その2
とある勇者の話によると、ゾンビとは火葬されなかった人が時間をかけて体に魔力がたまり、魔物化した存在らしい。
ゾンビを完全に倒すためにはポーションで弱らせた後に心臓に物理攻撃をする、それしか手段はないと書かれていた。
(まあ、ポーション作りし過ぎてポーションが高品質になり過ぎたものを使ってるから、ゾンビの頭が弾け飛んだけどね……)
さて、ゾンビだとは言え、火葬は必要だよね? ここは森だし結界を使って燃やすかな。
使うとしたら、三天結界だよね。探索には周りに他の魔物も近づいてきていないし、火葬はしておこう。何かあったら嫌だからね。
ゾンビを札で三角形に囲うように置いた後、マッチで火をつける。札は紙だし、早くしないと燃えちゃうからさ。
「《三天》」
そう呟いたと同時に三角錐の結界が出来た。ゾンビの姿が消えるまで見守った後、消えた同時に大量の水をかけた。
幸いその量の水で火は鎮火したため一安心し、何度か消し残しがないか再確認した後、次の採取候補場所に移動をするのだった。
「いちいち火で燃やすのも、鎮火の手間があるし、大変だな。毎回火で燃やすのもコストがかかるしなぁ」
思わずそう呟けば、
「何言ってるんだ? 1回あの方法で倒したなら安心して土葬してあげれば十分だよ。ゾンビにとってポーションは猛毒なんだよ、その後に心臓を貫けば2度とゾンビとして復活することはないの。だから、土葬してやるのが適切なんだ」
思わず呟いた独り言に返事が返ってきたことに対して驚き、声がする方へと振り返れば、フードを深くまで被り、外套を着ている男性がいた。
(……っ! いつの間に?! 探索にも引っかかっていないのに、人がいるのはなぜだ……?)
警戒して数歩下がれば、
「そんな警戒今更だろう? ……まあ、正しい判断してくれたことにおじさんは安心したよ、少年」
男性はそう言って、思わず警戒したことがバカだったと思ってしまうくらいに人好きそうな笑顔を浮かべていた。その笑顔にこの人はこれ以上警戒する必要がなく、僕のことを騙す気もないのではないかとなんとなくそう感じ、警戒を解く。
すると彼はさらに笑みを深め、
「君は賢いね、零くん」
僕のことを褒めた。彼に自己紹介をしたわけでもないのになんで名前をしているのか、驚きのあまり声がでなかった。すると、ついにクスクスと声を上げて笑って、
「そして君は素直だ、考えていることがすぐに顔に出る。貴族の素質としてはどうかなとは思うけど俺は君のことを好ましいと思った。だから教えてあげるね、俺はこの森の一部、この森で話している内容は全て知ってるよ。だから、君の名前も知ってる」
その言葉に嘘はないとすぐわかった。……そう話している時に一瞬見せた悲しそうな顔は、数十年くらい1人でいても浮かべられないくらい悲痛なものだったから。だから彼は間違いなくこの森の一部なんだろうって素直にそう思った。
僕は考えていることが顔にすぐに出るから、何も言わなくても彼は勘づいた。そしてこう話す。
「零くん、信じてくれるんだね。そんな零くんだから忠告しておく。この街の闇に深くまで関わってはダメだよ、この街の貴族に関わってはダメ。関わって良いのは何も知らない遊騎と悪役を演じている彼だけだからね。有栖の逆鱗に触れないように見逃す判断ができるのはこの2人だけなんだよ。できるなら遊騎以外の貴族と関わらない方がいい。好奇心で動いてはダメだよ、身を滅ぼすことになる。いいね?」
まるで、自分がそういう目に遭ったことがあるかのゆうに言うから、圧倒されて思わず頷いてしまった。
確かに僕はこの街の歴史に興味を持っていた。それはあまりに不審すぎる当主の死があったからだ。それにあの童話の存在、あれには興味が惹かれた。その好奇心を見抜かれたかのような忠告でもあったんじゃないかと頷かされた後にそう感じた。
