その3
「まあ、こうなってるだろうなとは思ってはおったが、ここまで来るとやりすぎじゃな」
(いつのまにか来たのだろうか、気配がなかった)
何か言葉に出す体力も、驚く体力も残っていなかった僕の頭を撫でて、
「すまんな、あとで叱っておこう。あやつは丁寧な口調を使いながらも、考え方は脳筋なんじゃよ。手加減を知らないのじゃ、お主の体力に合ってない修行をつけられたようで申し訳ないのぅ」
そう言った。
「謝らないでください、朱基さんは悪くありません」
「いんや、儂も悪いんじゃ。馬鹿な子ほど可愛いと言うだろう? 素直に頼ってくる後輩に、甘やかしすぎたようじゃのう。……最近は上手く指導できていたとかんがえていたのだが、最後に修行をつけていたのはなんせ、お前の兄の季水じゃからのぅ、手加減が上手くいかなかったんだろうなぁ」
(馬鹿兄!! 無駄に強いから、弟が酷い目にあったんだぞ!! 絶対、今度会ったら文句言う)
強く心にそう誓った。すると、なぜかクスクスと笑った後、朱基さんは気を取り直してこう言う。
「すまんな、言って聞かせてはいたんだが、脳筋の標準な修行の基準を舐めていたわ。お前の兄も、頭も働くが基本的に脳筋な考えを持っているからな、雷紀の無茶な要求にも耐えられたのだろうよ。……今日は隠蔽の取得作業をしていこうと思っていたが、これでは身体は持ちそうもなさそうだ。変声と変装に変えようか」
生きた屍のように床に寝転ぶ僕の頭を、朱基さんは優しい手つきで撫でた。
(……何が幼い時から厳しい修行はすべきじゃないだ。もう、体力が限界だよ……)
「あやつは限界だから休憩させてくれと言っても怒るやつではない、しっかり自分の基準がおかしいことを理解しておるからな。明日はしっかり、きつくなったら休憩させてと言うと良い。どれ、マッサージをしてやろう。水季とは違い、前衛にはさせるつもりはないからのぅ、身体を壊す方がれいちゃんのためにはならないからなぁ」
朱基さんはそう言って、僕の身体が動くようになるまでの30分、マッサージをし続けてくれた。
明日は動けなくなるんじゃないかと思ってたが、そうはならなさそうで安心した。
「回復したようで何よりじゃ。お主が後天性スキルにこだわりがあることは夜兎より、聞いておるからのぅ、説明は必要がないことは理解しておるが、一応しておこうか。……後天性スキルに、変装というスキルはない。変装と似たよったスキルは、先天性スキルの変化って言ったところか。まあ、変装とは本質が違うとは思うがな」
そう。僕がこだわっているのは、後天性スキル。
先天性スキルのことも名前自体は覚えているが、詳細までは覚えていない。
それは、先天性スキルはだいぶ解析されたものが多く、研究している者を多い。
この世界では学を学んでいる者は貴族か、裕福な家庭か、よっぽど頭脳明晰な少数の人間であるから、自動的に後天性スキルに頼る必要のない人材が、研究者になることが多いんだ。
だから、後天性スキルは謎が解析されていないものが多いとされているが、それを知ろうとする者は少ないのが今の現状。
朱基さんが言うように、後天性スキルには変装と言うスキルはない。
さっき言っていた、変化と言うスキルは「目の前にある生き物の姿を写し取り、姿を変える」ような内容であったような気がするため、変装とは本質が違うと思う。
「後天性スキルにはない、変装を教えるのはあくまでも、貴族が身分を隠すための貴族としてのスキルとしてじゃ。水季のように、強者であれば極める必要はないが、お主のようなタイプであれば、これを学ぶことで危険回避力が格段に上がるだろう。隠蔽スキルが加われば、さらに格段に上がっていくはずだ」
つまり、戦うだけが強さではないと言うことだ。
「お前には化粧の仕方、男性女性のマナーや社交ダンス、この国だけではなく異国のマナー、変声を手に入れるための声の使い分けの仕方、裁縫・料理も一通り練習する。後は帝王学に、経営学も学んでもらうぞ。色々な立場の人間になりきらなければならないじゃろうから、語学も学んでもらう」
(……え? 嘘でしょ?)
