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遥かなる彼方からの贈り物  作者: 名も無き人
第4章 エイリアン大樹
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37/91

(3) エイリアン

ベスの前に突然現れた男


スタッフ以外に

アポなしで大統領の執務室に

勝手に入れる人間などは存在しない。


これは明らかに異常な事態である。

しかし、彼女は冷静だった。


「何の御用かしら」


男は、二十歳位だろうか。


ポロシャツ姿のラフな格好であったが

非常に端正な顔立ちをしており

同時に哲学的な知性を感じさせていた。


人種的にはアーリア系であり

アジア系であり、しかしアフリカ系である事も想像できる

不思議な感じだった。


「サンダル」が大樹の成人した姿に

多民族を組み合わせたヴァーチャル画像である。


それはむしろ黎明期の現生人類に近い顔立ちであった。


「こんにちは大統領。私は宇宙から来ました。」


綺麗な英語で唐突に彼は話した。


そして、自分が宇宙(コスモス)から来たと告げたのである。


ベス・クリーヴランドの心臓の鼓動がいきなり速く鳴りだした。


狂人がいきなり大統領の執務室に迷い込んだのである。


彼はいきなり自分がエイリアンだと言った。


しかし、彼女の心の中には

単純な否定だけが存在していた訳ではなかった。


まさかと言う思いと

待てよと言う思い

そしてあり得ない

と言う否定が錯綜していたのである。


その背景には

彼の姿の非常にエキセントリックな雰囲気と

彼女が大統領になる前に行った

個人的な夢想があった。


彼女は米国大統領に推された時

それが実現した時の自分の姿や立場について、

いろいろな事を考え、想像したことがあった。


その想像の中には

世界の最強国の米国の指導者には

世界のあらゆる存在が

面会を求めるであろう事が含まれていた。


世界中の国家の指導者、宗教指導者

巨大企業の指導者等々

ありとあらゆる存在が

米国大統領に会いたがる筈である。


もしかしたら、エイリアンだって。


いつか、この様な場面があるかも知れない

つまりエイリアンと会える機会があるかも知れないと

彼女は密かに想像し

ある意味期待していたのである。


何せ米国大統領の立場である。


エイリアンが一番最初に会いたがる人間の筈である。


荒唐無稽な子供っぽい想像である事は分かっていたが、

それでも地球外生物は存在すると信じていた彼女にとって

心の中で密かに行う

この想像を禁ずる事はできなかった。


自分がエイリアンだと言うこの男の登場の仕方も

彼女の夢想に合致していた。

もしエイリアンが米国大統領に接触するとすれば

多分、非常に正式かつ大々的に接触を求めるか

それとも、むしろある日突然に

全く非公式に、あり得ない様な形で

目の前にひょっこり現れるのではないか

と思っていたのである。


この男の登場はまさに後者だった。


非常に厳重なセキュリティが施された大統領執務室に

何の前触れも、混乱もなく、突然に現れたのである。


少なくとも常人に可能な行動ではない。


しかし、ここまでだった。彼女は突然に我に返った。


重責を担う米国大統領は

テロリストの攻撃から身をかわす重大な責務がある。


甘い個人的な夢想によって

国家に重大な損失を与える訳にはいかないのである。


彼女は迷い無く、訓練に従って

デスクの下の隠しスイッチを手で探り

それを押した。


これで直ぐに

セキュリティサービス隊が駆けつける筈である。


後はこの男が危険な行動に出ない様に

できるだけ落ち着いて行動し

彼を刺激しないことである。


彼女は

この男がエイリアンであると言う

訳の分からない可能性を完璧に消し去り

徹底して常識的な行動を取ろうとした。


それが大統領としての義務である。


男は自分がエイリアンと告げたまま

彼女の様子を静かに黙ったまま観ていた。


彼女も、緊急スイッチを密かに押し

セキュリティサービスへの通知が済んだので安心し

思い切り慈悲深そうな落ち着いた表情で

彼を見つめ返した。


誰もが好印象を抱くベスの得意な表情だった。


そして何か話さなければと話題を考えていると

男の方から切り出した。


「もうしわけありませんが

その緊急(エマージャンシー)スイッチは役に立ちません。」


ベス・クリーヴランドは

それを聴いて目を微かに動かした。


しかし、動揺を隠す事には成功した。


「それより、後15秒程で

貴女の補佐官がこの部屋を訪ねてきます。

しかし、彼には私の姿が見えない筈です。

私の身体の表面は

特殊なステルススクリーン処理がしてある為

貴女以外からは

完全に透明に見えるのです。」


ベス・クリーヴランドは

男が言った事に強い興味を感じた。


私以外にはこの男の姿が見えないですって?

そんな事はとても信じられない。


男は続けた。


「おねがいですから

私に少しお話する時間をください。


そしてそれは貴女が

米国大統領に就任されてから

最も大切な義務であるとお考えください。

くれぐれもこれから来る補佐官と

この場を退出する様な

馬鹿な真似はなさらない様におねがいします。」


男の言葉が終わった瞬間に

ドアにノックの音がした。


ベス・クリーヴランドは

この日常的に聴き慣れた音響に

強い安心感とそして期待感を持ち

はっきりと答えた。


「どうぞ。お入りください。」


大統領補佐官のヤコブソンは

いつもの通りの闊達な足取りで入ってきた。


ユダヤ系のこの補佐官は

非常に頭が切れるだけでなく

人格的にも配慮の行き届く人間だった。


その彼は、大統領が意味ありげに

自分を見つめ続けているのに気が付き

突然に足を止めた。


そして少し恐れた様子で大統領に尋ねた。


その質問の内容は

ベス・クリーヴランドをがっかりさせるものだった。


彼女は、突然ヤコブソンが足を止めた事で

彼がこのエイリアン男の存在に

気付いたと期待したのである。


「大統領、なにか?・・」


ヤコブソンに

目の前に居るこの男が見えていないのは明らかだった。


その瞬間、ベス・クリーヴランドは

この場を逃げ出したくなった。


一度この場を離れ

誰かに相談したかった。


しかし、どの様にすれば良いのか。


このヤコブソンにさえ見えていないこの男の事を

誰が本気にするだろうか。


一方で、自分をクールに見つめ続けるこの男の前で

ヤコブソンに

この男が見えていない事を

確かめる程の勇気も沸かなかった。

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