その3
「えぇ〜? 今日は墓守の森に行かないのかぁ? 今日も湖波さんは晴乃から依頼受けるなら1人で稼げって言われてて寂しいんだけど!!」
鍛錬が続いているハッサク達を送ってきた時に、湖波さんに捕まってしまい、こうしてぐずられているわけなんだけど……。
「別に依頼受けて来いとは言われてないんだよね?」
「うん? むしろ休め言われてるぞ」
どんだけ依頼受けてるんだよ。それじゃあ、晴乃さんにも1人で受けて来いって言われてもしょうがないよね、全くもう。
「ゾンビの追加報酬内のコストで収まるように、もう少し研究しようかと思って。湖波さんも一緒にやる?たまにはお休みも必要だよ?」
優しく諭すようにそう提案すれば、湖波さんは目を輝かせて、
「そうだよな! 零姫の言う通りだな。今日は湖波さんも〜、冒険者活動をお休みしてお手伝いすることにしよっと!」
一気にご機嫌になっていく。湖波さんは寂しがり屋さんだからなぁとそう考えながら、手を差し伸べれば嬉々とした顔をしてその手を握り、さらにご機嫌になった彼を引き連れて温室に戻るのだった。
「白衣貸せたら良かったんだけど、僕の白衣しかないから体格差的に着れないからなぁ。汚れないように気をつけてね。もしかしたら毒物も使うかもしれないから、これはつけてね」
温室に着いてから気づいたんだけど、液体物で研究しているから白衣着てないと薬品が染み付いちゃうんだよね。……湖波さん、汚しそうで怖いんだけど。
まあ、取り敢えず毒物も使うかもしれないから口と手だけは保護しておいてもらおうかなと思い、マスクと使い捨ての手袋を渡せば素直につけてくれた。
「多少の汚れくらい気にしないからいいぞ。これは汚れても良い、依頼用の格好だから。それより、今から何をしていくんだ?」
「んー、ゾンビをこれ以上増やさないための対策かなぁ? 今の所思いつくのは、香水タイプの回復ポーションだけど、ゾンビは良い香りって言うよりは毒々しい匂いに反応するみたいだし、自滅しかねないと言うか」
相談しながらできるっていいなぁ。改めて考えをまとめながら、整理できるって言うか……なんて考えていると僕のその話を聞いてすぐに思いふけるような顔をした後、いつもの調子で湖波さんはこう言った。
「固形にすれば良いんじゃね?」
固形にすれば良いんじゃね、その声が何回も脳内で繰り返された後、カチリッと音を立てて全てのピースが当てはまったような気がした。
「……湖波さん、ありがとう。低コストになるか否かは置いといて何か、上手くいきそうな気がするの。だからね、お願い聞いてくれる?」
「も、もちろん!! 俺は何をすれば良い?」
「朱基さんから僕の拳銃の弾の型を借りてきて! ふふっ、湖波さんのアイディアのお陰で良いものがつくれそうな気がする! あと、このメモに書いてあるもの買ってきて! お金はちゃんと後で払うから!」
そこからの記憶が全くない。
気がついたらあちこちに配合やら考察やらが書かれたノートが散らばっていて、調合台には僕が作ったであろう物と、屍のように疲れ果てて床に転がっている湖波さんの姿だった。
「湖波さぁーーん!! 大丈夫?!」
記憶のない僕だったけど、明らかに僕が湖波さんを疲れさせた元凶であることは明白で。立て替えてもらっていたお金を返した後、疲れ果ててまっすぐに歩けなくなっている湖波さんを支えながらギルドまで送ったのだった。
「体力馬鹿をここまで使い潰すとはさすがの集中力としか言えないな。湖波については、晴乃に迎えを頼んであるから安心しろ」
朱基さんのその一言に、言っていることは正しいので何も言わずにいた。
「……ゾンビの低コストな戦い方について研究していたそうじゃな。結果によっては、また発見者登録をしてもらうことになるし、レシピは報酬を払うギブアンドテイクで提供してもらうからの」
