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6歳編 その11

 

 話が聞ける程度に冷静さを取り戻させるためか、友人は僕の肩に触れたのを感じ、その手から感じた温もりで、少し我に返る。そして、彼はそれ見計らったかのように言いました。


「……遺伝で言うのはどこからもらってくるかわからないことをよく知っているはずだ」


 その言葉だけで冷静になるのに、私にとって十分な情報でした。

 冷静になったことに和羽は気づいたのか、手から離し、さっきのいた場所へと戻って行ったのを確認してから話を切り出します。


「……この子は、私と同じ遺伝子を持つ女性から生まれたんですね。良く、王家に気づかれなかったものです」


『回復』は血縁スキルです。

 このスキルはどのスキルよりも血筋に厳しいスキルだから、ご先祖に誰かしら私と同じ血を持つ女性がいて、その子供が子供を産んだのでしょう。

『回復』は、血筋を所持した女性が産むことでこのスキルを持つ子が産まれます。そして、必ず『回復』を持って産まれるのは、男子。それも隔世遺伝でなければ産まれることはありません。

 この遺伝の仕方が変わることは滅多にないこと。


 これは王家すら知らない情報だが、なぜかこの友人には話してしまったからこそ、第一王子が同じ血縁関係であったことに気づくことが出来たのでしょう。

 友人が気付けたことで、私と同じ血筋であることを隠し続けることが出来、人生を狂わせられることもなく、第一王子はこうして学園に通えているのでしょうね。


「……王家は知らないんだろう? あのことは」


 友人が言う、〝あのこと〟とは『回復』の遺伝の仕方だろう。


「話す訳がないじゃないですか。非道な手段を取りかねませんからね」


「……そうだな、これに関しては王は非道な判断をしたと思う。話してないなら構わない、この方の母親はお前と遠い血縁者なんだ。それでなぜ第一王子がお前と同じ血筋なのかわかるだろうが、王家は察することすら出来なかった。それが事実だ。

運がいいことに王子の父親の母親は癒しの位から嫁いできた方だ。その人からの遺伝だと誤魔化すように王子には言ってある。状態回復さえ使わなければ誤魔化しが効くからな。現に王子の母親はあの事件のこともあり、光帝にはその血筋について話してはいない。だから、簡単に信用してくださったよ」


 自分と遠い血縁者の母親がいるという一言で十分に察することが出来きました。

 同じ血筋、つまり第一王子は僕と同じ『回復』を持っているということです。

 この力を持つことで人生を狂わされたからこそ、同じ力を持つ人が人生を狂わされるところを見たくはありません。それが例え、王家であってもです。

 だから、私は血筋と誤魔化し続けると決めました。

 彼らも血縁を利用して血筋を誤魔化すと言う判断をしてくれて良かったですよ。


「……王家は憎いです」


 私が抱く、王家の感情はただ一つこれだけです。ですが!


「ただ、ここまで厄介な体質と血筋を持つ第一王子は、一生暗殺に怯えなければならないとスキルを使ってわかった以上、治療を職業としている身として〝守る術〟まで教えるのが完全に()()()となると判断されますね」


 そう呟けば、友人は期待したような目に変わる。

 その目をしたのは一瞬で、その後に学園に通っていた時に王家が僕にしたことを思い出したのか、期待と言う気持ちを押し殺すような表情をしました。

 気を遣わせて申し訳ないと考えながらも、その表情について気にしない素振りをして話をして続けます。


「しかし、私はすぐにでも主と慕う方の元へと帰りたい。だから、第一王子が僕の取り引きに応じてくれさえすれば、それを行なって良いです」


 交換条件を出せば、ある程度王子達を王家の人間でしかないと一括りにしてはいけないと、分別できるかもしれません。ですから、自分のためにも私はこの取引を成功させなければならないです。


「僕が依頼されたのはあくまでも()()()()()()()()ことであり、()()()()()()()()()()()()()()ではありませんから、交換条件を飲めなければ指導は致しません」


 それだけでなく、そうすることで王家に対して許した訳ではないぞと示すことができるはず。そのためには相手の状況を知ることが必要でしょう。


「今回の王継承者はまともな人が多いのですか?」


 彼は友人だし、王と零様の家系は縦の関係だからまともな人がいるのか、知りたくてそう聞きました。私が出した交換条件のせいで有栖家の皆様、国民、和葉、そして友人である彼のまとめ役がとんでもない人になるのは勘弁して欲しいですから。