僕も死にたいわけじゃない、今は彼の言葉に従っておこうと思う。
「今度会った時には会話を楽しもう」
時間切れだと伝えるかのようにそう言って、外套をかぶる彼はこの森の空気に溶け込むかのように消えて行ったのであった。
その消え方を見て、改めて彼はこの森の一部なんだとそう感じたのだった。
今日出来たのは大量に受けた依頼の消化と数十体のゾンビとの戦闘、そしてこの森の一部だと語る彼との10分くらいの会話だけだった。
依頼の消化を終えた後、湖波さんと合流をしてギルドに向かい、依頼の終了の手続きをするため、ギルドカードと現物を提出したところ、数十体のゾンビの討伐が明記されていて臨時報酬を得てしまった。
これで孤児院の子らに勉強道具を買ってあげよう。それから、画材を買ってあげるのも良いかもしれない。
なぜ僕は臨時収入を得ることができたのか。それはゾンビは復活するため、正しい倒し方をしなければギルドカードに明記されることはないそうで珍しいことらしい。だから、ゾンビの討伐が明記されている時には臨時収入を渡すのが規則なんだって。
朱基さんに倒し方を聞かれたんだけど、とある勇者の話は保護対象の本であるため、その存在を話すわけにはいかない。
だから、1回毒草を食べていてなんともないゾンビを見たことがあるから、人とは逆の効力が働いて回復ポーションはゾンビにとって毒物になるんじゃないかと考えたと説明した。それで、長距離から攻撃できるように回復ポーションを前世で言う水を入れる風船みたいなのに入れて投げつけた後、弱っているゾンビの心臓を貫いたと説明すれば苦笑いされてしまった。……なぜだ?
「回復ポーションでの退治は、臨時報酬との釣り合いを考えるとあまりにも高コスト過ぎる。それが出来るのは温室で薬草を育て、自分で回復ポーションまで作ることができるお前くらいなもんじゃろうな」
苦笑いをされた理由が理解できたような気がする。確かにこの臨時報酬で回復ポーション代を黒字にできるかと言われれば、不可能であると思う。
まあ、もしゾンビがこの街に襲いかかってくるような事態になれば温室は無償で開放するつもりでいるし、どうやって作ったかくらいは情報提供はしておいた方が良いかもしれない。
ポケットから万年筆とメモ帳を取り出し、迷うことなくレシピの割合を書いた後、
「一応レシピ書いたけど、いる? 朱基さん」
「どうせ、れいちゃんのことじゃ。ゾンビの大群が街を襲ってきたら、あの温室を無償開放するとかいうんじゃろう? その時、れいちゃんがいるとは限らんしな、買い取ろう。それから、れいちゃんのオリジナルのレシピなんじゃろう? ついでにレシピ開発者としての登録も儂がしておこう」
うっ、僕がやりそうなこと見抜かれてる……! 朱基さんには敵わないなぁ。
それにレシピも無償で提供するつもりでいたのに先手を打たれてしまった。確かにどの資料を見てもこのレシピは僕の独自のものだけどね、別に有料で提供するようなものでもないのに……。
「れいちゃん、儂は長生きしておるがこのレシピは見たことがない。ゾンビの討伐は、冒険者の長年の課題だったじゃよ。それが高コストとは言え、解消されたのは大発見と言えるんじゃ。だから正当な報酬が必要じゃし、発見者登録も必要じゃ。何でもかんでも無償で提供し過ぎるのも良くないぞ、こればっかりは従ってもらうからの」
「は〜い」
朱基さんがそこまで言うなら報酬を貰って、発見者登録もするしかないかと考え直し、素直に報酬を受け取ることにした。
まあ、あの子達に寄付できる物が多く買えると思うことにしよう。そう考えた後、僕はハッサク達と合流してから買い物に向かいながら、明日はなるべく低コストになるようなゾンビの倒し方について研究をしてみるかと明日の予定を変更したのだった。……明日、孤児院にも行ってみるかな。




