一年生、春 その1
模擬戦をやると言うことで、鍛錬場に移動をすれば、なぜか新くん以外のクラスメイト達も移動をしてきたことに疑問を持ちつつ、
「新くん、騎士科に行くんじゃなかったっけ?」
そういえば、と思いだしたことを移動中にそう聞けば、
「あちこち移動してた零さんは知らないですよね、実は今の理事長から学園に庶民でも行けるように学園費を下げたようで、庶民が馴染めるように見学会に行った時に葉月先生と晴火先生に出会えて考え方が変わったんです。正直、ここの騎士科の先生は考え方が偏っていて、双剣に対する認識が厳しかったんです。俺は雷紀さんや夜兎さんに手ほどきを続けてもらうんで、別に騎士科じゃなくても良いんじゃないかってその2人の先生にアドバイスを頂いたので、オールマイティに学べる普通科にしました」
ためらうことなく話してくれる新くんはすごいなと考えつつ、
「まあ、学園系の資金を提供したのは季水でしょうね」
信頼できるから良いかと思い、そう言えば、
「やっぱり有栖家の方々のお力でしたか」
そう見当違いな答えが返ってきたので、僕は首を振った後、訂正する。
「いや、学園系の資金を提供したのはあくまでも有栖家の資産じゃなくて、個人で稼いだお金の範囲だよ。僕は主に孤児院やスラムへの生活の向上への援助を個人資産から出してる。季水は学園系の援助や給付型の奨学金、お父様は領地の設備投資、領地内での貧困家庭への援助、あとは貧困家庭への給付型の奨学金を行なっているよ。だから今回、学園に国民が増えたのは季水と理事長の力であって有栖家としての活動ではないよ」
あくまでもこのような支援活動は個人個人でやっていることだから、有栖家としての活動ではないんだよね。
「そうなんですか、だから有栖家の方々の領地は上級貴族の中では異例なくらい税が少ないんですね……」
まあ、税金と言っても、使っているのは学園費とお金が稼げない時までの子供の時の生活費で、あとは国民が暮らしに役立つ設備や後世の国民に当てる資金として貯蓄したりしてるから、あまり貴族として王都に行くことはない。
「前代の資金貯蓄があるからね。あんまり、税を取る必要ないからさ、後代の貯蓄代を貯める目的の金額だよ。……さて、話は終わりにしようか。不本意にも鍛錬場にも着いたし、さっさっと納得してもらいましょうかね。その前に下準備しないとだから、少し待っててよって伝えておいて」
あの子、戦うって態度に示さないとつきまとわれるから、二度手間になるけど、まずは鍛錬場に連れてきてからじゃないと納得しないしさ。
さて下準備はっと、従魔空間システムとは言え、ペットも問題なく入れる。だから、入学式だからブレスネットにはハッサク達とコハク達が入っているから、従魔を集める必要はないから大丈夫。そのまま呼び出すだけでいい。
見届けには先生が必要だから、先生だけには頼まないとと保健室に慌てて向かい、事情を話せば苦笑いをされて、
「災難だったな。いいぞ、他の教員やら担任やらには俺が連絡しておく。先に行っててくれ」
そう言われたので、晴火先生は常識のある人で良かったと思いつつ、下準備の場所が必要だから先生に、
「あ、下準備にここ借りても良いですか?」
そうダメ元で頼んで見れば、
「散らかすなよ〜、先に行ってるな」
軽い感じで了承されてしまった。まあ、有難いから良いかと考えながら、ハッサク達をブレスネットから呼び出して、事情を話してから作戦を立てつつ、武器の手入れや壊れてないかの再確認をした。
そのあと、すでに魔改造した制服に必要な武器をすぐに取り出せる位置に設置した後、ハッサク達にも装備品をつけてあげ、嫌なことはさっさと終わらせて、温室の管理しに行かないとと考えながら、ハッサクとサクアがついてこれる速さで鍛錬場に戻れば、なぜか晴火先生の他にも先生がいてびっくりした。
