その2!
3時間馬車に揺らされて、やっと奇襲を恐れて建てたと言われている塀が見えてきた。
見えたら、すぐのところに守衛室があったのか、守衛と話す声が聞こえてくる。
「当主から話は聞いております。有栖様がいらっしゃったら、質問なしで通せとのご命令を受けておりますので、どうぞお通りください。
以下の説明から、この国にはすでに有栖様と言う苗字の方がいらっしゃるので、無礼ながらお名前で呼ぶことをお許しください」
……そんなことわざわざ聞かなくてもいいのになぁと考えながらも頷き、了承する。その答えがもらえたことを合図に話を再開した。
「今回の訪問は零様の叔父である夜兎様への訪問、滞在期間は長期間と聞いておりますので、本来なら2ヶ月に一度、滞在期間のご変更をされなければならないところを免除するように言われております」
「……それで? なんで免除されるの?」
「それはですね……本来は、犯罪を犯していないかの経歴確認、犯罪目的のこの国の来訪ではないかを確認するために滞在期間の延長を2ヶ月に一度しなければならない決まりになっているのです。
しかし零様の場合、身元の判明がはっきりとしておりますので当主より身元確認は必要がないという判断をされました。その判断は守衛全体に伝わっておりますので、ご安心ください」
……報告・連絡・相談ができてないって疑って聞いた訳じゃないけどまあいっか。
「もしも、そのようなことがあれば、その守衛が厳罰となりますので、しっかりと伝えていただければそのように対処させていただきます」
ふむ。予め勉強しておいたから、2ヶ月に一度、滞在期間の延長をしなきゃなと思っていたから、免除されたのは助かった。
(……けど! 本当に馬車の中を確認しなくて良いのかな? もし、僕が有栖零を偽った者だったらこの守衛は厳罰よりももっと厳しい処罰にされてしまう。それともあれか、守衛特有のスキルがあったりするのだろうか)
まあ、僕がその道のプロのやり方に茶々を入れるのは無粋だから言わないけどさ、本当に馬車の中確認しなくて大丈夫なの?
貴族によっては顔出しを嫌うらしいけど、偽物だった場合、余計国民に被害が出ると言うのに。
「つきましては、現当主である玲亜様のご指示により、零様はまだスキルの扱いに不慣れと言うことですので守衛の中から護衛を5人、ローテーションで組ませて頂きます。
その上で、どんな性格の者が良いとかなどご希望がございましたら、大変恐縮ではありますが、ご意見ご希望を聞かせていただけると有難いのですが……」
(そこまでしてくれるのか! 確かに僕は戦闘力皆無だけれど、まあ顔出しをする良い機会だ)
そう思った後、縦にスライドして開ける系の窓なので、躊躇うことなく上に向かってスライドをして、窓を開ければ、そこには守衛さんにしてはぽっちゃりとした男性がいた。
(……ん? そう言えば、貴族辞典で彼に似た人を騎士族一覧で見つけたような……? 誰だったっけな、印象的だったから思い出せるはず、えっと……)
「あっ!! 騎士族の三男、和実遊騎さんだっ!
ドラゴンを懐かせ、冒険者の教師とも言われる叔父様から実力を認められ、自分の甥っ子のように可愛がられる男。若くして守衛のトップを務めていると知られていて、同時に損するくらい優しい性格として有名な和実遊騎さんだ!
叔父様から信頼されているなら君に任せる。まあ、1つ我儘を言うなら、スライムが平気な人かな。差別のある人はやめてね」
そう言えば、遊騎さんは顔を真っ赤にして微笑んでいた。
うん? そんな照れさせて、喜ばせるようなことを言ったかなぁって考えていると、またはにかむように微笑んで、
「零様に自分の名前を知って頂いているなど光栄です。確かにドラゴンとは仲良くなりましたが、懐かせると言うような大層なことはしておりません。
ですが、緑水の位の方に自分のことをここまで知っておいて下さり、自分のことを信頼して頂けるとは思ってもいなかったので嬉しいです」
(……まあ、僕は緑水の位の人間に成り立てだから慕われるのは、親の偉業のおかげだけど)
内心思いつつもニッコリと笑って、
「自分はまだまだ未熟だから、そこまでの評価をされる人間じゃないよ」
「いえ、そんなことはないと思いますが……。零様の護衛は私を中心に、私が選抜した者を護衛をつけますので、もし対象の良くない守衛がおりましたらご報告して頂ければと思います。
それでは長らくお引止めして申し訳ございません。この門を通られましたら夜兎様のご自宅まで案内を任せた者が馬に乗って待っていますので、その案内に着いて行って頂ければ迷うことはありませんのでご安心を。
どうぞ、行ってらっしゃいませ」
こんな穏やかな人がドラゴンを懐かせたり、年下には従いたくないと考えが強い守衛のトップを2年間務めていられるだなんて想像できないけど、人は見かけで判断してはいけないよね。
窓を開けてままにした状態で、手を振れば振り返してくれるような優しい人でも、遊騎さんは間違えなく、長男にその才能を恐れられ、次男には溺愛されるくらいカリスマ性のある人材として認められているのだから。
(……まあ、本人は性格上、自分の優秀さにもきづいていないし、当主争いにも早々に手を引いて守衛のトップとして働くことを望んだらしいしね)
ま、とりあえず門はくぐれたし、窓を開けっ放しにしておくのは立場上、あまりに無防備すぎるから遊騎さんの前を通り過ぎれば早々に閉めた。
「まあ、戦闘能力が皆無だからしょうがないけど護衛がつくらしいけど、2人とも大丈夫? 怖いなら、遊騎さんに考慮してもらうけど?」
そう聞けば、2匹ともすぐに触手でばつ印を作った後、ハッサクが、
「んきゅ! んきゅんきゅ! きゅ! (あるじにたすけてもらったときから、ヒトこわないの! いまはあるじがいなくなるほうがこわいの! ごえー、つけないとだめぇ!)」
そう言われてしまえば、そうなの? としか言えないじゃないか。
でも、心配されているんだからその気持ちを大切にしてあげないといけないよね。
「2人が大丈夫ならそれで良いんだ。この人無理そうって思ったらすぐに言うんだよ? ハッサクも、サクアも大切な家族だから、無理して我慢する必要はないからね?」
そう言えば、2匹とも了承のサインである触手で丸を作ってくれた。
そんな2匹が可愛くて、僕を挟んで座る2匹を叔父様の家に着くまで撫で続けたのだった。
※※※※
門に入ってから30分後、僕は馬車を運転していた使用人である琉陽と先導してくれた守衛さんにお礼を言って、2人をお見送りをした後、サクアを頭の上に乗せ、ハッサクを肩に乗せた状態で一人暮らしにしては広い家? いや、むしろ屋敷と言っても良いかもしれない、その玄関先でウロウロしていた。
(あー、やっぱり琉陽や守衛さんが家主である叔父様に会うまで側にいてくれるって言ったの、断らなければ良かったぁ)
と数分前の僕の判断を後悔していると、肩に乗っていたハッサクが呼び鈴に手を伸ばし、ベルを鳴らしてしまった。
(主が臆病者なばかりに、しっかり者になっていくハッサクが頼もしい……)
そう考えていると、家の中から慌てたような足音が聞こえてきて思わず身構えていると、扉が壊れそうな勢いで開いて、それと同時に包み込むように家主から抱きしめられた。
「会いたかったよ!!! 零!」
(良さそうな人で良かった)
そう考えながら、あまりに力強く抱きしめられるので意識が飛びそうになったのだった。




