(1) 総理
日本政府に米国大統領からメッセージが届いたのは、
ヤコブソンがベスのハンカチを
ホワイトハウスの屋根にある避雷針に確認した翌日であった。
メッセージの送り主は、ベス・クリーヴランド
つまりアメリカ合衆国大統領であり、
そのあて先は、日本の内閣総理大臣の相本一郎である。
しかし、その内容は実に不可解なものだった。
にもかかわらず首相の相本は
ベス・クリーヴランドが
自分に送ってくれたそのメッセージを見て
何故か嬉しいと思った。
なぜならそのメッセージが
形式に捉われないタイプのものであったからである。
どう見てもこれは友人に送るタイプのメッセージである。
相本の今回の訪米について
マスコミの評判も悪くなく
まずまず成功だったと言う事になっていた。
日本の首相に就任して
まず最初の重要外交事項である
米国との関係確認を成功させたのである。
それは今からわずか2週間程前の話だった。
日本の余剰米50万トンを
無償で供与すると言うお土産は
食糧危機を心配しなければならない米国にとっては
非常に効果があった様だった。
『私の友人のダイが
もう直ぐあなたを訪ねると思います。
少し驚くかも知れませんが
よろしければ、私の話と同じ様に
彼の話を聴いてあげて下さい。
ベスより親愛なるイチローへ』
メッセージはそれだけである。
相本は直ぐに内容を具体的に確かめたくなったが
しばらくして思い直した。
米国人はウィットを理解する人間を好む筈である。
ここで無粋に
『ダイとは誰か教えてくれ』などと聞き返して
わざわざ日本流にしたら台無しである。
相本は官房長官の白木を呼んで
ベス・クリーヴランドに返事を返させた。
『私の親愛申し上げるベスのご友人でおられるダイは
また私の親愛できる方と確信申し上げております。
彼のご要望を
真摯に受け止めさせて戴く事を
お約束申し上げます。ICHIRO』
自分が有名なスポーツ選手と同名である為か
最初の訪米の時から
ベスは相本と親しく会話を交わしてくれた。
相本はそれ程流暢に英語を喋らない。
にもかかわらずベスは
通訳を最小限にしか使わず
相本と直接会話をしてくれた。
しかし、相本は
その夜のうちにダイと会う事になるとは予想していなかった。




