その10
古本屋がある森へ急いで向かえば、まるで来ることを理解していたかのように、古本屋の前に店主である咲が待ち構えていた。
「お待ちしておりました、零様。そろそろ来るのではないかと思い、零様がお望みであろう品、『とある勇者の話』を知っている限り、集めておきました。とある古本屋の場所が特定されましてね、本の避難を手伝う予定でいろいろな古本屋を巡る予定がありまして、ついでに買収しておきました。他の古本屋にも情報を集めましたが、確実性があるものの場所には行って回収できたのは2巻〜7巻まででした。他の巻数の行方は最後見かけた時はこちらにあったと言った確実性のないものですが、良かったらどうぞ」
本を渡された後、値段を聞いたが、けして彼の行動の割に合うものではなくて、だから僕は時間ももらったからと適当な理由を付けて、報酬を多めに渡すことに成功した。咲くんは複雑な顔をしたけど、古本屋にとって長い間移動することがどれだけ危険なことは理解しているからこそ、彼が時間を割いたという事実は重要なことなんだ。
「ありがとう」
思いやりで行動してくれたことに対して言葉で感謝を伝え、無事で良かったと伝えるために咲くんを抱きしめた。……まあ、周りから見れば僕が抱きついているとしか見えないだろうけどさ。
「あとは任せて? 僕ら有栖家は、ずっと君ら古本屋の味方だからさ」
捨て台詞のごとく言葉を押し付けた後、本来ならギルドに向かう予定だったけど、行く気分でもなくなったからそのまま墓守の森に行くことにした。
圭介さんとは毎回のごとく、墓守の森の入り口で別れ、初っ端からゾンビの群れに遭遇する悲劇。
尽きることなく現れるゾンビの群れの多さと土葬するたびに痛みが走る腰に苦しませられつつ、墓守の森の探索を続けていく。数日間、日によって探索する方角を変えて探索をしてきたが、探索スキルで記されている地図となんら変わりもない地図を描くことができてしまった。抜け道も見つけられなかった。
「交代の時間だよ」
しかし、墓守の森にはゾンビが多い。一群れ見つけたら、その周りには4群れいても過言ではないくらいゾンビが存在する。連携を取りながら戦うハッサク達と交代で浄化していくけど、それでも体力的にきつい部分があるくらいだ。
終わりの見えない戦いだなぁ、それはもう前世で言う繁殖力がカンストしていると言っても過言ではない奴らとの戦いのようだとも思う。まあ、そう考えるのも今のうちかもしれないなとも思うけどね。
墓守の森は、元々墓地として使用していた森だったんだけど、火葬されないで土葬されていたから今では冒険者の依頼の宝庫になってしまっているけど、昔は普通の森だったらしい。
それは墓守の森の土地質が普通と異なり、魔物を生む成分が含まれていたからゾンビが誕生してしまっただけで、普通の土地ではこうはならないんだ。だからここに土葬された人数が、今墓守の森にいるゾンビの数と考えれば終わりがある戦いとも言える。
それはさておき。しかし、まあこの銃弾のおかげでゾンビの浄化作業も前よりは楽になってきたし、それに一回の探索で浄化できるゾンビの数も桁が違くなってきた。しかも、ハッサク達と探索出来るようになったことで、体力的にも前よりはしんどくなくなってきている。
それでも、数をこなしているのには変わりはないから、うちの子達も含めて浄化(最早戦闘)狂いにならないか心配になりつつある、今日この頃。
そう言えば、清潔変化にはゾンビを弱らせる作用があるんだったと、ゾンビに関しては場数を踏み過ぎている僕は変に冷静にそのことを思い出してからはスキルをどんどん使うことを躊躇わない。
しかし、探索の意味をなさないくらいに大量に墓守の森の中を蠢いていたゾンビ達が今では半分くらいになっているのもまた事実。正直、ゾンビの浄化作業よりも土葬をする方がしんどいけど、最近妙に握力と脚力がついてきているんだけど、目に見えて筋肉はつかないのが一番しんどいかな。
悲しくなって来たところでゾンビの群れは途切れ、土葬作業に入る。それをゾンビの群れと遭遇するたびに繰り返し、やっとゾンビの群れが周りにいない状態を作り上げることが出来た。
やっとゾンビの群れから解放され、ひと休みをすることが出来るーとお茶を飲んでいると次の瞬間、僕の膝蓋骨の上にいつのまにかこの前の小人さんが登ってきていて気配のなさに驚かされた。……念のため、探索は機能したままにしたあると言うのに。