それについては前回のことで、良く思い知らされたから今回は躊躇したりはしないから大丈夫。納得はしているから、了承しているとわかってもらうために僕は頷いた後、こう言った。
「レシピについてはある程度完成しているよ〜、低コストかどうかは二の次になっちゃったけど。あとは販売しても支障はないか、第三者の視点から完成と言ってもらえれば、売り出すことは可能なクオリティだと思う」
「余程集中したんじゃのう、儂が途中経過を見守っていたことに気づかないくらいには、な?」
えっ……、来てたの?? 嘘、気づかなかった!! ぼくの集中力って致命的かも、暗殺者が来ても気づかないのでは、と危機感を覚えていると……、朱基さんは苦笑いを浮かべてこう言う。
「有栖家に手を出すような暗殺者はまずいない。暗殺者にとって、1番の天敵は有栖家だからだ」
……え、どう言うことですか?? と理解が追いつかないでいると、朱基さんは笑みを深めて続けてこう言った。
「お前が知らなくても良いことじゃよ、有栖家の血筋である限り暗殺者を怖がる必要はないと言うことだけ理解しておれば良い。それよりも第三者の視点が必要と言っておったろう? どれ、個室にいるついでに儂が仕上がりを判断してやろう」
え〜、何か話逸らされた気がすると不服に思いつつもまあ良いかと思い直し、言われた通りにアイテムボックスから研究成果を出してお披露目することにした。
思っていた以上にあったな……とつぶやいている声が聞こえたが、華麗にスルーをかまして僕は嬉々として商品のプレゼンを開始する。
こういうことをする時は必ず必要最低限の敬語を使うようにと言われているので、ちゃんと必要最低限の敬語を使うようにしなくては。
「まず1つ目! ゾンビ全然関係ないけど、乙女の味方護身グッズです。一見香水のように見える見た目だけど、実は時間が経てば身動き取れるように調合した麻痺状態にする香水ですっ! 万が一、間違えた時用に即効性の麻痺解除の香水付きのアフターケアもばっちり!! 流石に毒は危険かなぁって思い、護身香水シリーズは麻痺と睡眠作用付きの香水のみにしました。ちなみに誤飲しても体に支障はないような成分で調合済みです」
そう説明すれば難しそうな、見極めるような顔つきをしながら朱基さんは躊躇うことなく護身香水を自分の手につけ、効力を確かめた後、すぐに解除香水をつけて手を開いたり閉じたり確認をしていた。
(緊張するなぁ、この空気感!)
なんて、脈拍数が早くなるのを感じていると、
「効力時間は?」
「体格には寄りますけど、3〜5分って言ったところでしょうか? 解除香水を使って違和感は残ってないですか?」
「ないな。良く出来ている。これは女性じゃなくても、ある程度理解できる歳になった子供やお年寄りにも有効だな。悪くない」
質問され、質問し返した結果、良く出来ていると言う判断が出て一安心した。あー、香水作成のスキル様々だなぁ。
「2つ目は、 回復レトです。弱点を言えば溶けやすいところなんですけど、幸い溶けても効力は変わらないので大丈夫かと。何れも麻痺回復、毒回復、回復、睡眠状態回復の4つの効果付きの4種類ずつ用意しました!見分け方は味です。麻痺回復がレモ、毒回復がグレ、回復がストロ、睡眠状態回復がグレフレの味付けとなっています。これなら回復までの時間が短縮されます。どうですか!!」
回復作用があるのはレトがコーティングしている中味のジュレなんだけどね、これは味も美味しいし、効力もばっちりだと思う。
現に、わざわざ検証しながら食べている朱基さんもうんうん頷いているし、効力面については大丈夫!
