その6
季水が珍しく真面目な顔をして、話の横道がそれたことを正すかのように一度咳払いをして、
「さて、ドラゴンのことだが、零が保護したいと言うのであればいくらでも更地を用意するぞ?」
珍しく真面目な顔をしたかと思えば、季水がとんでもないことを言い始めたよ。……まあ、鍛錬しに行った後、勝手に湖を作り上げた時よりは作るか否かを聞いてきただけ進歩したと思うべきか、頭を抱えていると横目に写った葉月先生がしていた顔に僕は思わず目を見開いた。
なんと!葉月先生は、 開いた口が塞がらないと言ったような表情をしていたのだ。
これくらいの発言に開いた口が塞がらない表情をさせると言うことは、葉月先生達の前では自重した行動はするようにしていたと言うことになる。……うんうん、これは褒めておいてあげないといけないなと考えた僕は季水の頭を撫でながら、
「偉い偉い、季水もできるだけ自重した行動をするようには努力していたんだね」
そう褒めてあげれば、季水は嬉しそうな顔をしながら何度も「そうだ」と頷いていた。そんなやり取りを見て、晴火先生は何とも言えない表情をして、
「……これは季水信者には見せられないな……」
と呟いているのを聞いて、季水信者ってなんだろう? って考えつつも、ドラゴン保護のために更地にしかねないため、気になる晴火先生の発言を泣く泣くスルーして、やめるように念押しするため、
「……ドラゴンを僕たちの領地の市民にできるのはとても素敵なことだけど、そもそもほら、まずは本人が移住してくれるかの意思と市民に通告とかしなくちゃいけないでしょ? ドラゴンが住処にできる場所はあるとは言え、僕達の都合だけで動くわけにはいかないでしょ、次期領主なんだからそこのところ良く考えて、言葉にしてよね? それが実行できちゃう実力があるからこそ、それができないとだめだよ」
褒めた後、しっかりと注意をすれば、初孫に見せる溺愛したおじいちゃんがするような表情をして、季水は「ごめんごめん、そうだった」と言ってきた。……怒られて喜ぶなんてこの人のブラコンさは致命的だなと思わずため息をついてしまった。
……まあ、普段ならもっとそこから注意をするんだけど人の目もあるし、晴火先生曰く季水信者? って言う人もいるらしいし、今回はこれくらいにしておいてあげよう。
それにそもそも、
「ドラゴンを保護する必要なんてないでしょ? 彼らは個体でも生き延びれる強さがあるんだから、それに普段は人の目を避けて生活しているし、保護しても何も言わずに飛び去るのが関の山だよ」
そう言った瞬間、頭に響くような声で、
『その子の言う通りだ。我は人の支配下に住み移るためにこの場に来たわけではない。我は親に殺められそうになった弱きものの子の為、この場に来たにすぎない。我は人間などに興味はない、それ故に攻撃する意志すらも持っていない』
そう話す声が聞こえた。……これはスキルによる『念話』ってやつだ。長い間生き、一度従魔として生きた魔物が手に入れられると言われている魔物限定の後天性スキルだ。
「それはそれは、災難でしたね」
そちらに話す意思があるなら警戒する必要もないので、そう同意をすれば、
「……ああ、小さき子。先ほどは助かった。見事な札結界であったな。現代の子には珍しい純粋な努力を感じる力であったぞ、改めて礼を言おう。
普段であれば飛び去れば良いのだがな、今回ばかりは一度で成功させたくてな。我の住処に弱きものの子を保護していたのだが、弱きものの子は我の住処には適応出来なかったのだ。それ故、環境が穏やかなこの場に泣く泣く連れてくることにしたのだが、すぐ去るつもりで昼間に来たのが失敗だった。なるべく敵意を出さずにいたつもりだったのだがな、人間が攻撃をやめず、そんな状況に弱きものの子を置き去るわけにもいかず、討伐されかねんから反撃するわけにもいかず無抵抗でおったのだ。あの痛くもかゆくもない攻撃でさえ、無抵抗でいればいつかは死に至る。小さき子のような判断ができる人間がおって良かった』
そう答えが返ってきた。……このドラゴンはお喋りが好きなのかな? と戸惑いつつも、ドラゴンがなぜこの場に降り立ったのか知ることが出来たため、良しとしようと考えることにした僕は、
「ドラゴンさん、貴方がここに住ませたかった子はどこにいるんですか?」
次に、なぜドラゴンさんが弱きものの子と呼ぶ魔物が攻撃されなくてはならなかったのかを知ることにすると彼からは、
『弱きものの子は我の手首の腕輪の中におるよ。我が唯一の主人に与えてもらった、ぼっくすとやらの中におる。出しても良いか?』
そう聞かれたので、「ええ」と返せば満足そうな表情をして、小さな声で何かを呟いた瞬間、今まで何もなかった場所に、ノルウェージャンフォレストキャットのような見た目をした魔物が現れた。それを見て、季水は、
「エレガントキャットか?」
そう反応を示したが、僕はこの子を観察をし始めてから、すぐにわかった。
「季水、違うよ。エレガントキャットは、ほんのり紫がかた白の毛並みをしているんだよ。だけど、この子は真っ白な毛並みと雪豹のような柄が入ってるからスリーピーキャット、エレガントキャットの突然変異種だよ」
『ほう、だからエレガントキャットはあそこまで狂った様子になっていたのだな。別種を拒むのがエレガントキャットだからな、少しでも違いがあったが故、殺めようとしたのか』
そう納得したような声を上げたドラゴンさんに頷いて同意をした後、続けて、
「……通常、生まれたと同時に突然変異種を異常に拒むエレガントキャットは自分の子であっても、突然変異種であれば躊躇いなく殺める。だから、大体この種がいることを確認したのは遺体だ。それからも遺体以外では存在を確認できたことがない種、それがスリーピーキャットって言う魔物なんだよ。だから、スリーピーキャットの解明のため、解剖された。解剖するしか解明する手段がなかったからとも言えるけど、その結果、スリーピーキャットには卵巣も精巣もない無性別種であることがわかったんだ。……今のところ、スリーピーキャットでわかっているのはこれだけだよ」
そう説明をすれば、季水は首を傾げて、
「じゃあ、スリーピーキャットって名付けられたのはなんでなんだ?」
そう聞いてくるのは想定内。だから、考える間も無く、迷わずこう答える。
「エレガントキャットの突然変異種は、発見された時にはもう永遠の眠りについている。そこから、スリーピーキャットって名付けられた。遺体で見つかった時にはフォーエバースリーピーキャットとなって、生存して見つかった時にはスリーピーキャットって呼ぶようにと決められているの。……この子はスリーピーキャットと呼ばれる初めての子だよ」
つまり、この子が生きているのは奇跡って言うことだ。だから、ここで野放しにしてしまうのは危険であるし、かと言って施設に渡してしまうのも危険だと思う。……そう考えたのは僕だけじゃなかったようで、季水と葉月先生、晴火先生は顔を見合わせた後、あとの判断はドラゴンさんに任せると決めたらしく、視線を彼に移した。そのことを察したドラゴンさんはしばらく考えるような顔をした後、
『弱きものの子を頼みたい』
そう僕に頼んできたため、葉月先生の方に視線を向ければ、力強く頷かれたため、
「僕では力不足かもしれませんが、できることはします」
僕はスリーピーキャットのことを新しい家族として迎い入れることにしたのだった。




