その2!
予定変更した僕は気配を察知されないために遠回りをして、透明な丸に近づいて行くことにした。
本当なら、今頃水を汲みを終わって薬草取りに行っている頃だったのになぁ。しょうがない、今日は薬草取りだけにして、明日調合するかな。
今は探索に映った透明の丸の正体を知りたい。
……今更ながら攻撃してくる魔物だったらどうしよう。そしたら、自ら近づいたってことも話さないといけないし、絶対にゆうに行動規制される……!
(ってそんなこと考えてたら、探索マップ上から透明な丸がいなくなっちゃった!! 気配を察知されて逃げられたか…… )
なんて、考えていると後ろから背中を突っつかれるが、気のせいだと思い、脳内のマップに集中していると……、
「んきゅーーー!!」
背後からなんかの叫び声が聞こえて、勢いよく振り返れば、涙をボロボロ流しながら触手で桃色のスライムを抱える橙色のスライムがいた。
(……切り傷はない。でも打撲痕? いや、この傷は致命傷じゃない。ここの住民は襲ってこない限りは魔物と戦わないはずだ。
と言うことは、遠くから逃げてきた? 追われてたならまさか……)
「……熱中症?」
……スライムでも熱中症になるのか? でも、実際毒や麻痺状態にも見えないし、打撲痕が原因なら人の追っ手から逃げるのは無理だと思う。
(でも、可能性が高いのは熱中症だ。試してみる勝ちはある)
バックからひやひや草入りの水を取り出す。
熱中症の対応として、人だったらうなじ、脇の下、足首などを冷やすと良いって聞いたことがあることがある。
けど、スライムも同じような対応をして良いのかな。……冷やす場所がわからない。
でも、こんなに助けてって訴えている橙色のスライムを見捨てることは出来ない。
水瓶の蓋を開け、まずは桃色のスライムに念入りに水をかけてあげた後、橙色のスライムの前に水瓶の口を差し出せば、意図に気がついたのか水瓶を持つ僕の手ごと包み込むように持って水を飲む。
(……よっぽど喉乾いてたんだなぁ。これは薬草中止だな、この子達が心配だし、今日は屋敷に帰ろう)
そう決めた後、橙色のスライムが水分補給を終えた後、手招きをして桃色のスライムを抱えたままのその子を呼べば、疑いもせず近づいてくる。
(少し警戒心がなさすぎるんじゃないかな? まあ、戦う気もないし、手段もないから別に良いんだけどね)
「面倒見てあげる、僕を信頼してくれたならうちにおいで」
同時に手を差し伸べると、橙色のスライムはもごもごと小刻みに揺れ出して、新しい触手を出し、僕の手をすぐに取った。
警戒心ないなとも思ったが、同時に迷いなく僕の手を取ってくれたことが嬉しくて口元を緩ませた後、手荒い手段になるが、握ったままの触手をひきよせ、スライムを抱っこし、屋敷へと急いだ。
※※※※
「ゆう!! 今すぐピキピキの実と新鮮な水、ひやひや草、あとタオル数枚を用意して!」
お迎えに出てくれたゆうに、そう言うだけ言って自室まで走り抜ける。自室に戻り、子供には大きすぎるダブルベットに2匹を一旦置いた。
そのあとクローゼットから邪魔でしまって置いたクッションを取り出し、僕の枕の隣に置く。
僕はクッションについては体が沈みすぎるのは好みじゃないんだ。だけど、スライムが身体を休めるにはちょうど良いだろう。
奥の方に桜色のスライムを、手前の方に橙色のスライムをクッションの上に乗せる。
「疲れただろう? ここには攻撃する人はいないから安心してお休み」
そう告げ、橙色のスライムを撫でれば、スライムは心地好さそうに目を瞑った。しばらく撫でながら、眠り着くまで見守った後、桜色のスライムの様子を見る。
アメーバみたいな形してたけど、だいぶ復活してきたから対応は合ってたみたいだ。
前世で言うビニール袋みたいなやつもあったし、氷嚢作って念のため、油断せずに冷やしておこう。
(……まあ、氷作るためにピキピキの実が必要だからね、ゆうが来なきゃ作れないんだよねー)
なんて考えていると、ドタバタ騒がしい足音が聞こえてくる。
「ゆう! 走ンじゃねぇ! あぶねぇだろうが!」
あ!やっぱり、ゆうだったんだ。しかも、料理長に廊下走って怒られてるし。
「すみませーん! 零様のお願い事なんです!」
「じゃあ、仕方ねーな! ガハハッ!
零様のわがままはすぐに叶えてやりてーしな!」
廊下走るほど急がなくて良いんだけど、まあいっか。
てか、そんなに甘々対応だと、僕が転生者じゃなかったら我儘坊主に仕上がっちゃうよ⁈
「失礼します! お望みの品を持って参りました!」
うわっ、思った以上の量来た!
