ほのぼのと9日目!
ついにこの日がやってきてしまったか‥‥。
すがすがしい爽やかな朝であると言うのに、思わずこれからすることになるであろう鍛練がどのような感じになるのか遠い目をしながら、現実逃避をする。
時間の流れは早いもので、朝の身支度やら温室の手入れ、朝食作り、食事を済ませてしまえば早速、叔父様に手を引かれながら恐らく冒険者ギルドか生産者ギルドに行くことになるんだろう。
そして、その何歩か後ろから安斎さんと夕霧さんがついてきていて、護衛してくれている。
(‥‥彼らは護衛対象者とは関わらないで護衛するタイプなのか‥‥、残念だ。それにしても夕霧さん、どっかでみたことがあるような顔だなぁ‥‥、どこだったっけ?)
書庫や隠し書庫にある本は何度も読んでいるため、大体の内容は覚えているのにド忘れなんて珍しい。
まあ、世の中完璧な人間なんていないから、しょうがないか。モヤモヤはするけど、いつかは思い出すだろうと自分に言い聞かせているうちに叔父様は足をピタッと止めた。
目的地に着いたのかと顔を見上げれば、そこは生産者ギルドで。
にこにこと機嫌よく笑っている雪兎さんと和葉さんがお出迎えしてくれていた。
「零」
名前を呼ばれたから、叔父様の方へ顔を向ければ、彼は続けてこう言う。
「お前のことだから、趣味だから言え、薬師科を目指すことはしないだろうとは踏んでいる。しかし、調合師の資格は持っていた方が良い。妬みを招くかもしれないが、学園に通った際、全く攻撃の術を持たないお前を守る武器にもなるはずだからな。もちろん、身を守る術は出来る限り教えることは大前提の話だ」
わかりました、と伝えようとした瞬間、叔父様が話はまだ終わっていないと言っているかのように言葉を遮って言う。
「が、しかしどうしても先天性や血縁などの攻撃スキルを持ち、努力家で、こつこつと地道に努力をしてきた奴には敵わない。そいつがもし敵だったら? 賢いお前なら最悪どうなるくらいは言葉にしなくてもわかるよな?……だから、出来るだけ趣味だとしても、調合は極めて欲しい。そして、自分が選んだ後天性スキルも極めて欲しいんだ」
‥‥真剣だった。
それはそうか。僕だって、身内が自分よりも先に亡くなってしまえばかなりのショックだと思う。
ましてや、自分が鍛えた教え子であれば尚更、どうしてもっと強くしてやれなかったんだろうってそうも考えるかもしれない。
昨日の段階では気分が乗れば、調合師まで資格を取ろうと考えていた。
でも、ここまで真剣に言われてしまったら、調合師まで取るしかないだろう。
「‥‥よくお分かりですね、叔父様。今のところ、僕は普通科にいこうと考えています。それでも準調合師までは確実に取り、気分が乗れば調合師まで資格を取ろうと考えていました。……ですが、叔父様が調合師の資格を取ることで、それが僕の武器になると言うのであれば、自分のために調合師の資格を取ります」
「お前は弟とよく似ているから、わかりやすいだけだ。納得してくれたのならそれで良い」
「‥‥叔父様、一応は理解しているのです。どんなに努力をすれば実力に反映されることも、それでも同じくらい努力家で最初から攻撃スキルに恵まれていた人には敵わないってことは。……だから、自分の身を、大切な人を失わないためにも出来ることはしていきますので、安心してください」
人一倍‥‥ううん、一倍どころじゃないかもしれない。それくらい、努力をしなければ僕はこの世界では生きていけないくらい、狙われやすい立場にいる。
そうなりやすい甥っ子が危険なことに巻き込まれることを恐れているからこそ、しつこいくらいそう言ってくることが理解できないほど、僕は前世生きていないわけじゃない。
「そうか。しばらくは午前は生産者ギルドで学習、午後からは鍛錬の流れで進める。午前内容は雪兎に聞いてくれ、午後内容はその際説明する。‥‥雪兎、和葉。零のことは任せたぞ」
理解している、そう判断できれば叔父様はそれ以上何も言わず何処かへ去っていった。
「今回立候補し、零様の調合師講師、販売の極意を教えることになりました、雪兎です。‥‥さて、零様。事情は聞きました。零様は先天性の攻撃スキルがないと聞いております。そのため、何かでそれを補わなければならないともお聞きしました。零様の場合、調合師の能力でそれを補いたいとの夜兎様からのご希望なのですが、そのような感じで零様の方もよろしいでしょうか?」
特に問題もないので、「それでいいよ」と微笑みかけながら、短くそう答える。
そんな僕に対して、雪兎さんは一瞬真顔になり、その後、美形な顔が台無しになるくらい頰を緩ませていた。
あまりに頰を緩ませっぱなしなもんだから、流石に恐怖を感じてくる。あれだけ、口酸っぱくストーカーに気をつけろって言われた意味が今になってわかったような気がする。‥‥気をつけよ。
あまりに恐怖心が顔に出ていたのか、和葉さんが軽く肩を叩き、正気に戻してくれたからほっとした。有栖家の寄付による信仰心が強すぎる雪兎さんの前で、安易に無防備にならないように気をつけようとも心に誓った。
