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その12


 次の日、僕は早速ハルクールのご要望を叶えるために墓守の森の奥地まで来ていた。人間に狙われている兄弟を守っているせいか、追い出しはしないけど、警戒はされているようだった。

 ハルクールはそれを咎めたが、僕はそれを止めて、作業が終わった時にでも信頼してもらえれば良いと告げた後、僕は土地を清めるところから始めることにした。


 正直に言うと、これは僕の後天性スキルの清潔変化や回復ポーション入りの水で対応しても、持続時間は一時しか持たないと思う。……それならば、彼らに恩義の代わりに対価を支払ってもらうとするか。


 さて、それは僕が一通り整備を整え終わってからで良いとして。とりあえず整備を進めるために、ハッサクとサクアにジョウロでの水撒きを手伝ってもらいながら作業を進めていく。

 すると、リリアが何か思いついたのかジョウロの水を寄越せとアピールしてくる。


 なにを伝えたいんだろう? と疑問に思いながらも、失敗する経験も大事だからとリリアのアピールとおりにしてあげると、リリアは吸収したものを噴水のように口から出し、地面を濡らしていった。


「リリアすごいよ! よく思いついたね、リリアのアイディアのおかげで作業が早まりそうだよ! ありがとう!」


 そう褒めてあげれば、数回空中で円を描くように回る。きっと、褒められたことに対する喜びを表現しているんだろうなぁと微笑ましくしばらく見守った。

 喜びが落ち着いた後、リリアは張り切って作業に取り掛かり始める。ジョウロを使えるハッサクとサクアは回復ポーション入りの水をリリアに提供する係に任命し、僕は濡れている地面にさらに清潔変化のスキルでさらに土の清潔さの向上を目指す。

 清潔変化を使いながら、土の品質をスキルで確認しつつ、今の段階では十分に植物が育つ環境になっていることを確認した。だけど、それは多分一時的なものだと思うから、僕がこの世界からいなくなった後でもこの場所だけは綺麗な場所であるように、彼らの力が必要だった。


「ねえ、ハルクール?」


 すぐ近くで作業を見守っていたハルクールにそう呼びかければ、


「はい、なんでしょうか?」


 すぐに呼びかけに応えてくれた彼に、僕は真剣な顔をして、


「僕の人を見る目を、信じてくれる?」


 今からする作業の必要性について説明し、彼ら全員の許しを得たのだった。そして、ハルクールに墓守の森の中心部で出てきてもおかしくない場所に繋げてもらった。……ちょうど、彼らが揃っている時間帯に。


「「零様!!」」


 僕の名前を呼ぶ彼らに、背後にいたもふもふ達に指示を出し、目隠しをさせた。それに驚いた彼らは解こうとした瞬間、足に抱きついてきたハッサク達を避けきれず、身動き取れなくなってしまう。


「ねぇ? 僕の調合した薬の調子はどう?」


「……他の薬より断然効果的です。しかしっ、なぜ目隠しなどするのですっ?! 理由によってはこの子達に攻撃を入れてまで貴方を止めますから!」


 理由聞いてくれるくらいには、冷静なようで何よりだよ。


「ねぇ? 僕ね、困ってるの。君らしか僕を助けられないの。君らには貸しをしてるし、助けてくれるよね。ああ、あとは目隠しをした理由だっけ? 依頼者は僕以外にその場所を知られたくないって言ってるから目隠しをしたの」


 僕は素直に理由を話した。

 僕は彼らに嫌われようが、今回のことは解決しなくてはいけないと感じた。そうすることで最終的には依頼主こと、ハルクールだけではなく、国民も豊かにすると感じたからだ。

 そのためなら、僕は数人の前で嫌われ役を演じることもできる。それがたとえ愛する人の前でも、大切な人の前でも、だ。



「ねぇ、助けてくれるよね?」



 朱基さんは僕の性格のことを損な性格だと言った。確かにそう思う。でも、1つだけ間違えを指摘するなら、これは性格ではなく、有栖家は貴族主義ではなく国民主義だ。

 そのためなら数人の人間に嫌われたって良い。


「……これが、姉が助かることの対価になるのであれば俺は喜んで零様を助けます。ですが、俺は零様が心配です」


 助けると答えを聞く前にハルクールがいる場所に移動されていたことに気づいていたのか、躊躇いなく目隠しを外してからそう言った。そして彼は続けて、


「国民だとか、貴族だとか関係なしにこの人のそばにいたいって思える人が零様には必要だってこと、それだけは覚えていて下さい」


 とも言ったのだった。ちなみに薫さんは新くんが目隠しを外したのをわずかな布が擦れる音を聞き分けたのか、外して作業を取り組み始めていたところに、新くんは合流していったのだった。

 その姿を見ながら考える、僕が立場関係なく側にいたいと思える存在が必要と言うのはどう言うことなんだろう? と。

 そう考えてみると僕には、そういう風に考えたことのある存在は1人もいないことに気がついた。結局のところ、僕は貴族で生まれたからには国民を守らなければならない、という気持ちが強すぎたのだとも気がついた。それは、僕自身が立場を気にしすぎて、孤立していたとも言える。


