6歳編 その14
カラスだと思っていたから、カラス君って呼んでいたけど、呼び過ぎてすっかり名前だと思っているみたい。呼び名を変えようとしても、他の名前では返事をしてくれない。
もう正直に言うと、カラス君で良いような気がしてきた、珍しい生き物みたいだから惑わすのにはちょうどいいしね。
それに、検査されながら色々試みたけど全然ダメだったし、この福青鳥自分のことカラスだって思っちゃってるしさ、もうどうしようもないしね。
「一応れいちゃんの検査もしたけれど、安定してきとるよ。……まだまだ油断は出来ないってところじゃろうが、そのままそれを身につけておけばまあ大丈夫じゃろう。少しの間、休養は必要じゃがな」
休養かぁ、休養って言っても対していつもと変わってないんだよね。温室の管理はしてるし、『札術』と『札結界』の鍛練になる札作りもしてるし、孤児院やギルドに行けない以外には生活する上での習慣はほとんど出来てるしさ。
「わかった」
別に困ってないしさ、数日くらいなら大人しく休養しておけば周りの人も納得してくれるだろうし。
「カラス君、おいで〜」
朱基さんのことも好きになったようで、片付けをしている朱基さんの肩に乗ってぴょんぴょん跳ねているカラス君。邪魔してると思って、呼び戻せば残念そうな顔されてしまった。……ごめんなさい!
「カラス君、良かったね朱基さんもカラス君のことが好きだって!」
「カァ!」
嬉しそうな声を上げて、僕の肩の上でぴょんぴょん跳ねた。……可愛い〜!
その瞬間を朱基さんも見ていたのか、口元を押さえて崩れ落ちてしまった。相当、動物が好きなのかな? なら、呼び戻してしまって申し訳ないことしたかも。
そう思っていると、気を取り戻すためにわざとらしく咳をした後、
「喜んでもらって何よりだ」
誰よりも嬉しそうな顔をしていた。それからすぐに真剣な表情に変わって、
「これからも保護を続けるつもりか?」
と聞かれたから、
「ん? 彼らが求める限り、僕らの財力で賄える限りは保護を続けると思うよ? だって、動物達も僕にとっては国民だよ? 助けるのは当然でしょう?」
そう答えれば、苦笑いをされてしまう。
「それが例えドラゴンだとしてもか?」
「ああ、うん! ドラゴンくらいの巨体の生物だったら季水くんに更地を作ってもらわないといけなくなっちゃう! 無駄に広いし、少しくらい更地にしても大丈夫だよね。ああ、でも国民に理解してもらってからだから時間かかっちゃうかも……」
ドラゴンを飼えるなんて素敵っ! って考えつつも、住民の皆が怖がるかも知れないと頭に過ぎり、少しだけ高揚感が落ち着いてくる。
「ああ、あそこの住民は慣れてるから平気だ。一時期、ドラゴンも飼っていた……と言う資料もあったからのぅ、報告すれば納得するじゃろうな。有栖様のすることだからってな」
(……そう言われればそうかも。子供達も普通に熊さん達と追っかけっこしてたし、説明すれば案外納得してくれるかもしれない)
「まあ、今存在を確認出来ているのは遊騎を慕うあのドラゴンくらいよ。後のドラゴンは生きているのか、それとも絶滅しているのかすらもわかっていない。絶滅を確認出来ているのは精霊と魔法くらいなものよ」
そう言った後、「大人しく休養しておくように」と釘を刺して、朱基さんは去って行った。
すると、空気に徹していた遊騎さんは苦笑いを浮かべてこう言う。
「あの子が危機感がないだけなんですよ。ドラゴンは絶滅していませんよ、人を恐れて隠れているだけなんです。あの子が言うには、あの子と同じ種のドラゴンは全て草食ドラゴンはらしいです。だから、巣を荒らされない限りは人を襲う理由はないそうです。むしろ人側が勘違いをして、討伐され続け、あの子と同じ種のドラゴンは絶滅しかけているそうでだからこそ、ひっそりと暮らしているそうなんですよ」
「それを何で僕には言って、朱基さんには言わないの?」
「別に朱基さんのことを信用してない訳ではないんですが、動物をこよなく愛している朱基さんだからこそ、ドラゴンはあの子以外にも存在するってことは伝えていないんです。あの方は必ず、この話を聞けばドラゴンを助けようとするでしょう。それは困るのです、この街のギルド運営を支えているのは間違えなく彼です。彼はこの街に必要不可欠な存在なのです。だから言いません、私は仮にもこの街を統治する貴族の1人ですから優秀な人材を手放すわけにはいきませんから」
