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(3) 苦戦

国連での大樹の活動は

意外にも苦戦を極めた。


普通の国家では

その国の国民の命の問題に話題が行くと

首脳たちは例外なしに

大樹の話を真剣に聴いた。


しかしこの国連の事務総長には

その論理さえ余り通用しそうになかった。


だから、全ては

まずこのヤヒムに

ダイの言う事を信じさせる事

そして、それが

かなり難しい事を認識したのである。


彼と話していると

小惑星の落下は

たちまち「仮定」の話に刷り代えられていった。


その上で、もしそれが事実であるなら

国連はどう各国に対して

力を振るう事ができるかが

ヤヒムの関心の中心の様だった。


どう考えても彼がダイの話を

本気で聴く気はない様であった。


困り果てて

ダイは少し冒険をするつもりで言った。


「国連が果たしている役割は


今の世界では大きいかも知れません。


でも私が申し上げているこの深刻な災害への対処においては


国連は必要ないかも知れないのです。」


ヤヒムの目が少し光った。


会話はヤヒムが使う英語で行われていた。


「つまり、国連は無能と言う事ですか、えーと・・」


「ダイと呼んで下さい。」


「ダイ・・うむそうだった、ダイさん


あなたは日本の相本総理からの紹介で


私に会いにこられた。


だから私はあなたに喜んでお会いした。


その上で、国連を無能だと仰られるのか?」


ダイは強い無力感を感じた。

これ以上の話し合いは無駄なのかも知れない。

ダイは少し忍耐を欠いた状態で言った。


「ある意味その通りです。」


ダイはヤヒム・ポンザールに

微かな狼狽が走るのを確かめた。


「ヤヒム・ポンザール事務総長


これから人類は未曾有の災害を経験します。


そしてこれを何とか乗り切る為には


世界の行政政府を統一するしか方法がないのです。


そしてその経験を、或いはその能力を


今の国連が持っているとは到底思えません。


それではその役目は誰が担えば良いのでしょうか。


あなたはやはり国連だとお考えになる筈だ。


もしそう考えになるのであれば


国連はもっと謙虚に地道な活動を行って戴きたいのです。


それでなければ


困難に喘ぐ各国の行政府の


心を一つにまとめる事などできません。」


ヤヒムは、一瞬言葉に詰まった様だったが

緊張した様子もない。

彼がこの対談を

取るに足らないものと考えているのは明白だった。


この男にとって大切なものは

国連であって世界ではなかった。

大樹は多少捻(ひね)くれた気持ちでそう思った。


ましてや、人類そのものの安全と言う課題は

余りに大きすぎて

これまで真剣に考えた事がないのだ。


その様な立派な課題は

科学者達がお墨付きをくれた内容で

ヤヒムに伝えられるのだろう

とも、大樹は思った。


訳の分からないこの宇宙人かぶれの気違いから

伝えられるべき内容の話ではなかったのである。


「それで、その隕石は来年落ちるのだったですな。


ところで、それはどれくらい確実なのでしょうか。」


ヤヒムが微かに時計に目を走らせながら訊いた。


「事務総長、あなたに対して


その答えを私が申し上げても仕方がないと思われます。


そのお答えは是非ベス・クリーヴランドにお尋ね下さい。


私の名前を挙げ


『ダイにそう言われた』


と言って戴けば


ベスは必ずきちんと応えてくれる筈です。」


「ベスとは、あの米国の女大統領の事か?」


まるでどこかの芸能人の噂話か

冗談を聞くときの調子でヤヒムは答えた。

しかし、ダイはヤヒムの目を見つめたまままじめに答えた。


「事務総長にとっては、彼女の言葉なら


私の言葉よりは少しはましかも知れませんから。


それに相本首相に確かめられる方法もありますよ。


私はこれで失礼します。」


大樹は微かに身体を透明にしながら言った。


もし私の申し上げた事に


何らかの価値があるとお認めになられたら


私が近い将来行う説明会にご参加下さい。


場所や時間等は


お集まりになられる方々の安全を考え


開催直前の一週間前にお知らせします。


全てをキャンセルしてこの会合にご出席下さい。」


と言うとダイは勝手に席を立った。

身体は半分透明になっている。


ヤヒム・ポンザールは無能な男ではなかったが

この様な状況に対して

どう振舞うべきかについては、経験がなかった。


それに彼はダイの言った内容について

一生懸命考えていた途中だった。


結果的に、ダイが去る事に対して少しだけ慌て

そしてその様子を見せたが、それもほんの一瞬で

直ぐに元通りの目でダイを見ながら、言った。


だが目の前に見えている

半分透明になった大樹の姿に違和感を感じるのか

盛んに目をこすった。


「分かりました。


今日はありがとう。少し考えてみます。」

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