あまりの量の知識量を、変声を手に入れるために詰め込まれることに思わず呆然とする。
「今日は動く気もわからないじゃろうから、語学、帝王学、経営学の三本立てじゃよ。頑張ろうな」
(……僕が4歳児だってこと、忘れてないかな? 皆さん! 普通、4歳児が語学とか帝王学とか経営学を本格的に学ばないから‼︎!)
しばらく頭を抱えた後、もう修行が始まったらもうやってやるしかないと開き直ることにした。
その数時間後、頭を使ったことによる頭痛と武器の修行したための全身の筋肉痛からの痛みに、今後は床ではなく、長椅子に横たわり、現実逃避をすることになる。
『おめでとうございます。速読スキルがレベル10から15にレベルアップしました。読む速度がさらに速くすることが可能となります』
うん、だろうね。しばらくは本読みたくないって思うレベルの量読んだもの。しかも、本読み終わってから数時間ずつ語学、帝王学、経営学やらを授業形式で詰め込まれたため、尚更大変だった。
「ふむ。今日の鍛錬は終わりじゃ。あしたは初めにこのテストを行う。それを行った後はすぐに朱基の鍛錬に移行し、後半戦は夜兎の鍛錬じゃ」
確かに時間はないし、僕は他の人より努力をしなければいけないけれど、けど!
これはあまりに鬼特訓すぎるよ、4歳児の体力では過酷すぎる……!
(……泣きたい)
「……わかりました。ありがとうございました」
僕のことを思って、厳しく鍛錬してくれていると理解しているからこそ、「辛いです」とか「過酷すぎます」とか言えるわけがなく、言いたいことを全て飲み込んだ。
ふらふらとしながら立ち上がり、待っているであろうハッサクたちを迎えに行くために全身の痛みに耐えながら、鍛錬場を後にした。
壁を支えにしながら、出来るだけ早く迎えに行ってあげたいと、冒険者の酒場代わりにされている休憩所へと急ぐ。
ただでさえ、人にトラウマになるようなことをされたことがあるのに、僕のいない状態で冒険者にひどいことをされたら……! 僕は……!
(……嫌な予感がする……!)
動け、僕の足。早く、早くあの子たちの元へと行かなければとの思いで休憩所に繋ぐドアを開けば、あったって欲しくない予感があってしまった。
目の前に広がるのは、怯える4匹のもふもふたちとハッサクたち。
そして、うちの子たちを斧で攻撃しようとする男と、その攻撃を刀一本で防ぎ、ギリギリのところで耐え忍ぶ圭介さんの姿だった。
もし、圭介さんの身体のバランスを少しでも崩してしまえば、圭介さんは……! 圭介さんは……!
