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6歳編 その3

 

 修復作業を始めてから30分後。

 湖波さん達の服の修復が終わり、次の冒険者さん達の修復作業に入ろうと、服を畳み始めているとものすごい勢いでギルドのドアが開く音がした。

 ビックリしてその方向へ視線を向ければ、そこにはTHEガキ大将と言ったような男の子が入ってきて、呆然としている僕の方へと来て、腕をつかみ、引きずられるように朱基さんがいる受付のところまで連れていかれた。


 突然のことで何が起きたのか理解が追いつかない状態ではあったけど、これだけは理解していた。

 冒険者さん達は、僕が無理矢理受付まで引きずられるようにつれて行かされたことに怒っていることを。いつ誰かが飛び出してきてもおかしくない状況であることは、ギルド内の温度が下がったことでヒシヒシ伝わってきた。


(……失敗したなぁ、冒険者ギルドだからって油断してた。こうなるなら、渋々と言ったような様子で新人冒険者の訓練に付き合わされているであろう圭介さんを、訓練行くこと止めとけば良かった)


 めんどくさいことに巻き込まれてしまったなと呑気に考えていれば、


「れいちゃんの腕を離すのじゃ。関係ない子を巻き込むのではない。15にもなって恥ずかしいとは思わぬのか」


 そう言った朱基さんの言葉に驚かされる。

 15歳?! 見た目は前世で言う小学校高学年くらいにしか見えないけど……。人は見かけで判断してはいけないなぁとしみじみ考えていると、


「……納得いかねぇーよ。こんな弱そうな女を、この国随一強い冒険者が集まるって言われてるこのギルドに所属させていることも、この女が所属できて俺が所属できないってことも納得いかねぇー!!」


 いきなり声を荒げた後、腕を掴んでいない方の手で机を叩くもんだから、びっくりして思わず肩を揺らす。そんな僕の様子を見て、彼に向けられた威圧がさらに上がり、ギルド内の温度がまた下がったような気がした。


(……まあ、納得いかないよね。攻撃系の先天性スキルを持っていて、同じくらい努力家な人には負けてしまうような強さである僕がこのギルドに所属していることが)


 呑気にそう考えていれば朱基さんはすかさず、


「れいちゃんは男の子じゃよ。れいちゃんは儂の威圧を物ともせず、ギルドに所属したいと言ってきたのじゃよ。それで十分、強くなる覚悟が伝わってきたから所属することを許した。認められる部分は持っているからここにいる、それだけじゃ」


「こいつのどこにそれを感じるのか、わからねぇ」


「……お前さんは強い。それでいて、傲慢なのじゃ。その傲慢さはいつか身を滅ぼす。だから、ここに所属することを許さなかったし、今でも許すつもりもない。それに比べて、れいちゃんはこのギルドに必要な強さを持っていた、お前に足りない強さを持っていたのだよ」


 と厳しい言葉を彼にむけた。

 すると、一瞬彼は傲慢さが消え、純粋に驚いていた。彼からすれば、僕は女の子にしか見えていなかったんだろうと思う。

 それはほんの一瞬のことで、その後直ぐに朱基さんに対して彼は舌打ちをし、僕の腕を振り払うように離し、勢いよく腰を打ち付けた。


「いつか後悔させてやるからな」


 そう一言言い残し、僕の方に視線を向けることなく去って行った。

 まあ、いいけどさと考えながら、痛み止め代わりに回復ポーション(小)を飲み干していれば、冒険者さん達と朱基さんは申し訳なさそうな顔をしていた。……なぜだ?


「助けてやれんですまんな。あやつは一度、戦闘心に火がつくと全員が倒れるか、自分が倒れるかするまで戦い続けるから武力で助けることはできんのだよ。そう言う面があるからこそ、あやつは危険で、危ういのじゃ。ああ言う性格でも、命を落とせば夜兎は悲しむのだ。……これ以上、傷を広げてはならんのだよ」


(……叔父様、過去の貴方に何があったのですか? でも、これだけはわかる。過去の貴方も、今の貴方も繊細すぎるくらい優しいってことは。だからこそ、これ以上聞いてはいけないんだ)


「打撲で済んだから、平気。助けられたことでたくさんの人が傷つく方が悲しいから、気にしないで? ……今はそれで良いかもしれないけど、いつかはしっかり向き合わないと、取り返しのつかないことになりそうな気がするね……」


 僕は尻餅をついたお尻を軽く払いながら、2年間訓練をつけてもらったことで敬語の会話ではなくなった朱基さんにそう話す。


「そうか。お前さんには損な役回りをさせたな。やはり、冒険者ギルド内でも油断は禁物じゃな、圭介にはギルド内でもしっかり護衛をしてもらうことにするわい。……お前さんの言いたいことも最もだな、しかし季水がいない今は行動に移せんのだよ」


(……季水くんがいればなんとかなる問題なの? 余計場を乱しそうだけど……)


