しは素直に教え子の成長を喜んでくださいよ」
そう会話されていたことを知らず、零はコハクに守られながら、穏やかに眠っていたのだった。
空野雪乃です。
今後の投稿仕方ですが、2020年4月から月2投稿で投稿を再開したいと考えています。
この投稿方法にした際には一回の投稿は、5000文字前後に変更します。
投稿方法は変わりますが、変わらず読んでくださると幸いです。
これからもよろしくお願い致します^ ^




