その4!
「おや、子供のお客様は珍しいね。何の用かな。お使いかな?」
ファンタジー系の話だと、薬屋さんはおばあさんが店主って言うのが定番だと思っていたが、そんなこともない場合もあるようだ。
目の前にいるのは綺麗な金髪の髪を持ち、まるで騎士のような雰囲気を持つ、綺麗な顔をした男性だった。
(……この世界の人は割と美形な人が多いなぁ)
「新しい調合のレシピが欲しいなって思って! それから、どれくらいの品質が基準なのかとかを見に来たの」
どれくらいの品質が、どれくらいの値段で売られているのかはお父様の本棚にある本の中で詳しく載っているものはなかったから、相場を変える訳にもいかないし、売るにも売れない。
ハッサクはユニークモンスターだ、それがどう価値に出るかわからない。石鹸や香水とかも、ユニークモンスターであるが、創作する従魔がいると聞いたことがないから価値は高くなると思う。
価値があると踏めば、主な販売層は貴族になるだろうけど、大きさを工夫すればギフトみたいに販売できるかもしれない。
値段が高くなくても別に構わない。目的としては、大量生産してしまうハッサク対策として安易な発想ではあるが、在庫を減らしていきたい。
一生懸命作ってくれたのだから、使わないままにしておくのはもったいない。販売するにあたってはしっかりと調査をしなければ、真面目で優しい性格なハッサクのことだから、一生懸命スキル上げしすぎる面は治らないと思う。
だから、長年続けていけるようにしたい。
そう考えていると、店主は口調を一変させて、
「ああ! これは失礼致しました。あなたくらいのお歳で、薬の調合に興味を持つ方はわずかです。それにその身なり、事前に流れた緑水の位の子息の来訪の知らせから考えて、有栖零様でいらっしゃいますね?」
とそう尋ねてきたから驚いた。この人はよく見て、よく聞き、周囲の状況をよく理解している。
きっとこの人は優秀だ。どれくらいって言えば、王都でうまく薬剤店で立ち回れるくらいには優秀なんだろうと思う。
(……それよりこの人はいつまで頭を下げているんだろう? って言うか、この人頭下げながら、僕に質問しているし! 面白い人だなぁ)
それにしても、
(面白い人だけれども、こんなに頭を下げられ続けると名乗らなかった罪悪感に押しつぶされそうになるからやめて欲しい。けど、この人はそれで納得するような人ではなさそうだし……)
そう考え、苦笑いをする。
「あえて名乗ることをしなかったのだから、気にする必要はないよ。まあ、気にするなら僕に薬剤についてレクチャーするってことで水に流すってことで」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます!」
一瞬顔を上げて、そう言ってまた最敬礼をする。そんな彼に僕は苦笑いし、
「そんなことより、すごいね。さっきの口調からすると貴族の名前をかなりの人数覚えているみたいだから、社交場デビューしてないのに、僕の名前を知っていてくれて嬉しいよ」
そう言ったことで、やっと頭をあげてくれた。薬剤についてレクチャーするって条件を出してなかったら、このまま頭を下げられ続けたんじゃないかってひやひやしたよ。
(……それなのに、そうさせた薬剤店の店主らしき人物は嬉々としているんだから、参っちゃうよね)
前世、普通の学生だったし、こんなにも自分より年上の人に頭を下げられることに慣れてないんだから、むしろ恐縮されると困るんだよね。
まあ、偉いのはお父様であって、本来領主の後継者ではない僕に、恐縮する必要はないと僕は思うのだけれど、この体には確かにお父様の血が流れているのだからしょうがない。
どんなに領主の後継者ではなくても、緑水の位の血筋であることには変わらないのだから。
「寛大なお言葉に感謝致します」
また最敬礼をして、顔を上げた瞬間、表情は神様に会った信者のような顔をしていた。
その表情に圧倒された僕は、さらに圧倒されることになる。
「勿論! 知っていますとも! 何せ、薬作り好きな貴族は有栖家の皆様くらいですから! 我々、薬研究者として、有栖家の皆様の情報を知らないなど無知にもほどがあると言われるほどです! 有栖家の方々には、薬研究者達は頭が上がりません。多額の寄付金、土地の無償提供、機会の提供に、環境整備要員の手配など様々な面での寄付をして頂いていますから!」
「それだけではなく!!!」
えぇ……? 続くの?