 理性的に、交渉を進めるための情報収集です。


「……今回の王継承者の中で、第三王子派だけが過激派だ」


 やはり、この条件を出すとまずいか……と考えた瞬間、友人は言葉を続けます。


「本人が望んだことではないんだ。正しく言えば、カリスマ性がありすぎて周りが勝手に王……いや、光帝の座に座らせようとしていると言った方が正しいか。本人は穏便派で迷惑していると断言しているし、その周りを止めているくらいだから悪い方ではない」


 ……友人がそう言うんだろうから、本人は悪い人ではないんだろうけど、王家への憎しみがその事実を認めることを拒絶する。

 さっき、王家の子世代には憎しみをぶつけないようにしようと決めたばかりと言うのにと、私は自分自身が自己嫌悪をすることをやめられませんでした。

 そんな内心を察しつつも友人は話を続けました。


「第一王子は人前に立つことを得意としない方でな、一番光帝として仕事を行う能力は高いが、体質や人前に出ることを不得意と考えると……、光帝になるには不安要素が多い」


 自分の主人に対して随分はっきり向いていないと言うんですね。……忠誠心が強い友人だからこそ、大切な主に苦しい思いをしてまで偉い立場になって欲しくないのかもしれないと考えながら、まだ話は続くであろうから耳を傾けることに集中することにしました。


「……幸い第一王子と第三王子は継承権を放棄される方針でおられるから、恐らく第二王子が継承されると思う。……第四王子もいらっしゃるが、あの方は第一王子以上に特殊体質の持ち主だから元々継承権は持っていらっしゃらないんだ」


 ……ふーん、決まったも同然なのですか。なら、出そうとしていた交換条件はお互いに好条件ってことなんでしょうね。


「第二王子が継承されることはお三方も同意されていることなのですか?」


「ああ。第二王子と第三王子は母親が同じなのだが、異母兄弟とは言え、仲が良いから話し合いの場を設けて本人達で決めたとおっしゃっていた」


 本人達は納得の判断という訳ですね……。


「第二王子はどういう方なのですか?」


「第二王子は怠けることをお好きな方だが、人を見る目があり、周りから気づかれていないが優秀で隙がない方だ。裏切りや暗殺に敏感にお気づきになるし、何よりも身分差で差別しない方だ。そして、時に残酷な判断をし、その判断を背負う覚悟ができている」


 私だって、全てのことを犠牲を払わず対処できるとは思っていませんから、残酷な判断をする覚悟がある人物と言われたくらいでは現光帝と同じような嫌悪感を抱くつもりはありません。


「それから?」


「何よりも情が深く、母親が違えど自分の兄弟のことを愛されているそんなお方だ」


 ……なるほど。


「……貴方が第一王子から暗殺から守る手段として考えているのは継承権を放棄し、国内の貴族に婿に出すこと、違いますか?」


「……そうだ。俺の妹の婿になってもらうことになっている。妹からも、王子からも了承は得ている」


 そうすれば、継承権を放棄したとしても正当に暗殺から第一王子を守ることが出来ると言う考えからでしょうね。


「それでは暗殺をやめさせる決定打としては弱いでしょうね。第二王子が暗殺されてしまえば、第一王子の継承権は復活されます。……そこで取引をしましょうか」


「……なんだ」


「現段階で第一王子の継承権を取り消しし、君の家の妹と婚約関係になってください。それから、第三王子に関してはできれば第一王子の母親がいた国の貴族と婚約してみてはいかがでしょうか?」


 利益を優先するあの光帝が、第二王子が継承するように決めていたとしても、いつのまにか〝根回し〟されていたと知ったらどんな気持ちになるのでしょうね。……そう考えながら、話を続けます。


「この取引をのむのであれば、現光帝のことを恨みはしますが、子世代に対して恨み続けるのはやめましょう。それから、第一王子に私が教えられる限りの暗殺から守る手段をお教え致しましょう。……悪い取引ではないでしょう?」


 そう取引を提案した私は、鏡を見なくても自分の顔が悪い顔をしているだろうと容易に想像することが出来ました。

 断ると言う選択肢は彼らにはないことは、一番友人が理解しているはずです。

 この取引は、取引であれど「はい」と答えることしか出来ない取引なのですから。


「悩んだところで無駄だ、水化連弦すいかれんげんよ。我々には答える他、選択肢のない取引だ。

 我のことを考えて、取引に応じることを悩んでいるのだろう?」


 その声が発しられた方を慌ててみれば、威厳のある口調で話す零様くらいの年代の方がいらっしゃったので驚きのあまり、声が出ませんでした。


「第三王子……!」


 そう呼びかける声で、我が返りました。

 このような威厳を持つ方の肩を持ちたくなるのもわかります、しかし過激派になっては逆に第三王子を光帝の席から遠ざけるだけだというのに相変わらず権力を振るうことが好きな奴らだと思いました。