その後、雪兎さんは何事もなかったかのように、
「まずは、生産者ギルドに調合師資格を取る申請を行い、級なしにならなければなりません。恐らく、零様のご自宅の書庫にある蔵書一覧を、有栖家の方に支障がない限りで夜兎様に作成して頂いたのを目を通させて頂きました。もし、零様が完璧に覚えて入られたのなら、3級までの試験自体は余裕でしょう。2級の試験については勉強なしでギリギリ受かるか、ギリギリのところで落ちるかってところですね」
(‥‥ふーん、あの書庫でそのくらいまでのレベルの調合に関する本があったんだ〜)
そう考えながら、相槌を適度に入れつつ、話を聞く体制を続ける。
「まあ、零様の知識を考えると過去問を一度解いていただけたら十分でしょう。過去問を解いて頂いた後、答え合せをして、4級試験に合格して頂くことが今日の第1目標となっております。そして、今回試験官も私となります。本来なら講師と試験官は変えるべきなのですが、職員が大量に関わりますと、完全に職員を把握することは難しく、誰か情報を売らないとは限りませんから。有栖家の方の情報が流れてしまいますと、事件になる可能性がありますから、下手に人材は変えず、私が零様担当として調合に関する知識を教えていくことになりました」
(‥‥なるほど、それなら安心だね。でも、ある意味雪兎さんと二人三脚の形で調合師を目指すのは怖いんだけど‥‥。ほら、雪兎さんってば僕達有栖家の人間が好きすぎるじゃない?)
そう内心で考えているとすかさず、
「今回、零様がギルドの管轄内で行う勉強、鍛錬などの概要を知るのは、冒険者・生産者ギルドのマスターと副マスター、そして鍛錬を担当をします講師陣、勉強面を担当をします雪兎となっております。しかし、かねてから雪兎の有栖家信者であることは生産者ギルド内では有名な話です。ですので、今回サポーターとしてこの和葉が雇われましたので、ご安心してくださいませ。零様が危機感を抱かれた時には、この和葉が雪兎をなだめますので、勉強に集中して頂ければ」
和葉さんがそう言ってくれた。安心したよ。
「ありがと、よろしく」と声をかければ、口元だけ緩ませるように一瞬だけ笑った。
「もう! 確かに僕は有栖家の方々を信仰しておりますけど、零様を傷つけるような真似は致しません! 和葉は心配性すぎるのです! 話は今日の内容に戻りますが、その場で答え合せをした後、合格点を満たしていれば、合格すれば認定書を発行する予定となっております。
今回は時間がないと言うこと、そして戦闘能力が皆無と言うこと、狙われやすい貴族ということを考慮して即座の答え合せ、資格の認定書の発行、講座を行なっておりますが、通常では零様のように特殊な事情がない限りこのような処置は行われることはないことは頭に入れておいてくださいませ。
4級の試験に合格して頂いた後、3級レベルの調合レシピについて学んで頂きます。時間が余れば、3級の調合に関する講義を行います。‥‥今日の日程で理解できないところがあれば、ご質問をどうぞ」
「特にはないかな。わからなくなったら、その時に聞くことにするよ」
かなり詳しく説明してくれたので、僕は質問をしないことにした。
抗う力がない今、早く試験を受け、級なしから4級になることは大事なことだと思う。
幸い、前世の恩恵とも言えるだろう、意志は前世のままだから集中力もそうだ。
だから、命が奪われやすいことや抵抗できないくらい自分が弱いことへの危機感によって、尚更勉強しなくてはまずいと言う気持ちから、尚更勉強をすることへの意志は強い。
そう考えると、他の4歳児と比べたら、能力の高い子供だと周りからはそう思われるだろう。
しかし、同じくらい努力したとしても、その人が先天性や血縁の攻撃スキルを持っていれば、僕はどんなに努力しても勝てない。
それでも、先天性や血縁の攻撃スキルを持っていたとしても、努力をして強くならなければ、努力をした人の後天性スキルには負けてしまうのがこの世界の理とされている。
チートは望まないにしろ、魔物も盗賊も暗殺者もいる世界だ。僕は生きるために、常に努力をしなければならない。
「今日はよろしくね、2人とも」
趣味で勉強していた、調合が武器になるのなら弱い僕は躊躇うことなくそれを生き抜くための武器にできる。
(‥‥僕はもう、あんな怖い思いをしたくない)
結果から言おう。
級なしから4級への昇格試験は、過去問は満点。本試験は、試験へのプレッシャーからど忘れして10点分問題を間違えての、90点で合格した。
前世の記憶を思い出す前、散々調合に関する知識の問題集を解かされたのを過去問解いていて思い出したし、多分予め察したかのように、問題集を解くように言ってくれていたお父様のおかげである。
(‥‥ほんと、お父様の先見の目の能力が高すぎる)
そして、素直にそれを解いていた前世を思い出す前の 僕の行動を褒めたい。