「優秀でありながらも学費が払えない学生には学費の寄付や教材の寄付など将来性のある学生にも手を差し出して頂いています」
他の貴族ではこうもいかないだろうね。実質、貴族としてのお金で生活しているのは僕くらいだし、だってまだ自分で稼ぐ手段がないからね〜。
緑水の位の人間は、貴族として稼いだお金は、僕のようにまだ働いてない子供以外には使う人はいない。まあ、学費と社交場関係や今の僕みたいに修行じみたことをする時には流石に貴族として稼いだお金で払うようにしているみたいだけど。
お母様は冒険者として、一回クエスト行けば、数年は贅沢な暮らしができるくらいの額はもらえるらしいし、叔父様曰く、季水くんも季水くんでお母様ほどではないけれど稼いでいたみたいだし。
意外にも質素な暮らしが好きみたいで、結構あいつお金貯め込んでるぞって、叔父様が季水くんの話になった時に話していたような気もする。
生活したり、自分の好きなことをしたりすることに関しては個人的に稼いだお金でやっているから、有栖家は色々な面で寄付ができるんだと思う。
実質、貴族として領地に住む民に税金は八割がたは寄付や、生活の苦しい家庭や前世で言うシングルマザーやシングルファザーの税金免除など、民に返金している形になっている。
緑水の位の領地は正直に言うと、都会ではない。しかし、そのおかげで自然は豊かだし、領地の土地も広い。だから、多くの民が集まってくるから、貴族としてのお金を2割しか使っていなかったとしても、貴族としては質素な方だと判断されるかもしれないが、僕的には十分に贅沢な暮らしをさせてもらっていると思う。
(まあ、色々な貴族の歴史を見てみると僕達のような考え方を持つ人は少なかったみたいだけど。だから、代々皆こんな感じな考え方を持つ緑水の位の貴族は変わり者扱いみたいだ)
「……貴族からすれば異彩を放っているのかもしれませんが、有栖家の方々の考え方によって助けられた方は数えきれないくらいにいます。幼い頃、境遇で苦しんだ子供だった民の中では感謝するものは少なくないと思います。血筋じゃなく、才能を見て躊躇いなく大金を一括で払ってくださったことで私は、夢を諦める選択をせずに済みました。その時から、私の神様は有栖家の皆様なのです」
……一括か。お父様さすがです。
「救われたのは私だけでありません。孤児院などでは、多額の寄付金だけではなく、有栖家の執事によって指導された人を派遣、半年に一回の職員調査、土地の無償提供、子供達の教育、食事を十分に摂取出来るように畑の土地の無償提供に、畑に関わる全ての物品の寄付など、他の貴族ではして下さない寄付をしてくださるのは有栖家の方々だけでした」
変わり者扱いだと考えていた後に、この発言をされたものだから、また考えてたことを読まれたのかドキリとした。貴族としての寄付のやり方が変わっているのだ、それだけで他の貴族は変人だと言うらしい。
他の貴族は気まぐれに炊き出しをし、気まぐれに物品を寄付し、気まぐれに薬を寄付したり、お金を寄付する。それが助けになるのかと言えばその場限りだとなぜ気づかない?
緑水の位の人間のように副業で生活している貴族がいない訳ではない。しかし、そうしているのは後継者ではない貴族であるため、決定権がない。だから、寄付の仕方の質の違いが出てくるのだ。
「そして僕も有栖家の皆様に助けられた人の1人です。僕は運良く、商会を経営している幼馴染の親が養子にしてくれたおかげで、こうして名字を名乗ることが出来ていて、たくさんの人に助けてもらいました」
だから、あそこまで信仰してくれてるのかぁ。他の援助者さんに会ってもこんな感じなのかなぁ。
運良く、ではなくそれは彼の人柄に成せる技だと僕は思う。確かに出会えたことは運かもしれない。しかし、惹きつけたのは彼の人柄だ。
そして、こうして店を構えられているのは彼がしっかりと努力したと言うこと。
そう考えながら、僕はにっこりと微笑んで、机の上に置かれていた手を握り、
「運も実力のうちなんだよ。と言っても、その運が導いた先で助けてくれる人が現れたのなら、あなたの人柄の成せる技だよ。それはあなたのことを助けたいって思うほど、それほど魅力的な人物だったからだ。あなたの寄付をしたのは恐らくお父様でしょう。僕は何もしてないよ。お父様がしたことで助けられた人は沢山いる、感謝してたと必ず伝えるよ」
そう言えば、涙を流して彼は「ありがとうございます、ありがとうございます」と何度も言った。
僕はただただ、彼が泣き止むまで宥め、泣き止むその時を穏やかに待ち続けるのだった。
それから1時間後、やっと涙は収まった彼はスイッチが入ったかのように僕に、僕が知らないであろう薬やその過程で生まれた薬や毒物を教えてくれた。
まあ、彼が言うにはそれ以上の薬物を扱うとなると薬物の取り扱いについての資格を得る必要があるらしい。彼が言うには今の僕くらいの知識があれば、4級スタートで3、4級は勉強しなくてもいけるんじゃないかとのことだから、彼は2級の過去問集を貸してくれた。
その後は薬の相場を一つ一つ丁寧に教えてくれた後、
「そう言えばですけど、有栖家の方がいらっしゃってくださった衝撃で聞き忘れていたんですが、そのスライムはユニークモンスターですよね?」
(ああ、サクアのことね。話が難しすぎたのか早々にお昼寝し始めたから、今まで話題に上がらなかったんだろうけど、サクアが目に入ったのは一瞬で、有栖けの人間である僕を見て、一気に頭から吹っ飛んだんだろうなぁ)
苦笑いしながらそう考えた後、
「そうだよ。部類ではユニークモンスターに入るかな? この子はサクア、この子と同じくユニークモンスターのこの子の兄のハッサクとも契約してる。それがどうかした?」
そう聞いてみれば、質問には秒で答えてきた彼が、僕の質問にすぐには答えず、品定めするような目でサクアを見つめ始めた。
そんな彼を僕は首を傾げながら、その様子を眺めているとしばらくしてから、こう言う。
「この子は本当にユニークモンスターですか?」
そう首を傾げながら、聞いてきた質問に僕は血の気が引いたような気がした。