うーん、でも調合のルール、レシピを知らないから当たり前か。まあ、明日使うアルコールと冷水を作っておけばいいか。
それにしても満タン(1L)まで入ってる水瓶3本とひやひや草30本とタオル10枚とピキピキの実5個はやりすぎ……。
桜色のスライムだけに氷嚢作ろうと思ったけど、ついでに橙色のスライムにも作ろっかな……って氷の塊をかち割るハンマーも用意してもらうの忘れてた。
「ねぇ、もう一回おつかい行ってきて? ハンマーが必要なの」
そう頼めばイヤがりもせず、むしろ嬉しそうに微笑みながら、
「かしこまりました」
そう言い、早足で僕の部屋から去って行った。そんなに頼まれごとをされて嬉しそうにしていたら、前世の記憶あるいは我儘を言わない子以外は我儘坊主、娘になっちゃうよ。
まあ、僕は元が庶民気質だからね、それに物欲もないからそんなに高いものいらないし、貰ったとしてもそれをずっと使い続けるタイプだから、我儘坊主にはならないとは思うけれど。
まあ、この話は置いとくとして。
氷嚢の作り方から確認だ。
必要なのは冷水、氷、ビニール袋もどきにタオルだ。
そのうちビニール袋もどきにタオルは用意済みだから、冷水と氷作りを行う。
さて、最初に冷水作りから始める。
冷水作りに必要なのは新鮮な水とひやひや草だ。
まあ、薬調合でなければ別に新鮮な水でなくても、冷水であれば3、4日くらいならただの飲料水、調理に使う分にはなら食中毒やら、品質低下にはならないらしい。
話は冷水に戻るが、冷水を作るためにはひやひや草の枚数として100mlに対して1枚が基準だ。つまり1Lになると、ひやひや草は10枚入れるのが基本だ。
水瓶の口は直径3cmくらいしかないので、ひやひや草を縦に筒状にして入れ、水を入れれば完成だ。今回の場合すでに水が入っていたため、入った状態のまま入れたが、出来ればまずひやひや草から入れて欲しいところだ。
今回はせっかくゆうが新鮮な水を1L×3本を用意してくれたので全部冷水にしました。
ちなみに水瓶は水の重さで、その水の量にあった大きさに変化していくんだ。イメージで言うと地球の水風船に近いかな。
水風船も水を入れすぎると割れるように、水瓶も1Lを超えると破裂する。破裂した時の被害は怪我人が出るほど強いから、良く使われる量、100、500、1Lのところに線が引かれている。
本当は青空の下、調合やりたかったけど、スライム達のことが心配だし、薬草収集だけして調合は温室でやることにしよう。
また、懲りずに走って来てるみたい。ハンマー持ってるから尚更、鈍い足音が近づいてくる。
そしてノック音が3回、この部屋に響いた。
(……今度はノック忘れなかったんだぁ)
そう考えた後、クスッと小さく笑ってから、
「どうぞ」
と、入室を許可をすればすぐにゆうは入ってきて、まるで記念品を渡すかのように、ハンマーを贈呈してきた後、
「申し上げありません、僕これから仕事がありますので、これで失礼致します」
その言葉に気にするなと言う意味で1回頷けば、意図を察したのか、綺麗に礼をした後、僕の自室から去って行った。その背中を見送り、中断していた氷嚢作りを始める。
さて、次に氷作りだ。
数分ひやひや草馴染ませといた冷水を使う。まず、500mlの水を鍋に入れ、ピキピキの実を1つ入れる。この実は冷水に入れるとすぐ溶けてしまう、また混ぜると中心から固まっていく性質がある。
そのため、すぐに木ヘラで中心から初め、数回混ぜた後、うずまきを作るように混ぜていき、少しの水が残っている状態で氷塊が浮いている状態が出来れば完成だ。
あとは畳んだあるタオルを、2枚の中心が少し重なるように置き、その上に鍋をひっくり返してハンマーで使用用途に合わせたサイズに砕けば完成だ。
さすが、4歳の筋力中身年齢は高校生+4歳だったとしても少し重い。まあ、洋服に水がかからず鍋をひっくり返せたから良しとしよう。
なんならハンマーも重いけど、前世に目覚める前の僕は変わらず、屋敷の周りの探検をしていたことが幸いしたのか、持ち上げられなくはなかった。
(……明日筋肉痛だな……)
そう考えながら、ちょうどいいサイズまで砕いた氷と冷水をビニール袋もどきに入れ、一応低温やけどしないように新しいタオルに包んだものを2個作り終える。
それぞれ1つずつ氷嚢スライム達に触れる位置に置いてあげたあと、余った冷水1本と氷を料理長に託し、残りの冷水は自分のバックに入れ、後片付けをした後、疲れを感じたので横になり、すぐに意識を手放した。
だから気づかなかったんだ、……ピコンッ! と軽やかに脳内で響いたこの音に。