「僕は死を司る■■の王子、ハルクールと申します。姿を隠せるとは言え、足に絡みついた罠が外れないのは変わりありませんでしたから、いつ持ち主が現れて不良品として捨てられてしまうか冷や冷やしていたのです。そんなところを助けて頂き、ましてや帰るためのお手伝いをして頂いたのですから、一度お礼に向かうのが筋だと思いまして、こうして再び会いに来させて頂きました! この度は助けて頂きありがとうございました、何かお礼をさせてください!」
死を司るの後が聞こえなかったけど、きっとそれは僕が聞かないはずの情報だったんだと納得させた後、人差し指でハルクールの頭を撫でながら、「どういたしまして」とお礼の言葉を素直に受け取ることにした。でも、お礼を何かの形でもらうのはもらいすぎだと思うんだ。
「言葉だけで十分だよ、お礼はいらない」
そう言えば、ハルクールはショックを受けたような顔をして、
「なっ、なんでですか!?」
言った後は涙目で見つめてきた。これは言葉が足りなかったかなと思い直して、
「それはね、君を助けたおかげで入手が難しい後天性スキルを入手出来たからだよ。それで十分、お礼はもらってる。……それでも、お礼がしたいって言うなら僕の小さな友人になってくれないかな? それだけで僕は十分なんだ」
付け足してそう言えば、小さな友人になってほしいと言うお願いの部分に対してだろうね、何回も何回も頷いてくれた。
「そう言えばハルクール、僕は探索スキル持ちなんだけどね、墓守の森には探索スキルでは表示されない場所があるんだけど何か知ってる?」
雑談のつもりでそう聞けば、一気に難しい顔になって何か考え始めた。……もしかして聞いてはいけないことだったんだろうかと思い直し、
「別に言えないことなら言わなくていいよ?」
そうフォローをすれば、ハルクールは横に首を振って否定した後、
「絶対にこの街の人に話さないと約束できるのなら話します。……それでも良いですか?」
そう聞いてきたため、思わず「うん」と答えてしまった。反射的に肯定しちゃったけど、この前墓守の森の一部だと言っていた男性があまり深くまで踏み込みなって言ってたのに、今更なぁ。断ることも出来ないし、男は度胸! 一応話を聞くにあたって、ゾンビ対策に札結界も張ってあるし、探索スキルも維持を続けておこうと思う。
「探索スキルが通じない土地と探索スキルで表示される土地の境目には結界が張られているのです。人的では不可能な強力な結界が存在しているので、その先に人だけて行くことは不可能なのです。それは僕達が愛したたった2人の兄弟を、彼らを狙う者から穏やかな眠りを守るためにそうしました。しかし、狙う者も諦めず、墓地であることを利用して大量のゾンビが生まれるようにしたんです。そして思惑通り、大量のゾンビが生まれ、僕らは墓守の森内を昔ほど自由に動き回ることが出来なくなりました。そしたらきっと、彼らを見捨てるとでも思ったんでしょうね」
そう言って、ハルクールは悲しそうに笑った。
「でも、誤算が起きたのです。彼らが思っている以上のゾンビが生まれ、浄化の仕方もあやふやなため、管理が出来なくなってしまった、それからは事実を隠して実質人任せにしているような状態なんだと思います」
それじゃ、実質的にゾンビの存在で彼らの眠りを守っていると言うこと? それなら……!
「今、僕がしていることは迷惑だった?」
そう聞けば、ハルクールは首を横に振って否定した後、
「いいえ、感謝しきれないです。最初はゾンビの存在のおかげで奴らが入ってくることを防げることに皆感謝してました。次第に年数が経つうちに、僕らの土地まで腐り始めて花畑は廃れ、僕達が愛した兄弟のうち1人が眠りから覚めてしまいました。彼は強かったから自我が保ていますが、体の弱い弟の方はおそらく目覚めればゾンビとなるでしょう。そうなる前に元の土地に戻して、花畑に戻し、安らかな眠りについて欲しいのですが、僕らにはそんな力はありません。だから僕らはこれ以上、ひどくならないようになることが最大の願いです」
ハルクールはそう言った。
……多分、有栖家の力を使えば、元に近い状態に戻せるような気がする。兄弟を離れ離れにするのは避けた方が良いような気もするしさ。
「小さな友人、僕に手伝わせてくれないかな? 僕ならきっと、その花畑を元に戻すまでは出来ないけど、新しい花畑は作れる気がするんだ」
なんせ僕は、有栖家の中で一番植物を育てることに特化した人間だからね!!




