(6) 内閣総理大臣 相本一郎
今夜の相本は少し落ち着いていた。
日本の総理大臣まで上り詰めた男である。
元々腹は据わっていた。
「何か飲むかね」
これが相本の第一声だった。
ダイはその言葉に安心したかの様に笑った。
「いえ、結構です。
お休みの時間にお邪魔して申し訳ございません。」
「その通りだが、用件は何だね。」
相本はずけずけと言った。
ダイは、今夜は作戦を変える事にしていた。
相本の様な男を
単独で説得する事は容易ではない。
「実は、全世界の主な国家や宗教の指導者
そして企業のトップや科学者を集めて
プレゼンテーションを行なう事を計画しているのですが
相本閣下ご自身に
是非ご出席戴きたいと思いまして。」
「そんな事を伝える為なら
わざわざこんな時間に
私の寝込みを襲わんでもよいだろうが。」
相本は不機嫌な顔をしないまま、そう言った。
「実は、私が動ける時間は
深夜しかないのです。
そして、電話やメールでお伝えする内容でもないもので
直接お話に伺いました。」
大樹は相本の目を見ながら話をした。
その視線に対し、相本は多少無表情な
だが穏やかな表情で応じた。
「ところで、君が行おうと言うそのプレゼンテーションとは
何についてやるつもりなのかね。」
今夜の相本は
ダイときちんと話をする姿勢を示してくれた。
ある意味ダイとの会話を楽しんでいる風さえあった。
「これを言うと驚くかも知れませんが
来年の9月12日に
オーストラリアの北東500Kmの地点に
大きな隕鉄が落下します。」
「えっ・・」
相本は元来まじめな男だった。
特別に優れた才能はないが
ただひたすら努力するタイプだった。
その男が熾烈な権力争いの末
総理大臣に上り詰めたのである。
すると「総理大臣になる」と言う目標が
達成される事になり
逆にそれによる喪失感を感ずる様になった。
そして、その喪失感を解決する唯一の方法が
「立派な総理大臣」になる事だった。
だから、国民に尽くし
国民の為に働くと言う純粋無垢な姿勢を
相本一郎はこれまで命をかけて貫いてきた。
その男にいきなりこの内容が伝わった。
もちろん完全に信じはしなかった。
しかし、昨日から今日
そしてベス・クリーヴランドからの手紙を考えると
完全に無視はできない。
そして相本は一瞬言葉を失ったのである。
「日本にも被害は出るのか。」
「残念ながら
日本の太平洋岸全体に
高さ50mを超える津波が襲います。
津波は太平洋岸だけでなく
日本周囲の海岸線全体を襲うと考えて良く
日本海側でも20メートル以上の津波が襲う事になります。」
またプレートが強く刺激されて
巨大地震が誘発される可能性もあります。」
相本は再度言葉を失った。
この低い方の20メートルの津波でも
巨大地震が襲った時に想定される
大災害時に発生する津波を越える高さである。
未曾有と言われた東日本大震災でも
津波の高さは大部分の地域で20mに届かなかった。
ましてや50mの津波なんかは、想像もできない。
それが日本の主要な経済基盤となっている太平洋岸全体を襲う。
要するに来年の9月に
この男は日本が壊滅すると伝えにきているのである。




