第三話『俺だけど俺じゃない』
パラレルワールドによって起きた、日常的な支障。
「えーと。お、俺達って初対面だよな?」
俺は恐る恐るその子に聞いてみた。記憶違いで無ければ俺はその子と話していないハズだ。パラレルワールドの影響で俺が覚えていないのか。もしくは、別の俺と入れ替わったのか。本当にややこしいな、パラレルワールド。
「ちょっと……何言ってるの? さっきから本当におかしいよ?」
一番考えたくないけれど、あの時戦った悪魔のような刺客の可能性も考えられる。ただ、そういう奴が他にもいるのか断定はできないけれど。
「ごめん……本当に覚えていないんだ」
俺はその子に純粋な瞳をしっかり真正面に向き合って真実を告げた。仮に俺の知り合いだったとしたら、本当に申し訳ないことをしていると思う。だけれど、知らない癖に知っているフリをよそ覆ったって速攻でバレてしまう。結局、俺とその子は永遠に行き違い、すれ違ったままなのだ。
「あはは――なんで、そんなに真剣な顔で言うの? 流石にこっちも傷付いちゃうよ?」
表情こそ笑っているが少しずつ取り繕った笑顔の仮面が剥がれていってる。俺はその心許ない笑みに罪悪感を覚えて――そして自分自身の為にも、彼女の為にも、これ以上傷を広がせないように。
――彼女を振り切って全力で走ったのだ。
「――待って!」
聞こえる。奥の方から俺を強く引き留める声がしっかりと聞こえる。あのふわりとした優しい声ではなく、まるでこの先は危険だと、警鐘を鳴らしているかのような、重圧的な声。
本当にごめん――本当にごめん。
心臓が罪悪感という苦しみに握りつぶされそうになるのを必死に耐えて――心の中で何度も謝った。
「パラレルワールドなんて……なくなればいい」
――その後、俺は誰にも声を掛けられることなく、学校に到着することが出来た。
だが先刻の一件で気分は憂鬱だ。
一体彼女は何者だったのだろうか。まあこれから関わらないつもりでいるし気にしない方がいいだろう。俺は心中でそう決意を固めて、教室へと向かった。
廊下で危なっかしく走って楽しんでいる馬鹿共の動きを身体を小さく捻って躱す。立ち話を甲高い声でトークしている女集団の前では耳を塞ぐ仕草で颯爽と通り抜ける。
一気に重荷を背負わされたかのように、今は誰とも会話をしたくなかった。パラレルワールドという訳の分からない現象によって人を傷つけたその事実は、もう修正できようがなかった。やはり俺は精神力というか、忍耐力というか、そういうモノが欠けているんだ。
ゲームセンターでの一件だってそうだ。隆一に怒鳴り散らしたのも自分の弱さが原因だろう。
「あっ……」
その時だった。俺の背後に聞き覚えのある声が降った。つい最近初めて聞いた、艶のある元気で明るめのトーン。だがあの時よりは少し暗く感じられる。どうして、そこまでして俺と話したいのだろうか。彼女にここまで酷い思いをさせただろうに、どうして――
「どうして――」
心の声に重ねるように彼女は言った。何度も何度も、話し合っても分かり合えないだろう。
俺と彼女は物語に交差しないのだから。別の平行世界で生きているだろうから。
それでも、それでも尚――彼女が抗い続けるのであれば、俺はどうするのが正解なのだろうか。自分の心情に疑問を抱きつつも、俺は幾度でも求め続ける声の方へと、今度こそ真正面で向き合おうと――それだけは決意した。