「後天性スキルの攻撃スキルを極めたら、ここまで戦えるだぞ、と実際の眼で確かめてもらおうと思ってな。しっかりと実力がある先生達に集まってもらったんだ」
晴火先生のその言葉に少しだけやる気が出たような気がした。
「はぁ……、やっと零さんと戦うことができるんですね……」
木製で出来た槍を撫でながら、うっとりとそう呟いていた。……やばい、戦闘狂だ。関わってはいけないタイプの人間だ。よく、新くんも一緒に居られるなと考えながら視線を向ければ、彼もまた苦笑いをしていた。
晴火先生はと言うと、「姉そっくりだな!」と大爆笑していた。……メンタルが鋼すぎるよと一連の光景にどん引きをしながら、僕は鍛錬用の付与弓を取り出し、動作に問題はないか確認した後、準備は整ったと晴火先生に合図を出す。
「それでは、これから模擬戦を開始する」
はぁ、全くなんで入学式直後から模擬戦なんかやる羽目になったんだろうと考えていれば、一瞬で僕の眼の前まで移動してきた彼女の攻撃を避けようとする前にハッサクが触手を僕の腰に回し、空中に投げられた。
僕は飛翔靴を発動させ、
「板結界」
札術でとても簡素な結界を作り上げた後、それを蹴り上げ、地面に着地する。その間に反動で彼女の方側にジャンプをしたハッサクは、それを利用して、
「んきゅっ!(みかんなげっ!)」
蜜柑投げを彼女の目に向かって発動し、蜜柑の汁が彼女の目に入り、しみる痛みから若干悶絶しているところを、僕は彼女の足元に向かって付与弓を射る。
「威圧!」
スキルの威圧を付加し、彼女の足元に弓を射れば、威圧の衝動で壁まで吹き飛ばされた。けど、途中で受け身をとったのか、そこまで時間がかかることなく立ち上がり、そこからは一瞬で。
目の前に彼女は気がつけばいて、木製なのに頰に槍先が当たれば、切り傷が出来るほど素早い槍さばきを見せた後、彼女は目に見えない早さでいつのまにか槍の持ち手の方が僕に向いていて、腹部に一撃入れられた瞬間、僕は意識を失ったのだった。
次に目が覚めたのは、保健室だった。ベッドの横に椅子を置いて、本を読んでいたのか晴火先生が僕の横にいた。
「ハッサク達は?」
気絶してパニックになってないか心配で、ハッサク達がどこにいるのかと聞けば、
「コハク以外がパニックを起こしかけたんだが、コハクの一鳴きのおかげで落ち着いて、疲れ果てて隣のベッドでみんなで寝てる」
いたわるように優しくそう教えてくれた。それでも、
「……僕は弱いですね……」
どんなに武器を、作戦を考えたとしても、血が滲む努力をしたとしても、戦う才能があって努力した人にはあんなにもあっさりと負けてしまう。あんなにも、何も考えられてはいない攻撃で負けてしまうんだ。……悔しい。
そう考えていると、
「そんなことはない。お前は確かに負けた。でも賭けには勝ったんだぞ」
賭けには勝った? どう言うこと?
「あの先生方は確かに先天性・血縁スキル至上主義者だ。だが、お前の努力は認めた。従魔達……、ハッサク達をまとめ上げるそのテイマーの才能が認められたんだよ! 護衛はつけたままだが、冒険者用講義に入れるように手配してくれることになった。おめでとう」
努力が認められた? やっと……? やっと、武器を作ってくれている咲斗や朱基さんに顔向けができることと、ハッサク達の実力も認められたことに対する気持ちが溢れて、僕は毛布に顔を埋めて泣いた。
それを指摘することもなく、晴火先生は毛布に顔を埋めて泣いている僕と寄り添うように、泣き止むまで横から抱きしめてくれていた。その細やかな優しさがとても、嬉しかった。