そう考えていたけど朱基さんは難しそうな顔をして、
「儂は甘党じゃから美味しいと感じるが……、甘いものが苦手なものは買わないじゃろうなぁ。いっそ、中のゼリーみたいなので回復してるんじゃろう? それだけじゃだめなのか?」
そう提案してきた。
ちなみにレト、正しくはレトの実なんだけど前世で言うチョコレート風味の実なんだよね。使い方は粉状にしないといけないんだけど、湯煎したら溶けたから今回使ってみたけど、レトの実ってコストがかかるんだよね〜。
レモン風味のレモの実、ぶどう風味のグレの実、苺風味のストロの実、グレープフルーツ風味のグレフレの実はそこまでコストはかからないから、たくさんの人に買ってもらうとなるとやっぱり朱基さんの提案した方が現実的なのは理解していた。だから、
「実はそう言われるとは思っていたので、回復ゼリーです。こっちが本命ですね。固めに作っているので持ち運びも出来ます。さっきのはレトは、回復作用を抜いて普通にお菓子として作れるかなと思い、挑戦から作ったものです。あれは作れるかなぁって思って挑戦しただけなので販売するつもりはありませんし、レトについてはレシピを公開しません」
「回復ゼリーなら、問題なく販売できるな。うん、甘さも控えめじゃから大丈夫だろう。レトは販売もレシピ公開も許可しない。あまりにも、魅力的すぎるからな。レトの実を巡って他国と戦争になりかねないからな」
回復ゼリーを販売できれば、上出来な結果と言えるから満足だ。戦争が起こるまでは行きすぎだろうって思ったけど、この世界は前世よりも料理が発展していないからあり得なくはないなって思い直したから否定しないでおこう。
レトのレシピについては、純粋に僕がレシピを作ったわけではないので発見者登録されるには罪悪感があるんだよね。
さて、余興はこれくらいにしておいて、次はゾンビとの戦闘アイテムを見てもらおうかなと考えた瞬間、落ち着いていた緊張感がまた復活してきたのを僕は感じていた。
「これは取り敢えずの試作品なんですけど、湖波さんに協力してもらって回復ポーションを限りなく冷たい温度で銃弾の型に凍らせたものです。恐らく、僕が工作じみた方法で作ったから使えるかどうかはわからないですけど。申し訳ないですけど、朱基さんに作って貰えないかと……」
「そうなると高コストになるぞ。お前はそれで構わんかもしれないが……、他の冒険者がお前のようにお金を稼げるとは限らんからのぅ。取り敢えず、お前が試作といった銃弾で試してみるか。浄化しきれなかったゾンビの肉片で実験すればゾンビ管理のコストもなくなるし、浄化できれば報酬も出す」
長年のゾンビの管理がなくなれば、確かにそのコストは他のことに回せるし、報酬をもらうべきかもしれない。
ここで受け取らなければ、このギルド以外からは良いように利用されるかもしれないし、もし他のギルドからも頼まれた時の報酬の判断になるかもしれないからここは有難くもらっておこう。
「わかりました。ゾンビの肉片の処理の報酬をどのように決めるか、細かく決めておいてください。他のギルドから依頼が来たらその時の基準にしておきたいので」
「そうじゃな、取り敢えず地下倉庫へ移動するとしようかの。……おーい、咲斗! 小遣いをやるから、上下移動機の操作を頼む」
(……咲斗は賢者の資質があるからなぁ、同じ資質があるこの子のことを気にかけてくれているんだろうな)
そう考えつつ、上下移動機……前世で言うエレベーターの操作を手慣れた手つきで行い、一緒に咲斗も乗り込んでくる。
「零様、こんにちは。僕、零様のおかげでたくさん学ぶことができてる。薬草・毒草・雑草の仕分けとか、品質管理とか教えてもらってそのお仕事できるようになった。ステータス見るお金も、朱基さんに賢者の勉強を教わるためのお金もたまったからギルドで冒険者さんじゃないけどいれるようになったんだ」
口調はたどたどしいものの、大人じみた報告してくる咲斗の頭を撫でてあげれば、誇らしげな顔をするもんだから思わず微笑ましい気持ちになって自然と口元が緩む。子供らしい一面がたまに出てくるところがご愛嬌で咲斗は可愛いんだよね。
咲斗は優秀だ。2歳児だからフィールドワークとか体力面が足を引っ張っているが、前世の記憶があるんじゃないかと思うくらい賢い子。それは頭脳はスキルの副作用で生まれた時から賢者として存在しているからだ。
何で副作用と表現したかと言うと知恵熱のレベルが次元を超えているから。知恵熱を出すたびに40度を超える熱を出す。賢者として産まれた者の宿命だ。
だから、咲斗が大人になるまでは、大人が管理して彼の身体の調子にあったペースで勉強するように時間調整しなきゃいけない。
しかし、咲斗は信頼できる・自分より優秀または秀でた部分を1つでも見つければ素直に提案を飲み込むか妥協案に応じてくれる良い子だ。少し捻くれた部分もあるけどね。
良い子で賢い彼はある程度場所を提供すれば、彼の性格と過去のトラウマ上、業務以外のコミュニケーションは上手に取れないが、仕事の態度で自分の立場を自然に確立することができるくらい高い能力がある。
「れいちゃんに対しては甘えきった子猫みたいな顔をするのぅ、咲斗は。まあ良い、咲斗は頼れるからの、今回は儂とお前の大好きなれいちゃんの役に立ってもらうとするか。今回はお前のその頭脳と、能力が必要となるから覚悟しておくように。……前回の予習・復習はしてあるな」
「……もちろん」
片方は賢者見習いとは言え、賢者間のやり取りの空気感はこう言う感じなのかとマイペースに僕はそう考えていたのだった。




