その3
保健室に着くまでお互い無言で、入ったと同時に晴火先生は鍵を閉め、ソファーに座った瞬間、口を開いた。
「実はな、あの場にいたのは冒険者の資格を持たない生徒達なんだよ。本来なら冒険者であれば、別の実技試験を受けるのが決まりなんだ。だからお前は本来なら、別の試験を受ける資格を持っていたんだよ」
「それは、攻撃スキルは全て後天性スキルだからと言う理由?」
「そうだ、葉月と俺以外の職員が反対したから今回のような対応になったんだ。その反対理由が、零の言う通り持つ攻撃スキルは全て後天性スキルであることの差別だ。
お前が的確に、麟が敵意を持たないことを判断した時、今回来ていて攻撃を指示していた職員の判断は失敗だったと思ったよ。あっちの試験を受けていたらあの子達もいい経験になっただろうにもったいない。まあそれは良い、職員はともかくあの場にいた一部の生徒には良い影響が及んだらしいし、貴重な変異種も保護できたからな」
……その言葉に涙が出そうになった。だって、
「……認めてくれるの?」
「当たり前だろう? 威圧と敵意はよく似ているから、敵意を向けているつもりがないドラゴンが討伐された例もなくはない。あの場にいた人間の中でそれができたのは葉月と季水、俺に零だけだった。その事実だけでも、お前がどれだけ努力をしてきたのかよくわかる。
……それに、手を見ればわかるよ。何度も、何十回も、何千回も弓を引き続けた手だ。何回も皮がむけて、雰囲気には似つかわしくないほどに分厚くなった手のひらを見ればわかるよ。ただ、血縁・先天性スキルに甘んじて努力しない奴らよりよっぽど強そうだ」
認めてくれるのかと聞いた時に返ってきた返事に僕は、触れてきた手の温もりに、優しい触れ方に堪えていた涙が流れた。
毎日、現実で血を吐くくらいの鍛錬をした。1時間ごとに腕をつるくらい、弓を引き続けた。熱中症で倒れるくらいに鍛錬に集中した日々を続けてた。僕は努力しなければ、弱くて自分のせいで人を殺めてしまう日が来てしまうから自分を守れるくらいは強くなりたかった。
それなのに、貴族は血筋も優れているからと言われ、努力は認められなかったけど、それはそれでも良かった。
それよりも辛かったのは周りからも過保護に守られて辛かった。自分は強くなれないと言われているようで、朱基さんや咲斗に協力してもらって
武器を作っても対応は変わらなかった。どれだけ体力づくりをしても、細身だから見た目に強さを反映させることもできなかった。
だから、せめて逃げ足を強化した。毎日数十キロ単位を墓守の森で走りながらゾンビを浄化しても、姫扱いと言う名の過保護が変わることはなかった。
それが苦しくて、苦しくてしょうがなかったんだ本当は。皆から嫌われたくなくて、言えなくて、自分が我慢すればいいやって思っていた。だから、そろそろ姫扱いしないでほしいとも、自分は周りが思っているほど弱くわないと言えなかった。
……でも、前世の記憶をほんの一部思い出して自分だけが何も知らないで守られていたのを負担に思っていていたのを思い出した。それで、僕は初めて姫扱いをやめて欲しいんだってことに気づいたんだ。
「僕、本当は姫扱いをしないで欲しいです。僕はは4歳からずっと、後天性スキルの攻撃スキルを極めてきました。……たった8年ごときでって思うかもしれませんが、傭兵の時には油断していたから襲われたんです。それからはずっと、1人で出かける時には探索スキルを使って対策をしています。……その努力を見せていないから当たり前ですけど、実力を認められないことが辛かったってことを、令嬢と同じくらいの護衛対象にされて初めて気づいたんです。……それから、ご令嬢だからって強くても護衛をつけられている人も、苦しんでいるんだろうって、諦めているんだろうって気づきました」
性別なんて関係なしに強い人は強い。強いはずなのに、自分を守って殺められていく姿を見て苦しいわけがないと思った。
「お前には自分がないんだ。お前の行動は自分のためじゃなく、他人のために行動してばかりだ。そうなったのは、お前のせいじゃない。お前が生きてきた環境からの影響だから、自分のために行動できるようにリハビリをしていこうな」
「……はい」
そう素直に返事をすれば、よしよしと呟きながら、まるで鳥の巣みたいな髪型になるんじゃないかと言うくらいの勢いで頭を撫でられる。
「実はな、あの護衛制度は彼が考えた制度じゃないんだ。この制度は癒しの力を持つご令嬢が入ってきた今年で廃止される制度なんだ。だから、攻撃スキルが後天性スキルしかない零も適応されてしまった。そのこと自体、理事長もおかしいと感じていたんだ。多数決でそう決まってしまったから適応ってなったが、彼自身『妖精軍師』とまで言われる相手に護衛をつけることはおかしいと言っていたからな」
「理事長が作ったわけじゃない……?」
それなら誰が……と考えていると、それを察したかのように晴火先生は、
「あの理事長は実力で去年、この学園の理事長にのし上がったんだ。それまではとある血族が理事長を行っていたんだが、とある事件があって以降から彼はその継続へのシステムに疑問を持ち始めて、元理事長をリコールしようとしていたんだ。その志を気に入った季水は力を貸して、元理事長をリコールまで追い詰め、理事長まで押し上げた。その結果、理事長を追い出すことは出来たが、過去の遺産はそのまま。あの場にいた職員やら今回の護衛制度も理事長を苦しめている一要因だ。零の言うとおり、令嬢の中にも本来なら学園内で護衛をつける必要がない人間もいる。ただ同時に、学園内でさえも立場から護衛を必要とする人間がいるのも確かだ。それをどうにかするには2年かかるんだ、だから今回は元理事長が作った制度を適応させるしかなかったんだよ」
そう言った後、苦笑いをしながら「大人には簡単に変更できない事情があるんだよ」とせち辛そうにそう語ったのだった。そして、またこうも話してくれた。
「先駆者・改革者ほど大変なものはないよな。残っている職員は、その前の理事長が親からの賄賂で無理やり職員の座を勝ち取らせたような職員ばかり。俺達のように立場関係なしで、実力勝負で仕事しているのは3割くらいだ。中には優秀で人格者な人もいるけど、そんな人物はほんの一握りで、その他は無駄に権力があるから辞めさせることが出来ない状態だ。例年、試験監督させていたのに試験監督をさせないってことはできないから、墓守の森での試験官担当にさせると言うことになったんだよ」
「それじゃあ、危ないのでは? 墓守の森は魔物は弱いとは言え、何が起こるかわかりませんから」
それは僕は身を持って知っていることだから、と考えているとそれを察したかのように、
「ああ、そうだな。何事も予定通りに進まないのがこの世の中だ。生徒に何かあってからじゃ遅い、零の言う通り墓守の森は魔物レベルが低いとは言え、今回のようなことが起こりかねんから今回参加しなくて良い俺らが監視役として参加していたわけだ。が、貴族でもない俺達が抑止力にもなるわけがなく、今回のようなことが起こったわけだ。だから、正直零がした行動はあの場にいた誰よりも正しかったと思う」
そう言われ、そのことにお礼を言おうとした瞬間、まだ言い足りないと言っているかのように僕の言葉を遮って、
「お前は自分が思っている以上に強い。それは、元々持つスキルの才能とかうんぬんの話ではなく、自分の真面目さと努力で手に入れた強さだ。少なくても俺だけはそう思っている。だから、周りを気にする必要はない。お前らしく生きる練習をしよう」
晴火先生はそう言ってくれた。