「相変わらず、緑水の位の者に忠誠心を渡したままここに来よって。中立のまま、第一王子に仕えておる奴は滅多におらん。だからそんなことを気にするところではない。我が兄を救えるのであれば、喜んで応じてやろう。後は我が兄の意向でこの取引をどうするかを決めてやれ。

……我がここに留まれば、余計な血が流れると我も理解している。大好きな兄達が最悪死ぬことになる事も理解しておる。それは、今回の暗殺未遂は我の慕う者達がやったと言う事実で証明されたようなものだ。

我が兄に手を出したことは許せんことよ、実行犯全ては死刑と命じられるはずだ」


 子供らしい高い声に、その声と結びつかないくらい威厳のあり、重みのある言葉が部屋に響き渡りました。私はこの感覚を知っています、この子には優しさもありますがあの男は……! あの男は……!


「落ち着け、雪兎殿よ。我は、一番お主が憎む男に良く似ておるから動揺してしまうのはしょうがないことよ。その殺気は不問としてやろう。……あの男は残酷な男よ。民よりも利益を優先する、そのような男だ。復讐するだけ無駄よ、その復讐でさえも利益になるように利用されて終わりだろうからな」


「人間をなんだと思ってらっしゃるんですか……! あの光帝は!」


「……利益を生み出すための原動力としか考えていないだろうな。今、薬師としても賢者としてもこの国では高い地位を築いている雪兎殿の逆鱗に触れて他国に渡らせればその不利益は測り得ないと考えておるようだから、大抵の要望は叶えてくれるだろうと思う。……口に出せば出すほど我が父ながら、利益にしか目が行かない男だと自覚する。つまらないお人だよ」


 危なっかしい足取りで私の元まで来て、殺気を抑えようと下唇を血が出るまで噛みしめる私の手をその小さな手は優しく触れて。


「我の支持者もつまらない男ばかりよ。このような小さき6歳児に何を求めているのだ。……我は兄弟のことを愛する健気な6歳児だと言うのに奴らは頭が硬い。この学園の〝せきゅりてぃ〟とやらはまあ簡素なもので暗殺者がこんなにも容易く侵入できたのは納得だ。まあ、今回ばかりはその〝せきゅりてぃ〟とやらは有難かったけどな。こうして我が兄の無事を確認することが出来たのだから」


 ……嘘だ、こんな難しいことを考えられる6歳児なんている訳が……あ、いらっしゃいました! 我が主と慕う零様もまた、成人した大人のような知識を振る舞うことがありますし、稀にこのような6歳児がいることもあるのでしょう。


「何をおっしゃっているのです。この学園のセキュリティを簡素だっておっしゃられるのは、有栖様達と貴方ぐらいです。……柚鶴ゆづるはどうされたのですか? どこに行くのも側に居させていたじゃありませんか」


 友人こと連弦は、動揺したようにそう聞いた。その質問に対して第三王子は楽しそうに笑う。


「柚鶴は我の影武者をしておるぞ。あやつは我が自分にとって面白いことをしでかそうとする時は、喜々として協力してくれる。……あやつほど面白い男はおらんからな、他国に行くことになってもあやつ1人おれば十分よ。あやつが一緒に来るように手配をしてくれると言うのであれば、躊躇いなく他国に婿に行こう」


「そうですか……。あとは第一王子のご意志次第と言う訳ですか……」


 第一王子はきっとこの提案を受け入れるでしょうね、そんなような気がします。

 零様、どうやらしばらくはお側にいることが出来なくなってしまったようです。ですが、忠誠心は変わらず貴方へしか向けないと約束いたしましょう。



 ※※※※



 数日後、帰宅してきた和葉さんから伝言が届いた。


「しばらく王都にいて、第一王子の治療に励むそうです。雪兎から伝言です」


「そう。月一で手紙を送るよう、雪兎さんには伝えておいてちょうだい」


「かしこまりました」


 ちょうど、孤児院で令嬢の振りをして読み聞かせをしている最中のことだった。



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