(4) 天才ジミー・ペリー
ジミー・ペリーは
これからの人生を
まともに生きて行く自信がなかった。
アメリカ社会では勝組、負組の区別がはっきりつく。
ジミーは明らかに負組の人生を歩んでいた。
アフリカ系とユダヤ系の混血と言う
比較的少数派の彼は
マサチューセッツ工科大学を
優秀な成績で卒業したエリートだった。
しかし卒業して
米国で最も著名なオペレーションソフトの会社に
入社した直後
在学中に
ペンタゴンのコンピュータに進入した事が発覚して
刑務所入りとなり、罪人となった。
それから落ち込みやすい性格も手伝って
たちまち人生の落伍者の道を歩き始める事になったのである。
ペンタゴンのコンピュータに侵入したのは
ほんの腕試しのつもりだった。
しかし、最初の関門を突破すると
更に高いセキュリティレベルへ挑戦したくなった。
そしてそのどれもが
ジミー・ペリーにとっては
ほんの低いハードルに過ぎなかった。
そして大した苦労なしに最後に侵入した先が悪かった。
通常は暗号で硬くガードされ
門外不出な筈の最高機密レベルの情報へのアクセスを
難なく成功させたのである。
ジミー・ペリーは天才だった。
彼は
複数のコンピュータ間のコラボレーション
を創り上げる独特な才能を持っていた。
ネットワークのセキュリティを管理するのは
やはりコンピュータである。
だからジミー・ペリーの創ったシステムは例えばこうだった。
1台のコンピュータを
その管理コンピュータとしてシミュレーションしながら
他の5台程のコンピュータで
その1台を立体的に探るシステムである。
5台のコンピュータは
求めるロジックのシミュレーションを繰り返しながら
それを現実のネットワークに応用して行くのである。
この手法は、驚く程有効であった。
先方のコンピュータは暗号解読方法を
(これも一種の暗号とはなっていたが)
いとも簡単に
解析可能なレベルのデータの形で吐き出させられた。
もちろん痕跡は残ったが
それがジミー・ペリーの仕業と分かる証拠は
一切残さない手口である自信はあったし
その筈だった。
ジミー・ペリーの不運は
彼のコンピュータの
プログラミング技術の不備によって生じたものではなく
彼の家のセキュリティーの不備によるものだった。
ジミー・ペリーがテキサスの実家に遊びに行っている間に
泥棒が侵入したのである。
泥棒は、ジミー・ペリーの
唯一のまとまった財産である
コンピュータシステム一式を盗み出した。
そしてそれを知り合いの
IT専門の裏業者に持ち込んだのだった。
そのシステム一式を安く買い叩いたこの裏業者は
直ぐにジミー・ペリーのコンピュータの記憶を調べ始めた。
ジミー・ペリーのコンピュータシステムは
その道のプロでなければあり得ない装備のものだった。
そしてこの類のバージョンアップされたシステムには
意外に価値のある情報が隠れている事が多いのである。
キーワードによる検索を繰り返していくうちに
その裏業者の勘が正しい事が証明されていった。
ペンタゴンの機密情報が含まれていたのである。
一方で重要機密に関するハッキングの事実に気付いたペンタゴンは
必死の捜査を続けていた。
当然その捜査の網は
裏の世界にも広げられていた。
今回の情報漏洩にはペンタゴンの面子が懸かっていた。
その為に高額の懸賞金を賭けて情報を集めていたのである。
ジミー・ペリーの部屋にFBIの捜査官が来た時には
ジミー・ペリーの全ての容疑の裏づけが確定した状態だった。
3年後に出所した後も
ジミー・ペリーは暫くの間厳重な監視下に置かれた。
もちろんジミー・ペリーは大人しくしていた。
学生時代には高を括りすぎて酷い目に遭ったが
もともと危ない橋を渡りたがるタイプではない。
それに刑務所での生活は
ジミー・ペリーに酷いダメージを与えていた。
部屋にはごく普通のコンピュータが1台置いてありはしたが
特別な事をする訳でもなく、無気力な日々が続いていた。
サンダルからのメッセージは
そんなジミー・ペリーに届いたのである。
ジミー・ペリーは、大して考えもせずに
サンダルが指定したURLを叩いた。
内容的に、こんな状態の自分であるからこそ
更に落とそうと言う詐欺みたいなものだろうとも思ったが
そんな事はどうでも良かった。
そもそもエイリアンからのメールなど有り得はしないのだ。
悪ふざけの売り込みか何かであろう。
少なくとも通常以上のウィルス対策はしてある。
そのURLを叩くと、次のメッセージの画面となった。
「君はペンタゴンのセキュリティを突破したね。
でもあれは、我々エイリアンにとっては
余りに原始的なプログラムで
盗んでくださいって言っている様なものだったんだ。
君もそう思っただろう。
でも僕らエイリアンのセキュリティは別だぞ。
ほら、君に最高性能のコンピュータを10台あげよう。
それを利用して、このセキュリティを突破してごらん。
もし君がこのセキュリティを24時間以内に突破したら
君は合格
できなければ君は本物じゃなくて
まぐれでペンタゴンに侵入した
単なるこそ泥だったんだ。」
もちろんジミー・ペリーはこの画面にひどく驚いた。
自分がペンタゴンに侵入した事は
しかるべき人間なら知っている事実である。
だからこれ位のいたずらはあるかも知れない。
しかし、何の為に今の自分に
こんな事をしなければならないのか。
それにこの挑発的な内容はどうであろう。
ジミー・ペリーは
こそ泥呼ばわりされた事に
意外にも腹を立てている自分に気付いていた。
ペンタゴンのセキュリティに侵入できるハッカーは
それ程多くはいない筈である。
それにコンピュータを盗まれると言う
物理的なアンラッキーがなければ
ジミー・ペリーがあんな風に捕まる事などなかったのである。
ジミー・ペリーは
エイリアンが差し上げようと言った
10台のコンピュータのアイコンをクリックした。
それから30分の間
ジミー・ペリーは背筋がぞくぞくし続けるのを感じていた。




