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その7

 

 迎えるため、近づこうと足を進めるたびにビクビクと怯えるスリーピーキャットの姿を見て、どれだけその子の記憶に殺めかけられた記憶が刻まれているのか身に染みてわかり、歩みを進めるのをやめた。

 その瞬間、後ろからコハクが走り抜けて行き、恐怖に耐えられる許容範囲から大きく飛び抜けたのか、震えるのが止まり、固まってしまったスリーピーキャットを自分の身体で包み込むように寄り添い、なんと!毛づくろいを始めたんだよ。

 そうしたらね、みるみる震えが収まってしばらくすると、スリーピーキャットは眠りについていた。その時、ドラゴンさんは真剣な顔をして、


『……小さき者と2人で話す時間が欲しいのだ、他の者は退出を頼めるか』


 そう頼んできたので、僕は首を傾げながら「なぜ?」と不思議に思っていたが、了承の返事をしようと口を開いた瞬間、勢いよく僕の目の前に季水が立ち阻んだ。僕はそのことに驚いて固まっていると、横から晴火先生が現れて、優しい手つきで季水の肩に手を置いて、


「良いじゃないか、このドラゴンが零に手を出すことはないことは明白だ。万が一、何か起これば、俺たちならばこのくらいの結界なら破壊することは可能だから、結界を壊して助ければ良いんだから、そこまで過保護に守り過ぎても零のためにはならないだろ」


 優しい声色で、言い聞かせるかのように季水に対してそう言った。季水も季水で、その言葉に納得したのかドラゴンさんの目の前に立ち阻むのをやめ、渋々といったような様子で我先に結界外に出て行ってしまった。

 それに続いて、僕の従魔とペット、葉月先生、そし て最後に晴火先生が出ていくのを見守った後、札術の術の1つ、防音の札をこの結界内に貼れば、待っていました! とばかりに、ドラゴンさんはこう話を切り出した。


『我の名は、(りん)。我がお前と2人で話したいと考えたのは、お前が我が主人と同じ雰囲気を持っていたからだ。……お主、()()()だな?』


 隠しても無駄だと言える根拠が向こうにはあるようで、彼に隠す通すのは無理だと思った僕は一度ため息をついた後、


「はい、そうです。……僕は、予想外の悪魔からの攻撃で本来の死期をまっとう出来ず、その代わりに地球からこの月光島に生まれ変わりをした転生者です」


 そう正直に話せば、ドラゴンさんこと麟さんは目を輝かせてこう言う。


『ほう! 雰囲気は似ているとは思ってはいたが、まさか転生前にいたところも同じだとは思っていなかったぞ。……まあ、生まれ変わりをしたことと前世は地球人とくらいしか主人は教えてはくれんかったけどな。……しかし、我は知っておる。主人にとって、前世の記憶は地獄そのものだった』


 そう話した麟さんの、前世の記憶は地獄そのものだったと言う言葉に心臓がドクンっと大きく跳ね、過呼吸にはならなくとも、一回引き攣るような音を出して空気を吸い込んでしまった。そんな僕を労わるように優しく尻尾の先で撫でながら、「寄りかかると良い」と言われ、有り難く寄りかからせて貰った。そんな僕の寄りかかる姿を見守っていたかのように、麟さんは話を再開した。


『……前世の彼は誰にも愛されたことがなかった。時より、なんかの手違いで乗り越えられないくらいの過酷な修行を与えられると聞いたことはあったが、彼はまさにそうだった。それ故に彼は愛に飢えておった、しかし愛されたことがなかったから誰かを愛しいと感じた時に何をすれば良いのか、どう気持ちに名を付けたら良いのか、その気持ちをどんな言葉で伝えたら良いのか彼は知らなかった。

……だけど、彼はスリーピーキャットと同じ境遇にいた我に遭遇して助けてくれた。親でさえ、拒んだわれのことを見捨てることなく、ぎこちなくも育ててくれた。それ故、我にはあのスリーピーキャットの子を放っておくことが出来んかったのだ。あの時の我が重なって見えてな、まるで主人にその子を見捨ててはならぬと言われているようだった』


 愛されたことがなかった、その言葉を聞いて少しの羨ましさと寂しさを感じた。寂しさを感じたのはきっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、少し羨ましいと思ったのはなぜだったっけ?

 それを思い出そうとすれば、麟さんは僕に対して首を振って思い出そうとすることを首を振って、それはいけないと止めた。その仕草を見て、この記憶を見てしまえば過呼吸になってしまうから止めてくれたのかと思い直した。それを察したかのように、麟さんは話を再開する。


『……変移種の中には、我が子である事実から殺めることは出来なくても追いやられた魔物もおる。その中でも我のような産まれつきある程度の力を保持する種族であれば野生本能であろうな、自分より力の弱い魔物がいる場所に行くのだ。……それでも、家族ができた時には親に追いやられた、殺めかけられたことに対する弊害が出る』


 弊害? 身を守れるくらいの強さを持つならないと思うけど……ってああ!


「子育てか! されたことがないからわからないよね。人の子ならば、孤児院があるから自分より歳が下の子と接して学ぶことが出来るけど、幼い時から1人で生きていけるだけの力があれば、わからないことかもしれない」


 そう言えば、満足そうに頷いた後、


『……おおむね、その通りだ。人でも、親自身が子を子育ての仕方がわからなくさせる人間にするときもあるからな、何事も例外はつきものよ。さて、話は戻るが、魔物の幼子の時から強すぎたあまり追い出されても生きることができたため、子育てされたことがないから子育てができないのだ、まあ中にはまれに上手く子育てをした例もあるが。

だから、我は運が良かったのだ。子育て初心者である主人に助けられたことで、子育ての仕方を学ぶことができたのだから。

そして、運が良かったのだと感じたのはそれだけではない。……我が主人は、怪力なのだ。それはもう、ドラゴンの鱗であったから耐えられたと今なら思う』


 麟さんのご主人様の話を聞くたびに胸が痛くなる。それは同情ではなく、鱗さんのご主人様に前世の自分を重ねたからだ。……そして今、僕は少しだけ思い出したんだ、何故僕はここまで記憶が抜けているのかの原因がはっきりした。

 それは僕の場合、麟さんのご主人様は逆だ。()()()()()()()()()()()()()()()だったのだ。全てを思い出したわけじゃないけど、そう確信した。……不思議と落ち着いていた、何故だろう? ああ、そうか。「守ってくれる」と晴火先生が言ってくれたからかと納得した後、再び麟さんの話に耳を傾ける。


『我は変移種とは言え、我には強靭な鱗があった。だから子育て初心者の彼にとっても、……力加減がわからなくなるくらい怪力である部分に関しても、それが幸いしたのだ。そのおかげで彼は子育てを出来るようになったし、我と接するようになってから、傷をつけないように触れることが出来るようになった。それは強靭な鱗を持っていたとしても、痛みには弱いのが幼子よ。傷は付かずとも痛い時には痛いと主張する。それで彼は痛みはどれくらいで感じさせてしまうのかをを知ったと死に際にそう言っていた。それが最初で最後の我が主人が話してくれた本心だった』


「自分の大切な子に心配かけたくなかったんだよ、きっと」


『……ああ、きっとそうであろうな』


 それからは他愛のない会話を軽くした後、スリーピーキャットの名前を「ネム」と麟さんにつけてもらった後、住処に戻る麟さんのことを見送ったのだった。


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