その11
「実はね、僕がこうして冒険者をしてるのは自分の身を守る手段を身につけるためなんだ。僕の血縁スキルと先天性スキルは攻撃系が皆無でね、後天性スキルで補うしか方法がないんだ。その代わり、有栖家の血筋もあって植物を育てることに特化しててさ、多分僕ならその土地をどうにか出来ると思う。……いつもはここまで自信になれないけど、何となく僕の育て方がこの土地に合うような気がするんだ。任せてもらえないかな?」
そう言えば、涙目になりながらハルクールは首を横に振って、だめだと言った。
「何で?」
「僕はレイに助けてもらってばっかりで、何も返すことが出来ていません!」
十分お礼をもらっているのに、律儀なハルクール。
「じゃあ、約束してくれる?」
対価の代わりにこんなことを頼むのはずるいかもしれない。でも、僕って身を守るためのもの以外に対して物欲が湧かないから、物よりも約束が良いんだ。
「僕のことを裏切らない、味方でいてくれるって約束してくれれば十分だよ。僕ら有栖家はね、何よりも絆に飢えてるんだ」
そして、前世の僕も絆に飢えていた。だから、何も違和感なく有栖家に馴染むことが出来たんだ。
『兄さんってば、ヤンデレまで行かないけど一歩踏み外すとヤンデレになる才能があるから、気をつけてよね』
また脳内で弟の声が響き渡る、まるでやり過ぎるなと警告するかのように。……前世では何それって思っていたけど、今ならそうだねって肯定するしかないとは思ってる。
弟のことは何かのきっかけがあれば思い出せるようにはなってきたけど、その他の家族のことを思い出そうとすると頭が痛くなるのは何でだろう? って気にはなっている。けど、また倒れたりして心配をかけるくらいなら思い出さなくても良いかと思ってしまうのは、僕が薄情な奴だからかな?
なんて考えているうちに、ハルクールは覚悟を決めたような顔をして僕を見つめていた。そして、
「僕は……いや、僕達は約束します、貴方を裏切らないことを。そして今の貴方が心のどこかに存在する限り、僕らは貴方の味方であり続けましょう。
でも、これだけは理解してください。僕は罠から助けてくれた時点で貴方のことを裏切らない、味方で居続けると決めていたことをそれだけはわかっていてください」
そう言った後、ハルクールはにっこり微笑み、「約束ですよ」とそう言った。
僕はその約束を受け入れ、とりあえず今日はもう作業するには遅いからと明日から作業を始めることを伝え、圭介さんと合流した後、今朝行けなかったギルドに向かうことにした。
側にいなかった時は何をしていたのかとか、圭介さんの質問をされながら、ギルドの門が見えるまで話しているとタイミングを察したかのように門の壁に寄りかかって朱基さんが立っていた。
「こんにちは。朱基さん、どうかした?」
僕が門まで近づいてきた瞬間、寄りかかるのをやめてこちらに近づいて来たから、「ああ僕に用があったんだな」と思い、声をかければ案の定、
「ああ、他の者には朝話したことなんじゃがな、古参の担当者がぎっくり腰になりおってのぅ、表上は代役として呼び寄せた事実上はこのギルドへの新しく仲間入りと言う形でこの地域の担当冒険者が1人増えた。その人物はお前は知っているじゃろうが、新と言う冒険者じゃ」
用件があったようで、歩きながら用件を話す朱基さん。……へぇ、新くんの歳でこのギルドに派遣かぁ、代役と言う名目で加入させたのは嫉妬防止ってところだろうなぁ。
朱基さんが呼び寄せるってことはよっぽど優秀な冒険者か、惹きつける何かを持っていたと言うことか。……本気で努力したんだろうな、本当にすごい子だ。
「うん、知ってるよ。すごいんだね、新くん」
「ああ、あの子はすごい子だ。冒険者として2歳児で歴代最年少登録をしたのが新なんだ、2番目に年少なのは登録したのはれいちゃんと季水だな。新は浄化の力を持っていて、運良く血縁に浄化スキルが出やすい薫が姉の恋人で、そして薫が姉の恋人だったのが運が良かった。
薫本人も実力者だし、父親はギルドマスターで兄貴分気質だったのもある。しかし、何よりも新は努力家だったから4歳までは浄化の能力で活動し、4歳からは短剣による超至近距離の攻撃の訓練を受け、才能を発揮した。正々堂々とした下剋上だ」
朱基さんにここまで言わすなんて、僕にないものを持っているんだろうなって思う。是非とも友人になりたいけど、……助けてしまった以上、友人になっても僕は親しい恩人と言う評価が付きまとうのは少し、寂しい。
それでも、僕は有栖家の人間として信念を貫かなければならなかった。それは後悔はしていない。
新くんだけじゃない。ハルクールもそう、圭介さんもそう、雪兎さんも和葉さんも例外じゃない。敬語を使っても、使わなくても心の奥にはどこか貴族としての僕を慕う気持ちがある。……それは、僕が貴族である限り付きまとうんだ。