まあ、確かにね。あの様子では、ドラゴンがいると聞けば飛び出して行ってしまいそうだよね。
「まあ、そうだろうね」
「ええ、一個人としては応援して差し上げたいのですけどね。……零様に伝えたのは、相手から助けを求められたら助ける、そんなスタイルだからです。ドラゴンは人の手を借りずとも生きて行けています、もしドラゴンが望まなければ保護はしないでしょう?」
「まあね、しないよ。僕は幸せになって欲しくて、今の生活に救いを求めている子を保護しているだけだもの。人によっては、偽善だって思うかも知れないね。保護するなら、出会った全ての動物を保護すべきだとか?」
現に、ハッサク達も僕に助けを求めてきて差し出した手を掴むか、掴まないかを選んだのは彼らだ。まあ、もふもふ4匹組に関しては、すり込みに近いのかも知れないけど。
カラス君だって、僕の側にいることを望んでくれたから僕はその声に応えただけだ。ゴールデンレトリバーのこの子に関しては、僕の独断での判断だけど。
「いえ、そんなことはありません。全てを受け入れようとするだけが保護ではありませんよ。ドラゴンは自立した生き物です、あの子が甘えん坊なだけで他のドラゴン達はちゃんと自分の衣食住を手に入れることが出来ております。そんな子達から自立を奪うことが保護と言えるのかを考えれば、私はあなたに対して無責任だとは言えないのです」
来る者拒ずのスタンスである有栖家だから、頼まれれば断らない。それは小動物から全ての動物出会ってもそうだし、……人間だってそう。
まあ、一度懐に入れれば、去ることは難しいと考えてくれたら良い。帰ってくる前提であれば、まあ許可を出すけれど、理由なしで消えることは頂けないから、有栖家のチート能力全力投球で訳を話すまで去らせないけどね。
「ありがとう。……ああ、でも気をつけた方が良いよ。僕達は一度懐に入れたら少し愛情過多(微ヤンデレ予備軍)気質だから、有栖家から離れることができないって覚悟を決めるか、よっぽど切羽詰まってない限りは人間が懐に入ろうとするのはやめておいた方が良い。敵側のスパイだろうと、一度懐に入った人は家族だからね」
圭介さんと雪兎さんの忠誠をなぜ受け入れたのか、それは僕が向ける感情より、彼らの忠誠の気持ちが重かったから。……重たすぎるくらいにはね。
「だから、忠誠してると簡単に有栖家の人間に言わない方が良いよ」
「……スパイだろうと受け入れてしまう辺り、有栖家の大らかな血が流れていると言うか。それにしても、少し愛情過多の空白に、聞き逃してはいけないような言葉があるのは気のせいでしょうか?」
「ふふっ! 気にしすぎだよ」
言葉に出していないのに気づくなんて、遊騎さんは勘が鋭い人だな。まあ、これは言っておくべきかな?
「僕らは求人募集を出すことはしないでしょう?」
「そう言えばそうですね」
「それは有栖家から忠誠を誓えって言うこともないよって言う意思表示なんだ。だから求人募集はしないんだ森の管理と動物のお世話、温室の管理は僕らがしているからね。料理と掃除と僕らの身の回りのお手伝いをするだけだから、今いる使用人で十分生活は出来ている。別にパーティを開くタイプの貴族でもないし、そんなに使用人は必要ないんだよね。僕らが求めるのは絶対に裏切らない使用人だけだよ」
って言うのもあるし、それにあの書庫の存在をバレるわけにはいかないからね。スパイを受け入れるのは、雇い主が粗悪の対応をしているところだけだけど、それは黙っておこう。
「ふふっ!」
だって、光帝に逆らう者は僕ら、有栖家しかいないんだもの。……裏切られて気づかれるなんてあってはならないことでしょう?
4年間しか有栖家にはいなかったけど、お父様は意外にも2歳から僕に家のことを学ばせてくれていたから知っている。……有栖家が存在する意味を。
だから、僕は有栖家の生き方から外れるつもりはないの。……まあ、なんとなく恋愛する気にはなれないんだけど、それ以外だったら有栖家としての役目を全うする。そのためなら、親しい人にだって隠し事も出来る。
「この子を洗ってあげないとね」
この話は終わりだと、遠回しにそう伝えてみる。ゴールデンレトリバーを抱えてお風呂場に向かう僕を、遊騎さんは追うことはしなかった。……さすがだね。




