(17) ベスの憂慮の原因
「みなさんは
そんな事はない!
人類は全世界で話し合っているし
理性を持っている!
と思われているかも知れません。
しかし、この問題の解決は
人類全体が一つの方向に対して
真剣に活動しない限り
絶対に実現しない性質のものなのです。
例えば地球環境の問題について言えば
京都議定書などは
「子供だまし」に近いレベルを追求した内容である事は
多くの皆様が
既にお気づきになられている事実ではないでしょうか。
地球環境は各国の利害とは無関係です。
実際、環境対策には各国の利害調整の余裕などありません。
現実に先年、米国で起きた食糧危機は
非常に危険な自然災害だったのです。
あの年に
もし他の国家で充分な穀物の収穫がなければ
米国では千万人単位の餓死者が発生し
恐らく50%以上の確率で
核ミサイル発射を含んだ動乱が発生していた筈です。」
ベス・クリーヴランドは
自分が恐れていた通りのストーリーを
ダイが話すのを聞いて
その内容の深刻さにも拘らず
なぜか強い安心感を感じていた。
これは繁栄する経済活動を賞賛する人々から
「心配症」とされる
一部の科学者達が述べてきた内容だった。
また世界の各地で
ほぼ例外なしに発生する異常な気象現象が
このところ毎日の様にマスメディアを賑わしていた。
それを知ってか
会場はしんと静まり返ったままだった。
地球環境と言う自然条件と
各国の利害調整と言う
外交政治がぶつかり合う結果
理想的な対策が取れない現実は
誰もが感じていた事ではあった。
しかし、それではどうすれば良いと言うのか。
少なくとも事態を前進させる必要はあろうが
でき得る限りの努力をする以外に
方法はないのである。
それにしても人類が確実に滅ぶと言うのは
余りにも極言し過ぎた言い方に思える。
それが会場の平均的な感想の様だった。
しかし、ダイは構わず話続けた。
「もっと簡単に申し上げましょう。
今直ぐに人類が纏まり、全てに先行して
強力な環境対策を講じなければ
人類は助からないのです。
少なくともたった今から
車の台数は減らし始めなければなりません。
国家間の利害調整が必要なら
先進国が今直ぐ半分に減らして
開発途上国に多少の猶予を与えると言った
とてつもない対策が必要なのです。
もちろんそれと併行して
あらゆる環境対策を
冷徹に実施しなければなりません。
経済の発展を犠牲にせずに
環境対策を行う技術も
そして余裕も
今の人類にはないのです。」
会場の雰囲気は
序々に緊張したものになって行った。
ダイの口調は淡々としていたが
独特のリズムがあり
不思議な説得力を持っていた。
「皆様の中の、特に科学者の中には
かなりの数の人達が
私の申し上げている内容に賛成してくれる筈です。
先ほど示した人口増加グラフは
人類の危機を示す一つの例に過ぎません。
これ以外にも、気候に関するデータや
軍事に関するデータ等々
人類の終末を裏付けるデータには
枚挙の暇がありません。
そもそも地球の生物史上で
人類は唯一の自殺できる種なのです。
そして、最も残念な事実は
あらゆるデータが
q人類の危険を示しているにも拘らず
逆に人類がこれから生き残っていける事を
証明するデータの方は
明らかに皆無なのです。
人類の将来を約束しているのは
楽観主義者の楽観的な期待だけなのです。
違うでしょうか?」
ベス・クリーヴランドは米国大統領として
非常に多くの著名な人々の見解を聞く立場にあった。
その中で一部の科学者
しかもその多くをベスが信頼できると感じている人々が
ダイと全く同じ事を主張し続けていたのである。
「みなさん
私は人類滅亡の話をする為に
来ている訳ではありません。
逆に人類が生き延びる為の
話をする為に来ているのです。」
一様に少しほっとした表情が皆の顔に浮かんだ。