本当に人脈があるって言うのは、慕われた人数じゃない。新くんのように、人数は少なくても本人の状況が悪くても、忠義関係なく差し伸べてくれる人がいることだと思う。
「……すごいや」
思わずそう感嘆すれば、
「ああ、そうじゃな。朝までいたんじゃがな、浄化当番の交代だから伝言を頼まれたんじゃが、お前さんの薬の1段階目で随分と新の姉の顔の血の気が出てきたそうじゃよ。……ここまで状態が良くなったのは初めてだそうじゃ」
同意した後、朱基さんは新くんのお姉さんの状態を教えてくれた。その伝言の内容に、心から良かったと思うことが出来た。
「……そうなんだ、良かった。用件はこの件についてだけなら、明日早くから墓守の森に行くつもりなんだ。僕の用事は、今日はゾンビの浄化報酬を受け取りについて聞きにきたんだよね。……あるなら、またギルドの貯金システムに入れておいてね、朱基さん」
浄化スキルがない人でも、浄化できるようになったし、追加報酬制度がなくなったかもしれないけど、一応言っておかないとね。
「ああ、あとはあともう少しで鍛練の再開が出来そうじゃよ。そのタイミングで、先送りにしていた夜兎との鍛練も始めるそうじゃって言うのも伝えておきたくてのぅ。……ゾンビ浄化の追加報酬については、まだ浄化に関わる冒険者も少なくての、ランクが上の冒険者は念のため買う者もいるが、積極的に討伐する者が少なくてな、まだまだ追加報酬が必要との上の判断じゃ。むしろ、厄介なゾンビ浄化のため、追加報酬の額を引き上げる以降の方が強い。どれ、ギルドカードを貸してみろ。すぐにそのように手配しよう」
僕からギルドカードを回収し、そそくさとギルドの中へ入って行ってしまった。朱基さんが帰ってくる間僕は考える。
あの時、新くんに対して一番距離が近い存在だと考えていたのに、今は一番遠い存在だと感じたのか。それは気づいてしまったからだ、今回に対して恩義を感じさせるには十分であり、それは一生付きまとう気持ちを植え付けてしまったことに。
咲良、咲斗、咲乃に対してしていることとは違う。あの子達に対してしているのは親代わりと兄代わりのようなもの、だから実際に忠誠は感じることはなく、家族のように慕ってくれていると思う。様付けをしているのは、神父がそう呼んでいるからだ。
いずれ、学園に入る際には親戚筋の分家、水化の名字にするつもりでいる。
後継者関係で有栖家に入れることは出来なかったけど、戸籍上も身内にするつもりだ。もちろん、三つ子には相談済みで了承ももらったし、水化家にはお父様によって交渉済みで、名前までは教えてもらっていないけど水化家で唯一光帝の第一王子に仕えている男性が保護者になることが決まっている。
新くんの場合、状況とタイミングが悪かった。でもね、ああでもしない限り僕の申し出を受け取ってくれなかっただろうし、今回は運が悪かったとしか言えないかもね。
……友達になれると思ったんだけどなぁ。タイミングの判断を間違ってしまったみたい。でも人の命がかかっているんだもの、そっちを優先しないといけないのは間違いないことだ。
「ほら、追加報酬はギルドの貯金システムに振り込んでおいたぞ。……ったく、お前さんは無欲よのう。例え、この時期は親から援助されているとは言え、自分の身を守るもの以外のものに対して物欲があっても良いはずなんじゃがな。お前にはそれがないからの、出費するのは孤児院の子らの援助くらいじゃな」
だって、物に対する欲はないんだもの、しょうがないじゃないか。書籍だって、有栖家の役目を果たすために集めているからわざわざ買う必要もないし、お金を使うのは温室の維持費くらい。
それに、お金じゃ絆は買えないでしょう?
援助しても、信頼してもらえるような行動をしても僕のような立場の人間だと、忠義の気持ちしか抱いてもらえない。
それは、貴族として生まれた使命だと思うから、この使命に対してコンプレックスを抱いているって感じさせてはいけない。それは隙となり、その隙が出来て取り返しのつかない事態を招くわけにはいかないからね。
「僕のしたいことはそれくらいだから」
そう言いながら、僕は違うことを考えていた。きっと、新くんと違うところはそこなんだろうなって思うと。
例え、たくさんの冒険者さんと知り合いでも結局、心のどこかで彼らのことを信用していないのは僕なんだろうから。新くんと薫さんの間には確かに信頼関係があった、それが彼の人脈と僕の人脈との違いなんだと思うと考えていた。
かと言って、僕は新くんのようになりたいとは思えない。僕には立場があって、どんなに親しくても正式な場では仲良い冒険者さん達も僕を貴族として扱わなければ罰せられてしまうのだから。
「……お前さんは損な性格をしておるんじゃのぅ」
僕の内心を見透かしたかのような言葉に、僕は思わず聞こえなかった振りをした。