 しかし、気づいたところでどうだ? 僕はこの生き方を変えられるのかと言えば、無理だろう。だから、新くんはこういう人が必要だと言ってくれたのだと僕は自己完結をした。


「出来ましたよ。零様が下地を作ってくれたおかげですぐに浄化することが出来ました」


 はやっ! 僕が考えごとをしていた時間はせいぜい10分か、それの少しの誤差がある程度。僕は2、3時間かけてやったのに……と少しショックを受ける。


「そう……、あとはもういいよ。僕がやるから」


「でも……」


 手伝ったからには最後までってことだろうけど、品質にムラが出るから1人でやりたい。

 

「僕は緑水の位、有栖家の人間の中でも植物を育てることに特化した人間だよ。これくらいの範囲なら猫の手も借りたい気持ちにはならないね。まあ、とりあえず見ていなよ」


 そもそも育ちの手がある人間は耕す必要はないから土の上に種を並べるだけで、育ちの手がある人が水やりをやればちゃんと育つんだ。

 今回は早急に育てておきたいし、成長のスキルを使って瞬間的に植物を発芽させ、咲く直前まで成長させる。あとはリリアとサクア、ハッサク達に任せて水撒きを頼むだけ。

 有栖家の不思議な特性として、一度でも植物に関することに関わればその場所は土地が汚染されない限り、植物達は枯れては咲き、枯れては咲きを繰り返すこと。だから、僕はハルクールの願いを聞き入れた。

 出来ないことをやるのは、国民のためにはならないからね。


「これが、有栖様の血筋の力……」


 そう薫さんが呟いた数日後、ハルクールの管理する場所に大輪の花が咲いた。そして同時に奇跡が起きる。

 今までどんなに頑張っても浄化されなかった墓守の森が浄化されていき、僕が再び鍛練を再開したときには墓守の森は美しく変貌していた。


 どう美しく変貌していたのか? 例えるなら、まるで妖精の住む森のように幻想的で、植物が雪のように白いものが多い森に変貌していた。

 これはのちにたくさんの従魔やペットを引き連れつつ、気難しい冒険者に慕われる冒険者として、「妖精軍師」と言われるきっかけとなった。




 それから6年後。僕は有栖家の領土から、再び騎士族の治める領土に向かっていた。どうやらこの世界に前世のような入学式はなく、その代わりに親睦を深めるためにチーム戦か、個人戦かとかの詳細はわからないけど、実力テストと言う名の実戦をやるらしい。

 その上で、今の騎士族が治める領土がどうなってるのか説明しておこうかな。


 6年前、僕の行動により現在の光帝は危機感を覚え、騎士族の土地について再調査をしたところ、まあ叩けば叩くほど黒い噂を証明するような噂が出てくる出てくる。

 首謀者は、歴代仕えてきた家系でしたと。

 首謀者の家系は嫁に来た女性、まだ働いていない子供達、働いていても白と判断された者以外の直系は処刑。領主は交代、遊騎さんが任命されました。

 そのきっかけを作った僕はBランクに上がり、なぜか「妖精軍師」と通り名がついた。


 市民から英雄みたいな扱いを受けるから、あんまり騎士族の土地に行くのは気恥ずかしくて嫌なんだけど試験会場だから仕方なく来ていると言うのが、現在のことね。


 飛翔ボードを安全運転でかっ飛ばしながら来たかったんだけど、コハクを連れて行けなくなるし、大人しく馬車に乗っている訳だけど、


「ねえ? なんで季水も来てる訳?」


 過保護すぎて、くん付けするのもやめたくらいなんですけど、どうにかしてくれません??


「零が心配で仕方がなかったんだ。零が言うなら猪突猛進な性格も直したし、自分の意見だけで動くところも直したし、今思えば迷惑行為でしかないけど破壊癖も直した。あと、口調も少し落ち着いた口調にしてって言われたからそれも直した。だがな、お前に対する過保護と心配性だけは治せないんだ。日に日に美少女化が進むお前が心配で心配で、まだ告白されるくらいなら良い。誰だって勘違いをしてしまうことはある。けど、万が一タチの悪い同級生がいたら、零が傷ついてしまうことになったらと思うと夜も眠れなくて、だからいっそのこと実際に確かめて来いって玲亜が言ってくれたからこうしてついて来たんだ」


 ……あー、うん。これはしょうがないよね? 傭兵族の土地に行った時、違う土地から来ていた傭兵希望者に襲われそうになったところ、コハクが噛み付いて時間稼ぎてくれたんだよね。それから怒れるククルの力によって、植物で締め上げられたところを警護団の人が助けてくれたんだっけ?

 しばらく、傭兵族の土地出身以外の傭兵が近づいてきたら、ハッサク達が殺気立って大変だったなぁ。

 それに、しばらく過呼吸が癖付いちゃって、多少のストレスでも過呼吸が出ちゃってたし、休学して季水も側にいてくれたから、これについては強く咎められない。


「今回はしょうがないなぁ、もう! 対悪人だけは護衛していいから、しっかり働いてよ!」


「零〜!!」


 これを咎めちゃ、ただの兄不幸者だからね。しょうがないか、そう考えながら抱きつこうとしてくる季水から避け、ぼんやりと馬車の窓の外を懐かしの土地が見えてくるまで眺めていたのだった。


空野雪乃です。

次回から学園編が始まります。よろしくお願い致します^ ^

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