 そう首を傾げていると、


「あやつと季水は相性が悪いと思うじゃろ?」


 苦笑いをしながら、そう聞いてきたから、思わず素直にうんうんと二回頷いてしまえば、


「素直じゃのう、れいちゃんは」


 そう言われ、笑われてしまった。そのことが恥ずかしくなり、カァー……と次第に顔が熱くなっていくのを感じた。

 そんな僕に対して、気にするなと言わんばかりに頭を撫でられた後、


「あやつはな、あの傲慢さで一度死にかけたことがあるのだよ。それを助けたのが季水だったのじゃよ。しばらく面倒を見ているうちに、あやつは季水に依存し始め、季水に対しては素直な奴になり、しばらくは大人しくしておったんじゃ」


 季水くんがいれば行動に移せる、そう話した理由を教えてくれた。

 へぇ〜、あの季水くんがねぇ……と考えていれば、朱季さんは続けてこう話す。


「季水は初めから10になれば、この地を離れるつもりでおったし、周りもそうだと認識しておったんじゃが……。それを知らんかったあやつは、見捨てられたと思っているんじゃろうなぁ、また荒れ始めたのだよ。自分の目でこのギルドに見合わないと確かめたら、とことん圧力をかけるような奴だからのぅ。腕を掴まれ腰を打ったくらいで済んだのは、お前さんのことを季水の身内だと認識しておったからじゃないかと思うぞ」


「それはないと思うよ。あまり似てないし……、向こうは母親似で、僕は父親似だから」


「いや、間違いなく気づいていた。……本来であれば、まあ回復ポーション(小)では対応しきれないくらいの怪我になっていてもおかしくはないんだから」


 正直に言えば怖いと思った。

 依存することで良い方向に変化できることは良いことだと思う。しかし、悪い方向にそれが働いてしまえば、取り返しのつかないことになるんだと思わず冷や汗をかいた。


「季水くんはそれを知っているの?」


 そう問えば、重々しく一回頷いた。


「季水は、そんなあやつの危うい部分も受け入れ、側にいたようじゃ。……学園までは連れてはいけないからと自分が離れている間はあやつを見守るよう、頼まれておる。季水は自分が離れることで、元のあやつに戻ってしまうことを理解しておった。だから、あやつの被害に遭った新人冒険者達の治療費はあやつ持ちで、冒険者ギルドの貯金システムから治療費をおろして良いと言われてあるくらいだからのぅ。全ての責任を負う覚悟があるみたいだからなぁ、やめろと言えずにおるのだよ」


(……ん? 全ての責任? ってことはつまり……?)


「あの人、女性だったり……する?」


 THEガキ大将と言ったような雰囲気に、ベリーショートくらいの青い髪、キリッとした鋭い目。

 ガキ大将の雰囲気を持ちながらも、二枚目と言ったような雰囲気を持っているからわからなかったけれど……、もしかして。


「そうじゃよ、あやつは女子おなごだ。まあ、惚れるのに性別も何も関係ない。あいつを好きになった、それがもしあいつが男だとしても関係ないとは季水は言っておったがのぅ。……いやはや、愛が重い奴じゃ」


 ……愛が重い奴であることは否定はしないし、別に同性愛に否定的でもないけど……、そこまで性別を気にされないと呆気にとられちゃうよね。


「緑水の位、つまり有栖家は国民の中から嫁にとることを貴族らしからぬ行動とは思っていないよ。しかし、有栖家は貴族であるとしっかり認識しているからね、国民に手を出す女性を家族とは認められないな。

 まあ? 今から季水くんのために、今後このような暴挙をやめ、過去の被害者に謝罪をするのであれば、僕は別に構わないよ。……贅沢を言うのであれば、季水くんのために、優しさを覚えていただければ完璧だけどね」


 僕はこの世界の人々が好きなの。関わってきた人の中で嫌いな人もいるけど、基本的に皆優しくて、親切な人々だから。

 だから、季水くんの嫁になるのであれば、人を傷つけるような真似はやめてほしいし、季水くんの隣を堂々と占拠できるような人であってほしいと思う。


「きっと彼女の傲慢さはいつか僕の兄、季水くんを傷つけることになる。……まあ、それは今変わろうとしなければの話だけどね」


 兄はああ見えて責任感がある人間なのだと言うことは知っている。

 今年学園に通うようなったのだが、それまでの2年間、マナーや勉強がひと段落するたびに僕の様子を見にきてくれていたぐらいだからね。

 そんな季水くんだから、家族が犯した失態は自分の失態だと考えすぎてしまうことを僕は恐れている。


 責任感はあるけど、どこか変な兄ではあるけれど、家族である季水くんを責任に追われるだけの人生は送って欲しくない。


「儂も、季水の隣に居るのであれば、あの傲慢さは足を引っ張ってしまうと思っておる。そのことに気づいて欲しいと、このギルドに所属を許さないと言う判断はあまりにも私情を挟みすぎていたようじゃ。……少しは手を打っておく必要はあるかもしれんのぅ」


 ……人間、誰にでも傲慢な部分あるけれど、誰かを傷つけるような傲慢さは良くないと思う。

 あの兄が性別が同性でも愛したと言うくらいだ、彼女が変化することを信じてしばらく見守ることにしようと心に決めた。



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