その瞬間、頭が真っ白になり、
「何をしている」
自分でもびっくりするくらいに冷たく、そして重圧感のある声でそう言っていた。
その瞬間、その男は怯み、その隙を見逃さなかった圭介さんは刀一本で斧を弾き飛ばし、男の背後に移動した。
「その従魔たちは誰の家族であると思っている? 有栖家次男の従魔だぞ」
びくっ! と大の大人が、顔を真っ青にさせながら男は、
「たかがスライムごときで……!!」
何故そんなに怒ると言いたいのか? それ以上のハッサクたちの悪口は言わせない。
「たかがスライムごとき? 笑わせるな。ハッサクたちは僕の家族だ。大事な、大事な家族。私は貴族だ。だが、公の場以外では立場など関係なく親しくしたいと考えている。……だがな」
家族も、従魔も、使用人たちも、護衛たちも僕の身内だ。血縁か否かなんて関係ない。
「身内に何かしようとしたなら別。従魔であろうと僕の身内であるし、そして〝僕に忠誠を誓ってくれた身内”である圭介さんを一歩間違えれば重症化するような怪我をするようなことをお前はしようとした」
(……許さない)
「……謝罪もいらない。この地からいなくなれとは言わない、二度と僕らに関わるな」
そして、この男にかけた言葉の中で一番冷酷で、重圧感のある声で最後にこう言った。
「わかったら、圭介さんと僕の従魔の近くから去ってくれないか」
その言葉で我に返った男は、逃げ去るように冒険者ギルドから去って行った。
「別に冒険者ギルドから出てけって言ってわけじゃないんだけどなぁ」
逃げ去る姿に我に返った僕は、いつもの口調でそう呟いた後、全身の痛みに耐えながら一番怪我をしている可能性のある圭介さんの元へ行き、手を取り、手の甲を撫でた後、
「ハッサクたちを守ってくれてありがとう。怪我はない?」
そう声を掛ければ、圭介さんは嬉しそうに笑って、
「貴方様の大切なものを守り抜くのが、俺の役目ですから当然のことをしたまでです。彼はどうやら、スライムであるハッサク様たちのことを、S級までたどり着いたも同然である立場にある俺が護衛していることを許すことが出来ない、そう言う思いを言っておられました。俺が原因のことでありますから、何事もなく済んで良かったです。
その怒りのまま、斧を振っていたので動きが単調になっていたのもあり、無傷でしたが、あともう少し零姫が止めるのが遅かったら、無傷では済みませんでした。こちらこそ、ありがとうございます」
珍しく真面目にそう言ってきたから、少し照れていることを隠しながら、
「いいよ、別に。圭介さんのせいじゃないし。まあ、僕の早とちりで彼を怒ってしまったわけじゃなさそうだったから、とりあえず良かったよ」
はにかんでそう言えば、脳内でおきまりの音が鳴った後、
『おめでとうございます。後天性スキルの威圧を手に入れました。威圧の使用のため、レベルが5にあがりました』
そう言う知らせが入った。
(えぇ〜……、威圧って言い方はなんか、複雑なんですけどぉ)
新しい後天性スキルを手に入れたことに対する喜びと、それが威圧と言うスキルである複雑さが絡み合いながら、怖がっているハッサクたちを抱きしめながら飛びついてくるもふもふ4匹を受け止めるのだった。
そんな僕は知らない。
その場にいた冒険者たちすらも威圧していて、冒険者たちに僕を怒らせてらならない、従魔や圭介さんに対して怪我をさせるようなことはしないと言うことを心に誓わせてしまったことを。
僕はこれから先も、ずっと知ることはないことである。
僕はまた、気づかなかった。宥めるのに必死で、
『おめでとうございます。ハッサクとサクア、ククルとハルク、リリアとシアンの信頼度が1段階目から2段階目に突入致しました。
ククルとハルク、リリアとシアンにつきましては、あらかじめ説明した通り、信頼度ランクが上がったことによるボーナスはございません。
ハッサクは新しいユニークスキル、柑橘類生産(地球産の柑橘類を召喚する)を覚えました。
サクアは新しいユニークスキル、桜の羽衣(マスターの危機が起きた時に、桜で出来た羽衣で発動する捕縛スキル。)を覚えました』
『信頼度2段階目はハッサクとサクアは信頼度20スタート、ククルとハルク、リリアとシアンの信頼度は5スタートとなります』
信頼度が上がったと言うアナウンスに、僕は全く気づかなかったのだった。
空野雪乃です。
ストックがたまりましたので、週一投稿を再開致します。
本当なら、どうせなら2月の初めに再開を……と思いましたが、ストックの関係上、2月の中途半端な時期に再開となりました。
改めまして、この作品のことを今年もよろしくお願い致します^ ^




